ユニコーンのおふざけは何歳になっても止まらない。3本のMV公開

「伝説のバンド」は、今も「伝説」を築き続けている

2009年、実に16年ぶりの再結成を果たして以降、気がつけば当たり前のようにコンスタントな活動を続けているユニコーン。再結成後の活動期間が、いつの間にか当時の活動期間(1986年結成、1993年解散)よりも長くなろうとしている彼らのキャリアの重ね方は、もはや奇跡といってもいいだろう。

というのも、そんな彼らが先頃、前アルバム『イーガジャケジョロ』以来、実に2年半ぶりにリリースしたアルバム『ゅ13-14』は、見事オリコンアルバムチャートで首位を獲得。それは、再結成後16年ぶりにリリースした2009年のアルバム『シャンブル』以来の快挙だったりするのだから、これは特筆すべき事態というか、ある種大変な事態なのである。かつて「伝説のバンド」と呼ばれたユニコーンが、現在進行形で「伝説」を築き上げているのだから。

ユニコーン『ゅ13-14』通常盤ジャケット
ユニコーン『ゅ13-14』通常盤ジャケット(Amazonで見る

何が本気で、何が冗談かわからない

しかし、それもそのはず。今回のアルバムは、そのあまりにも自由な音楽的な振り幅によって人々の度肝を抜いた前作『イーガジャケジョロ』のはっちゃけたノリはそのままに、だけれども時折グッと胸に押し迫ってくる哀愁が、そして軽やかに心踊るポップな楽曲が入れ子状に入り混じった、実に聴き応えのある濃密な一枚となっているのだから。メンバー全員が詞曲を書き、メンバー全員が歌うという、ほとんど例をみない5人組バンドである、ユニコーン。その五人が、齢50を過ぎてなお醸し出す、独特なユーモアと悪ノリ、そして一抹のセンチメンタルなエッセンスの正体とは、果たして何なのだろうか?

ユニコーン
ユニコーン

車のナンバープレートを模して、『ゅ13-14』と名づけられた本作。そこに何か深い意味があるのかと思いきや、「ゆ」ニコーンの「13」枚目、「14」曲入りのアルバム、ということなのだとか。ユニコーン曰く、「久々に意味のあるタイトルになりました。何も足さず何も引かず、ありのままの等身大の僕たちを描きました」とのこと。しかし、返す刀で、ABEDONの50歳を祝すイベント用に「ランボー」と「ラテン」が入り混じった、謎の写真を発表するのがユニコーン。これが、今の彼らの等身大ということなのか……などなど、冗談と本気を混ぜ合わせながら、常に人々の心を捉え続けてきたバンド、それがユニコーンなのである。

ユニコーン

前置きがやや長くなってしまったけれど、そんな彼らの「現在」を、今回のタイミングで発表されたミュージックビデオをもとに考えてみよう、というのが本稿の目的だ。本作に合わせて制作されたミュージックビデオは4本。アルバムに先行して、早い段階で発表された“エコー”(春の連続ドラマ『重版出来!』主題歌)のビデオ(ユニコーンのレコーディング風景をマルチカメラで映したもの)は、ひとまず置いておくとして、アルバムのリリース前後に相次いで発表された“すばやくなりたい”“風と太陽”“TEPPAN KING”――この3本を、監督のコメントとともに見ていくことにしよう。キーワードは、「ペルソナ(仮面)」だ。

ユニコーンなりの「老いに対する恐怖心」の描き方

アルバムの1曲目を飾る、奥田民生の作詞作曲歌唱による“すばやくなりたい”。そのミュージックビデオは、とある住宅地の路上に勢いよく現れるメンバー五人をスローモーションで捉えた映像からスタートする。まるで何者かに追い立てられるように走り去る五人。そして彼らのあとを追って、黒装束の怪しげな一団が登場する。能楽で使う「翁」の仮面をなぜか着用している黒装束の軍団。怪しげな舞いを踊りながら追ってくる彼らに捕まらぬよう、ジャンプや宙返りといった「パルクール」の技を使いながら、そしてスケートボードやBMXを華麗に操りながら、逃走劇を繰り広げるユニコーンの五人。

メンバー全員50代に突入した彼らだが、その俊敏な身のこなしは、まるでストリートの若者たちのよう……などと思うよりも前に、彼ら五人の表情が、いささか不自然なことに気づくだろう。眉ひとつ動かさず無表情で走り続ける五人。というか、そもそもメンバーの背格好のバランスが、ちょっとおかしいような気もするのだが。

