20万件以上がヒット、Twitterに書き込まれている「死にたい」という言葉
鬱蒼とした樹海に設置された、何十台ものプリンター。Twitterで「死にたい」と検索すると、20万件以上のヒット。次々とプリントアウトされていく、「死にたい」を含むツイート。無数の「死にたい」がひらひらと舞い落ちる中、最後に現れたものとは……?
映像の仕掛人は、クリエイティブ集団「SIX」の本山敬一
10月に発表されたamazarashiのニューアルバム『夕日信仰ヒガシズム』の中でも、最も重苦しく、シリアスなトーンの“穴を掘っている”。この楽曲のミュージックビデオを担当したのは、「Google Chrome初音ミク」のCMや「Google Mapsポケモンチャレンジ」のプロジェクトなどを手掛ける、クリエイティブ集団「SIX」の本山敬一。長年amazarashiのファンで、一緒に仕事をするようになる前からライブに足を運んでいたという本山は、amazarashiの魅力を次のように語る。
「多くの日本の歌詞は、『人生は素晴らしい』が基本にあって、『だから今は辛くても頑張れ』というメッセージになりがちです。amazarashiは、『人生は虚しく辛いもの』が基本にあって、『だけど、だからこそ、逆切れして頑張れ』というメッセージなのがいい。非リア充にとっては、こういう人生の捉え方の方が、よりリアルに感じると思います。応援しているような曲でも、基本的にこの思想が背景にあるので、単純な応援ソングにはならない。そこがいいんですよね」
amazarashiは、本人たちの顔を一切出さずに活動しているため、ライブではステージの前に大きな半透明のスクリーンが張られ、様々な映像が投射されるバックでメンバーたちが演奏をする。こういった特殊な演出の中でも、ライブの中心にあるのはあくまでもボーカル・秋田ひろむの声だと本山は話す。
「声に、常に逼迫感と切実さがあってグッときます。秋田さんのリアルな人生経験から得たことが根っこにあると思うので、自分の言葉で、自分の考えをきっちり歌っている誠実さがある。ライブでスクリーンごしに歌う秋田さんは、半ばバーチャルな存在であるにも関わらず、唐突にむき出しの身体性を感じる叫びにも似た歌声が耳に届くので、ギャップで感動が倍増するんです」
テーマは、「インターネット上の絶望を集めて希望を作る」
今回のミュージックビデオの制作は、選曲の段階から本山に決定権が与えられていた。そして、彼の考えるamazarashiの二極、「人生は辛い」と「でも頑張ろう」を考えたときに、すでに制作されていたミュージックビデオ(“もう一度” “スターライト”)が「でも頑張ろう」側の曲だったので、バンドの本質を伝えるために、もう一方の側面に振り切った“穴を掘っている”を選んだのだという。
「(“穴を掘っている”は)基本的に『人生は最悪だ。さっさと諦めた方がいい。俺はとっくに諦めた』ということを歌っています。でも、最後の最後で『世の中には諦めの悪い人間(=立ち向かっている人間)もいるんだよ』と歌うことで、絶望の最後にほのかな希望を感じさせる。絶望99%、希望1%の曲だと思いました」
「絶望99%、希望1%」という印象と、「インターネットを可視化する」という本山自身が追及しているテーマから、「インターネットの絶望を集めて希望を作る」というミュージックビデオの方向性が決定。個人の心情が吐露されやすいTwitter上の「死にたい」という想いを、紙に出力することで可視化したわけだが、ツイートをそのまま出力しているわけではない。
「音楽より言葉に集中させては本末転倒なので、Twitterの文字を形態素解析して、アルゴリズムでバラバラにレイアウトして、文章というよりは、単語を並べて感情だけが浮かび上がるようにしました。ちなみに、システムの名前は『Lonely Crowd(孤独な群集)』。デイヴィッド・リースマン(アメリカの社会学者)からの引用です。場所を樹海にしたのは、偽悪的だとしても、文脈的なわかりやすさとショッキングさを優先したかったから。自然である森の中に、無機的なプリンター群という異物が唐突にあらわれることで、日常の外側の何だかよくわからない物、この場合はインターネット上の人々の暗い情念を、1か所に集めようとしました」
秋田ひろむの出身地が恐山で知られる青森県のむつ市であることを本山が知っていたかどうかはわからないが(まあ、おそらくは知っていただろうが)、陰鬱な樹海のビジュアルは、秋田の中にある原風景ともリンクするものだと言っていいかもしれない。そして、そんな中でまるで意志を持っているかのようにプリントアウトされていく用紙は、彷徨える魂のように、青白く光って見える。
あなたは、映像に隠されているトリックを見破れるか?
