ハリウッド映画や現代アート、震災復興にまで波及する「3Dデザイン」
「オートデスク」の名を知らない人も、3Dデザインソフトウェアのグローバル企業である同社と紐付けられる数々のクリエイションには、どこかで出会っているだろう。
たとえば、映画『ゼロ・グラビティ』。サンドラ・ブロック演じるメディカルエンジニアの活動する宇宙船内から、宇宙服のヘルメットに映り込む風景まで、無限空間での密室劇とでもいうべき特殊な世界観を支えたのが同社のCGソフトウェアだった。昨年の『第86回アカデミー賞』で、同作は『視覚効果賞』を含む7冠を達成。今年のアカデミー『視覚効果賞』でも、受賞作『インターステラー』含むノミネート5作すべてでオートデスクの技術が使われている。
アート好きなら、コンセプチュアルアートの祖、マルセル・デュシャンによる「手彫りのチェス駒セット」が、記録写真をもとに3Dデータ化・公開された『Readymake: Duchamp Chess Pieces』を覚えているだろうか。同プロジェクトに携わったアーティストのスコット・キルデールについて調べると、2014年にオートデスク主催のアーティストインレジデンスにも参加していたりするのだった(なお『Readymake』には面白い後日談もあり、興味のある人は調べてみてほしい)。
ほか、自動車や建築のエンジニアリングから、東日本大震災による被災エリアの復興プラン策定まで、3Dデザインソフトウェアは多様なもの作りの現場を支えている。近年は、必要な条件を与えた上で、それを満たす意匠をプログラムが生成する「コンピューテーショナルデザイン」も進化中だ。他方で3Dプリンターなどのデジタル工作機器がここ数年で一気に身近になるなど、人々が3Dデザインの可能性にふれる環境は急速に広がっている。
たとえばスマホカメラや、Instagramなどの画像共有SNSについて考えてみよう。これらにおいて今やごく気軽に使われる画像編集機能は、さかのぼれば「Adobe Photoshop」に代表される専用ソフトが原点だろう。これらがデザインなどの専門領域を革新した後、蓄積された技術はより広く応用され、進化もした。3Dデザインもソフトに加えてデータを「モノ」に出力できる機器が身近になり、「3Dプリンターで創作料理」といった面白チャレンジも増殖中。先進化と汎用化、両軸での発展が期待できる。ソフトウェアメーカーであるオートデスクが、最近3Dプリンター開発に参入したのも、こうした潮流と無関係ではないだろう。
飛行機、家具、ファッション、ギター、義足など、幅広い3Dデザインの最新形を体験する
さて、そのオートデスクのサンフランシスコ本社には、エントランスフロアに「ギャラリー」がある。といってもよくある類の、自社製品がひたすら並ぶ退屈なものではないようだ。最先端の3Dデザインが切り開く未来像をシェアすることを使命とし、飛行機、家具、ファッション、ギター、義足など幅広いジャンルにおける実践を、作り手たちの協力も得て展示する。
ビジネスで訪れる来客向けだけでなく、週2回は一般開放も。専任の企画チームや解説スタッフも擁する力の入れようは、社会貢献の意識に加え、こうした創造の活性化がひいては自社の成長につながるとの長期的視野に基づくものだろう。
ちょっと行ってみたいけど、サンフランシスコは遠いな……というなら、まもなく東京・表参道で始まる『Autodesk Gallery Pop-up Tokyo』に出かけてはどうだろう。その名の通り、本社ギャラリーを飛び出して世界都市にギャラリーを期間限定で出現させる試み。昨年パリで初めて開かれ、このたび次の開催地に東京が選ばれた。
「どう使うか」で拡張される、テクノロジーの創造性
展示セクションでは、Instagramから自動収集した表参道の風景写真をベースにロボットアームが墨絵を描く「DAY2DAY」、3Dプリンターで出力したブロックを広げると有機的デザインのドレスとなる「Nervous System Kinematic Dress」などが登場。飛行機の上部をほぼ透明な窓で構成し、青空や星を直に感じられる未来の旅客機構想や、失われた指の動きも取り戻せる筋電義手を安価に実現させることを目指す日本のイクシー社の取り組みなども。建築家の伊東豊雄は、映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場しそうな「台中メトロポリタンオペラハウス」の関連展示で参加する。
3Dプリントドレス「Nervous System Kinematic Dress」
ほか、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械にふれられる体験型スペースも開設される。会期中はゲストを招いたワークショップやトークがあり、前述の伊東豊雄や、アート / 音楽 / 広告など多領域で先鋭的なテクノロジー表現を仕掛けるライゾマティクス代表の齋藤精一らが登場。いずれも予約をすれば無料で参加できる。
展示テーマに掲げられた「創造の未来」は、必ずしも発表するクリエイター側だけに委ねられた役割ではないだろう。テクノロジーの可能性は、その技術自体が持つ革新性だけでなく、それが「どのように使われるか」で拡張される。そのとき、「未来の創造」はあらゆる人々に開かれているはずだ。
- イベント情報
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- 『Autodesk Gallery Pop-up Tokyo』
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2015年10月23日(金)~11月8日(日)
会場:東京都 表参道 BA-TSU ART GALLERY
時間:12:00~18:00(土、日曜、祝日は11:00開場)
トークゲスト:
根津孝太(有限会社 znug design)
塩田周三(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ)
市川宏雄(明治大学専門職大学院長)
齋藤精一(株式会社ライゾマティクス)
豊田啓介(株式会社ノイズ)
近藤玄大(イクシー株式会社)
伊東豊雄(伊東豊雄建築設計事務所)
赤塚大典(一般社団法人 Mozilla Japan)
村山誠(Frantic / Macoto)
横井康秀(株式会社カブク)
ほか
料金:無料
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