ソーシャルメディアの利用者は57.1%に激増
博報堂の生活総合研究所が、1992年から隔年で行っている「生活定点」調査の最新版が発表された。この調査は、まったく同じ設問を同じ条件で調査し、約1,500もの項目で国民生活の意識の変化を観察するもの。今回はデータの公表と共に、チームラボが開発した特設サイトが設けられているので、生活定点の変動をよりスムーズに分析することができる。ここでは、カルチャーやメディアにまつわる部分を抽出してその変化を見定めていきたい。
ソーシャルメディアの利用者を調べると、2006年の8.7%から57.1%に激増している。年代別に見ると、20代は男女ともに20%台から80%台へとずば抜けた数値をたたき出している。情報の摂取方法はこの10年足らずでまったく改まってしまったのだ。
ソーシャルメディアの利用をしていますか?(全体)
オレンジ色:している(57.1%) / 赤色:していない(42.9%)
振るわない「動画コンテンツオンデマンド配信サービス」
かと思えば音楽配信の利用は2006年の16.8%に比べて19.8%と微増しただけ。「音楽配信サービスを主にどの機器で利用していますか?」という質問に「携帯電話・スマートフォン」と答えた人は2012年から10.7%もの大幅上昇。今回から導入された「動画コンテンツオンデマンド配信サービスを利用していますか?」との質問に「利用している」と答えたのはわずか7.4%、性別で比較すると圧倒的に男性が利用しており、これはアイドルやアダルト方面のコンテンツの充実と無関係ではないだろう。
「動画の投稿・共有サービスを利用していますか?」との問いには、前回2012年の46.4%から2%近くポイントを落として44.8%となっている。興味深いのは、男性より高い数値を持つ女性の利用者のうち、20代が前回の74.3%から74.8%へ微増しているのに対し、30代が58.7%から54.9%と減っていること。むしろ40代、50代の数値が高まっているのも面白い傾向。
動画の投稿・共有サービスを利用していますか?(女性)
回答:はい
「お金をかけたいベスト3」に「外出着」が入っていた時代
消費活動について、「今後、何にお金をかけたいと思いますか?」という設問は、あらゆる業界が目をギラつかせる数値だろうが、実に堅実な数値。不動のトップ「貯金」(57.4% / 2004年は54.4%)は年々ポイントが増しており、その代わりに毎回2位に甘んじている「旅行」(46.9% / 2004年は50.9%)への興味が薄らいでいることが分かる。そして、今回から導入された質問で一気に第3位に浮上してきた「老後の暮らしの準備」(41.4%)を合わせてしまうと、とにかく即効性のある消費は減退し、皆が皆、老後の心配ばかりしていることが見えてくる。
かつて1994年には「外出着」がベスト3に入り、「ふだん着」が第7位なんて時代もあったのだが、最新回ではそれぞれ「外出着」(10位)、「ふだん着」(19位)と低迷している。そもそもこの「外出着」と「ふだん着」という区分け自体、これを取っ払うファストファッションの隆盛もあり機能しにくいし、この隆盛が「服にお金をかけたい」という興味を相対的に薄めたとも言えるだろう。
「インターネットにかける時間」を増やしたくない
そんな控えめな消費活動を持つ国民がどういった暮らしを望んでいるかの「暮らし向き」についてのアンケート結果は、様々なメディアをブルブル震え上がらせるだろう。「どのような時間を増やしたいですか?」という、まさに潜在的需要についての問いだ。
「テレビ・新聞などマスコミに接する時間」と答えたのはわずか7.0%、2002年には10.6%あった数値は、見事にすり減ってきている。「テレビ、新聞離れがネットに移ってきた」という有りがちな論調を補填するかと思われた「インターネットにかける時間」はなんとわずか4.9%。これは2010年の8.9%、2012年の7.2%から考えても急落といえる。紙か電子かという議論がいかに受け手を宙ぶらりんにした議論になりがちかが見えてくるし、そんなことよりもうこれ以上情報を摂取したくないという疲弊状態にあるようだ。
どのような時間を増やしたいですか?(全体)
回答:インターネットにかける時間
その証拠を示すかのように、増やしたい時間としてこの10年で上昇しているのは「家事をする時間」と「休息・静養に充てる時間」。それに続くポイント上昇が「睡眠にあてる時間」だというのだから、何だか悲しい。前段落と結びつけてしまえば「老後のために→今この日々を頑張る」が、よりスタンダードになっているわけだ。
「海外で働きたい」のはむしろ中年層
少し角度を変えた質問「今後してみたいことは何ですか?」には様々な選択肢があがっており、明るい答えが出てくるんじゃないかと調べてみたがどう出るか。
