那覇空港から車で30分程度、沖縄本島南部東海岸に位置する南城市をご存知でしょうか。美しい海や緑豊かな大自然はもちろん、古の文化が色濃く残る、沖縄でもオンリーワンなエリアです。首里城から見て太陽の昇る方角に位置するため、かつて栄えた琉球王国にゆかりの深い史跡や聖地も多く点在し、普段私たちがよく知っている「南国リゾート」だけではない、沖縄の奥深い魅力を知ることができます。
そんな南城市を、雑誌『あお』を監修・創刊するなど、様々な角度で文化に感度の高いモデルの青柳文子さんと、2日間じっくり歩いてみました。見どころの多い南城市でも、神の島「久高島」や、世界遺産の「斎場御嶽」など、外せないスピリチュアルなスポットを中心に、ビーチやカフェ、おみやげ屋さんなど、女性に嬉しいお立ち寄りスポットを厳選。旅の経験も豊富な青柳さんならではの独特な感性と表現を通して、何が見えてきたでしょうか。
沖縄らしいコバルトブルーの海に心を奪われて……
私たち南城市探検隊がまず向かったのは、神話の島「久高島(くだかじま)」。沖縄本島の南部東海上に浮かぶ周囲8キロメートルほどのこぢんまりとした島です。
久高島には、知念安座真港からフェリーに乗って30分ほどで行くことができます。フェリーを待つ間、港に隣接する「あざまサンサンビーチ」に足を延ばすと、もうそこには透明度の高いコバルトブルーの海が! さっそく青柳さんの笑顔が弾けます。
青柳:すごくキレイなブルーで、3月とは思えない!(笑) 沖縄にやって来ましたね!
テンションが急上昇して撮影にも力が入る南城市探検隊、見事にフェリーを乗り逃してしまいました……。でも、大丈夫! そんな時は海上タクシーを利用して久高島へ行くこともできるのです(少し運賃は高くなりますが……)。
沖縄で最も崇高な聖域、神話の島「久高島」
久高島は、琉球民族の先祖神「アマミキヨ」が降り立ち、琉球の国造りを始めたと伝わる、沖縄で最も崇高な聖域と言われています。港で船を降りてすぐのお食事処「さばに」で自転車を借りて、久高島探検へ出発です。
久高島でまず訪れたのは、東側の海岸「いしき浜」。琉球に伝わる、海の彼方にあると信じられていた桃源郷「ニライカナイ」に通じる浜とされ、来訪神の舟が停泊するとされる神聖な浜です。
青柳:私は旅行をするのが好きで、アジアやヨーロッパを周ったりしました。最近はなかなか行けていなかったんですけど、こうやって久高島に来ると、異国の地を一人でぼーっと歩いていた旅の感覚を思い出しますね。勝手にインスピレーションが降りてくるこの感覚、とても好きです。
何百年も変わらない原風景を歩む青柳文子の変化
港や集落のある南部から北端を目指し、原初的な亜熱帯の植物に囲まれた一直線の道をレンタル自転車で北上。途上、ふと青柳さんがつぶやきました。
青柳:車で行くよりも、自転車に乗って、暖かな島の空気を切っていくのが気持ちいいですね。何百年もずっと変わっていなさそうな風景を満喫できます。あと、ジョージ朝倉さんのマンガ『テケテケ★ランデブー』を思い出しました。離島を舞台にしてるんですが、こういう素朴な場所で得られる発想ならではというのが、何となく分かる気がします。
沖縄には「御嶽(うたき)」という、神様が降臨すると言われる聖地が909か所点在しています。御嶽は沖縄県民の信仰のよりどころで、寺社仏閣のような社や像は一切なく、一見すると岩や木のみのただの「空間」。外部の人にはそこが「御嶽」だということがほとんど分からないので、沖縄ではむやみやたらに森や山に立ち入ってはいけません。我々は、久高島出身のガイド・内間さんと一緒に「アグル嶽」を訪ねました。
青柳:御嶽っていうんですね……言葉にできないほど厳かですし、大自然がすごいですね。ガジュマルを始め、生命力に満ちていて、ものすごいエネルギー、生のパワーをもらっている気がします。島に来るまで調子が悪かったお腹も、すっかり良くなり、元気になっちゃいました(笑)。
実はこの旅の前、急性胃腸炎に冒されてしまった青柳さん、たしかに沖縄に来てから、みるみると表情が元気になっていきます。どんどん御嶽の奥に進もうとする青柳さんを制しつつ、島の最北部「カベール(はびゃーん)」にやって来ました。アマミキヨが最初に降り立ったという伝説の岬で、先祖の魂が宿る聖域です。
青柳:泳いでもいいですか?(笑) 本当にきれい……日本の海とは思えないですね。360度ずーっと、水平線と地平線がつながっているみたい。何だか楽しくなってきました。海岸のゴツゴツした岩場で隠れんぼしたり、のんびりお弁当食べてみたいな!
