2018年、サニーデイ・サービスは再結成から10年を迎えた。あなたにとって、サニーデイ・サービスとはどんなバンドだろうか? 1990年代から知る人にとっては、ともに年齢を重ねてきた友のような存在かもしれないし、再結成以降に出会った人にとっては、年上の恋人のような存在かもしれない。バンドとリスナーの関係をそんな画一的な言葉で言い表すのは野暮というものだが、いずれにしても、サニーデイ・サービスの音楽に自分自身を重ねたり、人生のワンシーンそのものとして深く心に刻みつけていたり、そうやって特別な思いを抱いている人は少なくないはずだ。
2年前の8月に発表された『DANCE TO YOU』以降、サニーデイ・サービスは1990年代当時を凌ぐほどの充実期に突入した。この2年でオリジナルアルバムは3枚、ライブ盤・リミックス盤も含めると6枚のアルバムをリリースしている(それらに加え、先日、曽我部恵一名義での4年ぶりのソロ作が完成したとの知らせが届けられた)。しかも、それらはどれも恐ろしいほどのクオリティーを誇り、そのうえで2010年代という時代を生きる私たちにいくつものメッセージを投げかけている。今、サニーデイ・サービスに何が起こっているのか? そして、これから彼らはどこへ向かうのだろうか?
本企画では「2018年を生きる僕たち / 私たちのサニーデイ・サービス」をテーマに、サニーデイ・サービスを「今」のバンドとして正しく位置づけるべく、立場も年齢も異なる5人からコメントを集めた。この5つの視点を通じて、「2018年のサニーデイ・サービス」が浮かび上がってくることだろう。いつ出会ったかなんて関係ない。サニーデイ・サービスはあなたのバンドだ。この記事を読んだあなたにとって、サニーデイ・サービスがもっと特別なバンドになることを願って。
「サニーデイ・サービスについて僕が思うこと」 テキスト:夏目知幸(シャムキャッツ)
バンドは続けてこそなんぼだ、とずっと思ってる。
なんでかというと、音楽は繋がることが一番大事だと思うから。続けてないと、メンバーの関係性が変わっていかないし、まわりのいろんなところと繋がれない。繋がれば、おもしろくなっていく。中も外も。
僕たちはこの国で、だいぶ狭い価値観の中で音楽に触れている。だからなおさら、続けないといろんなことがブツ切りになっちゃうと思う。
サニーデイ・サービスがもしいなかったら、僕らはだいぶやりずらかった。「もし」の話だけど、これはかなりほぼ絶対そう。
彼らが歩みを止めなかったからこそ(休んだときはあったけど)、歩んできた道を今というこの時点から見つめられる。昔話じゃないから、生々しい。そして、現在進行形でずっと影響を受け続けていられる。作り手も受け手も、届けたり売ったりする役割の人も。これがどんなに貴重なことかは、サニーデイ・サービスがいない世界を覗いてみないとわかんない。想像してみる。僕の部屋の棚にサニーデイのCDが1枚もなくて、ライブハウスに行ってもあの名曲の数々を誰も知らない、生だとこんなに熱いんだ……みたいな感動もないし、最近のなんかやたらアルバム出すじゃん、追いつけねえ! みたいなワクワクもないし、そう、小田島等のジャケもない。すげーつまんない。なんて退屈なんだろ。
そんな世界には、<そっちはどうだい うまくやってるかい>と歌ってやりたくなる。こっちの世界にはそんな歌がある。そっちにないということなので、僕の曲として売り出すのはどうだろう。
サニーデイ・サービスは決して、よくできたバランスのいいバンドじゃない。バンドとは、楽器が弾ける人間の集まりのことを言うんじゃなくて、集まった人と人との間の、繋がってる部分の謎の接着剤のことをバンドと言うのだ、というのが僕の考えだ。サニーデイ・サービスの接着剤は、運命含有量というか、人間の業の含有量が多めだなと感じる。つまり、超バンド。危うい感じがする。壊れたところを直しながら未知の空間を駆ける宇宙船。いつか晴れた場所で、と願いながら。
バンドの命題は、自分たちのよりもだいぶでかい世の中という巨大宇宙船を小さな一隻で転覆させることにある。もしくは、そこに住む人たちのこころを静かに塗り替える。時に優しく時に激しく。やり方はいろいろある。周りと一緒じゃなくていい。僕がサニーデイ・サービスから教わったことのひとつ。
「サニーデイ・サービスが歌った『FUCK YOU』という言葉」 テキスト:天野龍太郎