そもそも選択肢として奇天烈なのだが「夜ふけまで、盛り場で遊びたい」が前回よりも0.5%ほど数値を上げており、「貯蓄+老後の安定志向」に反していて嬉しい。なかでも20代女性は全体より約15ポイント高い31.1%を出しており、この辺り、盛り場を経営する側の狙いも変わってくるだろう。
今後してみたいことは何ですか?(女性)
回答:夜ふけまで、盛り場で遊びたい
この数年あらゆるメディアで「海外で働こう!」という類いの特集を浴びてきた印象があるが、「海外で働きたい」と答えた人はわずか9.5%、むしろこの15年間で微減し続けているのには驚いた。どの世代も軒並み数値を減らしている中、40代の男女ともに数値を上げている。かつての若者の野心「海外で一旗」は、中年層のセカンドキャリアとして、より慎重に考えられているということなのだろうか。
美術も音楽も読書も減ってしまった
CINRA.NETのニュースのカテゴリー分け「アート / デザイン」「音楽」「映画」「演劇」「本」を、このアンケート調査にぶつけてみよう。「よくするスポーツや趣味は何ですか?」の回答を参照する。
「美術鑑賞」は9.2%、1992年の17.0%からずっと右肩下がりである。女性のほうが高いポイントを稼いできたが、女性に絞った数値は前回が15.2%で今回は11.9%。男性の6.6%とは開きがあるがかなりの下落だ。光明があるとすれば20代女性が前回11.4%から12.6%へと数値を上げていること。
「音楽鑑賞」は26.9%と微減。この10年ほど27~8%を推移してきたが、26%台に突入した。ここでも奮闘したのが20代女性で、前回46.3%から51.2%とジャンプアップ、30代女性が31.4%から29.8%、20代男性が40.8%から33.2%へと激減したのと比べると印象的だ。
「映画鑑賞」は30%台後半で推移しており好調、シネコンが大量にできては老舗の映画館が軒並み閉じたことなどは無論この数値からは分析できないが、親しみやすい娯楽として映画は堅調のようだ。親しみにくさを突きつけるかのように「観劇」の数値は7.7%。しかし前回の6.7%から1%ほど数値を上げている。悲しいことに分析すると、もっとも数値を上げているのは60代女性(前回17.2%から今回21.4%)であり、いわゆる若者向けの小劇場カルチャーはそこまで良い流れにはないものと思われる。
「読書」の28.3%(前回32.5%)も寂しい。男女ともに20代の読書離れが顕著で、中高年層を見ると、女性が数値を維持しているのに対し、男性が激減しているのが象徴的。週刊誌が軒並み苦しんでいる実態もここから見えてくる。
約42,000,000通りのグラフを浴びよ!
しばし恣意的に選び抜いて「生活動向」を探ってみたが、この特設サイトでは、約42,000,000通りの組み合わせから、変動傾向が似ている「似ているかもグラフ、紹介します」コーナーが設けられており、これが遊び心に飛んでいる。
例えば「夜ふけまで、盛り場で遊びたい(20代女性)」の傾向は、「魚の煮物が好き(20代女性)」と同じような変遷を持つと出た。数値の移り変わりの傾向が似ているだけで、数値が同じわけでもないし、「夜ふけまで盛り場で遊びたい20代女性=魚の煮物好き」とイコールになるわけでもないのだが、ここに新たな座標軸を設けて関連性を見いだすことができれば、新しいビジネスが生まれるかもしれない(ひとまずどこかのクラブでサバの味噌煮を出してほしい)。
似てるかもグラフ、紹介します
オレンジ線(No.461)魚の煮物が好きな女性20代
グリーン線(No.284)夜ふけまで、盛り場で遊びたい女性20代
内閣支持率のように、ことあるごとに数値を計測して世の中が数値に揺さぶられやすくなるシステムを作るべきではないが、こうして超大量に投じられた情報から傾向を抽出する作業は、その個人の嗜好をぶつけていける以上、刺激的だ。約1,500の項目、約42,000,000通りのグラフを存分に浴びてほしい。
- プロフィール
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- 武田砂鉄 (たけだ さてつ)
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1982年生。ライター/編集。2014年9月、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」で「コンプレックス文化論」、「cakes」で芸能人評「ワダアキ考 ~テレビの中のわだかまり~」、「日経ビジネス」で「ほんとはテレビ見てるくせに」を連載。雑誌「beatleg」「TRASH-UP!!」でも連載を持ち、「STRANGE DAYS」など音楽雑誌にも寄稿。「Yahoo!個人」「ハフィントン・ポスト」では時事コラムを執筆中。インタヴュー、書籍構成なども手がける。
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