『音楽を、やめた人と続けた人』

『音楽を、やめた人と続けた人』〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第1話:一本の電話からはじまった、とあるバンドのドキュメンタリー

音楽を、やめた人と続けた人

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一本の電話からはじまった、とあるバンドのドキュメンタリー
先日、一本の電話があった。とあるバンドのマネージャーから、バンド結成10周年記念のイベントをやるから見にきて欲しい、ということだった。
5年ほど前、一緒にツアーを回ったバンドがいた。ぼくがやっていたバンドも、一緒に回っていた彼らPaperBagLunchboxも、自分たちの最初のアルバムをリリースしたばかり。デビュー作にしてはそれなりの注目も集めて、それはもう意気揚々とバンドの成功を信じている時期だった。
それから季節はちょっと流れて、2010年7月。ぼくはバンドを、音楽をやめてしまっていた。たった一言「やめてしまっていた」で片付けてしまうと、それを決断した当時の自分が怒り出しそうだが、自分たちの会社をはじめて、このCINRA.NETというWEBメディアに心血を注いできたこの5年というのは、微塵の後悔もないほど充実していた。就職もせず音楽スタジオで働きながら音楽での成功を目指して「頑張っていた」当時の自分の葛藤なんて、「いい経験だった」と言い切れるくらい何歩も先に進んだ実感があった。
その一方でPBLは、ずっとあの頃の風景に留まっているようだった。ライブは続けているけどなぜか作品をリリースしない。デビューしたころの彼らが本気だったのはよく知っている。わざわざメンバー4人で大阪から上京してきて、音楽のために生活を捧げていた。ファースト・アルバム『ベッドフォンタウン』(2006年2月発売)は各音楽誌から賛辞を送られ、同世代の中でも特筆して将来を有望視されていた。嫉妬してしまうくらい音楽的な才能も表現欲求も充実していたのに、その夏にセカンド・アルバムを作るといってライブ活動を一時休止したまま、「セカンド・アルバム」は未だに発表されていないのだ。なぜ立ち止まってしまったのか。翌年からライブ活動は再開したのに、それでもなぜ前に進もうとしないのか。怠惰なのか、虎視眈々と機をうかがっているのかわからない。その間は電話をかけてきた当のマネージャーだって、「あいつらのことはしばらく放っておく」と言っていたのをよく覚えている。
いろんなバンドを見てきたり、CINRAを学生のころからやってきて思うのだけど、若者が複数人で集まり何かを成そうというのは、大抵失敗に終わるものだ。それぞれやりたいことはあるけど方向性がバラバラだったり、遊び半分だから重要な時に行動力を欠いたり、理由はさまざまだけど、PBLもきっとそういう落とし穴のどれかにはまってしまったんだろうと思っていた。
電話口でマネージャーはこう言った。「この5年間よく解散せずに続けてきたなって思うけど、それくらい音楽に賭けるものがあいつらの中にはあるんだよ。そしてようやくまた動き始めた。逆に柏井くんは音楽をやめてメディアを作った。そういうひとに、今のあいつらをちゃんと見てもらいたんだ」。10分程度の電話だけど、マネージャーの熱い想いはたしかに伝わってきていた。
ぼくは、ナカノヨウスケというボーカルの個性は、本物だと思っていた。哀楽の極みを感じ取らずには生きていけないような、傷つくのもおかまい無しに常に心を躍らせて、魂をすり減らしながらも歌わずにはいられない、そういうボーカルだった。ニコニコしながら歌っているのに、どこか痛々しさもあって、目が離せないまま魅了される。そんな彼の優しくて艶やかな歌声に、何度も心を奪われてきた。だからとにかく、PBLの10周年記念ライブを見に行ったのだ。
 
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