THE BLUE HEARTSの、全く予想外のトリビュートアルバムが完成
ヒップホップアーティストによるTHE BLUE HEARTSのトリビュートアルバムが、5月30日にリリースされる。THA BLUE HERBではない。パンクロックバンドのTHE BLUE HEARTSだ。
1987年にメジャーデビューして以来、THE BLUE HEARTSはボーカル、ギター、ベース、ドラムスのシンプルな編成ながら力強い楽曲でバンドブームを牽引した。解散からすでに20年近くが経っているが、2015年には結成30年を記念したベスト盤がリリースされるなど、今でもその楽曲は若いリスナーを獲得し続けている。
そんなTHE BLUE HEARTSの、全く予想外のヒップホップトリビュートアルバム『終わらない歌』に集まったメンバーはNORIKIYO、PUNPEE、やけのはら、田我流、それにgrooveman Spot。今の日本のヒップホップシーンを代表するラッパー / トラックメイカーが名を連ねていると言っていいだろう。そして彼らはTHE BLUE HEARTSの魅力を最大限に活かしながら、全く新しい楽曲を作り上げることに成功しているのだ。
上段:左からPUNPEE、やけのはら 下段:左から田我流、NORIKIYO、grooveman Spot
アーティストや楽曲の「本質」を炙り出す、異ジャンルの音楽家によるトリビュート
近年の日本の音楽シーンではジャンルを超え、楽曲を大胆にアレンジするカバーやトリビュートが歓迎されることが増えている。前述のTHE BLUE HEARTSの結成30周年ベスト『THE BLUE HEARTS 30th ANNIVERSARY ALL TIME MEMORIALS ~SUPER SELECTED SONGS~』(2015年リリース)の特典トリビュート盤では、ロックミュージシャンのみならずレゲエの若旦那が“TRAIN-TRAIN”、演歌の八代亜紀が“悲しいうわさ”を独自のスタンスで歌っている。
こういった方向性で印象的なアルバムは『宇多田ヒカルのうた ~13組の音楽家による13の解釈について~』(2014年リリース)だろう。副題にあるように、井上陽水や椎名林檎が宇多田ヒカルの楽曲に対するそれぞれのオリジナリティー溢れる「解釈」を見せたアルバムは大きな反響を呼んだ。
また、椎名林檎のデビュー20周年記念トリビュートアルバム『アダムとイヴの林檎』(2018年リリース)では、RHYMESTERが椎名林檎の1999年の代表曲“本能”を思い切りよく作り直してラップを乗せ話題になっている。
今作『終わらない歌』に参加しているPUNPEEが、1966年の加山雄三“お嫁においで”を現代の感覚で解釈し直し新しい息吹を吹き込んだ“お嫁においで2015”も、こんな流れに位置付けることができるだろう。
異なるジャンルの音楽家による積極的なトリビュートは、原曲に沿っただけのカバーでは見えてこないアーティストや楽曲の本質を炙り出す。そして、過去の楽曲にリスペクトを込め、現代の感覚で新しく蘇らせることこそ、ヒップホップの得意とするところであることを考えると、一見異色にも見える「ヒップホップ×THE BLUE HEARTS」という組み合わせから素晴らしい楽曲が生まれるのも、不思議ではないことに気づかされる。
力強いメロディーとメッセージを備えるTHE BLUE HEARTSは、時代もジャンルも飛び越える
『終わらない歌』に収録されている5曲を通して聴いた時、パンクロックバンドのトリビュートだということを忘れそうになるほどのメロディアスさは大きな驚きだった。この5曲は大きく2つに分けることができる。まず“終わらない歌”“TRAIN-TRAIN”“キスしてほしい”はオーセンティックなヒップホップのビートとラップが組み込まれた新曲として生まれ変わっていて、原曲の荒々しさからは離れた最先端のヒップホップでありつつも、一度聴けば誰でも歌えそうな印象的なサビが効果的に差し込まれている。“キスしてほしい”では原曲のパンクならではの激しいドラムを、やけのはらがサンプリングしてタイトなヒップホップビートへと見事に変換しているのでそちらもぜひ注目してほしい。
“リンダリンダ”と“青空”はトラックこそ差し替えられているが、原曲のボーカルがほぼそのまま使われている。とはいえ“リンダリンダ”はドラム自体がなく浮遊するようなトラックになり、“青空”はテンポがグッと落とされていて、どちらも甲本ヒロトのボーカルは原曲とは全く異なる響きを持って聴こえてくる。
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どちらの場合も、THE BLUE HEARTSの楽曲は一度演奏から切り離されることで、そのボーカルとメロディーが持つ力強さが再発見されている。また楽曲のメッセージ性でも名高かったTHE BLUE HEARTSだが、<生まれたところや皮膚や目の色でいったいこのぼくの何がわかるというのだろう?>という“青空”のメッセージは、ゆったりしたリズムに乗って今の時代にこそ鮮烈に響く。
“終わらない歌”と“TRAIN-TRAIN”ではNORIKIYOとPUNPEEが原曲のメッセージを踏まえてラップをしているが、特に“キスしてほしい”では<世界を変えることはできなくても世界に変えられないために伸ばせ、手を><家庭と仕事の板挟みの中、あの曲聴いたよ久々に>と、青春時代にTHE BLUE HEARTSを聴いていたであろうかつての若者に向けて、田我流が心に刺さるラップを残していることも記しておきたい。
時代を飛び越えて残り続け、ジャンルを超えて伝わり続ける音楽は、その本質に力強いメロディーとメッセージを備えている。そしてそんな音楽を、ヒップホップは新しく生まれ変わらせる。『終わらない歌』はそんなシンプルなことを改めて伝えてくれる爽快なアルバムだ。
- リリース情報
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- V.A.
『終わらない歌』 -
2018年5月30日(水)発売
価格:2,000円(税込)
TKCA-746651. 終わらない歌(REMIX) / NORIKIYO (produced by PUNPEE)
2. TRAIN-TRAIN(REMIX) / NORIKIYO&PUNPEE(produced by I-DeA)
3. キスしてほしい(REMIX) / やけのはら feat. 田我流
4. リンダ リンダ(REMIX) / やけのはら
5. 青空(grooveman Spot REMIX) / grooveman Spot
- V.A.
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