音楽をやるのに、理由なんていらなかった

『音楽をやるのに、理由なんていらなかった』第4回:混沌の末に今を謳歌するカリスマ ヤマジカズヒデインタビュー

混沌の末に今を謳歌するカリスマ ヤマジカズヒデインタビュー

インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作

uminecosounds

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くるりが主催するNOISE McCARTNEY RECORDSよりソロアルバムをリリースしている古里おさむ(Vo&Gt)、髭のドラムとしても活躍するコテイスイ(Dr)、dipのヤマジカズヒデ(Gt)、ジム・オルークを始め様々なアーティストやバンドで演奏している須藤俊明(Ba)によるロックバンド。もともとは古里おさむのソロユニットとして活動を開始し、2009年5月13日に、CINRA RECORDSよりデビューミニアルバム『夕焼け』をリリース。『FUJI ROCK FESTIVAL'09』にも出演を果たし、2010年1月には2ndミニアルバム『宇宙旅行』をリリース。そして2011年、表記を「uminecosounds」に改め、バンドとして再始動。2012年6月に1stアルバム『uminecosounds』をリリース。
http://uminecosounds.net

誰もが驚いた、uminecosoundsへの加入

「遅刻が当たり前だから1時間前に来るように言ってあるけど、それでもその時間に来るかはわからないですね」と古里からは事前に聞かされていたのだが、実際にヤマジカズヒデが取材場所に姿を現したのは、予定時間の30分以上も前。つい最近買ったばかりだというiPadを手に、先に取材中だったコテイスイの写真をおもむろに撮り始めるなど、リラックスしたその様子に、少しこちらの緊張もほぐれたのだった。

ヤマジカズヒデは、言わずと知れたバンド・dipのフロントマンである。1991年に結成されたdipは日本のオルタナティブ〜サイケデリックロックの先駆者であり、90年代において、この手のバンドとしては異例のメジャーデビューを果たすなど、常に高い評価を獲得してきた。ヤマジに関しては、アウトローな「孤高のカリスマ」というイメージが一般的だったと言っていいだろう。昨年には結成20周年を迎え、今年に入ると初期の名作がリイシューされたり、MO'SOME TONEBENDER、POLYSICS、ART-SCHOOLの木下理樹といった錚々たる顔ぶれが並んだトリビュートも発表されるなど、まさに日本のロック界の重鎮なのである。そんなヤマジが、10歳も年下のフロントマンが率いる、決して知名度が高いとは言えないuminecosoundsのメンバーになったということは、誰にとっても大きな驚きだったに違いない。

ヤマジカズヒデ

ヤマジ

ウミネコサウンズのことは全く知らなかったんだけど、ベースの須藤くんとは前にパンクバンド(LOUDS)を一緒にやってて、そのとき須藤くんのことを気に入って、いつか何かやりたいなと思ってて。そうしたら須藤くんが誘ってくれたんで、それで入ったって感じですね。曲も気に入ったし、メンバーそれぞれのノリも気に入ったし。

ヤマジは口数こそ多くないものの、その答えは実に端的であり、実際加入の理由はこれ以上でも以下でもないのだろう。しかし、以前のヤマジであったなら、こんな風にフットワーク軽く誰かのバンドに加入することは決してなかったはずだ。

ヤマジカズヒデ

ヤマジ

昔だったらもっと俺自身が閉じてたから、須藤くんとも仲良くなんなかったろうし、(ウミネコに入る)きっかけすらなかったかもしれないね。以前はいかれた生活をしていて、混沌としてたし、破たんしてた。でも……5年くらい前かな、その生活をやめて、すごくクリーンな感じになったんで。

当時の状況や変化のきっかけについて聞くと、「載せられない話になっちゃうから(笑)」と詳しくは語らなかったものの、プライベートな生活の変化が、音楽活動にも大きな変化をもたらしたことは間違いない。それはオリジナルメンバー3人がひさびさに集まったdipの現時点での最新作、2009年発表の『AFTER LOUD』での作風の変化(とタイトル)にも表れていたものであり、バンドが充電期間に突入した2010年にヤマジはソロ活動を活発化させ、最近ではTHE NOVEMBERSなど、彼らをリスペクトする若いバンドとの交流も持つなど、はっきりと活動が開かれたものになっている。そんなタイミングだったからこそ、uminecosoundsへの加入も実現したのだ。

