このままではカルチャーが死んでしまう
未だとどまることを知らない、新型コロナウイルスの感染拡大。この見えない敵による被害の余波は、私たちの文化にも大きな影響を及ぼし始めている。
ライブハウスで開催されるイベント、夜間から朝にかけて営業する接待飲食店などがクラスター発生源のひとつとされ、それぞれへの自粛要請だけがなされて、具体的な補償は未だにない状況——ただただ「3密」を回避し、外出もできる限り控えよという国や都からの言説の余波は、どこに向かうか。不安が煽られ、何の保障も約束もされない状況によって生まれているのは、ライブハウスやクラブの危機的状況だ。
言語化や体系化される以前の、人々の心を掴む表現の源泉が、その価値や存在を認識しているかどうかすら危ういと感じざるを得ない世間の言葉によって、まさにいま存続の危機に晒されている。「このままではカルチャーが死んでしまう」、多くの方が直感的にそう感じているはずだ。
とにかく「これは自律分散型を貫くんだ」と繰り返した。(いとうせいこう)
世界に目を向ければ、「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要」と大規模な支援を表明しているドイツを筆頭に、フランスや英国、アメリカ合衆国でも具体的な文化支援対策が急ピッチで進んでいる。じゃあ、僕らが「いまここ」でできることは何なのか? そこで、いち早く動き出したプロジェクトが『MUSIC DON’T LOCKDOWN』(以下、#MDL)だった。プロジェクトの発起人である、いとうせいこうは語る。
いとう:都知事による最初の会見でロックダウンの可能性を知り、その会見中に「絶対に何とかしなければならない」と思いました。もしロックダウンがあっても人の心が不安一辺倒になってはいけないし、エンターテイメント界の自粛による気持ちの落ち込みは防がねばならない、と。
そこで「MUSIC DON'T LOCKDOWN」というフレーズが浮かび、Twitterに発表した途端、DUB MASTER XやWatusiといった、友人たちを中心に意見が集まり、僕はとにかく「これは自律分散型を貫くんだ」と繰り返しました。プラットフォームの統一なども図られましたが時間もなく、それはプレイする人の都合でいいし、投げ銭があるかないかも各自によることが重要なのです。
いとう:モロ師岡さんや大宮エリーさんのいきなりの参加も大きかった。今も次々にジャンルの異なる人たちが参加を表明し、LINEグループの中で新しい企画がどんどん決まり、協力してくれる企業も出てきています。我々は音楽を封鎖しないし、笑いも封鎖しない。類まれなスピードで「ソフト」を届け続けます。
「MUSIC DON'T LOCKDOWN」ロゴ(サイトを見る) / サイトには各々の配信用に、ロゴのダウンロード、配信プラットフォームの一覧、配信手ほどきが掲載されている
語るより実行の方が先だ。(いとうせいこう)
いとうせいこうは、その根っこの発想について、#MDL始動前夜からこのようにも語っていた。
いとう:(一連の騒動は)動きが激しくて、日々状況が変わる。その中で、なかなか根本的なことを見定めるのは難しいんじゃないか。そんな状況においては、無料配信される音楽の方が実践的で、むしろそれこそ、みんなの不安を少しでも和らげることができる。
そういう無料配信の動きがあちこちであるけど、それらを支援するクラウドファンディングも始めるのがいい。問題はどこにどう配るかの指針で、それがまだ思いついていないのですが、そのことはTwitterで発信してみようかとも思ってます。「語るより実行の方が先だ」ということですね。
いとうせいこう本人のアカウントから44.7万のフォロワーへ実際に呼びかけられ、挙げられた手の中には、即座に呼応した彼の音楽仲間に混じり、新電力会社「みんな電力」があった。
国内トップの比率で再生可能エネルギーを扱う、みんな電力のネットワークから、ネット配信中にリアルタイムで投げ銭ができる「SHOWROOM」の配信プラットフォームが#MDLに加わり、「17 Media Japan」も続く予定だ。この動きが軌道に乗りさえすれば、誰もが気軽にどこからでも、シンプルに音楽を楽しむ気持ちで支援もできるようになる。
そうして実現した最初の配信は3月28日、29日の週末。その間にも参加メンバーとしてダースレイダー、東生亭世楽、小島よしお他、星野概念といとうせいこうの対談、宝生流宗家、タイの国民的スターStampなどなど、苦境に立たされた状況のなかから、ジャンルを超えてあらゆる表現が集結しつつある。
また、毎週末の配信には東京工業大学の中島岳志教授による連続講座『利他的であること』が組み込まれる。そして、配信に欠かせない機材について、歴史的に世界のデジタルミュージックを支えてきたオーディオインターフェースメーカーのRoland社も#MDLの支援を表明した。
今、近似のものとして「SaveOurSpace」というムーブメントも活発化している。ウイルス感染拡大防止のため営業停止となった文化施設への助成金を求める署名を集めており、当初の目標であった10万筆をゆうに超え、3月31日を過ぎた時点で、その数は30万筆に達している。音楽業界を救うべく、origami PRODUCTIONS主宰の対馬芳昭が自己資金2000万円を投じた、「White Teeth Donation」も大きな話題だ。
ここでカルチャーの火を絶やしてしまうか、むしろより一層この火を燃え上がらせ、それぞれが自律分散的に作り上げる未来までを照らし出せるか。僕らは今、歴史の大きな分岐点に立っている。
- プロジェクト情報
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- MUSIC DON'T LOCKDOWN
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音楽に関わる人々を「封鎖」せず、音楽を楽しむ人々同士を「封鎖」しないために、自宅で各自がプレイします。どうか音楽関係者のために投げ銭(クラウドファンディング)を!
毎週末配信される『MUSIC DON’T LOCKDOWN』出演者、タイムテーブル、配信プラットフォームなど、詳細はウェブサイトを参照ください。4月25日、26日には大規模な『巣ごもりSP グランドフェス vol.1 powered by 17』を開催予定。
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