「『豊かさ』とか『本当に大事なこと』が何なのか、改めて教えてもらった気がします」
1時間強ゆるりと島を巡って集落へ戻る道すがら、青柳さんに久高島の感想を訊いてみました。
青柳:私に霊感はないですけど、神聖な島だというのはよくわかりますね。岡本太郎が久高島に行って作風が変わったという話も聞きましたが、それも納得するくらい印象的な島です。東京には何でもあるけど、いつも必死ですよね。地位とか見栄のためだけに生きてるんじゃないかって思えてくるくらいに。でも、この久高島には余計な情報も無く、生きていく上で、最低限必要なことーーたとえば、ご飯を食べて、人とつながるという、素朴な生活がありました。私自身、東京でもっとチャレンジしたいという気持ちと、家族や身近な人を大事にしたいという気持ちの間で常日頃揺れ動いているのですが、「豊かさ」とか「本当に大事なこと」が何なのか、改めて教えてもらった気がします。
集落で帰りのフェリーを待つ間、港のすぐ近くにある食堂「とくじん」で、琉球王国の宮廷料理としても知られるウミヘビの「イラブー汁」をいただきました。お椀を開けた青柳さん、ビックリしたご様子。
青柳:ウミヘビというか……ヘビそのものですね……(苦笑)。た、食べてみます!
青柳:あっ、見た目はちょっとエグいけど、身がしまっててツナみたい。栄養たっぷりって感じですね。意外と皮が美味しいです。何だか大人になった気がします(笑)。
「童話やファンタジーの世界に迷い込んでしまったようで、ちょっと怖いかも(笑)」
沖縄南城市での2日目、最初に訪れたのは「ガンガラーの谷」です。サンゴ由来の鍾乳洞が崩壊してできたという谷間を、約80分専門ガイドと巡るツアー(要予約)に参加しました。
まず目についたのは「巨竹」。文字通り、国産の竹の数倍はある太さ・高さ。これならたしかに、竹の中にかぐや姫が入っていてもおかしくありません。
亜熱帯特有のおどろおどろしい植物が、一種異様な世界観をかもしだしています。
青柳:うっそうとしたジャングルで、なんだか妖精でも出てきそう……。童話やファンタジーの世界に迷い込んでしまったようで、ちょっと怖いかも(笑)。
谷内には命の誕生を願う洞窟(イナグ洞、イキガ洞)も存在し、昔から多くの方が祈りをささげに訪れています。「イキガ」とは沖縄の方言で男性という意味で、ツアーでは洞窟の中に実際に入って、御神体を拝むことができます。
そして、ガンガラーの谷で一番人気は何といっても高さ20メートル「大主(ウフシュ)ガジュマル」です! 沖縄でも稀に見る、想像を超えた存在感。しかしながらこのガジュマル、樹齢はまだ150年ほどというから驚きます。写真におさめ切れないその計り知れない生命力に、人間の小ささを否応なく感じさせられます。
青柳:もう何か、すごすぎてわけわからないですね……。悪いことしたら、絡め取られちゃいそう(笑)。
ワクワクが止まらないツアーの後は、洞窟をそのまま利用した「ケイブカフェ」でコーヒーブレイク。この洞窟は古代人居住跡の可能性から発掘調査も行われており、約2万年前の具器や人骨化石が発見されています。風化サンゴで焙煎した豆による「35コーヒー」がおすすめです。
コーヒーを飲みながら、青柳さんに1問。最近では宝島社からご自身の雑誌『あお』を発行するなど、モデルの範疇に収まり切らない文化的な活動を展開している青柳さんの感受性は、どこで培われたのでしょう?
