あの人の音楽が生まれる部屋

あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.4:POLYSICS

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あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.4:POLYSICS

「面白いことをやりたい」「驚かせたい」
明確なビジョンを持って結成したPOLYSICS

ハヤシ(POLYSICS)

その後、さらに「リズムミンチ」というバンドを経て、一部のメンバーと高校卒業直前に結成したのがPOLYSICSでした。バンド名の由来はもちろん、KORGのアナログシンセサイザー「Polysix」です。

ハヤシ:ずっとDEVOを聴きながら、「まさにこういうスタイルでやりたい!」っていう明確なビジョンがあったんです。まだまだ音楽的には固まっていたわけではないんですけど、とにかく「面白いことをやりたい」「お客さんをビックリさせたい」って思っていました。

DEVOは、1970年代後半に登場した米国オハイオ州のニューウェーブバンド。KraftwerkやYMOとともに、その後登場するさまざまなテクノポップバンドに多大な影響を与えた存在です。エナジードームと呼ばれる赤い逆三角形の帽子や、揃いの衣装を着たコンセプチュアルなステージング、メンバー同士をコードネームで呼び合うなど、POLYSICSのスタイルに与えた影響も計り知れません。

ハヤシ:彼らは「テクノ」と呼ばれる音楽の中でも生々しいというか、「汗」を感じたんですよね。初めて筋肉少女帯を聴いたときと同じように、「様式美に陥ったパンクロックなんかよりも、よっぽどパンクなんじゃないか?」って。しかも彼らの音楽って不思議なんですよ。The Rolling Stonesの“(I Can't Get No) Satisfaction”のカバー曲では、シンセの音が入っていないのにテクノを感じるんです。

順調だった国内活動の中で感じた違和感
バンドの体力をつけて海外ツアーにも挑戦

POLYSICSの機材

その後、POLYSICSは幾たびかのメンバーチェンジの後、1999年にDECKREC RECORDSと契約、『1st P』でインディーズアルバムデビューを果たします。そこから活動はトントン拍子で進んでいくのですが、ハヤシさんの気持ちの中では葛藤があったそうです。曲を作る時間すらないのに、数か月先のスケジュールまでどんどん埋まっていく。そうした急激な状況の変化についていくのが精一杯。ライブの規模が大きくなればなるほど、バンドとしての体力のなさを目の当たりにしていきます。ただ「お客さんをビックリさせよう」だけではいけないと思うようになったのも、この頃からでした。

ハヤシ:そのおかげで、自分がやりたいこともより明確になってきたように思います。「こんな評価のされ方は気に食わない」「POLYSICSは、存在自体が面白いって思ってもらえなきゃダメなんだ」って。もっと広い意味での面白さを身につけたい、そのためには、バンドとして体力をつけなくちゃいけないって思って作ったのがインディーズの2ndアルバム『A・D・S・R・M!』です。

そして2000年、ついに『NEU』でメジャーデビューを果たしたPOLYSICS。次第にテクノポップ色を払拭し、ライブ感を全面に打ち出していくようになります。サポートメンバーとしてSNAIL RAMPのイシマルがドラムで参加した、2003年の通算6枚目『National P』では、さらに振り切ったサウンドへとシフトしました。

ハヤシ:売上的には一番ダメだったんですけど(笑)。でも、その翌年くらいから、海外での評価が上がっていったんです。スペインで開催された『PRIMAVELA SOUND FESTIVAL』に出演したり、Kaiser ChiefsのUKアリーナツアーにフロントアクトとして出演したり。なんか、状況を変えたかったんですよね。それまではワンマンライブばかりやってたんです。「僕らのことを好きな人たちの前で、とことん好きなことをやればいい」って。でも、もっと色んなオーディエンスがいるところで腕試しをしたくなったというか。全米ツアーではもう反応が日本とは全然違う。何の前知識もない、歌詞の意味も分からない僕らの音楽をサウンドだけで楽しんでくれるというか。僕らは僕らで、「ただただ、ファッキンクレイジーな、ワケ分かんないけどすごいバンドだろう!?(笑)」って気持ちでやるようになりましたね。

「『POLYSICSを好きで良かった』
と思ってもらうため、立ち止まらずに作り続けたい」

KORG

海外で熱狂的に受け入れられたことが、ハヤシさんたちの自信にも繋がりました。また、DEVOのメンバーと出会い、「POLYSICSは、DEVOの正統な後継者だ」とお墨付きをもらったのも大きな出来事。折しもその頃、Kaiser Chiefsはもちろん、Maxïmo ParkやDogs Die In Hot Carsなど、ハヤシさんが好きな、イギリスのロックバンドXTCのエッセンスを独自の解釈で取り込んでいくユニークなバンドが次々と登場していました。それが刺激になったのか、あらためて「バンドメンバーと、イチからアレンジを作り込んでいきたい」と思うようになり、久しぶりの正式ドラマーとしてヤノを迎え入れます。現状に常に満足せず、前へ突き進んでいくハヤシさん。来たるニューアルバムはどのようなモノになるのでしょうか。

ハヤシ:今、また他の人たちの新譜をメッチャ聴いてる時期なんですよ。中でも一番衝撃を受けたのがPassion Pit。「こういうのが売れる時代なんだ!」って(笑)。わりとマニアックな音だと思うんですけど、それがポップミュージックとして成立しているっていうことに、ちょっと焦りましたね。それに、Justice辺りから始まって、ここ10年くらいで、ロックバンドにエレクトロを融合するっていう、僕らがやり始めた頃にはキワモノ的だったものが、受け入れられてきているじゃないですか。EDMもそうだし、ボカロもそう。ボコーダーなんて、昔僕らが使っていたときは「声」じゃなくて「楽器」だと思われたりしていましたから。それに比べれば今のリスナーの耳は柔軟だし、この流れに乗らない手はないと思っています(笑)。

現在は、3ピースバンドという必要最低限のフォーマットになったPOLYSICS。やりたいことも研ぎ澄まされ、さらなる快進撃が期待出来そうです。

ハヤシ:今はホント、バンドでやれている感じがしますね。基本は僕が曲を作ったりアイデアを出したりしているんですけど、やっぱりフミとヤノがいるから出るアイデアだと思うし。とにかく、今は止まりたくない。この3人でもっともっと面白いモノ、特殊なモノを作りたい、聴いている人を驚かせたいって思います。「POLYSICSを好きで良かった」って思ってもらえるような、そういう活動をしていきたいですね。

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