全4回にわたってシャムキャッツの歩みをその歌詞から振り返るトークイベント『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』。昨年12月28日(土)に開催された第4回は、いよいよフィナーレ。『Virgin Graffiti』から最新作『はなたば』までの時期を取り上げ、シャムキャッツの現在地をその歌詞から探りました。
とはいえ、この時期はまだ振り返るには時期尚早というのもあり、このへんはざっくり。イベント後半は番外編ということで、ちょっとイレギュラーな企画を用意しました。題して、『夏目くんと名曲の歌詞を読み解こう』。来場したみなさんから事前に好きな曲を募り、その歌詞を夏目くんと一緒に読み解いてみよう、という試みです。さあ、夏目知幸は他のソングライターが書いた歌詞をどう分析するのか。今回のレポートではその一部をお届けします。
柴田聡子“結婚しました”「やっぱりこの人は天才なんだなと思った」
―今日はみなさんからそれぞれ選曲の理由も添えてもらっているので、そちらも紹介しながら、1曲ずつ見ていきたいなと思ってます。
夏目:いいですね! 楽しみでーす。
―早速始めましょう。1曲目は柴田聡子さんの“結婚しました”。選んだ理由は「日常を描いた歌詞がすごくかわいくておもしろくてしあわせそうなかんじが出ているところが好きです」とのことです。
夏目:この曲はライブで初めて聴いた時に、やっぱりこの人は天才なんだなと思ったし、あとでタイトルを知ったときも驚きました。「結婚しました」ということを誰かに伝えている、というのが前提で始まる曲なんですよね。“結婚しようよ”という吉田拓郎の曲がありますけど、あれは「君」に「結婚しよう」って伝える曲。でも“結婚しました”は、主人公とその結婚相手とは別の「もう一人の誰か」、第三者が介在している曲です。そして、なぜ言ったんだ? って疑問が最初から聴き手に投げられてる。
歌い出しの時点で、もう勝ち。<やっぱハワイより船に乗ろうよ>から始まって、次にくる<麦わらの影の網目>でいきなり視点、カメラの位置が変わるんだけど、イメージはしっかりつながってる。そのスピード感がすごい。
僕、柴田聡子という作家の特徴は「いじわる」なところだと思うんです。決定的な言い回しは避けて、すべてをはぐらかしていくんですよね。逃げ足の切れ味がとにかく鋭くて、その鋭さで聴き手の集中力を保たせるタイプというか。
―柴田さんは『いじわる全集』(2014年)という作品も出していますよね。本人もそこは意識的なのかもしれない。
夏目:あくまでもこれは俺の想像なんですけど、“結婚しました”はどうしても許せない人、頭のなかにいてしまう男性への当てつけの曲なんじゃないですかね。自分の近況を語りつつ、過去に起きたことがどちらの男性との間で起こったことなのか、わからないまま話が進んでいくんです。
―主人公の発する言葉から、相手の存在が浮かび上がってくる。ただ、それは結婚相手のことなのかもしれないし、それ以外の人なのかもしれないと。
夏目:まさにその「かもしれない」っていう雰囲気をずっと残していくんです。<だますよりはだまされる方が まだいい まだいい まだいいよ>の、3回繰り返しているところも、この歌詞のキモだなと。これが1回だと、主人公が騙された側のように感じるけど、3回繰り返されると、主人公が騙した側のようにも思えてくる。「私のほうがつらいのよ」みたいな雰囲気というか。<明日の朝の雨降りは ふたりでは持てぬ傘が要る>というところも、3人目の誰かがいることの暗示とも取れるし、ちょっとのことで一人ぼっちになってしまうという意味にも取れる。よくできてる。
ゆず“からっぽ”「あやふやさって、聴き手が入り込みやすい隙にもなるんですよね」
―2曲目はゆず“からっぽ”。「私は、若い男女の別れというより、好きになってはいけない相手がいる大人の報われない恋を描いたように思うのですが、夏目くんならばどう解釈しますか? いわゆるJ-POPに飲み込まれる前の、この時代のゆずがとても好きです」。
ゆず“からっぽ”を聴く(Apple Musicはこちら)
夏目:飲み込まれるって表現が正しいのかわからないけど、J-POPというステージ、そういう場所で活躍しようって気はこの時もうすでにあったんじゃないかな。日本国内で一番わかりやすい「売れる」ってどういうやり方かっていうと、J-POPっていうゲームに参加して、勝つこと。マーケットがでかい。無意識に参加してしまっているなら「飲み込まれる」っていう表現でいいけど、この時代のゆずがどうだったかはわからない。どちらにしろ、もうゲームには参加してますよね。歌詞を見てもなんとなくそう感じます。
―というのは?