ヤマジカズヒデ

ヤマジ

年とかそんなに気にしてないけど、ちょっと慕われてる感じっていうのは嬉しいなって思うかな。今は気持ちよく乗っかれる感じがあるんだよね。(ウミネコは)みんな楽しみ方をわかった上でやってるし、楽にやってるんだけど、でも手抜きにはならない。それがいいんだよね。

ギタリスト=ヤマジカズヒデの真骨頂

uminecosoundsでのヤマジはギターを弾くのみならず、楽曲提供も行っている。LOUDSをはじめ、これまでいくつかのサイドプロジェクトに参加した経歴はあっても、曲提供をして、ヤマジ以外のボーカリストがそれを歌うという経験は、彼にとっても非常に新鮮なことのようだ。

ヤマジカズヒデ

ヤマジ

ウミネコのために新たに作ったわけじゃないんだけど、家で作ったやつを古里くんに渡して、「これ気に入ったんで」っていうのをやってみるって感じで。(自分の曲を他の人が歌うことは)結構嬉しいかな。

もちろん、ヤマジがこういう気持ちになれたのも、ここ最近のことなのだろう。自分が曲作りの中心を担うdipに対し、メンバーの化学反応によって曲が生まれ、変化していくウミネコの制作プロセスを、ヤマジはとても楽しんでいるようだ。アルバムのオープニングを飾るヤマジ作曲のインスト“umineco”では、ギターでウミネコの鳴き声を真似するなど、実に茶目っ気たっぷりなのである。

ヤマジカズヒデ

ヤマジ

あれ、いいでしょ? 「ウミネコって、どう鳴くんだっけ?」って、YouTubeで調べたからね(笑)。uminecosoundsって何でもできるっていうか、ちょっと言ったことがすぐ実現したりするんだよね。曲ができるのも速くて、古里くんが弾き語りの状態のを持ってきて、俺いつも2時間ぐらい遅刻して行くんだけど、着いたときには大体できあがってるんだよね。

ヤマジカズヒデ

レコーディングも終始リラックスして行われたことがうかがえるが、しかし、実際に仕上がった音を聴くと、そこはやはりヤマジのギターだ。音色、フレージング共に素晴らしく、ときには歌を引き立て、ときには自分が主役となってノイジーでサイケデリックなプレイを聴かせるなど、uminecosoundsがバンドになったことを最も象徴しているのが、ヤマジのギターであることは間違いない。そんなヤマジのレコーディングにおけるこだわりは、何度も弾き直さないことだという。

ヤマジカズヒデ

ヤマジ

dipの最初の頃のレコーディングは、何回も何回も完璧に弾けるまでやってた。でも、自分が頑張って弾いたものって、自分では思い入れがあっても、周りの人が聴いた印象は俺の思い入れとは別のものなんだよね。だから、ある時期から自分で決めないで、「こっちとこっち、どっちがいい?」って、みんなに決めてもらうようにしてて。あと、いつも1テイク目が一番いいなって思うから、そのノリはなるべく残したくて。

また、ヤマジはミスタッチを生かすこともいとわない。そこにも、ヤマジ流のギター哲学がうかがえる。

ヤマジカズヒデ

ヤマジ

上手すぎるサウンドっていうのは、時間が経つと廃れると思ってて。ある程度下手なところがあった方が、最終的に普遍性が残るというか。上手いっていうのは、そのときそのときの流行りの上手さがあるでしょ? でも、下手な人はどの時代も同じように下手だから、逆に普遍性が残るんじゃないかなって。

自然体でバンドを楽しみながらも、素晴らしいプレイで楽曲に貢献するヤマジの存在は、常に理想のメンバーを探し続けてきた古里にとって、まさに待ち焦がれていた最良の存在だったと言っていいだろう。古里は「実の兄にちょっと似てるんです(笑)」と、ヤマジを兄のように慕っているようだが、ヤマジの古里に対する目線もまた、弟に向けるかのような温かさがある。

ヤマジカズヒデ

ヤマジ

(古里は)真面目だよね。すごく頑張ってるから、「もうちょっと楽に行けよ」って思うときもあるけど、その分周りが力抜いてるから、いいバランスかなと思うんだよね。

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