今年3月、ストリーミングサービス上で唐突にリリースされたサニーデイ・サービスの通算12作目となるアルバム『the CITY』。それは、端的に言って「問題作」と呼ぶほかないものだった。なにせその1曲目は、変調した曽我部恵一の声と歪んだギター、そして厳かなオルガンが鳴り響くなか、曽我部がただ「FUCK YOU」と繰り返すだけの“ラブソング 2”だったのだから。
言うまでもなく、「FUCK YOU」が意味するところは「否定」である。サニーデイのディスコグラフィーにおいて、これほどまでに直接的な否定の表現を聴き手に叩きつけた曲が、言葉があっただろうか。
サニーデイ・サービス“ラブソング 2”を聴く(Apple Musicはこちら)
今年7月、『FUJI ROCK FESTIVAL』にケンドリック・ラマーが出演した。それに際し、東京メトロ・霞ヶ関駅と国会議事堂前駅、そして渋谷の街中にとある広告が貼り出されたことはCINRA.NETも詳細に伝えていた通りだが、これについてはSNS上で様々な議論が巻き起こった。
なかでも興味深かったのはライター、池城美菜子の指摘で、「goddamn」の略である「damn」は「ちくしょう」に近く、広告制作者が意図した「クソが」を意味するには「damn you」とするべきなのだという。その違いは目的語の有無である。
「fuck」も同様だろう。「fuck」だけでは「ちくしょう」だが、「fuck you」となれば「you」という目的語に対する明確な否定となる。では、“ラブソング 2”でサニーデイが、曽我部が「fuck」を突きつけた「you」とはいったい誰であり、何であるのか?
『the CITY』について幸運にも曽我部本人にインタビューをする機会に恵まれた際、それについてストレートに尋ねてみた(天野龍太郎の取材執筆によるMikiki掲載記事:サニーデイ・サービス問題作『the CITY』を発表した曽我部恵一の胸中)。なぜなら別の取材に立ち会ったとき、「新聞を読んでいても怒りしか覚えない」と曽我部が言っていたことがどうしても忘れられなかったからだった。しかし、“ラブソング 2”のリリックは何かに対するものではなく、「FUCK YOU」という気持ちをただ「そのまま曲にしただけ」なのだという。
その「FUCK YOU」はちょっとしたトラブルや不快な出来事に向けられているのかもしれないし、あるいは曽我部自身、もしかしたらサニーデイというバンド自体に向けられているのかもしれない。そのどれでもあるし、どれでもないのかもしれない。純粋な、無色透明の、概念的な「FUCK YOU」。「FUCK YOU」という思いそのものの、音楽化。では、同曲の「リミックス」として発表された“FUCK YOU音頭”は?
“ラブソング 2”とともに「EXPLICIT」マークが付けられたサニーデイの楽曲である“FUCK YOU音頭”のリリックはこうだ。
<ア~ ひらひら舞うのは八重桜 ア~ おサルの籠屋は池のなか ア~ 森の友だちよんでくりゃ ア、ソウレ!>
<ア~ ひらひら舞うのは銭の花 ア~ 音頭でシンゾーもバクバクだあ ア~ 飼われて死ぬのが江戸の華 ア、どした!>
サニーデイ・サービス“FUCK YOU音頭”(Tumblrで歌詞の全文を見る)
サニーデイが「FUCK」を叩きつけた「YOU」が誰なのかは、もはや言うまでもないだろう。クソが。ここでは、明確な対象に向けて卑語が浴びせかけられているとしか思えない。バンドの長きにわたる協力者である小田島等が監督した“FUCK YOU音頭”のビデオでは、祭り櫓の周りをゾンビがふらついている様子が映されている。これを見て、フェラ・クティの代表曲“Zombie”をふと思い出した。
<ゾンビ、おお、ゾンビよ ゾンビは命令されなきゃ動けないんだろ 命令がなきゃ止まることもできないし ターンもできやしない 考えることすらできないんだ>
フェラ・クティ“Zombie”(筆者訳)
土着のリズムと欧米からもたらされたファンクのビートとの混血児である強烈なアフロビートがうねる同曲で、ブラックプレジデントはナイジェリア政府軍を徹底的に馬鹿にしてみせた(「ターン」は「曲がる」と「反抗する」のダブルミーニングだろう。ゾンビは命令がないと反抗すらできないのだ)。
他方、アフロビートではなく音頭のビート(曲の最終部ではトラップビート)が刻まれる“FUCK YOU音頭”におけるゾンビは、<寄っといで>と呼びかけられ、ひらひらと舞う桜の花びらや紙幣につられてわらわらと集まってきた「みんな」だろう。自ら考えることを放棄して、ただ指令を待つ拝金ゾンビたち。クソが。“FUCK YOU音頭”は、つまるところそういう曲だろう。もしや、その「みんな」に君も入ったりしていないかい?
