杉山:勇吾さんの手がけたサイトには、必ずどこかに「驚き」もありますね。
中村:それは関西弁でいうところの「イチビリ」ですかね。まじめに考えれば、そのサイトにとっての「適正なデザイン」に辿り着くとは思うんですが、それだと面白くないというか、自分が関わったという爪痕を残したいというか、スケベ心はあります(笑)。
杉山:でも、そのスケベ心は大切ですよね。うちの「デジタルコミュニケーションアーティスト専攻」(DCA専攻)の名称も、本当はアーティストじゃなくてデザイナーでいいはずなんです。それでも敢えて「アーティスト」にしたのは、若い人に対して「もっと自分なりの表現をしていいんだ!」っていうのを強く言いたいからです。「クライアントの希望を叶えつつ、それよりもうちょっといいところを目指そう!」みたいな、手堅い勉強だけで固めたくない。今日の話のように、科学少年が大学での勉強から新しい方向性に進むことが、もっとあっていいと思うんです。何より、長く続けるためには自分の仕事を好きでいてほしいから。
中村:「私はデザイナーです」って名乗るときは、自分の職能を伝える感じですよね。対して「私はアーティストです」っていうのは、自分のスタンスを表明しているように思いますね。両者はよく比べられるけど――3日にいっぺんくらい世界のどこかでその話になる(笑)――大体よくわからない議論になって終わるんです。僕はデザイナーだけど、クライアントの希望に100%沿って考えるタイプではないし、自分の仕事は、自己の表現として捉えています。とはいえ、自分がアーティストと言うことはないです。それは単純に、職能としての表明はするが、スタンスとしての表明はしない、そういう選択を僕はしている、ということです。
―スタンスを持って職能をまっとうする、という姿勢があっていいということですね。
中村:まぁ現実は厳しくて「俺はこれから3日間、何も考えずに動き続けるロボットと化す!」とブツブツいいながら仕事しているという時もありますけどね(笑)。それは巡り会いだから。
杉山:勇吾さんとthaは、自分たちでもユニークなプロジェクトを色々手がけていますよね。好みの画像を登録・共有し合えるウェブサービス『FFFFOUND!』や、スクリーンセーバーのレーベル『SCR』などもそうでしょう?
中村:最近は、『FRAMED*』という、デジタルアート作品を再生する「額縁」の開発を進めています。自分たちが慣れ親しんでいるようなインターネットベースの表現を、もっと日常の空間の中で普通に飾ったりできたら、とずっと思っていて、待っててもなかなか出てこないので、それだったら、自分たちで作ってみるか、と(笑)。2月上旬発表予定で、作品は色々なクリエイターによるものが、ネットから自由に購入できます。操作は専用のiPhoneアプリを使う形で、インタラクティブな作品もあります。
『FRAMED*』
tha ltd.が開発したプロダクト。ソフトウェアアート/ウェブアプリケーション/映像/モーショングラフィックといった様々な形式の表現を、暮らしの中で日常的に体験できるようデザインされた「額縁」。『FRAMED*』には写真、グラフィック、映像、音楽、インタラクティブなど、ジャンルを超えた作家達の参加が予定されている。
杉山:おぉっ! これはすごくいいですね。
中村:thaの自社プロジェクトは、たいがい誰かが突発的にやりたい! となったものや、単純に自分たちが欲しい! と思うものを作ることが多いです。それがみんなのプラットフォームになれば、もちろん嬉しいですね。
杉山:学校のエントランスに設置して、学生たちの作品を見せたりできるとよいですね。発売開始したら、ぜひ教えて下さい。
中村:ちなみにDCA専攻というのは、どういった内容なんですか?