夏目:あえてその視点から見ると、という実験になりますけど、たとえば<青く澄んだ君の目が何か語りかけた>って、J-POPではよく使われるような言い回しですよね。ちょっとあやふやな言い方です。ここで「何を語りかけたのか」を明記したほうが、より具体的なストーリーが描けるからもっとグッとくる歌詞になるんじゃないかなと思うんですけど、あまりそういう手法をみんな取らない。一方でこういうあやふやさって、聴き手が入り込みやすい隙にもなる。「俺はこうだ!」じゃなくて「みんなこうだよね?」っていうのがJ-POPゲームの基本ルールだと僕は思う。いいとか悪いとか、優れているとか劣っているとかの話ではなくて、J-POPにはそういう癖があるなと。
この曲の場合は、主人公がぼんやりしていることを最初のヴァースで歌っているから「何か語りかけた」という言葉で「上の空であること」を表現してる。そういう意味ではバッチリだけど、何を言ったのか書いてあったら曲の聞こえ方はかなり変わるはずですね。
―なるほど。夏目くんの歌詞に対する考え方からすると、他にもなにか気になるところはありますか?
夏目:“からっぽ”というタイトル超いいですよね。このタイトルで売れたのすごくないですか? これも“結婚しました”と一緒で、結論を最初に言ってる。からっぽなんですよ、彼は。
いちばん俺がぐっとくるのは、2番のAメロかな。<ひとを好きになること 当たり前の事なんだけど 僕がもう少しその事を知っていれば こんな事にはならなかったのかもね>。過不足ないですよね。これが2番にあるっていうのもいい。めちゃくちゃ「からっぽ」な感じが伝わってくる。
ANATAKIKOU“ジャノメ傘”「この曲を今日まで知らなかったけど、めちゃくちゃいいなと思いました」
―3曲目はANATAKIKOU“ジャノメ傘”。「詩的な表現の裏に潜む狂気にドキドキします」。
ANATAKIKOU“ジャノメ傘”を聴く(Apple Musicはこちら)
夏目:僕、この曲を今日まで知らなかったんですけど、この歌詞はめちゃくちゃいいなと思いました。構成がすごくよくできてる。まず、この主人公がフラれたってことは最初の段階ですぐにわかりますよね。そして、彼は傘もささず雨に濡れていきたいと。
で、この歌詞は<通り雨程度の恋心? 閉じたまんまのジャノメ傘」>から先がいい。つまり、彼は自分がどれほどの恋をしたのか、よくわかってないんだけど、自分は本気だったと思いたいんでしょうね。だから、雨が止んでほしくない。このまま降り続けてくれたほうが悲しい気持ちを味わえるし、自分があの子に本気だったんだと思える。それくらいに彼は自分の気持ちに自信がないんです。
―<呼び止めたあの娘には 振り向く素振りが見えないし 待ちぶせた家の前 あの娘の部屋だけ停電中>というところは、ちょっとストーカーっぽいですよね。
夏目:うん、そういうキャラクターを想起させる歌詞ですよね。<晴れた空がまた欲しい>というところからは、彼のアンビバレントな感情も読み取れる。このナヨナヨした気持ちを晴らしたいというのと、今のままでいさせてほしいという気持ちで彼がバラバラになってるのがわかる。紫陽花を添えて去っていくところも、ちゃんとストーリーを仕上げてる感じがありますよね。
くるり“サマースナイパー”「なかなかない感情だけど、なぜか『わかるわ~』って感じもするのがすごい」
―4曲目はくるり“サマースナイパー”。<この部屋の中にある幸せ探してみた 誰かのお土産の置物に嫉妬したんだ>というところがお気に入りだそうです。
くるり“サマースナイパー”を聴く(Apple Musicはこちら)
夏目:たしかにこのフレーズは面白い。お土産をもらうってことは、誰かがどこかに行ったってことだから、楽しんできた証拠が部屋のなかにあるってことですよね。つまり、自分のなのか、あるいは意中の人、少なくとも家に入れてくれるくらい仲のいい人の部屋にある幸せを探してみたら、他人の幸せがそこにあった。そういう嫉妬についての歌詞。なかなかない感情だと思うけど、なぜか「わかるわ~」って感じもするのがすごい。簡単な言葉を並べて、とても限定されたシチュエーションを描いてる。