“FUCK YOU音頭”のビデオの後半では、AV女優の古川いおりが、挑発的な水着姿で中指を立てている。ああ、そういえば、ビヨンセもこう歌っていたな。2010年代の金字塔『Lemonade』の“Sorry”で。
<中指を立てる 手を高く上げる 彼の顔の前でその手を振ってやるんだ そしてこう言ってやる 坊や、バイバイ>
ビヨンセ“Sorry”(筆者訳)
“FUCK YOU音頭”でサニーデイ・サービスが、曽我部が「FUCK」を叩きつけた「坊や」たちにも、バイバイ。
本稿は、「サニーデイが“FUCK YOU音頭”でプロテストするもの」というテーマで、「『音楽に政治を持ち込むな』という主張がなされる日本社会において、サニーデイが“FUCK YOU音頭”で訴えかけたことについて」書くようにという編集部からの要望を受けたものだ。音楽に政治を持ち込むな、だって? そんなことを言う「みんな」には、そうだな、ミドル・フィンガーズ・アップ、かな。なんてね。“FUCK YOU音頭”は、そんなことを投げかけているように思う。
「結成25年以上を経てもなお、タフにかっこよく存在し続けているサニーデイ・サービス」 テキスト:ラブリーサマーちゃん
「やっぱりファーストだよね」「黄金期は〜」、耳にタコができるほどよく聞く。過去にリリースされた音源とアーティストは「あの頃」になっていく。バンドが走り出した時期の作品が評価され、伝説的になり、その後の作品は余生のように捉えられる。アルバム3枚で解散したバンド、27歳で死んだロックスターに憧れる。ロックバンドのリスナーはそのような刹那をバンドに望んでしまっている。
そういった傾向の中で我々20代のミュージシャン、少なくとも私はある恐れを抱いているように思う。自分の作品とミュージシャン人生が「あの頃」として、ノスタルジーとして消費・認識されていくこと、今より20年30年と年老いた自分の生み出す音楽が、「渋い」なんて言葉で一蹴されてしまうほど魅力を失っていくことを恐れている。
そしてそんな恐れに最早諦念すら覚えていた私の前に、サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』は強烈な光を持って現れたのである。
サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』を聴く(Apple Musicはこちら)
『若者たち』『東京』『24時』『LOVE ALBUM』をはじめ、サニーデイの過去の名盤に魅せられ聴きこみ、口ずさんできたが、『DANCE TO YOU』はそれを凌ぐ大傑作であるように思う。若いときよりも弾けたくなっちゃっているのでは? と感じさせる1990年代を上回るパワフルさとポップさ、滾るダンサブルさ。
その頃、“桜 super love”のリミックスをやらせて頂く機会に恵まれたり、何度かライブも見させて頂いたのだが、そのライブと言ったら! “セツナ”の、アレンジされ放題パッション弾けまくりの間奏、そして歯ギター……! 私はあまりにもクールな漢気を前に圧倒されてしまい、ただ立ちすくんでライブを見ることしかなかったのだった。
サニーデイのようなキャリアの長いバンドが廃れず輝きを増し、タフにかっこよく存在し続けているということが、自分にとって眩しすぎる光のように見えるのだった。そんな希望の光をチラつかされ、むやみやたらと暗い未来を想像して恐れたりめげたりすることが無意味に思え、今は今のことを頑張ろうと暖かい気持ちで帰路を辿るのだ。
サニーデイ・サービス“桜 super love(ly summer chan remix)”を聴く(Apple Musicはこちら)
「サニーデイ・サービスの生き急ぐようなリリースラッシュの裏にあるもの」 テキスト:ドリーミー刑事
1990年代から2010年代ももうすぐ終わろうとする現在まで、私がサニーデイ・サービスから目を離すことができない理由を一言で表せば、彼らが常に新しい景色を見せてくれるから、ということに尽きる。
『若者たち』に始まり『FUTURE KISS』に至るまではもちろん、再結成後に3人だけで行われていたライブもまた、同窓会的な緩さとは無縁の、まるで結成したばかりのパンクバンドのような緊張感で青春の輝きと危うさを体現していて、そのスリーピースバンドとしての最良の瞬間は2015年のライブ盤『Birth of a Kiss』に記録されている。
