the pillowsはなぜ世代を超えて愛される? 近道を選ばなかった25年の説得力

邦楽ギターロックバンド3世代の共演

今年9月、結成25年を迎えたthe pillows。そのアニバーサリーライブとなった10月4日のTOKYO DOME CITY HALL公演は、実に感動的なものだった。約1年の活動休止期間を経て再始動、その後ようやく完成させた約3年ぶりのニューアルバム『ムーンダスト』のリリースを間近に控え、自らの25年の足跡をファンと振り返りながら祝福してみせたthe pillows。その夜、フロントマンである山中さわお(Vo,Gt)は、ファンに向けて力強く宣言した。「遠回りしたんじゃない。俺たちは近道をしなかっただけだ」と。

そんなthe pillowsが、『ムーンダスト』を引っ提げた久々の全国ツアーを前に、あるイベントに出演した。InterFMの人気番組『Ready Steady George!!』(DJ:ジョージ・ウィリアムズ、シャウラ)が初めて企画したライブイベントだ。出演バンドは、the pillows、MONOBRIGHT、READ ALOUDの3組。ベテラン、中堅、若手の3世代をラインナップしたこのイベントの会場となったのは、渋谷のライブハウス、Milkyway。収容人数約3000名のTOKYO DOME CITY HALLの約10分の1というこの小さなライブハウスで、26年目に突入したthe pillowsは、殺到した応募者の中から選ばれた観客と世代の異なるロックバンドの前で、果たしてどんなライブを披露してみせるのか。11月10日、その会場に足を運んでみた。

15年前の曲が、今も若者たちにシンガロングされている

小さなライブハウスのステージに、まずはジョージ、シャウラの両MCが登場。本イベントの趣旨や出演者紹介などの口上を述べた後、トップバッターとして登場したのは、InterFMの番組『Good To Go!』でDJも務めているクワタユウキ(Vo,Gt)率いる新鋭ロックバンド、READ ALOUDだ。強固なアンサンブルと変幻自在なリズム、そして「艶」を感じさせるクワタユウキの歌。このメンバーになってからは、まだ2年半というフレッシュな彼らに続いて登場したのは、今年結成8年を迎えたMONOBRIGHTだ。揃いの白ポロシャツにメガネという出で立ちで、切れ味鋭いダンサブルなギターロックを響かせる彼ら。持ち前の滑稽さが魅力のフロントマン、桃野陽介(Vo,Gt)のMCが会場の空気を和らげる。そして、ジョージ&シャウラによる幕間のMCを経た後、いよいよthe pillowsがステージに登場する。

READ ALOUD
READ ALOUD

MONOBRIGHT
MONOBRIGHT

1曲目の“I think I can”から観客をロックするthe pillows。初めてthe pillowsのライブを観る人々もいる中、冗談混じりのMCで観客の緊張を解きほぐし、中盤“都会のアリス”を披露した頃には、もはや完全に彼らのペースとなっていた。そして、“Funny Bunny”の演奏中、マイクを向けられ、<キミの夢が叶うのは誰かのおかげじゃないぜ / 風の強い日を選んで走ってきた>というサビのフレーズをいっせいにシンガロングする観客たち。思えばこの“Funny Bunny”という曲は、とても不思議な経緯を辿った1曲だ。1999年に発表したアルバム『HAPPY BIVOUAC』の収録曲としてファンの間でも人気の高かったこの曲は、08年に漫画『SKET DANCE』の中で歌詞が丸ごとフィーチャーされたことによって、これまでthe pillowsの存在を知らなかった層にも浸透。その歌詞が、時代を超えて、さらに多くの若者たちのハートを射抜くことになったのだ。

険しい道を愚直に歩み続けた先で手にした輝き

思い返せば、そもそもthe pillowsというバンド自体、不思議な経緯を辿ったバンドだと言える。早い段階でブレイクし、着実にキャリアを重ねて来た他のベテランバンドたちとは、その経緯が異なるのだ。華々しくデビューするも芳しい結果を残せず、当時のリーダー上田ケンジの脱退という形で終わった第1期(1989年~93年)。山中がリーダーとなり、バンドの音楽性をさらに押し広げようと試行錯誤するも、セールスに結び付かなかった第2期(1994年~96年)。そして、文字通り「背水の陣」で臨んだ起死回生の一撃だった“ストレンジ カメレオン”からスタートし、現在へと至る第3期(1996年~)。その25年の歴史は、必ずしも安穏としたものではなかったのだ。

