ライブの「体験」はどんどん新しくなる。テクノロジーの発達によって、音と光が作り出す「非日常」の空間は拡張されていく。その最先端を切り拓く「現時点での最高峰のオーディオビジュアルライブ」として世界中から驚きと賞賛を集めているのが、アモン・トビンによる「ISAM Live」。その全貌を収録したのが、このDVDだ。
一体何が起こっているのか。たぶん、言葉でどうこう説明するよりも、まずはYouTubeの動画を見てもらったほうが話が早いかもしれない。
アモン・トビンがチャレンジしたのは、プロジェクションマッピングの技術を大々的に取り入れたライブセットの革新だ。ステージセットには多数の立方体が積み重ねられる。異なる大きさの箱のようなキューブが、数メートルの高さまで、複雑に、うず高く積み上がっている。そして、その幾何学的な城のようなセットのほぼ中央に、ひときわ大きな透明の立方体が設けられ、その中でアモン・トビンが音楽をプレイする。そのセット全体に映像が投射される。
最近では東京駅の丸の内駅舎のリニューアルイベントでも使われて大きな話題を呼んだ、最先端の映像技法、プロジェクションマッピング。流行の言葉にもなっているから、すでに知っている人も多いと思う。まるで建物が動いたり、現実にはありえない空間がそこに現出しているかのような感覚をもたらすテクノロジーだ。
アモン・トビンのライブにおいては、このプロジェクションマッピングの技術が「既存の建物に映像を投射する」ことではなく「今までにないビジュアル表現をするためにゼロからステージセットを組み上げる」ことで、さらに進化した形で用いられている。鳴らされる音のひとつひとつと映像が完全に同期し、異次元の世界を生み出している。たとえば噴き上げる蒸気が、たとえば脈動する溶岩のマグマが、たとえばH.R.ギーガーを想起させるようなグロテスクで官能的な生命と機械の融合が、そこに表現される。ひとつひとつの立方体が崩壊していくような場面すら、ある。
この映像表現のキーになっているのが、映像技術を担当したV Squared Labsを率いるヴェロ・ヴァークハウス。彼とアモン・トビンが深く話し合うことからイメージが現実化し、ひとつの「物語」としてショーを展開するコンセプトが生まれたのだという。ヴェロ・ヴァークハウスと、デザインプロダクションスタジオLeviathanに所属するマット・デイリーがディレクターをつとめ、世界中のフェスティバルや展示会のためにステージをデザインしてきたVita motus Design Studioのヘザー・ショウがステージセットのデザインを担当。数々のエンジニアとクリエイターが、最先端の技術と表現を支えている。DVDにはライブの模様だけでなく、アモン・トビン本人や数々のスタッフがその舞台裏を語るドキュメンタリー映像も収録され、彼らがどんな意識のもとショーを作り上げていったのかを知ることができる。
©Caroline Hayeur
でも、ここで改めて強調しておきたいのは、単に「アモン・トビンのライブは最先端のテクノロジーを使ってるから凄い!」ということではない、ということ。実は一番大事なのは技術そのものではなく、それによって何を表現するかという世界観だ、ということである。特に、今はプロジェクションマッピングという新しいテクノロジーが注目を集めている。おそらく今年から来年にかけて「猫も杓子もプロジェクションマッピング」な状況になっていくだろう。同じようなことは数年前に『アバター』とその後の3D映像ブームにも感じていたけれど、結局、人々の心を本当に揺り動かすのは表面的な目新しさではない。重要なのは「映像が立体的に飛び出すこと」ではなく「今までにない世界が目の前に広がっていること」である。さらに、アモン・トビンの場合、その中身となる『ISAM』というアルバムが持つ、ある種グロテスクなほどの生命力を感じさせる音風景があってこそ、あれだけの衝撃性を持ったライブになっているのだと思う。
UKのレーベル「NINJA TUNE」に所属するブラジル出身の音楽家であるアモン・トビン。90年代から活動を続け、エレクトロニカ/IDM(インテリジェントダンスミュージック)のアーティストとしては、最早ベテランの領域に入るミュージシャンでもある。彼が昨年にリリースしたアルバム『ISAM』は、フィールドレコーディングで集めた音を合成させて演奏可能な「楽器」として再構築することから作られたアルバムだ。シンセや電子音は一切使わず、自然界の音を録音し、それを最新のテクノロジーで加工する。そして、神秘的なエネルギーを持った電子音楽として再構築する。そういう手法で生まれた、全く新たなエレクトロニックミュージックだった。「ISAM Live」に生命や自然の脅威、そして機械を溶け合わせるようなイメージが頻出するのも、彼が『ISAM』というアルバムで表現しようとしたことと密接に繋がっている。映像と音が、タイミングだけでなく、意味としてもシンクロしているのだ。彼自身も「ISAM Live」について「映像は音楽を投影するものである」と断言している。そして、考えてみれば、そもそも彼が所属する「NINJA TUNE」も、レーベルを主宰するCOLDCUTを筆頭に、音楽と映像をシームレスに結びつけるようなアーティストを多数抱えるレーベルであった。
11月に開催される『electraglide 2012』では、アモン・トビンも来日を果たし、この「ISAM Live」が行われる。実際のショーは、映像で見るのとはまるで異なる体感を与えてくれるだろう。そして、現実感覚を揺るがすようなその体験の全貌を、このDVDで是非紐解いてみてほしい。
- リリース情報
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- Amon Tobin
『ISAM Live』初回生産限定盤(DVD+CD) -
2012年10月27日発売
価格:2,750円(税込)
BRCDVD-6x1. Intro Sequence
2. Journeyman(Extended Live Version)
3. Piece Of Paper
4. Bed Time Stories(Extended Live Version)
5. Wooden Toy(Extended Live Version)
6. Lost And Found
7. Slowly(2011 Live Rebuild Version)
8. Machine Gun Remix(Noisia, Amon Tobin Remix)
9. Goto10
10. Surge(Two Fingers Remix)
11. Kitty Cat(Live Version)
12. Dropped From The Sky(Live Version)
13. Night Swim
14. Horsefish(Live Version)
[DVD収録内容]
1. Intro Sequence
2. Journeyman(Extended Live Version)
3. Piece Of Paper
4. Bed Time Stories(Extended Live Version)
5. Wooden Toy(Extended Live Version)
6. Lost And Found
7. Slowly(2011 Live Rebuild Version)
8. Machine Gun Remix(Noisia, Amon Tobin Remix)
9. Goto10
10. Surge(Two Fingers Remix)
11. Kitty Cat(Live Version)
12. Dropped From The Sky(Live Version)
13. Night Swim
14. Horsefish(Live Version)
- Amon Tobin
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