サニーデイ・サービス『Birth of a Kiss』を聴く(Apple Musicはこちら)
つまり、『DANCE TO YOU』前夜のサニーデイ・サービスもまた、私にとっては唯一無二のバンドだったということである。
しかし一方で、現在の彼らが音楽シーンの最先端を独走し、私たちに新たな熱狂をもたらしているのは、それまでのキャリアとはまったく異なる地平を開拓したからに他ならない。『DANCE TO YOU』から『the SEA』までの2年間で彼らが見せ続けたダイナミックな跳躍は、サニーデイ史上においてはもちろん、長いロックンロールの歴史でも類を見ないレベルのように思われ、ある種の狂気すら感じてしまう。
この跳躍力は、いかにして生まれたものなのか。そして、あの愛すべき『Birth of a Kiss』から、もはやバンドとしてのフォーマットすら放棄した『the SEA』へと変貌していく彼らの音楽を、なぜ私たちは「サニーデイ・サービスの音楽」として受け入れることができたのか。
サニーデイ・サービス『the SEA』を聴く(Apple Musicはこちら)
きっと数十年後の音楽愛好家たちも議論するであろうこの一大テーマについて、同時代を生きたファンとして証言するならば、その鍵は初めて丸山晴茂が不在の中で行われた2015年末のホールツアーと、その直後の2016年1月に発表されたシングル『苺畑でつかまえて』にあったのではないか、と思っている。
私はそのツアーの名古屋公演を観たのだが、観客を椅子に座らせたまま繰り広げられた、後の“セツナ”にも通じる鬼気迫る攻撃的なパフォーマンスは、丸山晴茂の不在を乗り越えるには、あえて3人ではできないやり方でサニーデイの楽曲を破壊し、もう一度生まれ変わるしかないという、曽我部恵一と田中貴の強い覚悟を感じさせるものだった。
そして盟友・小田島等による鮮烈なジャケットに包まれた『苺畑でつかまえて』は、半年後に訪れる傑作『DANCE TO YOU』の大いなる予兆であると共に、B面にはサニーデイ・サービスというバンドの現在をテーマにしたであろう“コバルト”という曲が収められている。そこにはこんな歌詞が綴られている。
<笑えないジョーク言って 「生きていればね」なんて 深い深い青を見に行こう>サニーデイ・サービス“コバルト”を聴く(Apple Musicはこちら)
<止まった時計の前で 動かぬ像を抱いて 座り込むだけの日々なら 笑えないジョーク言って その頃風は凪いで 深い深い青に包まれて>
サニーデイ・サービス“コバルト”
ここに込められた、いったん道を別にすることになった丸山晴茂への惜別の念と、それでもバンドとしての歩みを止めないという決意。これこそがその後、生き急ぐように未来へ進んでいったサニーデイ・サービスの、ほとんど強迫観念のような、強固な動機となっていたのではないか。そしてその生々しい葛藤を楽曲という形で共有してしまった私たちもまた、サニーデイ・サービスという予測不能なドキュメンタリーの一部として取り込まれてしまったのだ。
最後に。丸山さん、どうか安らかに。あなたのドラムが大好きでした。
「この2年間のサニーデイ・サービスと、丸山晴茂の不在」 テキスト:北沢夏音
編集部から依頼されたテーマは、「この2年間は、サニーデイのキャリアにおいて、どんな時間だったのか?」――。端的に言うなら、「また何かを振り切るときが来た」。そのうえで「これまで経験したことのない未知の領域に突入した」と答えるほかはない。
思えばサニーデイ・サービスは、いつだって「BE HERE NOW(過去も未来も考えない、ただここにいまいるのみ)」を信条とするバンドだった。結成したときからそれしかないと心に決めたメンバーと、自らにそう言い聞かせてきたメンバーと、それを意識するまでもなく体現するメンバーがいて、個々それぞれに力を尽くして、サニーデイ・サービスの名のもとに血路を開こうとしてきた。曽我部くんの言葉を借りれば「身体と魂が動かなくなった」ら、そこでTHE END。それもやむなし、だと。
冒頭の問いにある「この2年間」とはすなわち、破格のシンガーソングライター、曽我部恵一が生み出す多彩な楽曲に、替えが利かない独特のグルーヴ感で「サニーデイらしさ」を付与すると同時に、バンドの反逆精神の象徴でもあったドラマーの丸山晴茂を欠いたまま、「ここから先」どこまで行けるかという、後戻りできない選択に踏み切った運命の時間だった。
<きみがいないことは きみがいることだなぁ>
