昨年から「100年に1度の不況」と言われていた。その矢先「100年に1度の天災」がやってきた。あらゆる逆境の中で今、日本が活気を取り戻す契機はどこにあるのか。アートは、その答えのひとつになるかもしれない。5月20日から22日に開催されたアートフェア京都の空気を肌で感じ、率直にそう思った。
ホテルの部屋でアートを買う
2回目となる今回は、昨年に引き続きホテルモントレ京都の客室をギャラリーにして開催された。前回はワンフロアを貸し切って展示を行ったが、今年は4階・5階のすべてを使用し、2倍の規模にボリュームアップ。ホテル型としては日本最大のアートフェアとなった。全国から気鋭のギャラリーが60以上集結し、開催前から大きな話題を呼んでいた。
このフェアは、neutron、imura art gallery、mori yu galleryの3ギャラリーが協力して運営する。neutronの代表で、実行委員会を取り仕切る石橋圭吾氏に話を聞くと、イベントとしての成功だけを目指すのではなく「アートを街に根付かせること」を理念にしていると語ってくれた。「京都には古くから伝統工芸の産業があり、新しいものを生み出していく文化もあるため、芸術が根付きやすい土壌があります。国際的にも観光都市として知られていますし、歴史的古都というだけではなく現代アートの街でもあるというブランドが定着すれば、経済的に還元することもできる。京都にはそうした大きな可能性があります。アートフェアは、10年かけてその夢を達成するための一環だと考えています」
また、東京で行うアートイベントとの違いを伺ってみると。「東京にはなんでもありますし、イベントをすれば人も集まる。でもそれを地元の人々が注目しているか、アートに関心がない人も呼び込めているかというと疑問です。イベントが終われば忘れられてしまうような一時的な盛り上がりにも意味はあるかもしれませんが、僕たちが目指すのはそれじゃない。京都は人々のネットワークと繋がりが強いし、開催し続けることできっと根付くと信じています。市街地のホテルで開催したのも、多くの人が訪れやすくしたいという工夫のひとつです」
アイデアに満ちた展示空間が楽しめる
取材したのは開催初日である5月20日の金曜日。平日にもかかわらず、オープンと同時にホテルの2フロアはすぐ人だかりになった。人気ギャラリーはなかなか部屋に入れないほどの盛況ぶりで、来場者も学生らしき若者から年配の夫婦などさまざまだった。
入場料は2,000円に設定されているが、5,000円以上の作品を購入すると2,000円が割引されるというデポジットシステムが採用されていることも特徴的。ここにもアートを根付かせる=「見るだけで終わらない」というコンセプトが活かされている。来場者は「せっかく割引制度があるのだから、どれか買って帰ろう」という意識が働くのか、真剣な表情で作品と価格を凝視する姿が多く見られた。購入済みを示す赤いシールが貼られた作品が、初日にかかわらず多く見られたのも印象的だった。
特に人だかりができていたのが、奈良美智や村上隆など国際的にも著名な作家たちの展覧会を多数手がけてきた小山登美夫ギャラリー。担当の方は、「通常の大規模アートフェアよりも、作品との距離感がすごく近いのがおもしろいですよね。ホテルの部屋なので、実際に自分の家で飾ったらどう見えるかもイメージしやすい。来場者にとっては理想的な展示環境だと思います」とフェアの印象を話してくれた。
また、neutronは非日常的な雰囲気を持つ金理有の陶芸や、酒井龍一の日本画などを展示。そこがホテルであることを忘れさせるような幻想的な展示スペースを演出し、来場者の注目を集めていた。
「関西では最近立て続けにアートフェアが始まっているので、東京とは違う勢いを感じています。関東以外にもマーケットを広げたいと思って参加しましたが、予想以上の来場者ですね」と語るのは、MISA SHIN GALLERY。美術家の小沢剛氏による、大型の写真作品をベッドの上に置くという大胆な展示を行っていた。
MISA SHIN GALLERY photo:Nobutada Omote
