3時間半にも及ぶライブで魅せた、37年間の多彩な楽曲
新旧合わせて全36曲、一瞬たりとも飽きさせない濃密な3時間半だったが、1つ視点を変えれば、桑田佳祐という男の死生観が詰まったライブだったように思う。
3月31日に10年ぶりとなるアルバム『葡萄』をリリースし、既に50万枚以上のセールスという近年稀に見る大ヒットを生み出している日本音楽界の巨人、サザンオールスターズ。4月からはこれまた10年ぶりとなる全国ツアーもスタートしているが、東京ドーム3デイズの中日となる5月24日の公演に、幸運にも足を運ぶことができた。
8月までツアーが続くため、詳しいセットリストには触れられないが、この日は新作『葡萄』の収録曲を中心に、大ヒットした有名曲から、これまでにあまり披露されていないアルバム曲まで、デビュー37年の歴史のなかから幅広いラインアップで構成。桑田はMCで「時代につられて曲を書いてきた」と話していたが、発表から30年以上経過した曲でも、まったく色褪せた印象はなく、いかに普遍的な曲を作ってきたかを改めて感じさせる内容だった。
派手な演出に頼らないステージパフォーマンス
全体において印象的だったのは、どの曲もまずは音楽ありきだったこと。そんなの当たり前だと思うかもしれないが、最近は凝った映像や派手な特殊効果を多用するアーティストも多く、場合によってはパフォーマンスするメンバー以上に目立っていることもしばしば。それが決して悪いこととは思わないし、大きい会場になるほど後方の観客への配慮として必要になってくることも理解できる。この日のライブでも、曲によってダンサーが登場したり、ド派手な演出など、まったく仕掛けがないわけではなかったが、主役はあくまでステージ上のメンバーたちだった。
そうした魅せ方ができるのは、熟練した演奏力(特に原由子のコーラスが入ったときの安心感は感動的ですらある)はもとより、どんな演出よりも際立つ桑田の表情あってこそだと強く感じた。スタンド席から観ていたため、ステージ後方のスクリーンで顔は確認するのだが、歌詞に合わせてクルクルと表情を変え、身振り手振りを交えて歌う姿はまるで舞台役者のようで、その圧倒的な表現力には終始釘付け。ここまで表情豊かに歌う人は見たことがない。3時間半にも及ぶライブの場で、どんなに細かなフレーズでも感情を前面に出して歌い続ける姿は、衝撃的でもあった。
原由子に宛てた手紙を読み上げるかのように歌った“はっぴいえんど”
小学生から60代まで、幅広い年齢層の観客が集まった東京ドームが最も温かな拍手で包まれた瞬間は、“はっぴいえんど”が披露されたときだと感じた。この楽曲に関して、桑田はセルフライナーノーツで次のように綴っている。「およそ10年振りのニューアルバムにあたって、メンバーへの思いや、ふとした病で迷惑をかけた時の礼や詫びも入れてしまおうと思った。(中略)特に原さんに対しては、あらたまって『ありがとう』とはなかなか言い辛いから」(アルバム初回限定盤に付属『葡萄白書』より)。桑田は、2010年に病を患い、予定していたツアーの中止を発表。そういった自身の経験や、10年間に起きた身近な人たちとの別れによって駆け巡った想いや死生観が、“はっぴいえんど”の<病む時も 笑顔を見せてくれ ボクよりも長く 生きるキミよ>という歌詞など、『葡萄』の随所に表れている。“はっぴいえんど”で、これまで連れ添ってきた原への手紙とも解釈できる言葉が歌い上げられると、ワンコーラスを終えたところで自然と拍手が沸き起こった。
「死生観」という意味でもう1つ印象的だった曲が、5万人の観客とともに拳を突き上げ、「ウォーウォウォー」という大合唱を響かせた“東京VICTORY”。現代という「不安に満ちた世の中」で暮らすあらゆる世代に向けた応援歌であるが、<どうせ生まれたからにゃ 生命(いのち)の限り旅を続けよう>や、<友よ Forever young みんな頑張って>といったフレーズは、桑田が自らの人生を振り返ったときにたどり着いた素直な気持ちでもあるように思う。
ステージの去り際に言った、「みんな死ぬなよ!」「頑張ろうな!」
桑田はこの日のMCで、冗談を交えつつではあったが、何度となく移りゆく時代に対する想いを話していた。そして最後は、観客に向かって「みんな死ぬなよ!」「頑張ろうな!」と呼びかけてステージを去った。その短くも力強い言葉は、同世代には苦楽をともにした仲間たちへのエールのように、若い世代には未来へバトンを託すかのように響いたと思う。「時代という荒波に負けず、精一杯人生を謳歌して、幸せな最期を迎えようじゃないか。自身にとっても、観客にとっても、そうであってほしい」。これが桑田のこのツアーにかける想いなのではないだろうか。この日のセットリストには、サザンオールスターズらしいエロくて、おちゃらけた曲も数多く盛り込まれていたが、それも生命力の象徴のようだった。
来年にはメンバーの多くが還暦を迎えるサザンオールスターズだが、この日のライブを観て、この先の活躍が楽しみになった人も多いだろう。「変わりゆく、移りゆく世の中、これから何ができるかわかりませんが、楽しく希望を持ってサザンオールスターズを続けていきたい」と話した桑田を信じて、これから生み出される新曲、そして次のツアーにも期待したいと思う。「東京ドームでまたやろうね!!」とスクリーンに映したからには、今度は10年も待たせないですよね?