サニーデイ・サービス“桜super love”
この決定的な一行、サニーデイ・サービスを時代の尖端を切り開くバンドとして再度甦らせた『DANCE TO YOU』の最大の推進力となった“桜super love”のファーストラインは、“青春狂走曲”を永遠のアンセムにしたリフレイン――<そっちはどうだい うまくやってるかい こっちはこうさ どうにもならんよ 今んとこはまあ そんな感じなんだ>――に匹敵するパワーワードだ。曽我部くんがサニーデイの在り方に一切の制約をなくす方向に振り切れたのは、この究極の「愛の言葉」を手にしたからだ。
『DANCE TO YOU』リリース後のインタビューでは、「バンドが積み重ねた年月をあまり感じさせないものにしたかった」と、彼は言った。ソロ活動や曽我部恵一BANDでの経験から学んだ、「ただ力作を作ってもダメ。それ以上にポップミュージックとして格好良くて手に取りやすい気軽さ、抜けの良さが必要」という反省も踏まえ、徹底的に削ぎ落とした結果、『DANCE TO YOU』は、1990年代以来のファンのみならず、バンドの歴史や物語を共有していない若いリスナーにも届いた。
そして、『DANCE TO YOU REMIX』『Popcorn Ballads』『the CITY』『the SEA』と続く(忘れちゃいけない、ここ2年間の新作の楽曲のみで構成された2018年3月26日、27日のライヴからの実況録音盤『DANCE TO THE POPCORN CITY』も、サポートメンバーが加わったステージではディープファンクなダンスバンドと化すサニーデイの現在のドキュメントとして外せない)異常なまでのリリースラッシュは、曽我部恵一という怪物的表現者が、サニーデイ・サービスというバンドの「枠組み」が壊れた結果手にした創作上の自由を極限まで行使することで、サニーデイという「概念」さえも解体し、いっそ破壊し尽くしてみたかった、ということだろう。だからこそ、誰も見たことのない景色を見るために最果てを行くバーサーカー(狂戦士)CRZKNYとのジョイントを必要としたのだ(2017年4月、曽我部くんはCRZKNYの3枚組サードアルバム『MERIDIAN』の帯に「これは『ここから先』の、未来の音楽。私たちの心を果てしなくかき乱す。」とコメントを寄せた)。
「ここから先」に何があるか見届けたいという、曽我部くんの根源にある欲望が、サニーデイ・サービスを次の場所へと運び続けてきた。
サニーデイ・サービス『Popcorn Ballads』を聴く(Apple Musicはこちら)サニーデイ・サービス『DANCE TO THE POPCORN CITY』を聴く(Apple Musicはこちら)
一方、楽曲制作のスタイルや録音環境が以前とは大きく様変わりしたこともあり、レコーディングにおける田中貴は、ビートメイキングの素材となる音を提供するぐらいで、以前のようにベース以外の楽器をも駆使して編曲に携わる機会もなく、「正直、参加している感じがあまりしない」とこぼすほど、存在感が薄れてきた。その苦悩を燃料に代えて、田中くんがライヴで放射する熱量はますます増大している。
『Popcorn Ballads』のフィジカル版リリース後に行った対話の席で、曽我部くんは「バンドが崩壊しかけた時のひとつの在り方。これが最終地点。その先はないよ」と言った。「拡散していって、ワケが分からなくなっていって、パーツだけになってどこかに浮かんでいるようなイメージ」だと。
『Popcorn Ballads』の制作中、「この世界に収まり切るものじゃダメだ。収めたはずなのに溢れかえっているというか、核分裂を繰り返しているような、どうしようもないような感覚を持ったものにしたい」(『青春狂走曲』取材時の未発表インタビューでの発言)という思念が爆発した結果、当初は『Popcorn Ballads』の「外伝」的な、全曲ラッパーをフィーチャーした6曲入りのミニアルバムという構想だった『the CITY』は、気がつけば全18曲のフルアルバムへと膨張し、さらに18組のアーティストの手で分解されたリミックス集『the SEA』に拡散していった。
サニーデイ・サービス『the CITY』を聴く(Apple Musicはこちら)
『the CITY』の1曲目に置かれた“ラブソング 2”を聴いたとき、異様な感動が込み上げた。相反するあらゆる感情をオートチューンにのせて<FUCK YOU>と連呼するだけのナンバー。確かに、行き着くところまで行った感はある。こんなに哀切なオートチューンの楽曲は聴いたことがない。曽我部くんの声質は、オートチューンとの相性が恐ろしく良い。全曲オートチューンをかけてもいいくらいだ。
