田丸雅智×曽我部恵一が語る、やらざるを得ないからやるのが創作

DJ MARUKOMEによる、カレー&発酵の配信トークイベント開催。多すぎる要素をまず解説

去る8月5日は発酵の日だそうだ。ステイホームで家にいがちの私たち。気温は高くなり、いよいよ私たちの中で文化が発酵しつつあるのではないか。ここらで一つ、創作で爆発させるという手はないだろうか。

というのも2020年8月5日に『DJ MARUKOME 読めるスパイスカレー第2弾発売 発酵の日記念「真夏のショートショート食堂」supported by CINRA』という配信イベントが開催されたのだ。

現代ショートショートの旗手として情熱大陸にも取り上げられた田丸雅智さんと、サニーデイ・サービスやソロでの音楽活動や最近では小説『メメント・モリタ』の執筆、東京・下北沢に「カレーの店・八月」もオープンさせた曽我部恵一さん。イベントではこの二人をお迎えして、創作との付き合い方を伺ったり田丸さんのショートショート創作ワークショップを行った。

左から:田丸雅智、曽我部恵一

ここでこの情報量の多いイベントタイトルをいったん整理させてください。そもそもDJ MARUKOMEとは何なのか。どうやら「お味噌のマルコメ」のあのマルコメ君というキャラクターは、2016年にDJ MARUKOMEという名前で音楽活動も始めたそうなのだ。

「マルコメマルコメ♪」のあのキャラクターが今やDJをしているのか……という事実を知って、一回ヒザをつかせてください。はい、続けます。そしてそのDJ MARUKOMEがレトルトカレーを発売した。それが食料品専門店の北野エースが展開する、まるで書店の本棚のようなカレー売り場「カレーなる本棚®」で買える「DJ MARUKOME 読めるスパイスカレー」シリーズであり、第2弾は田丸雅智さんの書き下ろしショートショートが封入されることになったのだ。そのカレーの発売日がこの日、発酵の日だった、という情報が詰め込まれてこんなイベントタイトルになっている。

DJ MARUKOMEのデビュー作となったDJ MARUKOME feat.ゆるふわギャング“Kitchen”

カレー店店主の曽我部が食す、スパイシーな大豆のお肉カレー

イベントはそんなカレーを曽我部さん田丸さんが食すことからはじまった。曽我部さんは好きな食べ物としてカレーを挙げるほどで、あちこち食べ歩いた末に最近では「カレーの店・八月」を下北沢に出した。しかも緊急事態宣言のあった今年の4月にだ。その準備はというと「ひたすら試食ですね」とのこと。しかも一口とかではなく一食まるごと試食するんだそうだ。試食も大変だ。

「あ、これ好きなやつ。酸味が効いてて」と読めるスパイスカレーを食べた曽我部さん。「しかもこれ、ひき肉は使ってないんですよね!?」と田丸さん。ここで初めて知ったのだが今マルコメでは大豆を肉の代わりとして扱う「大豆のお肉」なるものを作っていて、すでにスーパーの精肉コーナー付近に並んでいるらしい。マルコメ君がDJやるわ、大豆のお肉のカレー作るわ、何だか色んなことになってるのである。

曽我部恵一(そかべ けいいち)
1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。1990年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト / ギタリストとして活動を始める。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル『ギター』でソロデビュー。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント / DIYを基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス / ソロと並行し、形態にとらわれない表現を続ける。
田丸雅智(たまる まさとも)
1987年、愛媛県生まれ。2011年、『物語のルミナリエ』に『桜』が掲載され作家デビュー。2012年、樹立社ショートショートコンテストで『海酒』が最優秀賞受賞。『海酒』は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。
二人が食べた「DJ MARUKOME 読めるスパイスカレー」。大豆のお肉が本物のひき肉のようでジューシー

私たちは日常的に創作すべき? 「しなよ」と言われてもできない人にもアドバイス

カレーを食べつつ創作についてのお話。田丸さんの執筆されているショートショートというのは小説のジャンルの一つだそうで、田丸さんが言うには「短くて不思議なお話だと思っていただければそれで大丈夫」だそうだ。頼もしい。

田丸さんは日常の中で見つけ出したりひねり出したり、アイデアがすべて整ってから書き出すそう。対して曽我部さんの小説は書きはじめてから考えるという。曽我部さんはこれを「ライブ」だといい、その原動力は「締め切り」だそうだ。ライブを始めて締め切りに迫られて、自分を超える瞬間を迎えるのだという。

田丸:でも怖くなかったですか? 最後まで見えない怖さというのもあると思うんですけども。

曽我部:ありますよね。それって音楽作るときも全く一緒で。果たしてすごいものができるかどうなのかって、自分の才能を信じてるわけでも何でもないし、全く見えないところに飛び込むわけじゃないですか。もの作りって。