杉山:DCA専攻は、ウェブやスマートフォン、グラフィック、AR、デジタルサイネージなどをまとめて総合的に扱うコースで、2011年に開講しました。主に初心者を対象にした全日2年制と、経験者中心の全日1年制があります。最終的には、これからのソーシャルメディア時代に必要になってくるであろう、新たなコミュニケーションと広告をクロスメディアで生み出せる次世代デザイナーの育成をしていきたいんです。授業の中では、インスタレーションみたいな作品とかを作っちゃう子もいる。それにもすべてデジタルがつかわれていて、表現領域が広がっています。
中村:そうなんですね。教育の話でいうと、僕もたまに美大で講師をします。で、何というかこう、「自分も通いたいなぁ…」とか普通に思うんですよね(笑)。技術習得ももちろんだし、適度にお尻を叩かれつつ、適度に枠を与えられて学べる環境ってけっこう貴重ですよ。デジタルハリウッドさんは働きながら通えるのもいいですね。「忙しいからもう、仕事をやめて1人でじっくり勉強や創作したい!」とか思っても、それを敢行できる人は少ない気がしますから。
杉山:いまDCA専攻で勉強している学生たちは社会人が多かったり、アナログで絵を描くのが好き! という人が仕事に結びつけるために通っていたり、多彩で面白いですよ。あと、クラスのムードメーカー的存在が全体を引っ張る中で、グワーっと全体に新しい動きが生まれたりする。それこそコミュニケーションで、皆で学ぶ価値は大切にしていきたいですね。
中村:学びつつ仕事の成果も上げる、という点にはすごく興味があります。佐藤雅彦さんの『ピタゴラスイッチ』も、慶応大の研究室で学生が学びつつ、発表している。あれだけのものを出し続けるには時間と労力がたくさん必要だから、学生たちの力が大きいんでしょうね。ただスキルアップするだけじゃなく、それを世に出す多少のプレッシャーもありつつ、というのがいい。いまNHKで『デザインあ』というTV番組に関わっていて、僕らもそういうことがラボ的なチームでできないものかと、よく考えますね。
杉山:デジタルハリウッドでは、ウェブ 業界、映像業界をはじめ、さまざまな企業や自治体からの課題をもとに、制作を行なうワークショップ型プログラムのOJT(実際の仕事を通しての指導・習得)も多いんです。大人が通う学校なので、あくまで本人たちの意思を尊重して、やりたい人を募る形で行っています。DCA専攻では映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の宣伝用インタラクティブコンテンツや、六本木メルセデス・ベンツ・コネクションで開催された合同展示会場の演出映像を制作したり、ミュージシャンのミュージックビデオ作りに関わる人などもいますね。
中村:いまさらの質問ですが、デジタルハリウッドさんは組織としてはどういう位置付けなんですか?
杉山:もともとは大学でも専門学校でもない、社会人向けにデジタルコンテンツ制作の教育を行う「専門スクール」という形でサービスを提供してきました。その後、構造改革特別区域法というのを受けて、大学・大学院も設立しました。ともあれ、ひとことで言えば勇吾さんみたいな人材を生み出せる場所を作りたかったんですよ。先ほどの話のように、デザインもエンジニアリングもバランスよく見渡せるような、ね。
中村:ありがとうございます(笑)。でも、その難しさは大学でもよく言われてますね。もともと絵やグラフィックが好きな人が「プログラミングもできた方がいいのかな?」くらいの感覚で学び始めても、なかなか難しい状況があるようです。
杉山:確かにそうですね。でもDCA専攻では色んなバックボーンを持った人が集まっているから、最終的には各々の得意分野を知り、皆でコラボレーションしてくれるのもいいと思ってるんです。小さなユニットを組むことから出発してくれてもいいなと。
中村:いいですね。僕も入っちゃおうかな(笑)。
杉山:(笑)。近々ぜひ、ただし講師としてね。
『本科 デジタルコミュニケーションアーティスト専攻』(DCA専攻)について
<ソーシャルメディア時代の新たなコミュニケーションと広告を生み出せる次世代デザイナーへ。>
ソーシャルメディアの普及とWeb技術の発展は、あらゆるメディアを旧来の枠から解き放ちました。PC上のWebだけでなく、スマートフォンやARアプリ、映像、デジタルサイネージなど、技術の進歩で生活者の周りには情報があふれ、企業からのメッセージは今までの方法では届かなくなっています。そんな環境の中、広告やCMは、新しいカタチへ生まれ変わろうとしています。「どんな技術を」「どう組み合わせて」生活者との新しいコミュニケーションをデザインするのか、次世代の広告デザイナーには『クロスメディア』で提案する力が求められています。今、国内で最も実践的なコミュニケーションデザインを学ぶコースです。
目指すゴール
1. 次世代コミュニケーションのクロスメディアデザイナー
Webとグラフィックデザインをベースとして、本格的な映像技術と、スマートフォンアプリやSNS連動企画、プロジェクションマッピングなどに応用できる即戦力デザイナーを目指す。
2. ソーシャルメディアを駆使するクリエイティブディレクター
TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを活用し、クライアントのニーズに応えられる広告・ブランディングを展開できる即戦力のデザイナー・ディレクターを目指す。
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