映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界
国内外のアーティストによる刺激的な作品が東京都写真美術館で展示・上映される『第4回 恵比寿映像祭』。東日本大震災の発生後に企画されたという今年の映像祭は、「映像のフィジカル」をテーマに例年より会期を5日間増やして開催されます。ディレクターの岡村恵子氏の言葉を借りるなら「映像によって何が語られているかを問うのではなく、どのように提示され、受容されているかという観点から、映像本来の豊かさに立ち返る」ことが今回の狙い。抽象的な奥深さを模索することはもちろん、観る側の身体性に訴えかけてくる映像を「体感」できることも特徴です。映像論に詳しくない初心者も十分に驚きと発見を楽しめる、見どころの多いフェスティバルになっています。このたび2月26日まで開催されている映像祭の展示作品に焦点を当て、その魅力をレポートします。
テキスト:宮崎智之(プレスラボ) 撮影:菱沼勇夫
「物質性」と「身体性」から映像を考え直す
今回のテーマは「映像のフィジカル」ですが、一言で「フィジカル」といっても、そこには「物質性」と「身体性」というふたつの側面が内包されています。物質性は、映像の機材や制作方法に焦点を当てる切り口で、身体性は映像を受容する私たちの体感を指します。つまり、映像を映し出し、さらにそれを受容するまでの「フィジカリティ」に着目して、メッセージ性だけでなく物質・身体の両面から映像を見直そうとしていく試みなのです。
まず、物質性についてユニークな視点を加えた作品として紹介したいのが、カロリン・ツニッスとブラム・スナイダースのオランダ人コンビによる『RE:』です。
カロリン・ツニッス&ブラム・スナイダース『RE:』
ビルなどの物体に映像を投影する「プロジェクション・マッピング」の手法を用いた作品ですが、今回彼らが映像を投影したのは、映像を物体に放つ「張本人」であるはずのプロジェクターでした。鏡の反射を利用して、プロジェクターが放つ映像をプロジェクター自身に映すというループ的要素が興味深いインスタレーションとなっています。
プロジェクターが溶解するかのように見える波線を映すことで、固形物としての物質性に対し、シニカルな視点を加えていることにも注目したいところ。本体の下側にも映像が映っているので、腰を屈めて覗き込んでみてください。「フィジカル」がテーマだけに、身体をいろいろと使って観賞すると面白さが倍増します。
さて、次に紹介したいのは、私たちが持つ身体性を増幅させる体験型の作品。本作を体験するだけでも足を運ぶ価値があるような、衝撃的な作品となっています。
エキソニモ『The EyeWalker(ジ・アイウォーカー)』
『The EyeWalker(ジ・アイウォーカー)』は、日本人アートユニット、エキソニモによる作品。屋外のパブリックスペース周辺に、ボックスのようなモニタがいくつも設置され、そのモニタには備え付けのカメラで捉えた映像が映し出されています。参加者は、同じく屋外にある体験ブースのなかから、広場にあるモニタに視線を合わせると、特殊な装置が瞳孔の動きを感知して、そのモニタのカメラの視線が、そっくり自分の視線になる仕組みとなっています。言葉で表現すると難しいので、ぜひ実際に操作してみて頂きたいのですが、体験しているうち、ふと作品に込められたメッセージに気がついて戦慄する瞬間があるでしょう。メッセージをフィジカルのレベルにまで落とし込むことに成功した、見事な作品だと言えます。
エキソニモ『The EyeWalker(ジ・アイウォーカー)』
宮崎智之(プレスラボ)
1982年3月生まれ。ライター。東京都福生市出身。地域紙記者を経て、現在、編集プロダクション「プレスラボ」に所属。ダイヤモンドオンラインや日経トレンディネット、月刊サイゾーなどで執筆中。社会問題系を得意としているが、文学やアートにも興味があり。
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