そう、すでに雑誌やテレビ番組でもチラホラ登場している、メンバーそっくりの仮面、ほとんどデスマスクのような不気味な仮面を、彼ら五人は着用しているのだ。というか、この人たち、誰? このミュージックビデオを監督した、気鋭の映像作家・谷山剛は言う。「“すばやくなりたい”は、『どのシーンを見ても素早い映像』というお題があったので、メンバーが街中をかっこよく駆け抜けるという企画になりました」。

しかし、そのなかには、監督自身が感じ取った、ユニコーンのメッセージが描き出されているのだという。「“すばやくなりたい”は老いに対する恐怖心の曲なんです(多分)。だから、メンバーは翁たちから、パルクールやスケボー、BMXを使ってかっこよく逃げるのですが、実は全然かっこよくない。本当にかっこいいのは、歳をとっても笑顔で追いかけ続ける翁たちのほうなんじゃないかって考えだして。だから、翁をかっこよく撮ることを意識しました」。

“すばやくなりたい”ミュージックビデオ撮影時のオフショット
“すばやくなりたい”ミュージックビデオ撮影時のオフショット

今もメディアに引っ張りだこの「あの」元オリンピック選手が、奥田民生に扮する

続く2本目は、アルバムの中でも随一の軽やかなポップチューンとなったABEDON作詞作曲、奥田民生歌唱による“風と太陽”。炎天下を走り抜けるユニコーンの姿が印象的だった“すばやくなりたい”に対し、こちらの舞台となるのは、季節外れのアイススケートリンクだ。そこに颯爽と登場するのは、フードつきのマントを身にまとった奥田民生らしき人物である。

アイススケートリンクを滑る奥田民生らしき人物
アイススケートリンクを滑る奥田民生らしき人物

音楽に合わせてステップを刻み、優雅に舞い踊る奥田民生(らしき人物)。そこに、同じくスケートシューズを履いて、優雅に滑る四人の男女がカットイン。もちろん、その顔面には、先のビデオと同じく、メンバーの仮面を装着している。もはや、男女の別もお構いなしだ。そして、なぜか激しく苦悩する奥田民生(らしき人物)。何だ、このシュールな展開は。と思った途端に、奥田民生(らしき人物)が、軽やかにスピンを決める! この人物の正体は、誰なのか?

“すばやくなりたい”と同じく、本作の監督を務めた谷山は言う。「“風と太陽”は、『スケート』というキーワードをいただいていたので、とにかくスケートリンクのスケジュールを押さえて、その中でできることを考えようという感じでした」。そこから逆算して思いついたのが、今回のビデオというわけだ。彼はどんなことを意識しながら、本作を撮り上げたのだろうか。

「とにかくシュールな映像にすることを意識しました。全員スケートのプロだから、すごく綺麗なダンスをしてくれているのに、あの仮面で全部台無し! みたいな(笑)。一番感慨深かったのは、主演のあの方でした。事前の説明をほとんどせず、撮影時間も3時間しかない状況で、『こういうことを表現してください』と簡単な説明をしたら、10倍ぐらいで返ってくる。普段から演技を採点されている方ならではの理解力なのではないかな、と。とても勉強になりました」。

まさかの「たい焼きの名店紹介番組」になっているミュージックビデオ

そして、最後に“TEPPAN KING”。ABEDON作詞作曲歌唱によるこの曲は、「魚王(うおおう)魚王(うおおう)」というサビのフレーズをはじめ、アルバムの中でもとりわけ意味不明というか、なぜか「たい焼き屋目線」で歌詞が綴られ、しかも英語風で歌唱されている、ユニコーンらしいユーモアと悲哀に溢れた1曲だ。

そのミュージックビデオは、デッキに挿入される1本のビデオテープからスタート。そして、「たい焼きバラエティ TEPPAN KING」の文字が表示されたあと、マイクを持った奥田民生(らしき人物)が登場する。まず、彼が紹介するのは、麻布十番の老舗「浪花屋総本店」だ。そう、かつて“およげ!たいやきくん”の大ヒットで一躍有名になった名店である。続いて、タクシー運転手の衣装に身を包んだ川西幸一(らしき人物)が紹介するのは、恵比寿のたい焼き屋「ひいらぎ」。なんと、このビデオ、「たい焼き」の名店を紹介する仕様となっているのだ。