青柳:ここ数年、自分の感受性が薄くなっていると感じていたんです。何というか、都会で器用にやることに慣れてしまったというか。例えば以前は、満員電車が本当に嫌で、イヤホンで音楽を聴いていないと乗れなかったんですけど、今はもう音楽無しでも普通に乗れるし、何も感じなくなっている。中学生の時に北海道に移り住んだことがあるのですが、その頃の自分だったら、沖縄に降り立った瞬間、鳥肌が立っていたと思うんです。今回の旅は、忘れつつあった感受性を思い出させてくれました。
世界文化遺産「斎場御嶽」で知った、驚きの事実
次に向かったのは、世界文化遺産に登録される「斎場御嶽(せーふぁうたき)」です。その前に、近隣の「南城市地域物産館」で入場チケットを購入。帰りに立ち寄って、お土産用購入にも便利です。この日は運良く、沖縄でも大人気の南城市ご当地ゆるキャラ「なんじぃ」が、よんなーよんなー(ゆっくりゆっくり)でお出迎えしてくれました。
久高島と双璧をなす琉球王国最大の聖地「斎場御嶽」は、琉球民族の祖先神「アマミキヨ」が、天帝から命を受けて創った七御嶽の1つです。沖縄にある909の御嶽の中でも最高峰に位置づけられ、2000年に「琉球王国グスク及び関連遺産群」の1つとして世界遺産に登録されました。
まずは、6つの香炉が置かれた入口「御門口(うじょうぐち)」にて、しっかり拝んでから、敷地内に足を踏み入れます。ここは(後に出てくる衝撃的事実が隠された「久高島遙拝所」ではない、本来の)「久高島遙拝所」を兼ねており、数キロメートル先には久高島を望めます。
白い石の山道を歩くと、最初の拝所「大庫理(うふぐーい)」が見えてきます。大広間や一番座という意味で、神事や儀式を行う場所です。斎場御嶽で最も大きな行事が、琉球王国最高位の神女「聞得大君(きこえおおきみ)」の就任式である「お新下り」でした。聞得大君は主に王族の女性が任命され、初代から15代までの約400年余りにわたって琉球王国の神事を担っていましたが、琉球処分(琉球王国を廃し、「琉球藩・沖縄県」として日本に併合した)で潰えたと考えられています。
「大庫理」でお祈りを捧げた青柳さん、何をお祈りしたのでしょうか?
青柳:自分に対しての決意、ガンバります……というような気持ちでお祈りしました。東京では、お祈りをする機会はほとんどないですよね。我に返らせてくれるというか、何か喉元まで込み上がってくるような、不思議な感じがしました。
山道を先に進んでいくと、斎場御嶽で最も神秘的にして荘厳、霊験あらたかな拝所「三庫理(さんぐーい)」が姿を現します。2つの鍾乳石が自然に寄り添ってできた巨大な三角岩の先にある空間なのですが、その神秘的で圧倒的な佇まいは、ただただ圧巻……。
三庫理に入ると、右手には拝所「チョウノハナ」があります。これは十数メートルもある巨岩で、岩の向こうに死後の世界があると考えられていました。そして、チョウノハナを背にした三庫理の左手には、有名な「久高遙拝所」が開け、久高島を眺めることができます。しかしここで衝撃的な事実を、ガイドの方から教わります。
実はこの久高遙拝所、太平洋戦争時の艦砲射撃で岩壁が吹き飛んだことでできたそう。つまりかつての三庫理は閉ざされた空間で、重要な拝所は右手のチョウノハナだったのです。
青柳:戦争の爪痕が、こんなところにも残っているんですね……。この場所もやはり神秘的な空気感に包まれていますが、岩の向こうに死後の世界があるという発想自体にも驚きました。今では何もかも科学が先にあるから、そういうイメージを抱くことすら難しいですよね。昔の人の想像力は本当にすごいと思います。
奇岩が並ぶ「新原ビーチ」で野生を取り戻した青柳文子
さて、厳かな時間を過ごした後は、絶景カフェで爽やかなランチタイムです。大人の時間を過ごせる「Cafe やぶさち」は、標高およそ70メートル、見晴らし抜群のロケーションが自慢です。フレンチ / イタリアンをベースにした豊富なランチメニューと、有名店で経験を積んだパティシエによるスイーツなど、いずれも格別の一言。南城市には今、こうした絶景カフェが増えているそうです。
青柳:パスタもおいしかったですが、私は「さとうきび酢とブルーベリーのドリンク」がお気に入りです。優しい酢の風味は、ヘルシーそのもので、内側から健康になる気がしました。
