日本初のFirefox OSスマートフォンが登場。オープンソースを導入し、「作る自由」が手の内に

携帯からスマホへ。会話からコミュニケーションへ。ライフスタイルのパラダイムシフトを促した身近な道具の進化

かつて「ケータイ」の愛称で慣れ親しんでいた携帯電話を、私たちがいつのまにか「スマホ」や「ガラケー」と呼んでいるように、道具の進化は、それを取り巻く生活・文化の変化と強く結びついている。

例えば、インターネット閲覧や動画再生機能を持った次世代携帯が普及しはじめた2000年代前半に、「話せりゃええやん、電話やし」をキャッチコピーにしたCMがあったが、それは、「遠隔地の誰かと話す道具=電話」という限られた概念の枠内で携帯電話を理解しようとする意志のあらわれでもあった。もちろんスマートフォン全盛の現在であっても、遠隔間の会話は機能の中心にある。けれども、手軽にSNSやウェブサイトから情報が得られ、友人や恋人に今の自分の気持ちを絵文字やスタンプで伝えられる機能を持った道具の登場は、単なる「会話」をより広範な「コミュニケーション」へと再定義し、私たちのライフスタイルのパラダイムシフトを後押しするものだったのだ。

今や、スマホや携帯電話を単なる通信機器としか考えない人は稀だ。それはコミュニケーションツールであり、カメラであり、ゲーム機であり、テレビであり、音楽プレーヤーであり、持ち主の社会的地位を示すステータスであり、世界に向けて自分の意志を発信する扉でもある。

デザイン面で大胆な価値転換を行ってきたキャリアの「日本初」となる新たな一手

その意味で、2014年12月に発表された新型スマホ「Fx0」は、また新たなパラダイムシフトを促す道具であるかもしれない。コーポレートスローガンに「Designing The Future(未来を、デザインしていこう)」を掲げるKDDIは、携帯電話の「性能の向上」ばかりが追求されていた2003年に、「デザイン」に力を入れる「au design project」を発足。「INFOBAR」など4機種がニューヨーク近代美術館に収蔵されるなど、斬新な価値創造を行ってきた。

そんなKDDIが新たなチャレンジ精神でもって開発したFx0の最大の特徴は、オープンソースであるFirefoxのモバイル向けOSを日本国内で初めて搭載していることだ。コンピュータープログラムの核心ともいえるソースコードは、開発者にとって重要な財産であり、その独占・内容の秘匿は大きな利益をもたらす。しかしながら、そもそも自由な気風の中で育まれたネットカルチャーは、その特権性を嫌った。

例えば、著作権を意味するコピー「ライト」に対してコピー「レフト」を名乗った同名運動は、著作権を放棄しないまでも、著作物は全人類が自由に利用・再配布・改変できるべきであると1980年代から主張している。Firefoxも、その思想を受け継ぐオープンソースとして開発されており、したがって、オンライン時代にふさわしい、高い自由度と公共性に根付いた開発環境がここでは実現するのだ。

Firefox OS スマートフォン「Fx0」

Firefox OS スマートフォン「Fx0」
Firefox OS スマートフォン「Fx0」

Fx0の「カジュアルさ」が育てる、次世代クリエイターの芽

さて、そんなFirefoxのOSを搭載したFx0は、スマホでありながら、それ自体が1つの開発用コンピューターでもある。利便性を考えれば、キーボードや大型モニターを備えたノート型PCのほうが、プログラミング作業には適している。だが、携帯端末を利用した新しいアイデアをブレインストーミング的に試してみたければ、Fx0にHTML5などで制作したソフトウェアを送り、手軽に実験してみることができる。

どちらかと言えば、これは上級者向けの使用方法と言えるが、本機には初心者でもアプリ制作の楽しみに触れることのできる機能が内蔵されている。ジグソーパズルのようなアイコンの「Framin」では、いくつかの「トリガー(きっかけ)」と「アクション(効果)」を組み合わせたアプリを、1分もかからずに作ることができる。

例えば、GPSと天気予報を組み合わせ「ニューヨークで雪が降ったら、『アナと雪の女王』の“Let it go”が流れる」といったアプリを作ったりすることもできる。これ自体は、ささやかな遊びのようなものだが、自発的になにかを作る喜びをFx0とFraminはカジュアルに提供してくれる。

職人やアーティストは、創造のイメージと結びついた存在だが、そこに至るには技術やセンスというハードルを越えなければならないという先入観が根深くある。だが、創造というのは一部の才能のある者にだけ与えられた特権ではない。むしろ、その場の勢いや成り行きで飛び込んでみることで、思わぬ回路が拓かれることは、ごく当たり前にある(一例を挙げれば、アートの歴史は、インサイダーではなく、常に外からやってきたアウトサイダーによって更新されてきた)。Fx0のカジュアルさは、まさにその回路を拓くものだ。ここで得られた体験や喜びが、次世代のクリエイターを育てる可能性もあるだろう。この手の平に収まるFx0は「世界に向けて自分の意志を発信する扉」そのものなのだ。

吉岡徳仁のデザインに通じる「光」のモチーフから、まだ見ぬ未来に思いを馳せる

Fx0をデザインしたのは、プロダクトデザイナーの吉岡徳仁。Firefoxが目指したオープンソースの精神にインスパイアされたという透明ボディーは、懐かしくも次の時代を予感させるフューチャー感に満ちている。かつて吉岡は、2010年にauと恊働し「X-RAY」という携帯電話をデザインしている。「内側からデザインする」をコンセプトに制作された、内部構造を見せるための赤いボディーは、Fx0にも通じる。

X-RAYとは、レントゲン撮影のX線を意味する言葉だが、吉岡のデザインでは、常に「光」や「透過性」が重要なキーワードになっている。17世紀以来、ヨーロッパを中心に、光には人間の理性の自立を促す啓蒙思想のイメージが重ねられてきた。吉岡のX-RAYやFx0が啓蒙を促すものである、と断言するのはやや大きな風呂敷を広げすぎかもしれない。だが、携帯電話、またスマホという、私たちの生活を大きく変えた道具が、いまだ見えぬ次の時代を照らす光の源になるかもしれないという予感は、心を震わせる。



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