本当に勇気がいることだし、すごく怖いことだし、失敗するか成功するかも誰も保証がない。そこに飛び込むってことがまあ、好きなんでしょうね。結果、失敗していても成功しても、それで落ち着いたところが自分なんだなとも思うし。成功っていうのは多分予想だにしなかったようなものが出来上がるってことだと思うんですけど。自分はこんな表現したかったんだな、こういう人間なんだなって思えると嬉しいですね。

田丸さんはショートショートのワークショップを開催していて、小学校4年生の令和2年度版国語の教科書にも採択されたんだそうだ。一般の方のはじめての創作に立ち会っていることとなる。

田丸:「どなたでもできる」と銘打っているんですけど、言葉を書き連ねて設問に答えて、最後それらを繋げると一つの小説ができるという方法です。小学校に行かせてもらうこともあって、普段作文が苦手だったり、無理だとかできないって方は当然たくさんいるんです。でもある一定のところまで進んだ時にパーン、と切り替わる瞬間があって。目が変わるんですよね。分かんない、できないって言ってた子が「え、これでいいの!?」となる瞬間があり、終わりの時間になっても止めてるふりだけしてずーっと書いてくれてたりして。

―コロナ禍でみんな家で退屈してそうですけど、一般の人でも何か作るべきだと思いますか?

田丸:個人的にはおすすめをしています。小説でいうと一人でもできますし、音楽のように楽器を買わなくても今この瞬間からいつでも始められるんですね。今、本を読んだりインプットだけだとどうしても疲れてしまう気がしているので、趣味でもいいからちょっと書いてみませんかという提案をしています。

曽我部:自分から自己表現が出てくる小道を作ってあげるってことですよね。音楽でいうと、ちょっとコードが弾けるとか。それだけではアーティストではないんだけど、アーティストになるための出口を作ってあげるってことですよね。

―「おすすめされても作れないんだ」って悩んでる人には、曽我部さんは何てアドバイスしますか?

曽我部:やらなくていいんじゃないですか。小説も音楽も、もうどうしてもやらざるを得ないなって人がやってるんですよ。でも、子どもたちにそのメソッドを教えてあげるっていうのは、彼らがそうなったときにペンを持てるっていう道を与えてあげてると思うんですよね。

8月14日に突如リリースされた、曽我部さんの新曲“永久ミント機関”を聴く(Apple Musicはこちら

曽我部:そういう子たちの中で「俺、もう何か書くしかないかも」って子が出てくると思うんですよ。その彼が、あのとき言われたから書いてみようかなって思えたら最高なんじゃないですか。音楽も小説もみんなやればいいですっていうことはないんですよね。

田丸:選択肢ができるってことですよね。

曽我部:そうそう。でも、みんな人生につまずきながら生きていくんで。つまずいて音楽でもやろうかなっていうときとか、小説でも書こうかなってときがみんなあるんですよね。「結婚しようかな」とか色々な人いると思うんだけど、そういうときにこのメソッドがもし生きてたらいいですよね。

田丸:そうですよね、きっかけですよね。

曽我部恵一、ショートショート創作に初挑戦。田丸はスパルタ気味

ここから田丸雅智さんのショートショートセミナーが始まった。今回は「味噌」をテーマに曽我部恵一さんが小説作りに挑む。

田丸さんのショートショートセミナーでは専用のワークシートを使う。ここにまず好きなものを書き出す。曽我部さんが「レコード」と答えて、あとは今回のテーマに関係して「味噌」と言われて思いつくものを並べていく。「味噌カツ」や「お母さん」なんてものも。

次に先程の好きなものの一つ「レコード」から連想されることを書いていく。「回る」だったり「音がクリアに聞こえる」だったり。そうやって生まれた連想と、今度は「レコード」以外のもの、今回は味噌で思いつくものとくっつけて面白いと思えるものを探す。

セミナーのワークシート。右側が曽我部さんの好きな「レコード」と「味噌」関連の言葉が並ぶ。左側は「レコード」から連想する言葉

そして生まれた言葉が「中古のお母さん」である。何か悲しい。これはやめておきましょう、となり「音がクリアになる味噌カツ」が選ばれた。このふしぎな言葉を想像して説明していく。それらをまとめるとショートショートになるそうだ。

田丸:さあ「音がクリアになる味噌カツ」ということですが、より詳細に言うと曽我部さんどうですか?

曽我部:どうですかと言われましても……(笑)。

田丸:妄想を炸裂させて!

曽我部:うーん、たぶんですよ。その味噌カツを……何かするんでしょうね。街って騒音に溢れてますよね、それがすごく綺麗なキラキラした音になって光の粒のように降ってくる……。

田丸:それいいじゃないですか! その味噌カツを食べるとそうなるんですか?

曽我部:食べると普通すぎるかもしれないんで……納める。

田丸:納める!? 斬新ですね!

曽我部:奉納みたいに、友達の家のおじいちゃんの部屋にある仏壇に味噌カツを置くと、音の全部が綺麗になる……名古屋の街なんですけど……あれ? もう、できちゃいました?

