最先端デザインの流行だけでなく、デザインの違った見方を楽しめる『ミラノサローネ』
毎年4月、世界中のデザイン関係者がイタリア・ミラノへと押し寄せる時期がある。それはわずか1週間足らずの開催期間で数十万人の来場者を集める大規模なデザイン見本市『ミラノサローネ国際家具見本市(以下『ミラノサローネ』)』、そして『ミラノ・デザインウィーク』(ミラノ市内全域にわたる、この時期のデザインイベントの総称)の開催期間である。期間中は『ミラノサローネ』を中心に様々な関連イベントが開催され、街はデザイン一色になる。そんなデザインの季節が今年もミラノにやってきた。
『ミラノサローネ』『ミラノ・デザインウィーク』は多くの企業による新商品お披露目の場となっており、インテリアやプロダクトデザインなど最新の流行を捉えることができる。ただし流行だけを追いかけるために多くの人々がミラノへと集まるわけではない。様々な展示の中にはデザインを通して重要なことに気付かせてくれたり、考えさせられるようなものもある。そんな違ったデザインの楽しみ方も味わえるからこそ人々は『ミラノサローネ』に合わせて、この街を訪れるのだ。
新しい感性と世界トップクラスの才能がタッグを組み、生まれ変わってゆく受賞作品
今回そのようなデザインが持つ重要性を気付かせてくれた展示の1つが、高級自動車ブランド「LEXUS」の展示『LEXUS DESIGN AMAZING 2014 MILAN』だった。展示が行われたのは、ミラノ大聖堂にほど近い街の中心部にある建物。多くの企業が自社製品の紹介に力を入れる中、LEXUSは自社商品である自動車を展示することはなかった。その代わりそこでは2つの企画からなる作品展示を行い、多くの来場者を集めていた。
展示の1つは『LEXUS DESIGN AWARD』と呼ばれるLEXUS主催の国際デザインコンペティションの受賞作品を紹介するもの。『Curiosity(好奇心)』がテーマとなった今年度も、世界中から多くの応募作品が集まった。また『LEXUS DESIGN AWARD』の大きな特徴の1つ、受賞者のうち2名が、世界で活躍する一流のプロフェッショナルからアドバイスを受け、実際にプロトタイプ作品を作り上げるという、メンター制度も引き続き実施された。
今年のメンター制度の1人に選ばれた受賞者、ジェイムズ・フォックスは、建築家 / エンジニアのアーサー・ファンよりメンタリングを受けた。受賞作品『Macian』は、自然の中で木の枝などを使って隠れ家や遊び道具を作ることができる携帯工作キット。当初、隠れ家作りのためには木の枝に穴をあける必要があったが、環境に優しい素材や建築モジュール、設計を数多く手がけるメンターのアドバイスによって、枝同士を布紐で結び合わせる、より自然に優しいものとなっている。
一方、まるでシャボン玉のような美しいクリスタルガラスによる照明作品を制作したのは、メンター制度に選ばれたもう1人の受賞者セバスチェン・シェラ。受賞作品『Iris』は光の当たる角度によって、様々な色の光を放つガラス製ランプ。ゲームデザイナーとして活躍するロビン・ハニキーのメンタリングによって、まるでインスタレーションのように、たくさんのガラスの球体に彩られた展示空間が生まれていた。このように『LEXUS DESIGN AWARD』は、新しい感性がトップクラスの才能と融合し、より質の高い作品を生み出し、その才能を世界に紹介する機会となっていた。
「想像を超える感動」という難問に取り組んでみせた、3組のプロクリエイターたち
こうした次世代を担う才能の展示にあわせて、もう1つの企画では、世界で活躍する3組のデザイナーや研究チームを招き、LEXUSが打ち出すテーマ『AMAZING IN MOTION』をそれぞれが解釈した作品も発表された。この中ではイタリア人デザイナー、ファビオ・ノヴェンブレの作品『We Dance』が来場者に驚きをもたらしていた。彼の作品は「生命の誕生」をテーマとしており、光と音の伴う躍動感あふれるオブジェとなっている。そのストラクチャーは、生命の最小単位である精子と卵子の出会い、そして惑星や銀河が広がる宇宙にも見立てられ、軌道上を回転する個々のエレメントから放たれる光の反射と音楽が一体となり、軽やかなワルツのハーモニーとともに、最後に胎児が登場するという1つの物語を体験的に見せるもの。人間、そして宇宙の営みがどれほど素晴らしく、驚きに満ちているかをあらためて気付かせてくれる作品と言えるだろう。
