本作はマイムのあまりうまくない男性が、くじけそうになりつつも、二人の男女に助けられながら、上達しようと努力する物語である。
そもそも、「マイムレッスン」とはなんだろうか。文字通り、踊りのマイムのレッスンということになるのだが、本作の主な登場人物である男女三人の関係性や、マイムに情熱を燃やす理由は、具体的に示されることはない。しかし、それがかえって、余計な情報を排していて、登場人物たちの感情に集中することができる。彼らは友情関係の中で、お互いにマネをしあいながら、ゴールのない「マイムレッスン」を繰り返すのだ。確固とした理由や目的のないまま、プロセスじたいを楽しむ姿が印象的で、人生の喜びそのものを体現しているようにも見える。それゆえに、彼らの姿は観客に不思議な感動を呼び起こす。
素晴らしいのは、ラスト近くのベランダシーンだ。マイムへのやる気を取り戻した男性と、顔を白く塗った女性が、ガラス越しに手を重ね合わせる。そのとき観客の心には、冷たいガラスを通り越して流れる、二人の静かで暖かな思いが、そのままの鮮度で流れ込む。その暖かさとは、二人の間で完結した、閉鎖的な「恋愛感情」ではない。むしろ、マイムを通じて繋がる三人の男女の開放的な「友情」が、今後もつづくことへの安堵が含み持っている暖かさなのだ。
人はひとりでは、決して前に進むことはできない。作者の細やかで優しい視線に貫かれた、小さな百合の花のようにかわいらしい傑作が誕生した。踏み切りシーンの、街灯の光が映える美しいアスファルトなど、注意深い演出に目をこらしながら、何度でも見ていただきたい。
※このコンテンツは旧「ピックアップアーティスト」の掲載情報を移設したものです
- プロフィール
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- 三宅唱
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1984年札幌生。大学在学中、映画美学校フィクション科に入学。『スパイの舌』(08)が第五回CO2オープン・コンペ部門最優秀賞を受賞。他に、『4』(05)、『マイムレッスン』(06)など。また、映画批評ウェブサイトflowerwildにて新作映画レビューを担当。現在、CO2助成作品に向けて、長編映画を準備中。
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