大橋トリオの新たなるスタート

大橋トリオと言えば、ジャズを基調としたアコースティックなポップスのイメージが強いが、オリジナルアルバムとしては1年3か月ぶりとなる新作『plugged』のテーマは、なんと「ロック」だという。「これまでの区切り」と本人が語っていた前作『White』、年末年始のテレビ出演などを経て、大橋トリオはこれからどこへ向かおうとしているのか? CINRAでは大橋トリオのメジャーデビュー以降、フルアルバムのリリースごとにインタビューを敢行してきたが、今回はその中での発言を振り返りつつ、『plugged』という作品が持つ意味と、大橋トリオの今後を検証してみようと思う。

年末年始の音楽番組出演を経て、攻めのモードに突入

昨年の年末から年始にかけて、大橋トリオの姿をテレビの音楽番組で見かけたという人はきっと多いのでは? まずは12月5日にフジテレビで放送された『FNS歌謡祭』、「一夜限りのコラボレーション」という番組のコンセプト通り、平井堅と共に出演。てっきり、昨年9月にリリースされた『White』の中で二人がコラボレートしている“東京ピエロ”を披露するかと思いきや、演奏したのは平井堅のオリジナル“告白”で、大橋はピアノのみの参加と、大橋トリオのファンとしてはちょっと残念な結果に。とはいえ、AKB48やEXILE、ゴールデンボンバーらとの並びで見る大橋トリオというのも、なかなか新鮮な見え方ではあった。まあ、ビジュアルに関しては肩にオウムを乗せた平井堅に完全に持って行かれたという後日談もあるのだけど(笑)。

もう一本、1月26日にNHKで放送された『SONGS』にも出演。こちらではくも膜下出血による入院で病状が心配されたものの、順調に回復に向かっている星野源、箭内道彦がバックアップする高橋優と共に、「今年ブレイク確実と話題になっている男性ボーカリスト」としてフィーチャーされていた。そして、そんな注目度の高まりと呼応するかのように、大橋トリオ流の「ロック」をコンセプトに掲げたニューアルバム『plugged』を3月13日に発表。2010年から昨年までの過去3年間、3月はカバーアルバム『FAKE BOOK』シリーズがリリースされていたので、そのサイクルを断ち切ってのオリジナルアルバムのリリースというのは、大橋トリオが改めて攻めのモードに入ったような印象を受ける。

映画音楽やCM音楽を主に手掛けてきた大橋好規が、シンガーソングライターの大橋トリオとしてインディーズデビューを果たしてから、早5年以上の月日が流れている。デビュー作『PRETAPORTER』に続いて発表されたセカンド『THIS IS MUSIC』で、いきなり『第1回CDショップ大賞』の準大賞を受賞し(その年の大賞は相対性理論、大橋ともう1組の準大賞はPerfumeだった)、ミニアルバム『A BIRD』でのメジャーデビュー以降、CINRAではアルバムのリリースごとにしつこく大橋を追い回して、これまで計4回のインタビューを実施。基本的には裏方志向で、シャイな性格の大橋の人物像を何とかあぶりだそうと躍起になってきた。

その結果として見えてきたのは、どこか飄々としているように見える大橋の強烈なミュージシャンシップだった。小さい頃から親の影響で音楽に囲まれて育つ中、ギタリストの吉川忠英によってプロミュージシャンのかっこよさを知り、音大でジャズ仲間に囲まれて生活する中で、いかに他人と違うことが重要であるかを学び、アメリカで見たダイアン・リーヴスの素晴らしいライブを心に刻んで、ひたすらに「本物の音楽」を追求すること。この5年間で、大橋トリオはそれだけを見つめ、アコースティックだったり、エレクトロニックだったり、カバーだったり、コラボレーションだったりと、手を変え品を変え10枚の作品を発表してきた。そして、憧れの存在である矢野顕子との共作を実現させた『White』で、一度自身の作風を白紙に戻し、そこからの第一歩として生まれたのが、今作『plugged』というわけなのだ。

大橋トリオが次にやりたかったこと

では、ここからは過去にCINRAで行ったインタビューでの発言も交えつつ、「ロック」と銘打たれた『plugged』という作品の持つ意味を検証していくことにしよう。まずは、前作『White』のインタビューで交わされた、こんな会話から。

―今回コラボアルバムをリリースするに至った経緯を話していただけますか?

大橋:これまでインディーズから含めると全部でCDを10枚出していて、ひとしきりやった感があったので、区切りというか、そういう意味があります。この次にやりたいことがもうあったりするんですけど、一緒に曲を作りたいアーティストさんがいたので、新しい曲と今までの曲を足して、それをひとつの形にするのもアリなのかなって。

(中略)

―初めにおっしゃっていた「次にやりたいこと」についてお伺いしたいのですが?