これがサニーデイ・サービスの、真の最終地点なのか?
「晴茂くんが亡くなりました」と、曽我部くんから直接告げられたとき、「だから毎日、曲を作ってる」と、彼は言った。
雨はまだ、やまないみたいだ。
- リリース情報
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- サニーデイ・サービス
『DANCE TO YOU』(CD) -
2016年8月3日(水)発売
価格:2,700円(税込)
ROSE-1981. I'm a boy
2. 冒険
3. 青空ロンリー
4. パンチドランク・ラブソング
5. 苺畑でつかまえて
6. 血を流そう
7. セツナ
8. 桜 super love
9. ベン・ワットを聴いてた
- サニーデイ・サービス
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- サニーデイ・サービス
『Popcorn Ballads(完全版)』(2LP) -
2017年12月25日(月)発売
価格:4,980円(税込)
ROSE-214[SIDE A]
1. Tシャツ
2. 東京市憂愁(トーキョーシティブルース)
3. 青い戦車
4. きみの部屋
5. 泡アワー
6. 炭酸xyz
[SIDE B]
1. 街角のファンク feat. C.O.S.A. & KID FRESINO
2. きみは今日、空港で。
3. 花火
4. クリスマス
5. 金星
[SIDE C]
1. 抱きしめたり feat. CRZKNY
2. 流れ星
3. すべての若き動物たち
4. summer baby
5. はつこい feat. 泉まくら
6. 恋人の歌
[SIDE D]
1. ハニー
2. クジラ
3. 虹の外
4. ポップコーン・バラッド
5. 透明でも透明じゃなくても
6. 花狂い
7. サマー・レイン
8. popcorn run-out groove
- サニーデイ・サービス
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- サニーデイ・サービス
『the CITY』(2LP) -
2018年4月25日(水)発売
価格:4,212円(税込)
ROSE-218X[SIDE A]
1. ラブソング
2. ジーン・セバーグ
3. Tokyo Sick feat. MARIA
4. おばあちゃんのドライフラワー
5. 甲州街道の十二月
[SIDE B]
1. 23時59分 feat. MC松島
2. イン・ザ・サン・アゲイン 3 ジュース feat. bonstar
4. 音楽
5. さよならプールボーイ feat. MGF
[SIDE C]
1. ザッピング feat. 髙城晶平(cero)
2. 卒業
3. 雨はやんだ feat. 尾崎友直
4. すべての若き動物たち HAIR STYLISTICS REMIX
[SIDE D]
1. 完全な夜の作り方
2. 熱帯低気圧
3. シックボーイ組曲
4. 町は光でいっぱい
- サニーデイ・サービス
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- サニーデイ・サービス
『DANCE TO THE POPCORN CITY』(LP) -
2018年6月13日(水)
価格:2,700円(税込)[SIDE A]
1. 泡アワー
2. 青い戦車
3. 冒険
4. イン・ザ・サン・アゲイン
5. 苺畑でつかまえて
6. 卒業
[SIDE B]
1. Tシャツ
2. 花火
3. セツナ
4. 音楽
5. 金星
- サニーデイ・サービス
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- サニーデイ・サービス
『the SEA』(2LP) -
2018年8月29日(水)発売
価格:4,212円(税込)
ROSE 228X[SIDE A]
1. FUCK YOU音頭
2. 甲州街道の十二月(石田彰 Remix)
3. 卒業(KASHIF Remix)
4. 熱帯低気圧(betcover!! Remix)
5. イン・ザ・サン・アゲイン(MURO Remix)
