THE NOVEMBERSが提案する、音楽とリスナーとの新たな関係性
THE NOVEMBERSの小林祐介にとって、SONIC YOUTHやBOREDOMSといった大好きな音楽家たちがライブを行ってきた新木場STUDIO COASTは、憧れの会場だったという。過去に『UKFC』や『JAPAN JAM』といったイベントでステージに立ったことはあるものの、この日のワンマンライブは「自分が、自分の憧れのステージに自力で立つ」という初めてのチャレンジであり、「この日を特別に思っているということ、ワクワクしているということを、あなたに伝えたいです」と、ブログには記されている。
2013年10月に自主レーベル「MERZ」を設立して以降のTHE NOVEMBERSは、音楽とリスナーとの新たな関係性を常に模索し、実践し、問いかけ続けている。著書『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』などで知られるトライバルメディアハウスの高野修平がコミュニケーションデザイナーおよびクリエイティブディレクターとして参加し、今年5月に発表されたシングル『今日も生きたね』は、大切な人と「共有」ができるように同内容のCDが2枚入った「シェアCD」仕様を採用。また、10月に発表されたシングル『僕らはなんだったんだろう』は、iTunesで購入できるだけでなく、リスナーがウェブ上で自由にジャケットをデザインし、Twitterでシェアすることによって、mp3音源をフリーダウンロードできるという方法も用意することで、作品に対する「対価」が「お金」だけではなく「労力」であってもいいという提案が行われた。利便性を追求することによって削ぎ落とされがちな「体験」の重要性を、デジタルとアナログを掛け合わせながら改めて提示し続けている。
ライブ会場に仕掛けられた、「体験」を増幅させるコンテンツ
こうした試みはこの日のライブ会場でもさまざまな形で実施された。まず会場に到着すると、STUDIO COASTの名物であり、小林の憧れの理由のひとつでもあるという看板の下に、再生する端末や場所によって映像の色が変わる仕組みの“Romancé”のミュージックビデオに出てくる「ゆらめき」が映された大型のビジョンがあり、それを背景に写真撮影ができるというフォトブースが設けられていた。
さらには、音楽情報キュレーションアプリ「KOLA」(株式会社リクルートホールディングスが提供)をダウンロードしておくと、場内に設置された「アライドビーコン」(アライドアーキテクツ株式会社がリリースした、スマートフォンの位置情報を特定し、ロケーションに合わせて必要な情報を配信する仕組み)に自動的に反応してプッシュ通知が届き、引き替え画像を入手すると、特設ブースで「MERZカード」と呼ばれるメンバーの名前が入ったカードを受け取ることができるという仕掛けも。これもやはり、ファンにとってライブがただアーティストの演奏を見るだけのものではなく、もっと多様な「体験」の場であることを示していたように思う。
ノイズまみれの美しきパラレルワールドをステージで再現
かつて「混沌こそ未来」という名言を残しているのはSONIC YOUTHのサーストン・ムーアだが、THE NOVEMBERSの最新作『Rhapsody in beauty』(2014年)は、「混沌こそ美」と言わんばかりの、強烈にノイジーで、アヴァンギャルドな衝撃作だった。それはまさに、若き日のSONIC YOUTHのようであり、前作『zeitgeist』(2013年)にプロデュースで参加していた青木ロビン率いるdowny、もしくは、今年の夏にツアーを共にしたBORISのようでもあり、とにかく音そのものの説得力が尋常ではない。それでいて、慈しみに溢れた優しいバラードが、ノイジーな曲とまったく同じ強度で鳴らされているということが、『Rhapsody in beauty』の何よりの素晴らしさであり、その対比がアルバムのテーマである「パラレルワールド」を象徴していたと言ってもいいだろう。おそらくは、ノイズの中に静けさを見出す人もいれば、バラードの中に狂気を見出した人もいたはず。そんな多様な「美」がそれぞれの形で存在し、共生する『Rhapsody in beauty』の世界。この日のライブでは、それが見事にステージ上で再現された。
オープニングは、アルバムでも1曲目を飾っている“救世なき巣”。小林が一人でステージに現れ、延々と轟音を垂れ流すその様は、いつかの『フジロック』でのMy Bloody Valentineをも連想させる、強烈なインパクトを伴うもの。ライブ前半はMCもほとんどないまま、ひたすら曲を演奏し、ノイズがまき散らされ、オーディエンスは身動きひとつとれないような、緊張感のある時間が流れていく。転換点となったのは、デカダンな雰囲気のバラード“僕らはなんだったんだろう”で、言わば、ここがパラレルワールドの境目といったところ。この後はさらにギアを上げてアップテンポのナンバーを連発し、“鉄の夢”ではサイケデリックな映像が映し出されたり、“Xeno”ではメンバーがホワイトアウトしていくような神々しいバックライトに照らされたりと、効果的な演出も加わって、オーディエンスも一気にヒートアップ。ラストは巨大なミラーボールが輝く中、“Romancé”で本編が締め括られた。
アンコールでは、この日で『Rhapsody in beauty』にまつわる活動がすべて終了するが、それは同時に新たな始まりであること、さらに来年は結成10周年であることが語られ、デビュー作『THE NOVEMBERS』から“バースデイ”を演奏。さらには、THE NOVEMBERS流のアンセム“今日も生きたね”が披露されて、美しい一夜は終演を迎えた。圧倒的な音塊と振り切れたテンションのライブながら、基本大人し目なオーディエンスからはじんわりとした温かみのある拍手が送られ、THE NOVEMBERSのライブならではの特別な磁場が感じられた。
小林祐介(THE NOVEMBERS) 撮影:タイコウクニヨシ
終演後に掲げたメッセージは「THE NOVEMBERS and YOU」
さて、実はこの日のお楽しみはまだまだ残されていた。まずは雑誌広告の新たな試みとして『MUSICA』とコラボレーションして実施された、「After Stage Pass」企画。これは、雑誌の購入者に「After Stage Pass」がプレゼントされ、それを持っているオーディエンスは終演後のステージに上ることができるというもの。「どうもありがとう、これがあなたが僕たちに見せてくれた景色です」という感謝の気持ちが込められたこの企画には、ざっと見て300人ほどのファンが参加。スタンド席には「THE NOVEMBERS and YOU」と書かれた垂れ幕が張られ、多くの人がステージからの景色を写真に収めていた。