また、日本人デザイナーの田村奈穂が見せたのは軽やかなインスタレーション、『Interconnection』。半透明で薄く軽い円形の素材が、モビールのように吊り下げられ、来場者の動きで起きる微細な風によって揺らぎ出す。そればかりでなく、オブジェの動きは光の反射や影に動きをもたらし、微細な風で始まった変化が他の動きへと波及していく様が見て取れる。絶妙なバランスを保ちながら存在し、そして決してとどまることのない自然からインスピレーションを得た彼女の作品は、小さな動きから生み出される大きな変化の可能性を感じさせるものとなっていた。
さらに米国のデザインチーム、MITメディアラボ・石井裕教授率いる「タンジブル・メディア・グループ」は「動き」を見せるテーブル状の作品『TRANSFORM』を展示。テーブルトップに組み込まれた1,000本以上のピンの上下運動をリアルタイムにコントロールできる仕組みになっており、手をかざすとモーションセンサーが反応してテーブルトップが躍動的に波打つなど、技術装置の「動き」がデザインとしての美しさをも併せ持つ。静的なテーブルからダイナミックなマシンへの変貌を通して、静と動のコントラストの美、デザインとテクノロジーの対立と昇華を表現し、観る人々をインスパイアさせる作品となっていた。
MITメディアラボ 石井裕教授率いるタンジブル・メディア・グループ『TRANSFORM』
MITメディアラボ 石井裕教授率いるタンジブル・メディア・グループ『TRANSFORM』
あえて商品を見せないことで、そのデザインの背後にある思想を浮かび上がらせる
今回展示された作品は「LEXUS」が取り扱う自動車とは全く異なるように思えるかもしれない。だが、いずれの作品もLEXUSが打ち出す『AMAZING IN MOTION』というテーマに向き合い制作されている。そのため、各作品が違う方向性を持つにも関わらず、「出会い」「波及」「昇華」といったように関係性、調和、融合が共通して表現されている。もちろん『LEXUS DESIGN AWARD』におけるメンタリングの形をとったプロトタイプ制作という「融合」にも、それは当てはまる。これは人々の心を揺り動かすことを考え続ける、LEXUSのデザイン哲学の核と言えるだろう。
私たちはデザインが単に目に見える表層の形態を指すものだと考えがちかもしれない。だがデザインを広義に捉えれば、ものごとの本質を掘り下げ、社会的な課題を解決に導くもの作りや表現のことであり、その根底には思想が源流となっている。今回LEXUSはあえて商品を見せないからこそ、そのデザインの根底にある思想を表現することに成功していた。こうした展示は企業の考える理念を伝える場でもあるが、普段見落としがちなデザインの根底にある思想の重要性を伝える今回の展示は、多くの企画が溢れるミラノの街で強く記憶に残るものとなった。
- イベント情報
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- 『LEXUS DESIGN AMAZING 2014 MILAN』
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2014年4月9日(水)~4月13日(日)
会場:イタリア ミラノ チルコロ・フィロロジコ・ミラネーゼ
参加作家:
[AMAZING IN MOTION展示]
ファビオ・ノヴェンブレ
田村奈穂
MITメディアラボ(石井裕教授率いるタンジブル・メディア・グループ)
[LEXUS DESIGN AWARD展示]
セバスチャン・シェラ
ジェイムズ・フォックス
Magenta(ロネン・バヴリ、オニット・アーノン)
マンスール・オラサナ
フォン・ウェン
alDith(アルド・デ・カルロ、ジュディス・カサ・キャセレス)
IAO-architecture(ナン・レイ、シンイー・ワン)
モンリン・ヤン
Skipping Rocks(ロドリゴ・ガルシア・ゴンザレス、ピエール・パスリエ、ギーヨー・クッシュ)
Stuti & Rajeev(ストゥティ・マズンダ、ラジーヴ・ドヴェ)
MAMIKIM & Co.(マミ・キム、ジョー・ハーディ)
松山祥樹
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