[SIDE B]
1. ジーン・セバーグ(荒井優作 Remix)
2. ジュース feat. bonstar(平賀さち枝 Cover)
3. 雨はやんだ feat. 尾崎友 (Have a Nice Day! Remix)
4. すべての若き動物たち HAIR STYLISTICS REMIX(MASONNA Remix)
5. さよならプールボーイ feat. MGF(原摩利彦 Remix)
[SIDE C]
1. Tokyo Sick feat. MARIA(VaVa Remix)
2. シックボーイ組曲(Ahh! Folly Jet Remix)
3. おばあちゃんのドライフラワー(鈴木慶一 Remix)
4. 23時59分 feat. MC松島(The Anticipation Illicit Tsuboi Remix)
[SIDE D]
1. 音楽(Fumiya Tanaka Remix)
2. ザッピング feat. 髙城晶平(cero)(藤井洋平 Remix)
3. 完全な夜の作り方(DJ MAYAKU Remix)
4. 町は光でいっぱい(CRZKNY Remix)
- サニーデイ・サービス
- プロフィール
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- 夏目知幸 (なつめ ともゆき)
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オルタナティブ・ロックバンド シャムキャッツのボーカル&ギター。千葉県出身。身長177cm。ソロでの弾き語りやコラムの執筆など個人としても活動。バンドとして、ニューアルバム『Virgin Graffiti』を11月21日にリリース。
- 天野龍太郎 (あまの りゅうたろう)
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1989年生まれ。東京都出身。音楽についての編集、ライティング。
- ラブリーサマーちゃん
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1995年生まれ 東京都在住の23歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。サウンドクラウドやツイッターなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム「#ラブーミュージック」、2016年11月には待望のメジャーデビューアルバム「LSC」をリリースし、好評を博す。可愛くて優しいピチピチロックギャル。
- ドリーミー刑事 (どりーみーでか)
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会社員。ブログ「ドリーミー刑事のスモーキー事件簿」更新中。2018年12月15日に関美彦、さとうもかを迎えた音楽イベント「Sons of Nice Songs Vol.2」開催予定。DJイベント「KENNEDY!!!」も定期的に開催中。
- 北沢夏音 (きたざわ なつお)
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1962年東京都生まれ。ライター、編集者。92年『Bar-f-out!』を創刊。著書に『Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂』(本の雑誌社)、共著に『青春狂走曲』(スタンド・ブックス)、『次の本へ』(苦楽堂)、『冬の本』(夏葉社)、『音盤時代の音楽の本の本』(カンゼン)、『21世紀を生きのびるためのドキュメンタリー映画カタログ』(キネマ旬報社)など。ほかに『80年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)の監修、山口隆対談集『叱り叱られ』(幻冬舎)の構成、寺尾紗穂『愛し、日々』、森泉岳土『夜のほどろ』(いずれも天然文庫)の企画・編集、『人間万葉歌 阿久悠作詞集』三部作、ムッシュかまやつ『我が名はムッシュ』、やけのはら『SUNNY NEW BOX』、サニーデイ・サービス『青春狂走曲』などのブックレット編集・執筆も手がける。
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