―散文的で、いくつもの解釈が生まれ得る歌詞ですよね。
夏目:うん。一曲通して聴くと抽象画がずっと提示されていく感じで、その順番とチョイスがうまい。<くちびるが切れた よそ見してたら切れた だってその海は綺麗すぎた>とか、ぜんぜん理由になってないじゃないですか。
でも、多分これは「代償」ってことなのかなと僕は感じますね。何かいいことが起きたら、その分なにか悪いことが起こるかもしれない、みたいな感性。で、なんとなくそこで安心感が芽生えて、そのあとに<予定調和を求めるこの旅はこの辺で終わりましょう>とくる。そういうイメージの連鎖がめちゃくちゃ気持ちいい。
The Miceteeth“カノジョトダンス”「ちょっとしたバカバカしさがあるところは、僕の好みです」
―次はThe Miceteeth“カノジョトダンス”。「日常の様子で愛しさを感じる歌詞が好きです。『蚊に刺されないでね』とか言われたら好きになってしまいそうです」。
夏目:<未来型の梯子を登る>というところ、好きですね。曲の雰囲気とか話の流れからすると、ここに<未来型>みたいな言葉はそぐわないと判断するのがたぶん普通だと思うんですけど。
―それはなぜ?
夏目:急にSFっぽくなるじゃないですか。こんなに柔らかくて、どっちかというと懐かしい雰囲気の曲にいきなりこういうワードが入ってくると、少しピリッとするというか。歌い手のキャラクターにも合ってますよね。
―選曲者は<髪をとかす君のそばに 寝返りをうつ完璧な朝>というところがお気に入りだそうです。
夏目:大瀧詠一さんの“それは僕じゃないよ”的な世界観ですよね。「こいつ、甘えん坊なんだな」ってことがここだけで伝わってきますよね。もし僕が女性だったら、好きな男だったらいいけど、そうじゃないヤツがこんなことを言ってたらイヤですね(笑)。そういうちょっとしたバカバカしさがあるところは、僕の好みです。<完璧な朝>とか、僕ならまず言わない言葉だけど、たしかに歌詞ってこれくらいのワードが入ると締まるんですよね。
星野源“日常”「俺もこういう感情を抱かせたいと思って曲を作ってるから、悔しい(笑)」
―次は星野源“日常”。「仕事で理不尽なことがあったり、どんなに頑張っても制度も待遇もよくならず、私がへたにいろいろとできてしまう所があるので、ただ都合のいいように使われている気がして、長いこと不安でこの先がどうなるか分からない……でも手抜きするのも嫌で、仕事は好きだし頑張れば、かげでちゃんと見てくれる人も中にはいるし、半端な気持ちでやってるわけじゃない! というモヤモヤのループのなか、毎日深夜帰宅の道のりで『世の中自分の思う理想とかけ離れてるみたいで上手く回らないなぁ……それでもやるしかないなぁ』と、落ち込んでは泣くのをこらえて心の中で歌った曲です」。
夏目:いいエピソードですねぇ。正直、この歌詞よりも今の話のほうが僕は好きかも(笑)。でも、こういうエピソードが生まれるっていうことは、やっぱりこれはいい曲なんでしょうね。
―聴き手に「この曲は自分のことを歌ってる」と思わせたら、もうその時点で勝ちだよね。
夏目:本当にそう。こういうふうに思わせたってことがすごい。だって、これがシャムキャッツの曲に関するコメントだったらめちゃくちゃ嬉しいもん。俺もこういう感情を抱かせたいと思って曲を作ってるから、悔しい(笑)。
歌詞を読んでみると、多分この時点で星野さんには、いま彼がいる立ち位置まで行くぞっていう意志がすでにあったんだと思う。スローガン的な言葉選びからそういう意志の強さを感じるし、そこが聴き手に勇気を与える。小細工なしの、感情の表出。そこに“日常”というタイトルをつけるところが、星野源さんの強さなんだろうなと思いました。あと、この曲を作った人がこの先にどうなっていくのか見てみたい、という気が湧きますよね。この段階で“日常”なら、次はなんだろう?「太陽」かな? みたいな。あ、“SUN”っていう曲があるか!
