頭の中のイメージを取り出す。効率と真逆の発想から生まれる。さまざまなAIのアイデア
2025年という少し先の未来に向けてのアイデアを募集する、wellvill株式会社主催の『「#人とAIの2025」コンテスト』。「2025年に実現してほしいAIのアイデア」を募集した本イベントの決勝戦が2月23日に実施された。
多数の応募があった中から1次審査を通過した8人が、コロナ禍でオフラインでの体験が変化してきた今ならではの発想や、仕事での実感や被災体験から生まれた社会への提案など、そのアイデアと思いをオンラインで発表。審査員にはwellvill株式会社の松田智子CEO、樽井俊行CTO、特別審査員の総合エンターテイメントプロデューサーのつんく♂、筑波大学准教授の落合陽一が、実現に向けた取り組みが実際に行われる「wellvill賞」を始め、4つの賞にふさわしいアイデアを選出した。私たちの未来の生活を変えるかもしれないアイデアたちと審査員のコメントをお届けする。
その名の通りアイデアが特に光る「特別アイデア賞」を受賞したのは、ラーニングデザイナーの吉野明日香が提案する『アタマの中のイメージを取り出せるAI』。
頭の中に浮かんだイメージを言葉に変換して伝えようとすると、個々人の言葉の解釈の違いによって齟齬が生じることが多々ある。吉野が提案するAIは、伝えたいのにうまく伝わらないもどかしさを感じることなく、頭の中で描いているイメージをそのイメージのまま取り出し共有するというものだ。審査委員の1人、wellvill株式会社の樽井CTOはこうコメントした。
樽井:人間は言語という記号を理解して思考しますが、その時に五感をフル稼働させていて、視覚野や記憶領域も含めて脳の中の部位が複雑に投影されているので、その瞬間瞬間の思考の信号を、画像などに結びつけるようなメカニズムを考えることができると思います。2025年に向けてのテーマとして斬新で面白いし、アプローチする価値のあるアイデアだと思います。
「街の中での新しい楽しみになりそう」とそのエンターテイメント性が評価され、「つんく♂賞」に輝いたのは、山後喬が発案した人型ロボット『TERA-SU』。295万世帯が停電となった北海道胆振東部地震を体験した山後は、いざというときには頭が真っ白になり非常用電源や防災セットを有効に使えないと気づいたことから、街中に設置して、あらかじめ平常時にも使える『TERA-SU』を考え出した。
平常時はボディへの広告表示や観光案内といった機能を使用でき、災害時には非常用電源になったり、内部に格納された防災セットを取り出したりすることができる。普段から街中で役立つ存在だからこそ、とっさの行動が取れない非常時にも身近な存在として私たちを支えてくれるという頼もしいものだ。
つんく♂:わかっていても有事になかなかうまくはいかないから、平常時からなんらかの形で触れられる、身近に置いておける、というのはとてもいい発想ですね。ロボット型にせずとも、小さな子どもや老人も親しんで触れることができる愛嬌があるものになったらいいなと思いました。
「落合賞」を受賞したのは東京大学工学部の浅野輝による『撹乱としてのAI』。AIと聞くとさまざまなことを効率化・最適化するイメージがあるが、そのまったく逆をいく「AIによってほころびを生み出す」というアイデアだ。
「不確実性によって発生する驚きが知性を育む」という趣旨の元東大総長の文学者、蓮實重彦の言葉を引用しながら、コロナ禍で偶発性が減り、驚きがなくなってきている社会に対して貧しさを感じたという浅野。また、Amazonの人事採用AIツールが行った女性差別や、アメリカの裁判所における再犯可能性を予測するシステムにおける黒人差別など、「機械による差別」の原因となっているデータバイアスに対しても問題を感じたそうだ。そして、こうしたデータのバイアスは、日々繰り返されて生まれる「ほころび」によって変わっていくのでは? と感じたことから、「ほころび」や「ズレ」を生みたいという思いが芽生えたという。
落合:予期しないことを予期する分野って極めて難しいので、実世界で起こってしまう不思議なバイアスを拾い集めるだけでも面白い。いろいろなバイアス自体が偶発性を生んでいる社会でもあるので、バイアスを是正するためのAIや客観視装置があることによって、社会の中の偶発的な事象を見つけやすくなるかもしれないです。
