環境とアートをテーマにしたコンペ『KONICA MINOLTA エコ&アート アワード 2012 supported by Pen』のグランプリ受賞作品が3月20日に発表された。東日本大震災や福島第一原子力発電所の事故が発生して以来、人々の「エコ」に対する意識が大きく変わった昨年。根本的な価値観の転換を迫られるほどの大災害を経験したクリエイターたちは、どのような表現を目指し、エコとアートの未来を切り開いていこうとしているのか。グランプリ受賞作品の根底を流れるテーマをもとに、消費社会のアンチテーゼとしての「エコ」が獲得すべき新たな立ち位置について、その展望を探っていこう。
今回のアワードには279作品の応募があり、「ビジュアルアーツ部門」、「プロダクト&コミュニケーション部門」のほか、今年はアートの力で復興を考える「next ACTION部門」が新設された。安藤貴之氏(『Pen』編集長)、伊勢谷友介氏(REBIRTH PROJECT代表)、廣田尚子氏 (プロダクトデザイナー)、ミヤケマイ氏(美術家)が 審査委員を務め、グランプリや各賞を選んだ。
審査員 ミヤケマイ氏(美術家)(撮影:中村年孝)
昨年は入賞作品展の期間中に東日本大震災が起こったため、グランプリ発表会が開催されるのは2年ぶり。今回のグランプリにもその影響は色濃く、新しい時代のクリエイティブを考えるうえで重要な作品であると言える。
まずは、「ビジュアルアーツ部門」から見ていこう。グランプリに選ばれたのは、古川真直氏が制作した『WE are the JAPAN』で、500個ほどの印鑑(シャチハタ)を捺印して日本地図を表現した意欲作だ。この作品のコンセプトは、「被災地を思う気持ちや住んでいる土地は違うけれど、みんな繋がっているんだという絆を、印鑑(=存在証明)を用いて」(古川氏)表現しようとしたこと。
「ビジュアルアーツ部門」グランプリ『WE are the JAPAN』 古川真直(撮影:中村年孝)
伊勢谷氏は「あらゆる名前の人が、あらゆる場所に根ざして生きている。次の世界を作ろうとするときに、人間が互いに存在していることを認識し合うのはとても大切なことで、そのことを発見させてもらった」と評価した。古川氏の母方の実家は福島県だということもあり、震災以降の心情が反映され、クリエイティブに大きな影響を与えた作品だと言える。
ちなみに、印鑑は「シャチハタ株式会社」から提供されたもの。古川氏がカスタマーセンターに問い合わせた時はいぶかしがられたものの、後に広報から連絡があり協力を快諾してもらったという。
審査員 伊勢谷友介氏(REBIRTH PROJECT代表)(撮影:中村年孝)
続いて「プロダクト&コミュニケーション部門」のグランプリに選ばれたのは、NOTE(青木大輔氏、樋口太郎氏)が制作した『玉響-たまゆら-』だ。こちらは、クエン酸と重曹などでできた「魔法のキャンディ」に水を混ぜることでビニールを膨らませ、座ったり寝転がったりできる家具に変形させる作品。もともとは「next ACTION部門」の応募作品だったが、同部門での受賞となった。
その理由のひとつとして、伊勢谷氏は「プロダクトとしての完成度が高かった」ことを挙げている。「たくさんの被災地をまわらせてもらい、現場ではそれぞれが自分の空間を持つことが難しい現状を目の当たりにした。もしこのようなものがあれば、皆さんの心の中に拠り所ができるのではないか」(伊勢谷氏)と言うとおり、被災地やアウトドアなどでも重宝される実用的な作品である。
「プロダクト&コミュニケーション部門」グランプリ『玉響-たまゆら-』 NOTE(青木大輔、樋口太郎)(撮影:中村年孝)
同3日に行われたレセプションの席で、青木氏は「放射能によって、空気や水など当たり前だったものが、当たり前じゃなくなる状況が生まれてしまった。空気や水を体感したり、可視化したりして身近に感じることができるプロダクトが提案できれば、『next ACTION』に繋がるのではないか」と筆者の取材に応えていた。そのテーマ性に加えてプロダクトとしてのクオリティが認められ、今回の受賞に至ったのだろう。