―ゆずが“からっぽ”から“栄光の架け橋”に向かっていった感じ?
夏目:たしかにそう言われると、その変化はやばい。星野さんは“ドラえもん”までいきますね。日常のような、非日常。いやー、覚悟がすごいですね。
Enjoy Music Club“夏の魔法”「ヒゲが生えてる人とキスすると、こういう感覚なのかと思いました」
―次はEnjoy Music Club“夏の魔法”。「EMCの歌詞はどれも、固有名詞が多いし情景描写もピンポイントなので、共感するときは刺さりまくります」。夏目くんはこの曲のMVに出演してるんですよね。(MVを観ながら)きた、キスシーン!
夏目:これ、久々に観たわ(笑)。
―このときの撮影はどうだった?
夏目:ヒゲが生えてる人とキスすると、こういう感覚なのかと思いました(笑)。
―(笑)。メロディの譜割に対する文字数の制限という点でいくと、ラップソングは自由度が高いですよね。
夏目:そうですね。この歌詞のいいところは、ちょっとバカバカしいところかな。<オリヒメmeetsヒコボシ感覚>とかね。あと、「思い出あるある」は意識的に避けてると思う。具体的な言葉で聴き手に共感させたいときに、いちばん陥っちゃいけないのがそこなんですよ。<足出しちゃってConverse ハイカットが似合うねSummer Girl>とか、ある意味これも、あるあるっちゃあるあるなんだけど。みんなで楽しめる感じがいいですよね。
MØ“Nights With You”「クラブでこの曲がかかったら、俺はめちゃくちゃ歌っちゃうと思う(笑)」
―次はMØ“Nights With You”。「聴き手をエンパワーしてくれる歌詞はたくさんあるけれど<髪の色をクレイジーにしたっていい あなたを笑顔にするためなら>(和訳)という一節で、一気に詩の世界観がドラマチックになるのがすごいなあと聴くたび思います。それと人に『あなたは素敵』と伝えるときに『ゴージャス』という言葉が使えるのがかっこいいなあと憧れます」。
夏目:これはいい歌詞だなぁ。要はこれ、ティーンエイジャーの気持ちですよね。しかも、超シンプル。病的なくらいにYouのことしか言わない。そこがいい。
―そこに第三者の存在を匂わせてるところも、この歌詞のミソですよね。
夏目:ああ、これはYouに彼氏がいるってことなのか! うんうん、こういう第三者が登場してくる歌詞は大好きですね。シチュエーションが限定されると、表現に馬力がでるんですよ。それこそ僕はThe Beatlesの“She Loves You”みたいな感情になったときこそ、それを歌詞として表に出すべきだなって思ってるんで。
<君の彼氏が一人で起きることなんか気にしないで 私が夜に連れ出すから>っていうところも、強気でいいですね。クラブでこの曲が爆音でかかったら、俺はめちゃくちゃ歌っちゃうと思う(笑)。
カネコアヤノ“祝日”「カネコは『人を思いやるって、どういうことなんだろう?』みたいな実験をずっとやってるんだと思う」
―そして、次の曲はカネコアヤノ“祝日”。「シンプルなワードのなかに、大切な人と一緒に居るための決意や覚悟を感じる」だそうです。