大橋:……まだ言えないです(笑)。

―あれ(笑)。でも、もう明確なビジョンはあるわけですよね?

大橋:ありますね。

―これまでとはガラッと違うことをやるわけですか?

大橋:そうですね……言えなきゃ意味ないですよね(笑)。

―じゃあ、ヒントだけでもいただけませんか?

大橋:ヒントは……僕がベースばっかり弾きます。まだ模索段階なので、どうなることかって感じではあるんですけど、要は次のアルバムの企画なので、そんなに遠くなくリリースできるんじゃないかとは思いますね。

つまり、この時点ではまだ明かされていなかった「次にやりたいこと」というのが、「ロック」だったというわけだ。本作でも大橋は、ゲストの参加曲以外はすべての楽器を自ら演奏しているが、これまでの大橋トリオ像とは少し異なるロックスター的なビジュアルのジャケットにも、大橋と共にベースが写っているので、とりわけベースという楽器に対するこだわりは強いようだ。

アルバムはRIZEやAA=の活動で知られるゲストドラマー、金子ノブアキのダイナミックなプレイが印象的なリードトラック“マチルダ”で幕を開けている。いつものように日本語詞はmiccaが担当しているが(英詞はEmi Meyerが担当)、“マチルダ”の<赤いまつ毛揺らして 君はクレイジードール>なんていう歌い出しからして、かなりロック的だ。とはいえ、そこは大橋トリオのこと、ディスト―ションギターで速弾きをしているといわけではなく、やはりジャズやソウルのなどさまざまな要素の入った、大橋トリオらしい「ロック」を展開している。ここで連想されるのは、STINGがベースボーカルを務めていた、THE POLICEの名前だ。

『White』のインタビューでは、U-zhaanとコラボしてタブラを用いた“顔”について、タブラを使っている海外ミュージシャンの例としてSTINGの名前を挙げていたが、そのときに話題となっていた「隙間の多い曲」というテイストは、『plugged』にも反映されているように思う。そもそも、STINGはジャズ畑の出身で、その意味でも大橋トリオとのシンクロ率は高い。そう考えていくと、“Seven Days”あたりは、THE POLICEの代表曲“見つめていたい”にも似た雰囲気があるような気が。というわけで、本作は大橋トリオにとっての『Synchronicity』(“見つめていたい”を収録して大ヒットを記録した1983年発表のTHE POLICE5枚目のアルバム)なのだと言ってしまうのは、やや短絡的過ぎるだろうか? ちなみに、トリオだったTHE POLICEはこのアルバムを最後に不仲で活動を停止しているが、もちろん「一人なのに大橋トリオ」に解散はない。あしからず。

なぜ大橋トリオが「ロック」なのか?

さて、ではそもそもなぜ今回大橋は「ロック」をテーマにしたアルバムを作ろうと思ったのだろう? 僕にはその理由が大きく分けて2つあるように思う。まず1つ目の理由は、大橋トリオと言えばやっぱり……そう、「あまのじゃく」だ。「ダンス」をテーマに掲げていた『I Got Rhythm?』のインタビューで、大橋はこんなことを言っている。

大橋:大橋トリオっていう人と「ダンス」っていうテーマが僕の中では対極のイメージというか。そういう意味でも、「ダンス」を意識して作ったらどんなものが出来るかなっていう、言葉的なギャップも面白いかなって思ってましたね。(中略)聴いた後に、「どこがダンスやねん!?」って思われてもいいし(笑)。僕自身は、デモが出来て、その曲を作ってる最中にもう、すべての曲で踊ってますけどね(笑)。ヘッドフォンをしながら、もしくはスピーカーで大きな音を出しながら。

ここでの「ダンス」という言葉を、「ロック」に入れ替えれば、そのまま今回のアルバムの説明になるのではないかというぐらい、実に大橋トリオらしい発言だ。メジャー最初のフルアルバムというタイミングで発揮された、このあまのじゃくっぷりが、新たなスタートというべき作品で再び発揮されたというわけだ。ちなみに『plugged』では、ドラムに前述の金子ノブアキ、ベースにCurly Giraffeこと高桑圭を迎えて、インディーズでのデビュー作『PRETAPORTER』収録の“Clamchowder”を再録していて、このことも本作の「新たな始まり」というイメージを強めているように思う。

そして、「ロック」な作品を作ったもう1つの理由は、ライブに対する熱の上昇にあるのではないだろうか? 前述のように、ダイアン・リーヴスを頂点とする大橋のライブに対するハードルの設定は非常に高く、自身のライブに対する目線はこれまで常に厳しかった。『NEWOLD』発表時の取材では、こんな発言もしている。

