映画『LIFE!』の主題歌で、ARCADE FIREとも比較されたスウェーデンのシンガーソングライター
シンプルながら美しいサウンドで、優しく、美しく、メランコリックな世界をつむぐスウェーデンのシンガーソングライター、ホセ・ゴンザレスが、前作『In Our Nature』以来、実に7年半ぶりとなる3作目のアルバム『Vestiges & Claws』を完成させた。
ここ最近は、自身がフロントマンを務めるバンド、Junipのアルバム制作や、日本でも大ヒットしたベン・スティラー監督&主演の映画『LIFE!』のサントラに参加するなど、これまでとは違った方面での活動を展開していたホセ。
特に、映画『LIFE!』の主題歌となった“Step Out”は、ライアン・アダムス(現代のアメリカンロックを代表するシンガーソングライター)が書き下ろし、それをホセが歌うという異色のコラボレーション。凡庸で空想癖のある主人公が未知なる土地への旅を経て変化していくさまを描いた、生命力に満ちた『LIFE!』のストーリーにふさわしい一曲だ。これまでの内省的で繊細なイメージとは一転する、華やかさを湛えた楽曲は広く受け入れられ、Bon Iver(2006年にジャスティン・バーノンを中心に結成されたアメリカのフォークロックバンド)やARCADE FIRE(2003年にカナダのモントリオールで結成された、女性メンバーを含む6人を中心とするバンドで、『第53回グラミー賞』受賞)といった世界的に活躍する同時代のミュージシャンと比較されるなど、さらに多くの人にその存在を知らしめることになった。
繊細でメランコリックな「ギターと歌」のミニマルな手法が、徐々に変化を遂げた理由
そして、今回のソロ作である。映画『LIFE!』をめぐる狂騒から離れ、スウェーデンのイェーテボリにある自宅に戻ったホセは、再び一人でクラシックギターを爪弾きながら、さらなる思索の旅に出かけていく。「作り始めた時点では、これまでの2作と同じように『ギターと歌』というミニマルなスタイルを続けようと思っていた。だけど、実際にレコーディングを始めてみたら、すぐにわかったんだ。ギターを重ねたり、ビートを刻むようなパーカッションを加えたり、あるいはコーラスを加えたほうが、今回はより楽曲が良くなるってことにね」。
繊細なギターの爪弾きが生み出す静謐なグルーヴ感、そして柔らかに響くホセのボーカル。それらが醸し出す、チルアウトフォーク然とした美しさは健在だ。しかし本作は、どこかこれまでとは違う「温かみ」や「解放感」を湛えているように感じられる。それは彼が言うように、音源としての美しさにこだわっているところに拠るものなのだろう。だが、それ以上に関係していると思われるのは、本作で描こうとしているテーマそのものにあるように思えるのだ。
そのタイトル通り、「人間の本性」を解き明かそうとした前作『In Our Nature』。歌詞において、イギリスの生物学者リチャード・ドーキンスの『神は妄想である――宗教との決別』(科学的精神の普遍性と反宗教を説く啓蒙書で、一部の国ではベストセラー化。その過激ともいえる主張内容については賛同・批判ともに多くの議論がなされている)から大きな影響を受けていたという前作は、<どこまで君は落ちていこうとしているんだろう>と歌い出す“How Low”に始まり、<結局のところは些細な事を繰り返しているだけ>と歌う“Cycling Trivialities”で幕を閉じるなど、啓示的な歌詞を特徴とする、ある種内省的な世界観を持った作品であった。
しかし本作では、<僕たち全員が繋がれる場所を作ろう>と歌う1stシングル『EVERY AGE』、<光に連れ出してもらうんだ>と歌う2ndシングル『LEAF OFF / THE CAVE』などの収録曲に端的に表されているように、深い思索の果てに、外との繋がりを志向するものが多いように思える。実際、彼はこんなふうに言っている。「本作の歌詞は、よりはっきりしたものになったと思うし、『自己憐憫』の感情みたいなものもすごく減ったと思う」。
「人間の本性」を追求する思索の旅の果てにたどり着いた、人懐こさの正体
彼が描き出そうとしているテーマは、楽曲のMVを見てみると、さらによくわかることだろう。地上から放たれた風船が、衛星軌道上まで昇ってゆく様をひたすら追った“EVERY AGE”のMV(リスナー自身の動作によって、マルチアングルで見ることも可能だ)には、「ものごとを俯瞰で見るこの重要さ」が示されている。
マルチアングルのMVは、本文末のリンクを参照<
そして、サンデーアセンブリームーブメント(宗教とは別軸で、コミュニティー形成を図ろうとするムーブメント)から着想を得て作られたという“LEAF OFF / THE CAVE”のMVでは、ホセ自身がさまざまな人種が集まるとある教会に招かれ、彼らの前で演奏をする……という演出がなされており「他者との繋がりを築くことの尊さ」が感じられる内容になっている。
「人間の本性」を見つめた果てに、彼が見つけ出したもの。それは巨視的な観点に立ちながら、「宗教」を超えた純粋な人との繋がりを求めることなのかもしれない。その感覚を、自身のギターと歌で繊細に描き出そうという試み。ここにあるのは、グッドミュージックであると同時に、どこか人懐こい温かみと解放感を感じさせるようになった、新しいホセ・ゴンザレスの音楽だ。その変化の様子に、退屈な日常と孤独な妄想から、刺激に満ちた現実へと飛び出していったウォルター・ミティ(映画『LIFE!』の主人公)の姿をどこか重ね合わせてしまうのは、恐らく筆者だけではないだろう。
- リリース情報
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- Jose Gonzalez
『Vestiges & Claws』日本盤(CD) -
2015年2月18日(水)発売
価格:2,268円(税込)
TRCP-1811. WITH THE INK OF A GHOST
2. LET IT CARRY YOU
3. STORIES WE BUILD, STORIES WE TELL
4. THE FOREST
5. LEAF OFF / THE CAVE
6. EVERY AGE
7. WHAT WILL
8. VISSEL
9. AFTERGLOW
10. OPEN BOOK
11. FAR AWAY (LONG VERSION)
- Jose Gonzalez
- プロフィール
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- Jose Gonzalez (ホセ・ゴンザレス)
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1978年、スウェーデンのヨーテボリ生まれ。両親はアルゼンチン人。2004年、デビューアルバム『ヴェニア』が北欧で大ヒットとなる。2005年にSONY BRAVIAのCMにデビューアルバム収録曲“Heartbeats”が起用され、彼の音楽はヨーロッパのみならず全世界に飛び火した。シンプルながら美しいサウンド、基本的にアコースティックギターとボーカルというスタイルながらグルーヴ感のある演奏、そしてその低く豊かなボーカルに世界中が夢中になった。2007年3月に初の単独来日公演を実施し、同年『SUMMER SONIC』でも出演を果たした。2007年9月、2ndアルバム『In Our Nature』をリリース。2013年、ベン・スティラー主演映画『LIFE!』(原題:The Secret Life Of Walter Mitty / 1947年公開の映画『虹を掴む男』のリメイク版)に主題歌“Step Out”を提供した。2015年2月、8年振り3枚目のアルバム『Vestiges & Claws』をリリース。また彼は、スウェーデンのバンド、ジュニップ(Juip)のメンバーでもある。
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