今世の中で起こっている多くの分断はおそらくAI作りにも影響を及ぼしていくし、セレンディピティ(偶然の出会い)の低減も「withコロナ」以降すごく活発化していて。そこにどうやって偶発性を呼び込んでいくか、そこに差別が起こらないようにするかは、今後の大きな課題だと思うので、2025年までになんらかの解決策が見出せるといいと思いました。
個人の体験や実感からスタートしたアイデア。実際に取り組みを行う予定のAIも
選出されたアイデアの実現に向けて、wellvillが実際に取り組みを始めるという「wellvill賞」には、2組のアイデアが輝いた。まず、「すぐにでも実現できそうだし、楽しい世界になりそう」という反響があり、米窪仁子の『織田信長と話したい!』が選ばれた。オンラインに切り替わった大学の講義に退屈さを感じたこと、そして高校の先生が歴史上の人物の人となりを教えてくれたことで歴史を好きになった思い出から、歴史上の人物と実際に話せるAIがあったら、と考えられたアイデアだ。wellvill株式会社の松田智子CEOも楽しそうに米窪のプレゼンに耳を傾けていた。
松田:高校生の娘が、ある先生が歴史上の人を意識して話をしてくれたから日本史が楽しくなったと言っていました。米窪さんのアイデアは高校生や大学生はもちろん、小さなお子さんにとっても面白いし、興味がわく分野だと思いました。私もぜひやってみたいです。
同じく「wellvill賞」を獲得したのは、吉安和隆の『人の役に立ちたいという本能を顕在化させて背中を押してくれるAI』。
常日頃、「人の役に立ちたい」という気持ちを抱えながらも、そのキッカケを掴めずに、具体的にどう行動すればよいかわからない。そんな悩みを取り払い、AIが本当に人の役に立つことや、自分の行動によって相手がどれくらい喜んだかを可視化して教えてくれる。「喜び」が明確になることで、今まで見えていなかった課題も浮き彫りになり、その解決に向かって人がまた繋がっていくサイクルを生み出したいという。松田CEOも吉安の思いに深く共感した様子だ。
松田:まだアイデアとして具体的ではないけれど、やりたいことに対してAIがどこまで価値を意識して行動をプッシュできるのか、っていうのは、人間にはない技術として活用できそうです。周りの人とどう幸せに暮らしていくかが大切ですし、人と人がうまく助け合える社会を作っていけたらいいですね。
受賞は逃したものの、ほかにも、アイドルとの交流方法として主流となった「オンラインお話し会」を最大限に楽しむため、事前にコミュニケーションの練習ができる『アイドルアバター』(発案者:丸山莉捺)、食事量の記録や服薬など介護職員の業務をサポートするAIロボット『Memeco』(発案者:伊東範太郎)、命日にだけ故人のアバターと会話ができる『命日限定故人アバター』(発案者:舞優華)というユニークなアイデアが発表された。
社会的に意義があるものやエンターテイメント性に富んだものなど、どれも発案者の体験や実感に伴うアイデアで、2021年の私たちの思いや気づきが、2025年の景色を変えていくことになることを予感させる決勝戦だった。まずは「wellvill賞」を受賞した2組のアイデアの実現化を期待しつつ、2025年という未来を楽しみに待ちたい。
- イベント情報
-
- 『「#人とAIの2025」コンテスト』
-
「人と、人のつながりを支えるAIの未来」に関する少し先の未来(5年後)について、みんなで自由に思い描き、応募し合うコンテスト。AIに関連する様々なプロジェクトを通じて、対話エンジンを中心とした、世の中の一人ひとりの暮らしに寄り添ったテクノロジーを開発するwellvill(ウェルヴィル)が主催した。
決勝戦:2021年2月23日(火)14:00~16:00
特別審査員:
つんく♂氏(総合エンターテインメントプロデューサー)
落合陽一氏(筑波大学准教授)
wellvill審査員:
松田智子(ウェルヴィル株式会社CEO)
樽井俊行(ウェルヴィル株式会社CTO)
決勝戦MC:
松田公太(タリーズコーヒージャパン創業者 / 元参議院議員)
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-