- イベント情報
-
- WOWOW presents
『サザンオールスターズ LIVE TOUR 2015「おいしい葡萄の旅」』 -
2015年5月24日(日)
会場:東京都 水道橋 東京ドーム
- WOWOW presents
- リリース情報
-
- サザンオールスターズ
『葡萄』通常盤(CD) -
2015年3月31日(火)発売
価格:3,564円(税込)
VICL-644001. アロエ
2. 青春番外地
3. はっぴいえんど
4. Missing Persons
5. ピースとハイライト
6. イヤな事だらけの世の中で
7. 天井棧敷の怪人
8. 彼氏になりたくて
9. 東京VICTORY
10. ワイングラスに消えた恋
11. 栄光の男
12. 平和の鐘が鳴る
13. 天国オン・ザ・ビーチ
14. 道
15. バラ色の人生
16. 蛍
- サザンオールスターズ
-
- サザンオールスターズ
『葡萄』(アナログ) -
2015年4月8日(水)発売
価格:4,320円(税込)
VIJL-61500/11. アロエ
2. 青春番外地
3. はっぴいえんど
4. Missing Persons
5. ピースとハイライト
6. イヤな事だらけの世の中で
7. 天井棧敷の怪人
8. 彼氏になりたくて
9. 東京VICTORY
10. ワイングラスに消えた恋
11. 栄光の男
12. 平和の鐘が鳴る
13. 天国オン・ザ・ビーチ
14. 道
15. バラ色の人生
16. 蛍
- サザンオールスターズ
- イベント情報
-
- 『サザンオールスターズ LIVE TOUR 2015「おいしい葡萄の旅」』
-
2015年6月6日(土)OPEN 15:30 / START 18:00
会場:北海道 札幌ドーム2015年6月7日(日)OPEN 14:30 / START 17:00
会場:北海道 札幌ドーム2015年6月13日(土)OPEN 16:00 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋 ナゴヤドーム2015年6月14日(日)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:愛知県 名古屋 ナゴヤドーム2015年7月4日(土)OPEN 16:00 / START 18:00
会場:福岡県 ヤフオクドーム2015年7月5日(日)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:福岡県 ヤフオクドーム2015年7月19日(日)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:沖縄県 沖縄コンベンションセンター2015年7月20日(月・祝)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:沖縄県 沖縄コンベンションセンター2015年8月17日(月)OPEN 16:30 / START 18:00
会場:東京都 九段下 日本武道館2015年8月18日(火)OPEN 16:30 / START 18:00
会場:東京都 九段下 日本武道館
料金:各公演 9,000円
- プロフィール
-
- サザンオールスターズ
-
桑田佳祐(Vo,Gt)、関口和之(Ba,Vo)、松田弘(Dr,Vo)、原由子(Key,Vo)、野沢秀行(Per)による5人組バンド。1978年に『勝手にシンドバッド』でデビュー。翌年の『いとしのエリー』の大ヒット以降、日本を代表するバンドとして高い支持を得る。『涙のキッス』『エロティカ・セブン』『愛の言霊』などヒットを連発。『TSUNAMI』はシングルCD売上歴代1位の金字塔を打ち立て、日本レコード大賞ほか多数の受賞を誇るなど、文字通り記録と記憶に残る作品を送り続け、日本の音楽界をリード。一時の休止期間を経て、2013年に活動再開。3 月31日にニューアルバム『葡萄』が発売となり、オリコンチャート初登場ブッチギリの1位はもちろんのこと、発売5週にわたり、トップ3以上をキープし、現在もヒット中。
- フィードバック 1
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-