大橋:歌の部分ももちろんそうなんですけど、こういうグルーヴ感、こういうアレンジっていう理想形が常に付きまとうんですよ。ライブは生ものだし、ライブはライブの良さだって言い訳みたいに言うんですけど、それは言い訳でしかなくて。もちろん、よりいいものを届けたいわけですけど、編成とか人数が明らかに足りなかったり、理想形にはならないもどかしさがあって、満足感を得るのはなかなか難しいなって。

しかし、『plugged』には大橋トリオ初のライブ映像作品として、昨年末に行われた恵比寿ガーデンホールでのライブDVDが付いている。“マチルダ”のミュージックビデオに、俳優の渋川“KEE”清彦と共に出演している伊澤一葉をはじめ、長岡亮介、神谷洵平とのカルテット編成で行われたこのライブに対して、大橋はある種の手応えを感じたからこそ、映像化を実施したのだろう。『plugged』のリリースに伴うツアーでは、5月18日に大橋トリオにとって初となる日比谷野音での公演も予定されるなど、よりライブ感を求めた結果、『plugged』という作品が生まれたという側面は大きいように思う。

というわけで、これまでずっと大橋トリオのファンだった人はもちろん、年末年始のテレビ出演で興味を持った人も、「ロック」という言葉が引っ掛かった人も、ぜひ『plugged』を聴いて、5月から始まるツアーに足を運んでもらいたい。昨年は35周年に伴うオールタイムベストの発売や、『SWEET LOVE SHOWER』への出演などで、山下達郎の再評価が起こったが、個人的に大橋トリオという人は山下達郎の系譜に連なるような、求道的で、本物志向のアーティストだと思っている。おそらく、本人にそれを伝えても「僕なんてそんなそんな……」と照れ笑いを浮かべるとは思うのだけれど、決して的外れな意見ではないということが、彼の作品やライブからは間違いなく伝わるはずだ。

イベント情報
『大橋トリオ「plugged」LIVE TOUR 2013』

2013年5月6日(月・祝)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋 名鉄ホール

2013年5月10日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:福岡県 福岡 キャナルシティ劇場

2013年5月11日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:岡山県 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM

2013年5月18日(土)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:東京都 日比谷野外大音楽堂

2013年5月23日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO

2013年5月25日(土)OPEN 14:00 / START 16:00
会場:大阪府 服部緑地野外音楽堂

2013年5月29日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:新潟県 新潟 LOTS

2013年6月1日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:石川県 金沢市民芸術村パフォーミングスクエア

2013年6月5日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 Rensa

リリース情報
大橋トリオ
『plugged』(CD+DVD)

2013年3月13日発売
価格:4,200円(税込)
RZCD-59207/B

1. マチルダ
2. Aliens On Earth
3. Seven days
4. サクラ
5. ガラクタマシーン
6. My Shooting Star
7. 存在
8. CLAMCHOWDER(plugged)
9. サヨナラの雨
10. 僕らのこの声が君に届くかい
[DVD収録内容]
・“マチルダ”PV
・『大橋トリオ カルテット編成ライブ2012「ohashiTrip」TOUR』
1. Winterland
2. そんなことがすてきです
3. 東京ピエロ
4. 顔
5. 赤い傘
6. Time
7. はだかの王様
8. ゼロ
9. 日曜の夜に鳴く鶏
10. Turn our world around
11. Happy Trail
12. HONEY
13. Bing Bang
14. 窓 feat. 矢野顕子
15. オールドタイム

大橋トリオ
『plugged』(CD)

2013年3月13日発売
価格:2,940円(税込)
RZCD-59208

1. マチルダ
2. Aliens On Earth
3. Seven days
4. サクラ
5. ガラクタマシーン
6. My Shooting Star
7. 存在
8. CLAMCHOWDER(plugged)
9. サヨナラの雨
10. 僕らのこの声が君に届くかい

プロフィール
大橋トリオ

2009年5月にミニ・アルバム『A BIRD』でメジャー・デビューを果たす。同年5月には第一回となる、CD SHOP大賞にて準大賞を授賞。メジャーデビュー盤となった『A BIRD』はFM20局パワープレイ、CS音楽チャンネル3局パワープレイ獲得など各地で話題なりスマッシュヒットを記録。続いて11月にはメジャー1st albumとなる『I Got Rhythm?』をリリース。2010年の夏は、各地のフェスにも多数出演を果たす。2013年3月13日、ニューアルバム『plugged』をリリース。



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