充実したコンセプトアルバムが続く2016年
「愛の無い時代」を背景に、喪失の先にある高揚を描いたSKY-HIの『カタルシス』。「夜しかない街」を舞台に、全体主義のはびこる社会で個々の美しさを肯定しようとするPoet-type.Mによる4部作の完結編『A Place, Dark & Dark -永遠の終わりまでYESを-』。今年に入って、綿密なプロットによって組み立てられた、完成度の高いコンセプトアルバムが立て続けに発表されているが、この傾向は決して今に始まったことではない。
シングル『季節は次々死んでいく』リリース時のインタビュー記事でも触れたように、近年は『進撃の巨人』や『アイアムアヒーロー』など、秋田ひろむの言葉を借りれば「浮世離れした世界観ながら、僕らの日常にも通じるような普遍的な喜怒哀楽が存在する」ダークファンタジー的な漫画やアニメ、もしくは『The Last of Us』などのポストアポカリプス的(人類文明が壊滅した後を舞台としたフィクション)な世界観のゲームが流行しているが、おそらくこれは現実世界における社会情勢の緊迫と不可分である。となれば、音楽作品にもこうしたテイストが入ってくるのは、ごく自然な流れだ。また、アルバムというパッケージングの有効性が問われる今、十数曲をまとめて聴かせるのであれば、そこには強固なコンセプトが必要になってくるのも、時代の必然だと言えよう。
そして、amazarashiがデビュー当初から様々なメディアミックスを行い、コンセプチュアルに世界観を提示し続けてきたアーティストであることは、今さら言うまでもないだろう。新作『世界収束二一一六』においても、ミュージックビデオ、小説、ライブが連動し、「世界中どこだって誰かの墓場」というコンセプトを多面的に浮かび上がらせている。もちろん、作品の読み解き方は人それぞれだが、ここでは僕なりの考察を書いてみようと思う。
ミュージックビデオにインスパイアされた生命賛歌
本作の起点となっているのは、アニメ『東京喰種√A』のエンディングテーマに起用された前述のシングル“季節は次々死んでいく”、および、そのミュージックビデオだろう。アニメの内容と、<輪廻の輪に還る命>というフレーズにインスパイアされ、SIXの本山敬一が手掛けたミュージックビデオは、女性が生肉をひたすら食べ続け、最後に蓮の花が残るという衝撃の内容だった(蓮は仏教的に「死後」「よき行いをした人が生まれ変わるもの」とされている)。そして、おそらく今度は秋田がこのミュージックビデオにインスパイアされ、「長い人類の歴史を考えれば、世界中どこだって誰かの墓場であり、それが土になって、そこに花が咲く」と歌う本作のキー曲にして、シビアな現状認識を基にした生命賛歌“花は誰かの死体に咲く”へと結びついたのだろう。
そして、その「世界」とはどんな「世界」であるかを描いたのが、一度は東京で夢に破れ、現在は地元の青森を拠点とする秋田らしい、地方と都市の双方に存在する閉塞感を市井の人の目線で見つめる“タクシードライバー”と、数の理論で白黒がつけられ、誰もが加害者にならざるを得ない経済システムについて歌う“多数決”という冒頭の2曲。「死体が土となり、花が咲く」というのは、「全ては誰かの犠牲の上に成り立っている」ということの比喩でもあるはず。YKBXによる3DCGと、秋田自身も出演する首都圏外郭放水路で撮影した実写映像が組み合わさったミュージックビデオも話題の“多数決”には、<罪悪も合法も 多数決で決まるなら もしかしたら百年後は もう全員罪人かもな>というラインがあり、これが『世界収束二一一六』というアルバム全体の構想の元になっていると考えられる。
4曲目の“分岐”以降は、そんな世界を生きる1人の人生に焦点を当てる。このパートでは、こちらも昨年シングルとして発表され、懸命に生きるギリギリの焦燥感を描いた“スピードと摩擦”を着地点に置き、その焦燥に至る流れが、連作のような“ライフイズビューティフル”“吐きそうだ”“しらふ”でじっくりと描かれる。この3曲は秋田自身のことを歌っているようであり、もちろん、聴き手それぞれの人生に当てはめることも可能。そして、“エンディングテーマ”で「死」を描いた上で、厳かなクライマックスである“花は誰かの死体に咲く”へ。ラストの“収束”は百年後、いや、もっと先の未来からの視点で綴られているかのようであり、何とも不穏な余韻を残してアルバムは文字通り収束する。先に発表されたシングル2曲を見事ストーリーに取り込んだ、素晴らしい構成力だ。
短編小説、360°ライブ……全方位から表現する「amazarashi」という作品
前述の通り、『世界収束二一一六』はアルバムの楽曲だけに完結してはいない。本作の初回盤には秋田による書き下ろしの短編小説『花は誰かの死体に咲く』を封入。ある事情により託児所で働くこととなった地方都市に住む青年を主人公とした小説は、同タイトルの楽曲、およびアルバムともリンクし、新たな視点を提示する。この小説は、第1章のみアルバム特設サイトにて読むことができる。
また、現在amazarashiはライブツアー『世界分岐二〇一六』を展開中だが、10月15日にはフロアの中央にステージを配し、360度全方位から映像を投影する『amzarashi LIVE 360°』を幕張イベントホールで開催する。円形に作られるであろうステージと<輪廻の輪>に関連を感じるのは、決して突飛な発想ではないはずだ。
