おっぱいアートから、タオルに描かれたスヌーピーまで。チラシから好奇心がそそられる展覧会4選

「とりあえず取っておこう」で、紙ものが部屋に溢れる悩みを解決

サブカル者が持つ悩みの定番。それは紙ものが部屋に溢れてしまう、ということ。美術展、演劇、ライブのフライヤー。もしくは、少部数限定のフリーペーパー。二度と手に入らない会場配布レジュメなど。デザインに趣向を凝らした希少な紙への愛着や、「このイベント、行きたいかも」という一時的な関心と「いつかこれが役に立つかも」という根拠ゼロの予感によって、部屋のあらゆるスペースに「紙もの墓場」とも呼ぶべきタワーが建立される。「はぁ……整理上手になりたい」と思いながら、そもそも捨てる気は毛頭ない。

チラシミュージアム
チラシミュージアム

そんな筆者の前に降臨したアプリが、「チラシミュージアム」(現在チケットプレゼントのキャンペーン実施中)。全国で開催されている美術館、博物館、展覧会のチラシがスマホで閲覧でき、その数なんと700以上。チラシが増殖していく生活を送る自分にとって、これは心がときめく出会い。加えて、聞いたこともなかった地方の小さな美術館や博物館までも網羅しており、超ニッチな内容の展覧会との距離を縮めてくれる。その中でも、個人的に「こんなところで? こんなのやってたの!?」と驚いた展覧会を4つ厳選して紹介したい。

「新宿眼科画廊」で、おっぱいが並ぶ?

「チラシミュージアム」内の人気ランキングにおいて、『モネ展「印象、日の出」から「睡蓮」まで』『teamLab Exhibition』と名だたる美術展に次いで、第3位(9月18日現在)に食い込んでいるのが、なんと新宿眼科画廊で開催中のおっぱいアート展『乳神様~EVE~』である。チラシでは、『ゲゲゲの鬼太郎』の目玉のおやじのようにも見える、おっぱいに手足がついたおっぱい人間たちが組体操に興じている。「え、やっぱり視覚情報に頼ると、人はおのずとエロを選んじゃうってことなの?」という疑問が頭をよぎるも、画面下の「詳細」をタップしてしまっている筆者は既に何者かの術中にハマってしまっている……。「女性の体から産まれる謎の生物=乳神様をモチーフとして、映像作品上映、立体作品展示、イラスト、写真で表現」とのこと。

『乳神様~EVE~』
『乳神様~EVE~』

「新宿眼科画廊」は、「眼科」に作品が展示されているわけでも、「眼科」と「画廊」が同じビルに入っているわけでもなく、「目の保養になる場所」という意味を込めて名付けられた、現代美術を中心に展示を行っているアートスペースである。作者であるSUNGUTSのプロフィールを見ると、テレビCMのディレクターをする傍ら、ソフトビニールの立体造型作品も制作している方だそう。オダギリジョーと麻生久美子が主演した連続ドラマ『時効警察』で、頬をぷくーっとふくらませた「プクーちゃん人形」も作った方だとか。

プロのカメラマンが撮る猫と、飼い主がスマホで撮る猫、どっちが可愛い?

2つ目に筆者の目に留ったのは、空中で飛ぶ猫。こちらは、動物写真でおなじみの写真家、岩合光昭の写真展のチラシだ。「名は体を表す」というように、猫を撮っているので『ねこ』展。わかりやすい。

『岩合光昭写真展~ねこ~』
『岩合光昭写真展~ねこ~』

しかし、そのシンプルさは、世界五大陸を歩き回り、アフリカスイギュウやサバンナシマウマといった野性動物までも撮影する岩合の写真の強さゆえ。チラシに採用されているのは、赤煉瓦の壁から空中へとジャンプした猫の一瞬を捉えたカット。「ひょ~い」という擬音が耳に聞こえてきそうな美しい曲線で跳躍する猫に、可愛さとは、高度な撮影技術に裏打ちされると、何倍にも増幅して表象されるものなのだと感じさせてくれる。NHK BSプレミアムで放送されている猫溺愛テレビ『岩合光昭の世界ネコ歩き』のオフィシャルサイトによると、「体の細部の美しさとか、プロポーションの美しさ、機能美というか運動能力の高さ」こそが、被写体としての猫の魅力なのだとか。なるほど、それらすべてを見事に捉えた1枚だ。