彼らが「知る人ぞ知るバンド」から、現在のように表立ってリスペクトされる存在となったのは、果たしていつからだったか。そのひとつのきっかけとなったのは、結成15周年を記念して制作されたトリビュート盤『SYNCHRONIZED ROCKERS』(2004年)だろう。Mr.Children、ELLEGARDEN、ストレイテナー、BUMP OF CHICKEN、そしてGLAYのJIROなどが参加した本作でthe pillowsの存在を知ったという人も少なからずいるように思う。そう、トリビュートと言えば、今年の初めには結成25周年企画のひとつとして、2枚目のトリビュート盤『ROCK AND SYMPATHY』がリリースされた。9mm Parabellum BulletやBase Ball Bear、髭など、前回よりもさらに若い世代のバンドたちが続々と参加した本作で、the pillowsは依然として、その影響力の大きさと「愛されぶり」を世に示したのだ。

the pillows
the pillows

再びライブの話に戻ろう。番組MCであるジョージとは、デビュー間もない頃からの――つまり20年来の付き合いだとMCで語った山中。それを受けて披露されたのは、25周年の記念日にリリースされた最新シングル“About A Rock'n’Roll Band”だった。自らの初期衝動に立ち返るように、シンプルなロックンロールサウンドを軽やかに響かせるこの曲。<今夜もロックンロールの引力は万能で / 道なき道を切り開いて行くんだ>という歌詞のごとく、そのサウンドが観客一人ひとりの心を沸き立たせる。そこでふと思った。the pillowsの音楽とは、特定の時代や世代、またはシーンといったものに寄り添うことなく、一人ひとりの心の奥底にダイレクトに飛び込んでくる音であり言葉なのだと。

かつてMr.Childrenがカバーした“ストレンジ カメレオン”(1996年)がそうだったように、BUMP OF CHIKENがカバーした“ハイブリッド レインボウ”(1997年)がそうだったように、ある種の「青さ」と「切実さ」が入り混じった渾身の楽曲たち。それらの楽曲がいまだ多くの若者たち(特にバンドマン)を惹きつけてやまないのは、そこに刻まれたメッセージが、シーンや流行といった表層を超えた「個人」の中で響き続けているからだろう。冒頭に挙げた山中の言葉ではないけれど、決して近道をすることなく、愚直なまでに本質を追い続けて来たthe pillowsだからこその説得力。しかし、そんな彼らは今、ヒリヒリとした刹那を鳴らすよりもむしろ、どこか柔らかなまなざしと、大らかな心を持って音楽を鳴らしているように思えるのだ。

the pillows

3組の「決して終わらない物語」は続いていく

全11曲を終えた後、アンコールで再びステージに登場した彼らが、静かに鳴らし始めた“ハイブリッド レインボウ”。それは、かつての懊悩や苦しみを湛えた「憂いの歌」ではなく、道無き道を歩み続けた者たちの「凱歌」のような力強さで鳴り響いていた。“I think I can”から始まって、<I can feel that hybrid rainbow>とエモーショナルに歌い上げる“ハイブリッド レインボウ”で終わったこの日のライブ。“Funny Bunny”に心を揺らし、拳を掲げた者たちを、柔らかなまなざしと、大らかな心で鼓舞するような音楽――その随所に散りばめられた、「俺たちにはできる」というメッセージ。

それは恐らく、この日の共演者たち――the pillowsのアルバム『MY FOOT』(2006年)をリアルタイムで聴いて以来のファンであり憧れのバンドであると、この日のMCで語っていたREAD ALOUDのクワタユウキ、山中と同じく北海道出身のバンドであり同郷の大先輩との共演に恐縮しまくっていたMONOBRIGHTの面々にも、伝わったことだろう。信念を貫くことの大事さと、ロックの初期衝動を忘れないこと。若手、中堅、ベテラン――小さな「ライブハウス」という、バンドの原点とも言える「現場」で、とても重要な「何か」が伝播してゆく様を眺めているような、そんな貴重なライブイベントだった。

『Ready Steady George!! presents InterFM FREE LIVE!』の会場風景

イベント情報
『Ready Steady George!! presents InterFM FREE LIVE!』

2014年11月10日(月)
会場:東京都 渋谷 MilkyWay
出演:
READ ALOUD
MONOBRIGHT
the pillows

『Ready Steady George!!』

毎週月~金曜15:00からInterFMにて放送
DJ:
ジョージ・ウィリアムズ
シャウラ

『InterFM FREE LIVE!』ライブの模様を番組内で一部放送

2014年12月12日(金)15:00からInterFMにて放送予定



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