「現メンバーによる最後の作品」と銘打たれたパニックスマイルの7th『A GIRL SUPERNOVA』について書くにあたって、まずはごく簡単に彼らの歴史を振り返っておこう。92年に福岡で結成されたパニックスマイルは、盟友ナンバーガールと共に、今では伝説となっているイベント『CHELSEA-Q』を主催するなどして注目を集め、98年に上京、00年から吉田肇(Vo/G/Key)、ジェイソン・シャルトン(G/Cho)、保田憲一(B/Cho)、そして近年ソロとしての活躍も目覚しい石橋英子(Dr/Vo/Key/Flute)という現メンバーで活動を開始している。NO WAVEからの影響色濃いアヴァンギャルドな演奏を軸にしながら、どこかポップでもある作風で、今も多くのオルタナ・バンドに影響を与え続けているカリスマ・バンド、それがパニックスマイルなのである。ナンバーガール解散後の向井秀徳は、一時期パニックスマイルと活動を共にしており、ザゼン・ボーイズの特徴であるミニマルなフレージングもまた、パニックスマイルの影響下にあると言えよう。
そんなパニックスマイルの3年ぶりとなる新作は、なんと「女子についてのうた」というテーマを持ったコンセプト・アルバム(このあたりからも向井と世界観を共有していることが伺える)。“GIRL ON FLOOR”=センター街で地べたに座る女子や、“SURFER GIRL”=漫画喫茶でネットにべったりの女子などを通じて、無理解と無関心に溢れた冷凍都市の倦怠を描いたその歌詞は、彼らがこれまでも常に表明してきたアンチ・メインストリームの姿勢と同様、思考停止に陥って安易な迎合をよしとすることに対し、明確な「NO!」を突きつけている。
サウンド面に関しては、これまでの作品同様に変拍子やポリリズム、唐突なテンポ・チェンジを多分に含んだアヴァンギャルドな作風であるものの、吉田がクールな低音ボーカルを聴かせるポップ・ソングもあったりして、幾分聴きやすくなっていると言えるかもしれない。そこで思い出すのが、以前CINRAで行ったルミナス・オレンジのインタビューである。かつては「難しい音楽」として敬遠されてしまっていたルミナスの音楽が、00年代に起きたポストロックの大波によって、リスナーの耳に耐性が生まれ、「かっこいい音楽」へと転換したことで、活動がやりやすくなったという話だった。つまり、ポストロック的な複雑なアンサンブルを鳴らすバンドの中にあっても、とりわけ個性的で、スリリングな演奏を披露するパニックスマイルは、今こそ好事家だけでなく、もっともっと広いリスナーに聴かれるべき! と思うのだが…前述のように、現メンバーでの活動は、本作で最後となってしまうわけだ。
12/17の「exPoP!!!!!」への出演、そして1月から3ヶ月続けて行われる自主企画をもって、現メンバーでの活動は終了。その後についてのアナウンスはされていないので、明確な言及は避けるが、3月以降もパニックスマイルとして、もしくは別の形になったとしても、新たなる未知の衝撃を僕らに届け、生ぬるいメインストリームに唾を吐き続けてほしいと思う。ちなみに、吉田はつい先日、『東京BOREDOM』の主催バンドであり、東京オルタナ・シーンの中心バンドの一つ、タコボンズとのコラボレーションをCD-Rで発表している。ナンバーガール後の向井とパニックスマイルにその姿を重ねる…のはやや大げさだが、つまりはまだまだお楽しみはこれからなのだ。
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『A GIRL SUPERNOVA』
2009年12月2日発売
価格:2,500円(税込)
P-VINE RECORDS PCD-18579
1. INTRODUCTION
2. NORTH OF BORDER
3. GIRLS ON FLOOR 1
4. INTERLUDE 1
5. A GIRL SUPERNOVA
6. THE ELECTRIC SEA
7. INTERLUDE 2
8. SIREN
9. INTERLUDE 3
10. SURFER GIRL
11. INTERLUDE 4
12. KISS AND TELL
13. INTERLUDE 5
14. GIRLS ON FLOOR 2
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