そして、Cafe やぶさちのすぐ下に広がる、「百名(ひゃくな)ビーチ」と、石灰岩の浜でつながる「新原(みーばる)ビーチ」へ。遠浅の海が約2キロメートルに渡って続く天然の浜で、人工ビーチにはない沖縄の素朴な風景が残っています。
3月中旬のこの日は、気温26度の夏日。海開きを控えたビーチには、夏を待ちきれない多くのビジターが、本土より一足お先に、シュノーケリングやグラスボートなどのマリンアクティビティーを楽しんでいました。隆起サンゴの奇岩たちが何とも印象的なビーチです。
青柳:関東の黒い海とは比べ物にならないほど美しい透明な水に見入っていたら、波で靴が濡れちゃいました。おかげで裸足になって、開放されました。野生に戻れた気がします(笑)。水も全然冷たくなかったですよ。もう泳いでる人もたくさんいますしね。楽しそう……私も今すぐ泳ぎたいな。
そして、旅もいよいよ大詰め。最後は、橋で繋がった離島・奥武島(おうじま)にある行列のできる名店「中本天ぷら店」で、「うちなー(沖縄風)天ぷら」をいただきます。名物「もずく天ぷら」をほおばりつつ、地元の島猫たちとゆるりと戯れ、癒される青柳さん。
青柳:本土の天ぷらと全然違ってびっくりです。厚くて黄色い衣自体に味がついていて、とってもボリューミー。2つも食べたらお腹いっぱいになっちゃいました。
「感覚や感受性を鋭くして、色んなことからインスピレーションを得て、それを自らの表現につなげていかないといけない」
さて、駆け足でレポートしてきた沖縄南城市、いかがだったでしょうか。なかなか1つの記事で伝え切るのは難しく、今回はごく一部しか訪ねることができませんでしたが(取材後に行った温泉も素晴らしく絶景でした……!)、那覇からすぐ近くに、こんなにも多くの名所や体験を備えるエリアがあったという意外な事実。旅を終えた青柳さんに、改めて感想を訊いてみます。
青柳:すごく楽しかったです! 沖縄の中でも特にスピリチュアルな場所が多い地域なんですね。そのお陰で、自然や風景が昔のまま残っていて、本来の自分に立ち返ることができたように思います。今回の旅で改めて思ったのは、やっぱり私は「野生でいたい」ということ。最近になってようやく「何かを表現したい」と思えるようになってきたし、これが自分にできることなんだとわかってきたんです。雑誌を作って情報を発信したり、女優としてお芝居をする機会も増えてきて、青柳文子としての表現について考えることが多くなりました。そのときに、「やらされてる」ようでは絶対にダメで、全ては「自分次第」なんですよね。周りには、すでに自分のアイデンティティーを確立していて興味のある分野を掘り下げていくような人たちが多いですが、一方で、私の仕事はもっとたくさんの人に向けて「伝える」ことだとも思っています。だから、そういうたくさんの普通の女の子に向けて、自分がいいと思うもの、好きなものを知ってもらうきっかけを作っていきたい。そのためには、感覚を研ぎ澄ませて、色んなことからインスピレーションを得て、それを自らの表現につなげていかないといけないし、そのことを、今回の旅ではっきりと感じさせてもらいました。
- 書籍情報
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- 『e-MOOK 青柳文子マガジン あお』
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2015年2月26日(木)発売
価格:1,296円(税込)
発行:宝島社
- プロフィール
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- 青柳文子 (あおやぎ ふみこ)
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1987.12.24 生まれ。大分県出身。ファッションモデルの傍ら女優業もこなす人気青文字系モデル。独創的な世界観とセンスで20代全般の同姓からの支持が高い。雜誌の他、映画、TVドラマ、バラエティ番組、アーティストMVと多方面で活躍中。企業商品プロデュースや執筆業など様々な分野で多彩な才能を発揮している。
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