かつて1994年、ソニー・コンピュータエンタテインメントから「プレイステーション」が発売されたとき、多くの人々は「ゲームというメディア」に驚くべき夢を見たはずだ。それまで2次元の世界で動いていたキャラクターが3Dグラフィックで描かれるようになったことで、ストーリー性の高いゲーム――たとえば『ファイナルファンタジー』や『バイオハザード』シリーズは「まるで映画のようだ」と評されるようになった。それまで「子どものお遊び」として認知されていた「テレビゲーム」が、カルチャー全体の中で独自の立ち位置を確立した瞬間があのときにあったのではないだろうか。
©2013 Sony Computer Entertainment America LLC. Created and developed by Naughty Dog, Inc.
そして2000年代に入り、プレイステーション2が登場すると、ますますグラフィック技術は向上して「映画のようなゲーム」は隆盛を極める。その流れはプレイステーション3、Xbox 360など、さらにハイスペックなゲーム機へと引き継がれていったが、同時に一般のユーザーはそんなハイスペックなゲームを遠巻きに眺めだしたように思える。「プレイするには時間がかかる」……さもありなん。「操作が複雑になり過ぎてついていけない」……たしかにそうかも知れない。「だから今はスマホで『パズドラ』ができればいいや」……そういう方もいるだろう。しかし、テレビゲームには、スマートフォンでお手軽に絶え間ない刺激と所有欲を満たす「暇つぶし」では得られない、心の底から感情を揺さぶられ、沸き上がる「感動」があったはずだ。私自身も今回、とあるゲームをプレイしてみて、あらためてそこに気づかされた。それが今、世界中のゲームファンから熱い視線を浴びせられている『The Last of Us』だ。
プレイステーション3専用タイトル『The Last of Us』は、文字通りプレイヤー自身が映画の中に入り込み、主人公となってリアルタイムでドラマを体感できる、とてつもない没入感にあふれたインタラクティブな「映画」作品だ。プレイステーション誕生から20年、圧倒的な進歩をみせたテクノロジーによる表現力は、ナチュラル&スムーズに五感に訴えかける演出となってプレイヤーの気持ちを萎えさせることがない。
©2013 Sony Computer Entertainment America LLC. Created and developed by Naughty Dog, Inc.
舞台は寄生菌の繁殖により、人々が異形のインフェクテッド(感染者)となり、かつての大都市すらも崩壊したアメリカ。未曾有のアウトブレイクから20年後、インフェクテッドに襲われる感染被害は止まらず、生存者同士の物資をめぐる醜い生存競争。軍による抑圧によって全てが荒廃し、スラム化した世界からゲームは始まる。
©2013 Sony Computer Entertainment America LLC. Created and developed by Naughty Dog, Inc.
サウンドの奥行きも、臨場感を大いに高めてくれている。たとえば主人公のジョエルとエリーはインフェクテッドから身を守りながら先を急がねばならないが、インフェクテッドの接近はその声の近さ・方向で知ることができる。と同時に、ジョエルがわずかな物音を立ててしまえば、インフェクテッドに気づかれ命が危ない。まさに現実世界同様に、五感を研ぎ澄ますことが重要なのだ。サウンドといえば、また音楽が切ない。担当しているのは映画『バベル』『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー作曲賞に輝いたグスターボ・サンタオラヤ。アルゼンチン出身の彼らしい、哀愁に満ちたアコースティックギターの響きは、シリアスな物語を美しくも悲しく彩っている。
ビジュアルは、その荒廃した街の雰囲気、廃墟と化した建物、残されたわずかな自然の風景が、まるで実写で撮影されたのではないかと見紛うほどのクオリティーで表現される。そして、だからこそ生まれる想いが、プレイヤーの心に宿るのだ。インフェクテッドに襲われて命からがら廃屋から抜け出し、ホッと一息つくと同時に目に入る、鬱蒼と茂った草木から温かく降り注ぐ木漏れ日……。見えている自然の景色はモニターの中にしか存在しない、だがそこに、フッと鼻を突く緑の匂いと、風のゆらめきを確かに感じるのだ。そして、そんなひとときの光景に私は現実と同じく「生きている」喜びを感じる。プレイ中、そんな不思議な感覚を何度味わったことだろう。
©2013 Sony Computer Entertainment America LLC. Created and developed by Naughty Dog, Inc.
ゲームとしての面白さも特筆すべきポイントだ。インフェクテッドとの攻防は銃撃と肉弾戦を行えるが、戦略性を高めているのがステルスアクションというシステム。敵の死角から音もなく近づき(=しゃがみこんで障害物を盾にソロソロと)、羽交い締めにして落とす爽快感と達成感。落ちているモノを遠くに投げて敵の注意を逸らしたり、行き止まりの道を切り開くために、その場にある板切れなどで橋を渡したりと、柔軟な対応も試される。救急キットや火炎瓶を自作したり、プレイ中に得たポイントを使って主人公の戦力を強化もできる。アクションゲームが苦手という人でも、プレイ中に難易度を自由に切り替えられる上に、重要なアクションは画面にボタン指示が出るので安心だ。
©2013 Sony Computer Entertainment America LLC. Created and developed by Naughty Dog, Inc.
『The Last of Us』が世界中で絶賛される理由。それは沢山あるだろうけれど、その1つはテレビゲームが「テレビ」を必要とすることの意味を再確認できる、クオリティーの高さが挙げられるだろう。週末、ブルーレイで映画を観る時間のかわりに、一度このゲームをプレイしてみてほしい。スマホのゲームでは味わうことのできない、かつてのテレビゲームにあった本物の感動体験を思い出すことができるはずだ。
- 製品情報
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- 『The Last of Us』
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2013年6月20日発売
対応機種:PlayStation®3
ジャンル:サバイバルアクション
価格:5,980円(税込)
CERO:「Z」(18歳以上対象)
対応人数:1人(オンライン対応)
開発会社:Naughty Dog, Inc.
発売元:ソニー・コンピュータエンタテインメント
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