最後は「next ACTION部門」。こちらも他部門からの受賞となり、「プロダクト&コミュニケーション部門」の応募作品『RIP lamp』竹澤葵氏(株式会社FREEing)がグランプリを獲得した。この作品は、昇圧回路を使って微力な電圧の使用済み乾電池でLEDを灯すというもの。単1〜単4までの電池に対応していて、「限界ギリギリまで使い切ることができる」(竹澤氏)という。「節電」など「エネルギー問題」が大きくクローズアップされている現在にマッチした作品だと言えそうだ。
「next ACTION部門」グランプリ『RIP lamp』 竹澤葵(株式会社FREEing)(撮影:中村年孝)
竹澤氏によると、「エコというテーマでなにかできないかと考えた時に、ものを新しく作り出すのではなく、すでにあるものを有効的に使い切ることはできないかと考えた」とのこと。伊勢谷氏からは「使われていない商品を価値のあるものに戻すというアクションは成立している。あとは形にこだわれば、もっともっと魅力的になる」とエールが送られた。同作品はJ-WAVE賞(協賛社特別賞)とのダブル受賞となり、同社のノベルティグッズ制作についても計画されているという。
これまで見てきたとおり、受賞者それぞれが東日本大震災を受け止め、新たに捉えなおした「エコ」という概念を、アートやプロダクトとして昇華させたのが今回のグランプリ受賞作品である。さらに、審査員の話を聞くと、ここ数年(特に震災以降)、クリエイターの間である問題意識が共有されつつあることが分かってくる。これからのクリエイティブを考える上で、重要な示唆が含まれているコメントなので、ぜひ紹介しておきたい。
「大震災は価値観が変わるほどの出来事。現在、アーティストの間では、『制作するものがゴミになってはいけない』という危機感があります。さらに言うなら、今後は廃材を使うだけがエコではなく、どうやって人の気持ちを動かしていくかにも焦点を当てなければいけません」(廣田氏)
審査員 廣田尚子氏(プロダクトデザイナー)
(撮影:中村年孝)
「私達の生活を維持するにあたり、クリエイターの活動の可能性は制限されます。それをつまらないと思うか、面白くするかはクリエイター次第です。レギュレーションの中に、想像力を吹き込むのが、クリエイターの役目ですね」(伊勢谷氏)
両氏の視点に共通しているのが、「限られた条件」のなかで作品を制作しなければならないフェーズにアートが入っているという認識だ。何が限られているのかと言うと、制作上の表現ではなく、「マテリアルやエネルギー」のこと。つまり、「限られた条件」を受け入れたうえで鑑賞者や制作者の想像力を動かすようなクリエイティブを発揮しなければいけないのである。
また、ミヤケ氏も「アートは、今ある社会のプラットフォームや考え方に対するアンチテーゼという意味を含んでいますが、エコも役割は同じであり、両者はリンクした双子のような関係だと言えます」と語る。一方で、「いつか、エコがアンチテーゼでなくなることを望んでいます」とも。
安藤氏はレセプションパーティーで「『エコ&アート アワード』が始まった当初は作り手にある種の気負いみたいなものがあったが、現在ではエコを前提として発信する意識が当たり前のこととして定着しつつある」と語っていた。つまり、エコとアートが「双子」の関係になりつつあるのが現在だとすれば、今後は、エコが「当たり前」の存在になり、双方の区別がなくなる未来を作らなければならないということだ。そういう意味で、アートが果たす役割はこれからどんどん大きくなっていくだろう。
- イベント情報
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- 『KONICA MINOLTA エコ&アート アワード 2012 supported by Pen』作品展
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2012年3月4日(日)〜3月22日(木)
会場:東京都 コニカミノルタプラザ ギャラリーB&C
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