こちらのミュージックビデオを監督したのは、『タモリ倶楽部』のディレクターを務めている時崎豊だ。彼は言う。「『たい焼き』がテーマということで、“およげ!たいやきくん”的な構成も検討しましたが、歌詞にそこまでのストーリー性がないので、段積みの形式でたい焼きを見せる、グルメ番組のパロディー的な内容にしました」。そして彼は、本作の見どころについて、こんなふうに語るのだった。「ミュージックビデオにはあまりない『情報性』と『おいしそうな画』。それと全編に散りばめた小ネタですかね。メンバーの着ている服にも、一応意味があります」。

本人が「出たくない」のではない。「出ないほうがいいでしょ?」

さて、いかがだろうか。「メンバー稼動なし」「仮面のみ稼動あり」という、自分が監督だったら思わずのけぞりそうになる困難な条件のもと、それぞれの監督の解釈によって描き出された3本のミュージックビデオ。

谷山監督は、こんなふうに語っている。「キャリアが長いユニコーンだからこそできた映像だと思います。バンドのミュージックビデオって、メンバー全員の演奏シーンがあって、イメージインサートがあって、リップシーンがあってという定石をなかなか崩せないのですが、そういうことに飽きた方々だからこそ攻めた企画が通る。当初は『出たくない』のではないかと思っていたましたが、実は『出ないほうがいいでしょ?』という感覚なんじゃないかなと。僕にとってというより、映像業界にとって貴重なバンドなんじゃないかと思います」。

なるほど。先頃、大きな話題を呼んだ、岡崎体育の“MUSIC VIDEO”を例に挙げるまでもなく、いつの間にか定石や定番だらけとなった感もあるミュージックビデオの世界。しかし、齢50を過ぎたベテランは、誰もが思いつかない発想と、相変わらずのユーモアで、それをスルリとすり抜けてゆくのだった。

それにしても、ここまで精巧な「仮面」を作るのには、相当な時間と経費が掛かるのでは? というか、それだったらむしろ、本人たちが稼働したほうが楽だったのでは? そんな疑問も浮かんでくるが、完璧主義というよりも、ボケとツッコミが錯綜する、この絶妙な感じこそ、まさしくユニコーンならではの面白さなのかもしれない。

ユニコーン
ユニコーン

偉大なる革新者でありながら、軽妙なトリックスターでもあるユニコーン。この9月からは、待望の全国ツアー『第三パラダイス』の開催も決定。無論、こちらはメンバー自身が稼動することになるのだが、ひょっとすると今回一連のビデオで大活躍した「仮面」の登場もあるかも? 引き続き、興味の尽きないユニコーンなのであった。

リリース情報
ユニコーン
『ゅ 13-14』完全生産限定豪華BOX(CD+DVD+2LP+カセットテープ)

2016年8月10日(水)発売
価格:16,956円(税込)
KSCL-2750~5

[CD・2LP・カセットテープ]
1. すばやくなりたい
2. オーレオーレパラダイス
3. サンバ de トゥナイト
4. 僕等の旅路
5. 道
6. ハイになってハイハイ
7. マッシュルームキッシュ
8. TEPPAN KING
9. マイホーム
10. CRY
11. エコー
12. 第三京浜
13. 風と太陽
14. フラットでいたい
[DVD]
・MOVIE31「ゅ13-14」レコーディングドキュメント
※特典付き、5000セット限定

ユニコーン
『ゅ 13-14』初回生産限定盤(CD+DVD)

2016年8月10日(水)発売
価格:3,888円(税込)
KSCL-2756/7

[CD
1. すばやくなりたい
2. オーレオーレパラダイス
3. サンバ de トゥナイト
4. 僕等の旅路
5. 道
6. ハイになってハイハイ
7. マッシュルームキッシュ
8. TEPPAN KING
9. マイホーム
10. CRY
11. エコー
12. 第三京浜
13. 風と太陽
14. フラットでいたい
[DVD]
・MOVIE31「ゅ13-14」レコーディングドキュメント

ユニコーン
『ゅ 13-14』通常盤(CD)

2016年8月10日(水)発売
価格:3,240円(税込)
KSCL-2758

1. すばやくなりたい
2. オーレオーレパラダイス
3. サンバ de トゥナイト
4. 僕等の旅路
5. 道
6. ハイになってハイハイ
7. マッシュルームキッシュ
8. TEPPAN KING
9. マイホーム
10. CRY
11. エコー
12. 第三京浜
13. 風と太陽
14. フラットでいたい

