性の魅力にハマっていく14歳たちを描いた、ドイツの劇作家、フランク・ヴェデキント
ウィリアム・シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』は、イタリア・ベローナを舞台に、親の反対を押し切って熱烈な恋に落ちてゆく二人が描かれた不朽の名作だ。若さゆえの衝動、無知ゆえの大胆さ、そして親を中心とする社会との対立が描かれたこの作品は、450年を経た現代でも人々の心を動かし続けている。だが、じつはジュリエットの年齢が、たったの14歳であることは、あまり知られていないだろう。二人は、思春期の入り口に立ったばかりで運命的な出会いを果たし、死んでいった。
演劇の世界には、『ロミオとジュリエット』と同じく、14歳の少年少女の姿を描いた名作がいくつか存在する。その1つが、19世紀末~20世紀初頭にかけてドイツで活躍した劇作家、フランク・ヴェデキントの『春のめざめ』だ。しかし、シェイクスピアがピュアすぎる二人の恋愛を描いたのとは対照的に、ヴェデキントが描くのは性の目覚めを通じて、自分でも抑えきれない欲望に葛藤する少年少女たち。少年モーリッツは、毎晩のように苛まれる淫らな夢に眠れなくなり、無垢な少女ヴェントラは「どうやって、赤ちゃんができるの?」と、親に質問をぶつける。少年たちに自分の下半身を見せる女イルゼや、ゲーテの名作『ファウスト』によって無神論に目覚め、人間の欲望を肯定してゆくメルヒオールなど、この作品に登場する14歳たちは、性に直面し、現実とその手放し難い魅力との狭間の中で自分を見出していく。
サディズム、マゾヒズム、自慰、同性愛などを描いた同作は、当然ながら上演禁止の憂き目に
不安な感情を描き出すかのようなドイツ表現主義や不条理演劇の先駆者として、ベルトルト・ブレヒトやゲオルク・ビューヒナーなどに影響を及ぼしたヴェデキントが描く恋愛の物語は、必ずしも「普通」の姿をしていない。14歳たちは、葛藤の末にサディズム、マゾヒズム、自慰、同性愛など、当時の倫理観ではとうてい受け入れられない欲望を抱えてしまう。同作品が書かれたのは、現代とは宗教観、倫理感覚がまったく異なる1890年。そのキワドい描写が問題視され、この作品はドイツで上演禁止の憂き目にあってしまう。演劇作品として初演されるまでには、15年もの歳月を要したのだった。
しかし時代が大きく変わり、2000年代になると、この作品はブロードウェイでロックミュージカルとして上演され『トニー賞』を受賞。日本でも、劇団四季によって上演されるなど、ヴェデキント再評価の動きが加速。そして今回、装いも新たに朗読劇として天王洲・銀河劇場にて上演されることが決定したのだ。同作品の演出を務めるのは、文学座所属の演出家、高橋正徳。相葉裕樹、栗原類を始めとする9人の若いキャストとともに、思春期の性を描いていく。
若い俳優たちが演じる悶々とした「闇」の部分。原作を翻訳から作り直したことで、登場人物たちの人間関係、多様な価値観がよりクリアに
本番1週間前に迫った稽古場に足を踏み入れると、まさに佳境を迎えた現場らしい集中した雰囲気に満ちている。真剣な眼差しで会話のタイミングや、感情の流れなど、演出家からの指示に耳を傾ける俳優たち。朗読劇といえども、複雑な動きが組み込まれており、決して一筋縄ではいかない舞台となっている。
朗読劇『春のめざめ』稽古場風景(左から栗原類、中島歩、木戸邑弥)
今回の作品創作にあたっては、原作を翻訳から作り直し、さらに上演台本を鐘下辰男(演劇企画集団「THE・ガジラ」)に依頼した高橋。原作のエッセンスはそのままに、宗教観や暗喩に満ちた台詞など、現代の日本人にはわかりづらい部分を整理しており、より登場人物たちの人間関係がクリアに浮かび上がってくる。
「『春のめざめ』は、性の問題を通じて、両親との関係や、友人、恋人、クラスメイトなど、さまざまな『他者』に気付き、その関わり方を学んでいく作品です。その中で、登場人物のそれぞれによって多様な価値観が語られていくので、きっと観客の方が舞台から得る感想はバラバラになるでしょうね」
と、高橋は現代的な解釈で、新たな『春のめざめ』を生み出すことを目指している。そして、その舞台をより魅力的なものにするのが、若い俳優たちの輝きと「闇」の部分だ。
「キャラクターたちが、14歳という若さを武器にキラキラと輝いているように、9人の俳優が輝く舞台にしたいと思っています。けれど、少年少女たちは、キラキラした光の面だけではなく闇の部分も抱えている。俳優たちの闇の部分を含めたさまざまな顔を見せることで、ファンの人々も意外な一面にドキッとしたり、ハッとしたりできる作品を目指しています」
朗読劇『春のめざめ』稽古場風景(左から中島歩、木戸邑弥、栗原類、武田航平、相葉裕樹)
ロミオとジュリエットのように、直情的な純愛に突き進む14歳の日々を送った人だけでなく、悶々とした「闇」の部分を抱えながら思春期を過ごした人にこそ、この作品は何かしらの意味を持つのではないか。キラキラとドロドロを一緒に抱えた14歳を演じる俳優たちの姿は、とても人間的な魅力にあふれていた。
- イベント情報
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- 銀河劇場ニュージェネレーションシリーズ
朗読劇『春のめざめ』 -
2014年12月6日(土)、12月7日(日)全3公演
会場:東京都 天王洲 銀河劇場
作:フランク・ヴェデキント
演出・脚色:高橋正徳
翻訳:長田紫乃
上演台本:鐘下辰男
出演:
相葉裕樹
中島歩
笹本玲奈
武田航平
木戸邑弥
栗原類
横田美紀
ほか
- 銀河劇場ニュージェネレーションシリーズ
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- 朗読劇『僕とあいつの関ヶ原』
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2014年12月14日(日)、12月15日(月)全3公演
会場:東京都 天王洲 銀河劇場
作:吉田恵里香
演出:中屋敷法仁
出演:
木戸邑弥
武田航平
玉城裕規
三上真史(D-BOYS)
宮下雄也(RUN&GUN)
料金:各公演5,500円 2作品セット券11,000円
※セット券は1階1~3列目の席保証、オリジナルフォトカード付
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- 『春のめざめ』アフタートーク&出演者と撮影が出来る抽選会
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2014年12月6日(土)16:00の回終演後
出演:
高橋正徳
相葉裕樹
中島歩
笹本玲奈
武田航平
木戸邑弥
栗原類
横田美紀
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- 『僕とあいつの関ヶ原』アフタートーク&出演者と撮影が出来る抽選会
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2014年12月15日(月)15:30の回終演後
出演:
中屋敷法仁
高橋正徳
木戸邑弥
武田航平
玉城裕規
三上真史
宮下雄也
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