10個の「夜間実験」の文字が羅列された異様なチラシ

こちらは、秋葉原にある3331 Arts Chiyoda(廃校を利用した複合文化施設)内に入居するギャラリーの展示フライヤー。灰色の地に、さまざまな手書きフォントで描写された「夜間実験」の文字が楽しくもクール。でも、なぜかちょっとさみしさが胸に響くデザインでもある。

『アキバタマビ21 第47回展覧会「夜間実験」』
『アキバタマビ21 第47回展覧会「夜間実験」』

詳細を読むと、多摩美術大学造形表現学部の卒業者8名による展覧会だそうで、夜間部である同学部は2014年度で廃止されるそう。夜間学部での美術教育と表現活動を、夜の実験という言葉に託しているのだろう。10種類の「夜間実験」の文字は、ここに通った多くの学生たちそれぞれの想いを代弁している。楽しさもさみしさも伝わってくるチラシのデザインからは、それまで教育の分野では区別されていた日本画と油画の境界を取っ払って学習に励み、概念に捉われない「ハイブリット画」を実験的に作り出していたという造形学科の卒業生の強い意志が汲み取れる。

単なるキャラクター展ではない。タオルだけが並ぶスヌーピー展

『ルーヴル美術館展』の高尚な美術作品や、『江口寿史展 KING OF POP』の漫画も眺めながら、抱き合うチャーリー・ブラウンとスヌーピーの愛らしいイラストに胸キュン。次に、このチラシの絵が、タオル地だということにびっくり。そして「タオルアートってなに……?」とクエスチョンマークが浮かぶ。

『スヌーピータオルアート展』
『スヌーピータオルアート展』

日本一のタオル産地である今治市で開催される『スヌーピータオルアート展』では、今年65周年を迎えるスヌーピーのコミック『ピーナッツ』から厳選したエピソードを、ジャガード織、朱子織といった様々な織り方を駆使してタオルに表現。中にはアメリカNASAが撮影した宇宙画像とスヌーピーのコラボレーション作品も展示されるとか。

子どもの頃を思い返すと、「スヌーピーがプリントされたバスタオルやキッチンタオルを使っていたなあ」なんて懐古的な感情が浮かび上がる。キャンバスや原画ではなく、タオルに描かれたスヌーピーが展示されるからこそ、懐かしさや故郷の風景を思い出させてくれる展覧会なのかも……と想像が膨らんだ。

チラシの一覧と向き合うことで開拓される自分の価値観

こうやっていくつものチラシで美術展を見比べていくと、必ずしも美術的価値や歴史的価値だけが自分の興味を誘うわけではないことに気づかされる。もちろん「チラシミュージアム」には『プラド美術館展—スペイン宮廷美への情熱』や『アルフレッド・シスレー展—印象派、空と水辺の風景画家—』なども紹介されていて、美術ファンとしてはそちらも見逃せない。でも、こうやって異なる視点を提供されなければ、今年で廃止されてしまう夜間学部のことや、タオル地を使ったアートの存在なんて、知らずに通り過ぎてしまうだろう。だからこそ、「チラシのデザイン」という尺度は豊かだし、私たちに思わぬ驚きを与えてくれるのだ。アートに触れるということは、自分の価値観を揺るがせることでもある。「チラシミュージアム」は、そんな未知の可能性を示している。

リリース情報
『チラシミュージアム』

e+(イープラス)がお届けする、美術館や博物館、展覧会等のチラシアプリ。関東・関西を中心に常時700以上の美術展、展示会やアートイベント情報のチラシを閲覧できます。お得な割引クーポン情報やチケット情報もあるのでお見逃しなく!みなさんの充実したアートライフをサポートします! 料金:無料 動作環境:iOS 7.0以降(iPhone、iPad および iPod touch)、Android 4.0以降

『乳神様~EVE~』

2015年9月18日(金)~9月23日(水)
会場:東京都 新宿眼科画廊

『ねこ』展

2015年9月16日(水)~9月24日(木)
会場:埼玉県 伊勢丹浦和店 7階 コルソホール

『アキバタマビ21 第47回展覧会「夜間実験」』

2015年9月12日(土)~10月18日(日)
会場:東京都 秋葉原 3331 Arts Chiyoda アキバタマビ21

『スヌーピータオルアート展』

2015年9月12日(日)~2016年1月11日(月・祝)
会場:愛媛県 今治 タオル美術館ICHIHIRO



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