夏目:カネコの曲は、ぜんぶいい。彼女はアティチュードがいい。意思がブレないんですよ。なんていうか、不必要な不安を抱いてない感じがする。多分カネコは「人を思いやるって、どういうことなんだろう?」みたいな実験をずっとやってるんだと思う。その実直さがどの曲にもあるから、人の心を打つよね。
―夏目くんは以前もこの曲の<お腹が痛くなったら手当てをしてあげる>という歌い出しを絶賛してましたよね。
夏目:いいですよね、そこ。だって、どうしようもないからね。擦り傷ならわかるけど、腹痛は手当てできないもん。正露丸があればいいです。でも、そこで手当てしてあげると言ってしまえるセンスが俺は好き。実際、僕はしょっちゅうお腹が痛くなるんですけど、そこでこんなこと言われたら、正露丸は速攻捨てますね。
RCサクセション“空がまた暗くなる”「清志郎さんはやっぱり発明家」
―次はRCサクセション“空がまた暗くなる”。清志郎さんの名前も、このトークイベント中でもなんども挙がりましたね。
RCサクセション“空がまた暗くなる”を聴く(Apple Musicはこちら)
夏目:誰かに前を向かせたいときって、「大丈夫」って言いがちなんですよ。実際、俺も言いたくなるし、古今東西いろんなポップスが「大丈夫」と言い続けてます。それがポップスの伝統芸です。ただ、清志郎さんはやっぱり発明家なので、ここでけっこうキツいことを言ってるんですよね。<おとなだろ 勇気を出せよ>って。これはもう、最高でしょ。
―<おとな>に向けられてるのがミソですよね。
夏目:うんうん。最近、『はなたば』のジャケットをやってくれた前田(晃伸)さんというデザイナーの人に「やっぱり音楽の素晴らしいところは、伝えたい人に勇気を与えられることだよね。だから、そういう気持ちを忘れないでほしい。デザインで人を勇気づけるのは難しいから」と言われて。たしかにその通りだなと思ったし、そのときも僕はこの曲を思い出しましたね。
―選曲された方は「<空がまた暗くなる>の意味について夏目さんの解釈を聞きたいです」とのことです。
夏目:これは「いつものことだ」ってことですよね。だって、空が暗くならない日はないもん。<空がまた暗くなる>というと、ついネガティブなイメージを抱きがちだけど、いやいや、そんなの普通じゃんっていう。昨日だってそうだったし、明日もそうだよ? だから、勇気出せよって。
サニーデイ・サービス“そして風は吹く”「曽我部さんのすごいところは、1番バッターから9番バッターまで、すべて1人でやれちゃうとこ」
―次はサニーデイ・サービス“そして風は吹く”。「この曲に限らず、曽我部さんの歌詞にあるロマンティックな部分、さみしそうだけどどこか醒めたような部分があるところ好きです」。
サニーデイ・サービス“そして風は吹く”を聴く(Apple Musicはこちら)
夏目:曽我部さんの歌詞について話すのは難しいなぁ。好きな歌詞が多すぎて、もはやなんで好きなのかわからないんですよ。自分が曲を作り始める前から好きな人だから、まったく客観的に見れないんですけど……(しばらく沈黙して)ちょっと3Dっぽいんですよね。
―どういうこと?