最後にもうひとつ。“分岐”のすぐ後ろに置かれた“百年経ったら”は、<土には還れぬもの達と添い寝して>といった歌詞が福島を連想させる1曲。「死体が土となり、花が咲く」というテーマの一方で、「土に還れぬものもある」という指摘はとても重く、「すべては誰かの犠牲の上に成り立っている」という現実の複雑さを再度突き付ける。「収束」という言葉は、東日本大震災で起きた原発事故以降よく耳にするようになった言葉であると思うが、震災からはもうすぐ5年。もちろん、歴史的に重要な一日に思いを寄せることは重要だ。しかし、目の前には毎日、いや、毎分毎秒のように分岐が訪れ、その瞬間瞬間の選択によってのみ、未来は作られていく。amazarashiは、そんなことを歌っているようにも思える。
- リリース情報
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- amazarashi
『世界収束二一一六』初回限定盤A(CD+DVD) -
2016年2月24日(水)発売
価格:3,780円(税込)
AICL-3068/9[CD]
1. タクシードライバー
2. 多数決
3. 季節は次々死んでいく
4. 分岐
5. 百年経ったら
6. ライフイズビューティフル
7. 吐きそうだ
8. しらふ
9. スピードと摩擦
10. エンディングテーマ
11. 花は誰かの死体に咲く
12. 収束
[DVD]
・多数決(MV)
『amazarashi 5th anniversary live 3D edition 2015.08.16』
・後期衝動
・季節は次々死んでいく
・ヒガシズム
・冷凍睡眠
・スターライト
※秋田ひろむによる書き下ろし小説『花は誰かの死体に咲く』と詩集付き
- amazarashi
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- amazarashi
『世界収束二一一六』初回限定盤B(CD) -
2016年2月24日(水)発売
価格:3,780円(税込)
AICL-3071/21. タクシードライバー
2. 多数決
3. 季節は次々死んでいく
4. 分岐
5. 百年経ったら
6. ライフイズビューティフル
7. 吐きそうだ
8. しらふ
9. スピードと摩擦
10. エンディングテーマ
11. 花は誰かの死体に咲く
12. 収束
※5千枚限定販売
※amazarashiフィギュア付属
- amazarashi
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- amazarashi
『世界収束二一一六』通常盤(CD) -
2016年2月24日(水)発売
価格:3,000円(税込)
AICL-30701. タクシードライバー
2. 多数決
3. 季節は次々死んでいく
4. 分岐
5. 百年経ったら
6. ライフイズビューティフル
7. 吐きそうだ
8. しらふ
9. スピードと摩擦
10. エンディングテーマ
11. 花は誰かの死体に咲く
12. 収束
- amazarashi
- イベント情報
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- 『amazarashi 5th anniversary Live Tour 2016「世界分岐二〇一六」』
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2016年2月27日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 お台場 Zepp DiverCity TOKYO2016年2月28日(日)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:東京都 お台場 Zepp DiverCity TOKYO2016年3月6日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 中野サンプラザ料金:各公演 前売5,000円 当日6,000円(共にドリンク別)
※中野サンプラザ公演はドリンク代なし
- 『amazarashi LIVE 360°』
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2016年10月15日(土)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:千葉県 幕張メッセ イベントホール
料金:前売6,000円 当日7,000円
- プロフィール
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- amazarashi (あまざらし)
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青森県在住の秋田ひろむを中心とするバンド。日常に降りかかる悲しみや苦しみを雨に例え、僕らは雨曝だが「それでも」というところから名づけられたこのバンドは、「アンチニヒリズム」をコンセプトに掲げ、絶望の中から希望を見出す辛辣な詩世界を持ち、前編スクリーンをステージ前に張ったままタイポグラフィーと映像を映し出し行われる独自のライブを展開する。3DCGアニメーションを使ったMVは文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞するなど国内外で高く評価されている。全く本人の露出なしに口コミで支持層を増やす孤高のアーティスト。また、リリースされるCDには楽曲と同タイトルの詩が付属されている。
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