昨年に続いて参加したGallery OUT of PLACEは、所属作家の関智生による個展形式での参加。昨年の経験をふまえ、狭い空間で効率的に作品を見せる工夫だ。「前回は複数名の作品を展示しましたが、スペースの問題でボリューム感が出せなかったのが反省点でした。そこで今年は、今イチオシの関のみに絞ると決め、彼の作風に合わせて暗い色の部屋を選びました」。
限られたスペースでどう展示するのかは、各ギャラリーの腕の見せどころ。部屋によってはユニットバスや窓まで使用したり、ベッドの配置を変えるなどさまざまだった。アイデアに満ちた展示空間を体感できるのも、ホテル型フェアの楽しみかたのひとつ。
海外ギャラリーが語る日本の文化
絵画や写真だけでなく、映像インスタレーションを上映していた&ART(株式会社フィールド)をはじめ、京都を拠点とする出版社の株式会社青幻舎は過去に出版した写真集を販売。
ファッションで知られる株式会社ビームスのアート部門・TOKYO CULTUART by BEAMSも参加し会場を賑わせていた。
グンゼ株式会社はアーティストとのコラボレーション下着を展示するなど多彩な作品が会場を彩った。
グンゼ株式会社/BODY WILD photo:Nobutada Omote
また、海を越えて訪れたギャラリーもある。「アジアで行われるアートフェアは、興味のある人しか来ないのが通説。でも今回はホテルという開かれた場所で行われていて、誰でも気軽に来られるのが面白いですね」と話すのは、韓国のgallery4walls。日本と同じくアート文化の定着に苦心する状況にありながら、古都・京都で開かれるイベントに新しい可能性を感じているようだった。
フランスからやってきたActe2galerie & Art~scène3では、日本との違いに関してこんな話を聞くことができた。「欧米にはアートを持っていない人はひとりもいません。それは家が大きくて壁が広いため、なにか飾らないと寂しいから。日本は家が狭く、押し入れや砂壁が多いから、アートを飾る習慣が今までなかった。生活文化の違いですね。最近は状況がかなり変わって来ていますが、特に写真のコレクターは日本にはまだほとんどいません。私たちは優れた写真作品をたくさん扱っているので、ぜひみなさんに知ってほしくて来ました」。
来場者からは「行きたかった東京のギャラリーを、地元で見れるのが嬉しい」「たくさんの作品を一度に味わえて楽しかった」などの声が多く聞かれた。Twitterでは開催3日間で400件以上の関連コメントがツイートされ、「人が多すぎてゆっくり展示を見れなかったのが残念」といった意見もあったものの、盛り上がりの一端を顕著に表していた。
関西から日本を盛り上げるために
「日本全体が大変な状況にある今、西日本の底力が試されているという責任感もあります。参加ギャラリーのみなさんも同じように『なんとかしたい』と感じている。このフェアは京都に新しいマーケットがあることを示す試金石で、関西から日本を盛り上げるチャレンジなんです」
この石橋氏の言葉は大言壮語ではない。それほどアートフェア京都は熱気と今後の可能性に満ちていた。関西だけでなく、これからもアートイベントは各地で予定されている。もし少しでも興味があれば、まずは一度足を運んでみてほしい。そうすれば、アートの現場にたぎる熱量と、ナマで見る作品の訴求力に、きっと圧倒されるはずだ。
『アートフェア京都2011』
※すでに終了しているイベントです
2011年5月20日(金)〜5月22日(日)
会場:京都府 烏丸 ホテルモントレ京都 4階、5階フロア
時間:11:00〜19:00
料金:3日間通し券2,000円(ただし作品購入時に入場料分を返金(購入額5,000円以上から適用))
アートフェア京都2011 モントレホテル京都 | ART FAIR KYOTO 2011 in Hotel Monterey
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