夏目:歌の主人公がいきなりこっちに話しかけてくる感じがするというか。メタ的な瞬間が急にやってくる。てか、曽我部さんの曲はどれもそうなんですよ。ストーリーが進んでいくなかで、その主人公が画面の向こう側にいる聴き手に向かって、急に語りかけてくる感じがあって、世界の境目が曖昧になってくるんですよね。
あと、曽我部さんは、1番バッターから9番バッターまで、すべて1人でやれちゃう。“魔法のバスに乗って”みたいなホームランも打てるし、それ以外もぜんぶ自分でやっちゃう。
―それでいうと、“そして風は吹く”は何番バッターのイメージなんですか?
夏目:この曲はたぶん6番くらいかな? 2割7分で年間20本弱くらい打つ感じ。ていうか、やっぱり洒落てんだよなー、サニーデイって。曽我部さん自身は「僕は香川の畦道をガーゼシャツ着て自転車で走ってるようなダサいやつだった」と言うんだけど、やっぱり都会的ですよね。
―「都会的」とはどういうことなのか、もう少し噛み砕いてもらってもいいですか?
夏目:直接的な感情のぶつかり合いを避けるってことですね。分かり合えない人と関わらなきゃいけないことも多いなかで、相手の気持ちをくみ取りつつ、自分なりのスタイルで人と向き合っていくっていう。そういう都会感を僕はサニーデイ・サービスから感じる。特にこの頃のサニーデイは、それこそガーゼシャツで自転車に乗ってた男が都会的なそぶりをしてるっていう感じ。もう、すべてがロマンチック。
坂本慎太郎“ディスコって”「向かうべき道を自分で決めてて、そこに向かってひたすら研磨された音楽」
―さあ、いよいよ最後の曲です。坂本慎太郎“ディスコって”。「坂本さんは人間が滅んでしまった後のような視点で歌詞を書いているのかなーと感じます。自分はその壮大さというか、ちょっと突き放した感じに惹かれるのですが、夏目さんが坂本さんの歌詞をどんなふうに捉えているのか教えてほしいです!」。
坂本慎太郎“ディスコって”を聴く(Apple Musicはこちら)
夏目:多分坂本さんって、ルーツとしては歌謡曲が大きいんじゃないかな? 歌謡曲的な譜割がしっかりしたメロディーを作りながら、なおかつ自分がやりたい音楽性に合う言葉を選んでる感じがします。特にソロになってからの完成度は超ヤバい。音楽そのものがすべての答えになってるから、もはや解説すらいらないというか。向かうべき道を自分で決めてて、そこに向かってひたすら研磨された音楽。サウンド的にもそうですよね。ツルッツル。
―ツルッツルですか。
夏目:コーネリアスさんもそうですよね。ツルッツル。だからこの2人の共通点は、ツルッツルなところ。そこが海外でも評価されてるんだろうな。ツルッツルな日本の米みたいな感じというか。
―米みたいな感じ?
夏目:アジア中を旅して回ると、やっぱり日本の米って違うんですよ。主食が米の場所は他にもいっぱいあるけど、日本の米は研ぎ澄ましがすごくて、いかにうまく食うかってことに集中して作られてるから、他の国からすると「米にそこまでする?」ってくらいに味も見た目もツルッツルなんですよね。そういう感性が日本っぽさなのかなって。日本酒もそうですね。見た目も味もツルッツルでしょ。そういう、研ぎ澄ましの素晴らしさなんだと思います。
- イベント情報
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- 『第4回 シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』
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2019年12月28日(土)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ 8 / MADO
登壇:
夏目知幸
渡辺裕也
- リリース情報
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- シャムキャッツ
『はなたば』(CD+DVD) -
2019年11月6日(水)発売
価格:2,420円(税込)
TETRA-1018[CD]
1. おくまんこうねん
2. Catcher
3. かわいいコックさん
4. はなたば ~セールスマンの失恋~
5. 我来了[DVD]
『バンドの毎日4』
- シャムキャッツ
- プロフィール
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- 夏目知幸 (なつめ ともゆき)
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東京を中心に活動するオルタナティブギターポップバンドシャムキャッツのボーカル、ギター、作詞作曲。2016年、自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立し、リリースやマネジメントも自身で行なっている。近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的。個人では弾き語り、楽曲提供、DJ、執筆など。
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