「Twitterの伝道師」と呼ばれ、ソーシャルメディア時代の寵児となった津田大介が今度は「政治メディア」を立ち上げるという。ご存知の通り、津田のフォロワー数は20万人弱にも及び、最近ではメールマガジンも好調。J-WAVEのラジオ番組『JAM THE WORLD』の火曜ナビゲーターを務めるなど、活動は多岐にわたっている。「肩書き問題でいうと、結局もう『メディアもん』を名乗るしかないのかな……」。以前、こんなつぶやきをTwitterに投稿していたが、最新著『情報の呼吸法』を見る限り、一先ずは「ジャーナリスト/メディア・アクティビスト」ということで落ち着いているようだ。
八面六臂――。まさにそんな言葉が似合いそうな活躍ぶりだが、単著は2009年の『Twitter社会論』以来となる。一言でいえば、前著が「社会論」と大風呂敷を広げながらも純粋にTwitterの楽しさを優しく「伝導」してくれるものだったとしたら、最新著はその先にある具体的な「行動」を促すものだと言える。こういう言い方をすると「金髪●野郎に動員された信者」という罵詈雑言が飛んできそうだが、アンチ諸君のなかにも、一度はソーシャルメディアによる情報発信で、またはそこで得た情報をもとに「行動」を起こそうとした経験がある人もいるはずだ。例えば、東日本大震災の時はどうだっただろうか。
震災以降、津田は「情報のハブ」としての活動に徹してきた。被災地や原発事故の情報が洪水のように溢れ、息継ぎもままならなかったあのころ。適切な空気を肺に満たし「呼吸不全」から脱却するためには、情報をキュレートする存在が求められていた。その役どころを引き受けたのが、津田をはじめとしたネット上の著名人たちである。
もちろん、我々一般ユーザーが果たした役割も大きく、そのうちのいくつかはネットでの情報発信という枠を飛び越えて、実際の「行動」に人々を駆り立てる支援にまで発展した。当然、津田の「行動」もキュレーションだけには留まらず、枠を広げていくことになる。
同著では福島県いわき市で行われた『SHARE FUKUSHIMA』が例として挙げられている。2011年5月に津田が取材のために福島入りした時のこと。Twitterで現地の情報を募り、セブンイレブンいわき豊間店の店長を訪ねたことがきっかけで、同所で渋谷慶一郎や七尾旅人が出演する音楽イベントを開催することになったのだ。もちろん津田が持つ人間関係資本があったからこそ実現したことだとは思うが、津田と店長を引き合わせるツイートをしたことも、立派な「行動」の一つだと言えるだろう。ツイッターを駆使しながら取材を進める手法を、津田は「リアルタイム紀行型ジャーナリズム」と呼んでいる。
ところで、肝心の「情報の呼吸法」について津田はどのようなことを語っているのか。情報に溺れずにしっかりと呼吸して「ソーシャルメディア時代」を歩んでいく方法、それはずばり「情報は発信しなければ、得るものはない」という事実を自覚することだ。ソーシャルメディアで得た人間関係資本は、いつか現実に「棚卸し」が可能な財産である。しかし、それを得るためには「自分自身も他人の資本である」ことが必要で、「情報は発信しないけれど、得るものは得る」というスタンスは、もはや通用しない。
津田にとって、情報を他人にギブするということは2002年から開始したブログ「音楽配信メモ」の時代から通底する、ある種の「生き方」であると言える。そう考えると「ソーシャルメディア時代の寵児」という呼ばれ方は、不本意なものなのかもしれない。しかし、一方で当の本人は「『そんなことどうでもいい』と思っているのではないか」とも感じる。
津田が求めているものはあくまで「ムーブメント」であり、それを実現するためならば新旧のメディアをハイブリッドに使いこなすべきというのが基本的なスタンスだ。そういった意味で、やっぱり「メディア・アクティビスト」という肩書きがしっくりくると感じるのは、筆者だけではないだろう。
今後立ち上げる予定の「政治メディア」は「政策でわいのわいの騒げる場所」になるらしい。当然、騒ぐだけではなく「行動」に移すことが何より必要だということは、もはや言うまでもないことである。
- 書籍情報
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- 『情報の呼吸法』
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2012年1月10日発売
著者:津田大介
価格:987円(税込)
発行:朝日出版社 - 津田大介
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ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。早稲田大学大学院政治学研究科非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。2006〜08年まで文化審議会著作権分科会の専門委員を務める。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の設立・運営にも携わる。3.11後は被災地の取材を精力的に行い、ライブイベント「SHARE FUKUSHIMA」を開催するなど、地域の復興に関わり続ける。
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