ユニコーン
『ゅ 13-14』アナログ盤(2LP)

2016年8月10日(水)発売
価格:4,860円(税込)
KSJL-6183/4

1. すばやくなりたい
2. オーレオーレパラダイス
3. サンバ de トゥナイト
4. 僕等の旅路
5. 道
6. ハイになってハイハイ
7. マッシュルームキッシュ
8. TEPPAN KING
9. マイホーム
10. CRY
11. エコー
12. 第三京浜
13. 風と太陽
14. フラットでいたい
※完全生産限定盤

ユニコーン
『ゅ 13-14』(カセットテープ)

2016年8月10日(水)発売
価格:3,888円(税込)
KSTL-1

1. すばやくなりたい
2. オーレオーレパラダイス
3. サンバ de トゥナイト
4. 僕等の旅路
5. 道
6. ハイになってハイハイ
7. マッシュルームキッシュ
8. TEPPAN KING
9. マイホーム
10. CRY
11. エコー
12. 第三京浜
13. 風と太陽
14. フラットでいたい
※完全生産限定盤

イベント情報
『ユニコーンツアー2016「第三パラダイス」』

2016年9月3日(土)
会場:東京都 府中の森芸術劇場 どりーむホール

2016年9月7日(水)
会場:千葉県 市川市文化会館 大ホール

2016年9月9日(金)
会場:石川県 本多の森ホール

2016年9月11日(日)
会場:新潟県 新潟テルサ

2016年9月16日(金)
会場:埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール

2016年9月18日(日)
会場:宮城県 仙台サンプラザホール

2016年9月19日(月・祝)
会場:宮城県 仙台サンプラザホール

2016年9月22日(木・祝)
会場:山形県 南陽市文化会館 大ホール

2016年9月24日(土)
会場:秋田県 秋田県民会館

2016年10月1日(土)
会場:愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール

2016年10月2日(日)
会場:愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール

2016年10月7日(金)
会場:北海道 帯広市民文化ホール 大ホール

2016年10月9日(日)
会場:北海道 札幌ニトリ文化ホール

2016年10月10日(月・祝)
会場:北海道 札幌ニトリ文化ホール

2016年10月14日(金)
会場:兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール

2016年10月15日(土)
会場:兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール

2016年10月17日(月)
会場:京都府 ロームシアター京都

2016年10月22日(土)
会場:東京都 オリンパスホール八王子

2016年10月23日(日)
会場:東京都 オリンパスホール八王子

2016年10月29日(土)
会場:神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール

2016年10月30日(日)
会場:神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール

2016年11月5日(土)
会場:福岡県 福岡サンパレス

2016年11月6日(日)
会場:福岡県 福岡サンパレス

2016年11月12日(土)
会場:大阪府 オリックス劇場

2016年11月13日(日)
会場:大阪府 オリックス劇場

2016年11月19日(土)
会場:広島県 広島文化学園HBGホール

2016年11月20日(日)
会場:広島県 広島文化学園HBGホール

2016年11月23日(水・祝)
会場:東京都 中野サンプラザホール

2016年11月24日(木)
会場:東京都 中野サンプラザホール

2016年12月5日(月)
会場:高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール

2016年12月7日(水)
会場:大阪府 フェスティバルホール

2016年12月9日(金)
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールA

2016年12月17日(土)
会場:沖縄県 沖縄コンベンション劇場

2016年12月18日(日)
会場:沖縄県 沖縄コンベンション劇場

料金:各公演 指定席8,500円 パラダイスシート3,000円 僕等の立見5,500円
※パラダイスシートは最後列1列
※僕等の立見は立見券販売可能会場のみ

プロフィール
ユニコーン
ユニコーン

1986年に広島で結成。翌1987年にメジャーデビュー。名作と呼ばれつつもイマイチ売上に繋がらなかった数々のアルバムを残して1993年9月に解散。2009年年始に突如、再始動を発表。アルバムリリースや全国ツアーなど、以前を上回る規模で活動中。今年、メンバー最年少のリーダー・ABEDONが50歳を迎え、ABEDON50祭『サクランボー/祝いのアベドン』を地元山形で、7月に開催。これでメンバー全員の50祭が、全て行われた。8月に約2年半ぶりのアルバム『ゅ 13-14』をリリースし、9月からは、全国23か所をまわるツアー『第三パラダイス』を全34公演行う。



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