田丸:めちゃめちゃできてますよ!

曽我部:主人公の少年はそれを知らない。何かの拍子に知るんですよね。「あれ? 音よくなってねえ?」って。すると友だちが「昨日うちのじいちゃん味噌カツ仏壇に置いちゃってんだよ」って。それが音がよくなった時間と同じで気づく……おもしろいかなこれ?(笑)

田丸:いいんです、いいんです!

曽我部:最後はもう名古屋がすごくキラキラしてるときに少年が立ってるのがエンディングです。

田丸:今のをつなげるだけでいいんですよ。例えば、少年がいて、味噌カツが大好きな少年だと。名古屋住まいで普段から食べているんだけれども、あるときそれとは関係なしに……。

と田丸さんがその場ですらすらとストーリーを口述していく。ここが職人芸。まとまった話の概要はこちら。

名古屋に味噌カツが大好きな少年がいた。ある日街の音が美しくなっていることに彼は気づいた。翌日の学校で友人からおじいちゃんが仏壇に味噌カツを供えちゃったと聞く。喋っていくうちに味噌カツと街の音が関係していることがわかる。ためしに味噌カツを供えさせてもらうと音が綺麗になり名古屋中の争いがなくなった。その効力に気づいた主人公が最終的には味噌カツ10枚を一気に納めたところ……。

田丸:かつてないほどクリアで、それこそ自然の恵みみたいな音が降り注いで、心の奥底から味噌カツの味がじゅわーっと広がってその景色に佇んでる……みたいな!

曽我部:なるほど! いいですね~。

何がなるほどなんだという気もするが、一気にできてしまった。このあともう一つ「回る味噌」という話も作った。こっちは難産で「……回るんでしょうね、味噌が」という曽我部さんに「それからどうなる!?」と延々追い込んでいく田丸さんのやりとりが見ものだった。「回るんでしょうね……」「それからそれから!?」と味噌が回り続ける時間がしばらく続いた。

笑顔で「それからどうなるんですか!?」と問い続ける田丸さん
「えーっと……」と困る曽我部さん

ちなみに読めるスパイスカレー第4弾には「味噌」をテーマにしたショートショート作品が封入されるのだが、現在この作品を募集している。このセミナーをヒントに書いたご自身の作品を応募すれば、大賞に選ばれた作品はカレーに封入されることになる。

「全然自信がなくて、作ったはいいけど大丈夫かなってものの方が刺激的」

イベントは質問コーナーで終了。「小説を書いているとき、途中で話が飛びすぎて書くことをやめることもありますか?」という質問から最後は曽我部さんが

曽我部:自分的にありえないかも、ぶっ飛んでるかもと思っても意外とそういうの発表してしまうと評判よかったりすることとかありませんか?

田丸:分かります、分かります。

曽我部:自分に全然自信がなくて、これ作ったはいいけど大丈夫かなってものの方が刺激的なのかもしれないね。そのぐらいのもの出していかないとお客さんは刺激が、スパイスが効いてないのかもしれないですね。

と、うまくまとまったところでイベントは終了となった。曽我部さんと田丸さん。たくさんの作品を手掛けた二人から聞いた創作の方法が自分の中の発酵させた何かを生み出す手がかりとなる。まずは味噌をテーマにしたショートショートあたりから書き始めてみよう。

イベント情報
『DJ MARUKOME 読めるスパイスカレー第2弾発売 発酵の日記念「真夏のショートショート食堂」supported by CINRA』

日程:2020年8月5日(水)

キャンペーン情報
「あなたの作品が『読めるカレーになる』キャンペーン」

短くて不思議な小説、ショートショート。
DJ MARUKOMEといえば「味噌」。今回のテーマは「味噌」です!
あなたが思う味噌はどんなものか、是非想像してみてください!
「DJ MARUKOME大賞」を受賞された方の作品は、「DJ MARUKOME 読めるスパイスカレー」第4弾に封入予定!

商品情報
「DJ MARUKOME 読めるスパイスカレー」

第4のお肉「大豆のお肉」を使用。お肉好きの方にも美味しいこだわりのトマトベースでインドカレー風。隠し味の美麻高原蔵二年味噌が、自然な甘みとコクを醸し出します。

プロフィール
田丸雅智 (たまる まさとも)

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に『桜』が掲載され作家デビュー。2012年、樹立社ショートショートコンテストで『海酒』が最優秀賞受賞。『海酒』は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。書き方講座の内容は、2020年度から使用される小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。2017年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。メディア出演に情熱大陸、SWITCHインタビュー達人達など多数。

曽我部恵一 (そかべ けいいち)

1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。1090年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト / ギタリストとして活動を始める。1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。1970年代の日本のフォーク / ロックを'90年代のスタイルで解釈・再構築したまったく新しいサウンドは、聴く者に強烈な印象をあたえた。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル「ギター」でソロデビュー。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント / DIYを基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス / ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。



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