「東京インプログレス」の目的は、ただ隅田川沿いに手づくりタワーを建てること、ではありません。その過程で生まれる参加者や地元の人々の「この東京という都市」の姿の再考。そしてそこから生まれる新しいつながり。都内の大学に通いながらプロジェクトに参加した女性に、その体験談を伺いました。
(インタビュー・テキスト:内田伸一 撮影:大槻正敏)
背景も興味も違う者同士が、手づくりの「塔」建設を目指す
―「東京インプログレス」にはどんな形で関わっていくようになったのですか?
きっかけは、知人に誘われてこのプロジェクトの関連冊子づくりをお手伝いしたことです。そのうち自然とワークショップなどにも関わる中で、「アートコンストラクター講習」に参加したのが特に大きかったと思います。この講習では年齢も背景もさまざまな人たちと一緒にひとつの講義に参加することになって、大学とはまた違う濃い体験になりました。
―「アートコンストラクター講習」では、どんなことをするのでしょう?
全3回で、どれも授業というより、参加しながら感じ取り、考えるものでしたね。アーティストの小山田徹さん、建築士の日沼智之さん、そしてこのプロジェクトの中心となる川俣正さんの座談会では、アーティストの制作現場を支える「アートコンストラクター」の仕事が、これからはいっそう重要になるというお話に興味が湧きました。
アートコンストラクター講習会 ©Photo:冨田了平
―この講習自体が、そうした人材を現場育成型で生み出す試みなんですかね。
まさにそうですね。第2回では舞台美術家の杉山至さんが講師で、「とにかく自由な発想で“箱”をつくってください」との課題を出されました。アイデアを発表し合った後で、採用案をグループに分かれて実際に制作します。出前用の岡持ちをつくろうと言う人、人間が入れる箱をつくろうとする人など(笑)、単純なテーマから個々の性格や欲望が垣間見えるのもおもしろかったです。アイデアを形にすること、また集団でそれを行うことは、考えることの多い体験になりました。
―確かに、単純に見えて奥が深そうですね。そして最終講習では?
実際に「汐入タワー」を建てる汐入公園に出かけて、人々がくつろぐウッドデッキをつくりました。傾斜のある敷地なので、デッキの水平をとる作業から始まり、設置、撤収までを実際に行います。私にはどれも初めてで、現場のモノづくりの一端を感じ取れたのは貴重な体験でした。
アートコンストラクター講習会 ©Photo:冨田了平
アーティストでなくても関わっていけるアートの世界
―これから、春の完成に向けて実際の「汐入タワー」づくりですね。
それにもぜひ参加したいです。講習後も参加者同士でメーリングリストを使った意見交換は続いているので、いろいろ話し合いながら関わっていけたらいいなと思って。
―ちなみに大学ではどんな勉強をしているんですか?
インダストリアルアートコースという学部で、アート・マネジメントや芸術学を専攻しています。ただ、もともと芸術って何かとっつきにくい、自分の上のほうにあるものだと感じていて、実はつい最近までそういう思いが心のどこかにありました。「東京インプログレス」への参加で、アートも意外と自分たちに近い位置や高さにあるもので、いろいろ考えさせられるのもまた楽しいことなのだな、と思うようになりました。
―今後の自分の将来にも役立ちそうな要素はありました?
実はいま取り組んでいる卒業論文も、アートコンストラクターをテーマにしました。自分の進む道としても、こうした働きかたでアートの世界に関わっていけるのなら、素敵だなと考えています。
アートコンストラクター講習会 ©Photo:冨田了平
好奇心のドアを開くのは自分自身だと思います
―「東京都文化発信プロジェクト」について、何か感じたことはありますか?
「東京インプログレス」に参加した経験から言えば、すごく力を入れている試みなのだなと感じます。例えば子供のワークショップに親御さんが来ている光景を見ると、私が小さいころ、ウチの親はアートとかにはあまり興味がなかったなあと思い出したりしたのですが(笑)、そういう人々にもアートを通してつながりを広げていく意欲というか…。
―観るだけでなく、直接関わってもらうことで強い体験になるというお話は、川俣さんもなさっていましたね。
川俣さんには今回初めてお会いできて、とにかくすごい人だなあと(笑)。気さくに話しかけてくれて、何か「こうすべきなんだよ」とプッシュしてくることはまったくないのに、お話にとても説得力がありました。言葉のひとことずつが、スッと心に入ってくるんです。
―プロジェクトの全体から部分まで、よく考えていらっしゃるからこそ、ですかね。
だから、自分で好奇心のドアを閉じてしまったら、もったいないですよね。参加している人たちも、それぞれ自分がやりたいことが個別にあって、例えばもうとにかく「塔」が好きな人がいたり(笑)、子供好きな人がいたり、それぞれにとって意義のある場が生まれているような気がします。きっかけがひとつあれば、大勢の人が一緒にやれることがあるんだ、というのが今回強く感じたことです。
―それでは「汐入タワー」の完成を楽しみにしています!
建設自体もそういう形で進んでいけば素敵だなと思いますね。展覧会を観に行くのとはまた違った、参加する楽しさというか。そういう魅力がこのプロジェクトにはあると思いますから。
その他、東京にはたくさんの文化プログラムがあります!
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