このミュージックビデオを制作するにあたって、「『死にたい』のツイートが出力され続けることで、見る人の胸をザワザワさせたかった」と話す本山。映像のアイデアとして、漫画『SOIL』や映画『セブンス・コンチネント』、そして身近にあるネットのサイトがヒントになったという。
「イメージしてたのは、ミヒャエル・ハネケ(オーストリアの映画監督)の『セブンス・コンチネント』という映画のワンシーン。一家心中する家族が、自分たちの全財産の紙幣を破いては便器に流すショッキングなシーンがあります。ミニマルな反復表現ですが、何か見てはいけないものを見てしまったような違和感が残る、そんなザワつきを出したかったんです。そして、日本のミュージックビデオのほとんどは、予算の都合もあって、シーンが限定的で映像的には見ていて飽きる。だから、6分という長い楽曲で飽きないものを作ることも課題でした。考え方の根底にあったのは、スレッド。「2ちゃんねるまとめ」や「Yahoo!知恵袋」のコメントの流れは、一つひとつはたわいもないのについつい読んでしまう力がある。『死にたい』というテーマのスレッドを読み進めて行くような構成にすれば、飽きずに見れると考えました」
曲の最後に現れる「希望」のメッセージを受け取ったなら、そして、このミュージックビデオに隠されたトリックを見破り、もうひとつのメッセージを受け取ったなら(ヒントは、ずばり「アカウント名」だ)、今度はぜひamazarashiのライブに足を運び、「唐突にむき出しの身体性を感じる叫びにも似た歌声」を実際に体感してみてほしい。
最後に、本山自身がミュージックビデオに込めたメッセージを紹介して、本稿を締めくくろう。
「人生には何もいいことがない。だけど、『死にたいと思っているのは君だけじゃない。だから頑張ろう』『死にたいと思っているのは君だけじゃない。だから甘ったれるな』この2つ両方が、言いたいことです。見る人が感じた解釈が、正しい方ってことで。ちなみに、私の口癖は、『何もいいことないなぁ』です。どんな打ち合わせ時にも言います」
- 作品情報
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- amazarashi
『穴を掘っている』
- amazarashi
- イベント情報
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- amazarashi
『amazarashi LIVE TOUR 2014「夕日信仰ヒガシズム」』追加公演 -
2014年12月24日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 渋谷公会堂
料金:5,000円
チケット一般発売日:2014年11月29日(土)
- amazarashi
- プロフィール
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- amazarashi (あまざらし)
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秋田ひろむを中心としたバンド。2010年のデビュー以来、一切本人のメディア露出のないながらも、絶望の中から希望を見出すズバ抜けて強烈な詩世界が口コミになりまたたく間にリリースされた6枚のアルバム全てがロングセールスを続けている。ライブではステージの前にスクリーンが貼られタイポグラフィーなどを使用した映像が投影されて行われるスタイルで、独自の世界観を演出する。2014年10月29日に、2ndアルバム『夕日信仰ヒガシズム』を発売。
- 本山敬一 (もとやま けいいち)
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1977年倉敷生まれ。クリエイティブディレクター。SIX所属。"A Fusion of Technology with Humanity"をテーマに、メディアを問わず人の心に残る体験をつくるのが課題。代表作にGoogle Maps ポケモンチャレンジ、PS4日本ローンチ、Google Chrome 初音ミクなど。
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