そして、帰りがけに会場外の看板に目を向けると、そこには「THANK YOU」の文字。
開演前のSTUDIO COAST看板 撮影:タイコウクニヨシ
さらに、終演から1時間ほどした後には、「KOLA」からこの日のセットリストが届けられた。「アライドビーコン」の活用事例がまだ少ない中で、ライブ前とライブ後で異なるコンテンツが自動的にユーザーのスマートフォンに届くという仕組みは、テクノロジーを使ってライブの「体験」を増幅させる新たな手法だったと言えるだろう。「家に帰るまでが遠足です」じゃないけど、ここまでがこの日のライブであり、こうしたさまざまな試みの背景には、「これからもあなたとTHE NOVEMBERSの関係が続きますように」という願いが込められていたように思う。
THE NOVEMBERSが『THE NOVEMBERS』を発表した2007年は、RADIOHEADが『IN RAINBOWS』を、リスナーが価格を自由に決定するという形で発表した年であり、音楽とリスナーの関係性を問い直す、まさに始まりの年だったと言っていいだろう。そして、THE NOVEMBERSはRADIOHEADのウェブサイトに記された「It's up to you(あなた次第)」という言葉を今に受け継ぎ、音楽という枠を超え、能動的に生きることの美しさを体現し続けている。未来は僕らの手の中。ロマンスは、あなたが思うまま生きたその先に。
- イベント情報
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- 『THE NOVEMBERS TOUR - Romancé -』
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2014年11月28日(金)
会場:東京都 新木場 STUDIO COAST
- リリース情報
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- 『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング 戦略PRとソーシャルメディアでムーヴメントを生み出す新しい方法』
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2014年4月18日(金)発売
著者:高野修平
価格:1,944円(税込)
発行:リットーミュージック
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- THE NOVEMBERS
『Rhapsody in beauty』(CD) -
2014年10月15日(水)発売
価格:2,500円(税込)
MERZ / XQMP-10011. 救世なき巣
2. Sturm und Drang
3. Xeno
4. Blood Music.1985
5. tu m'(Parallel Ver,)
6. Rhapsody in beauty
7. 236745981
8. dumb
9. Romancé
10. 僕らはなんだったんだろう
- THE NOVEMBERS
- プロフィール
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- THE NOVEMBERS (ざ のーべんばーず)
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2005年に結成した日本のオルタナティブロックバンド。2007年にUK PROJECTから1st EP『THE NOVEMBERS』をリリース。国内の大規模なロックフェスティバルでは『FUJI ROCK FESTIVAL』『ARABAKI ROCKFEST.』『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』『COUNTDOWN JAPAN』などに出演。2012年からはiTunes storeで世界62か国への楽曲配信を開始。海外バンドの来日公演のサポートも増えTELEVISION、NO AGE、BORIS、 BO NINGEN、Wild Nothing、Thee Oh Sees、ULTERIOR等とも共演。そして、台湾の『MEGAPORT FESTIVAL』にも出演し、国内だけでなく海外からの注目も高まる。2013年9月末までにUK PROJECTから計8枚の音源をリリース。2013年10月からは自主レーベル「MERZ」を立ち上げ、2014年10月15日に独立後早くも3作目となるフルアルバム『Rhapsody in beauty』をリリース。
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- 高野修平(たかの しゅうへい)
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デジタルマーケティング会社トライバルメディアハウスにてシニアプランナー / サブマネージャーとして所属。音楽業界ではレーベル、事務所、放送局、音響メーカーなどを支援。音楽業界以外にも様々な業種業態のコミュニケーションデザインを行っている。日本で初のソーシャルメディアと音楽ビジネスを掛けあわせた著書『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネス新時代-』、『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略』を執筆。メディア出演、講演、寄稿など多数。2014年4月18日に3冊目となる『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング-戦略PRとソーシャルメディアでムーヴメントを生み出す新しい方法-』を出版。また、THE NOVEMBERS、蟲ふるう夜に、Aureoleのマーケティングコミュニケーション、クリエイティブディレクターも担当している。M-ON番組審議会有識者委員。
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