見慣れた街がアートのテーマパークになった夜。東京都墨田区在住 会社員

東京の春の夜にアートが花開く「六本木アートナイト」も、今回で3回目。以前そこに訪れ、参加し、楽しんだお客さんから見たこのイベントの魅力とはどんなものなのでしょう。街のダイナミズムと最新アートの力が融合する一夜の体験談を、参加者目線でご紹介します。

(インタビュー・テキスト:内田伸一 撮影:菱沼勇夫)

夜の美術館で初めての「映像」「ダンス」「音楽」体験

―最初に「六本木アートナイト」初体験のきっかけを教えてもらえますか?

2010年(第2回)に、開催イベントのひとつ『TOKYO ANIMA! -BOOT UP- 30人の現代アニメーション作家たち』に知人の村井智さんが出展すると聞いて、友達と一緒に国立新美術館に出かけたのがきっかけです。着いてみたら行列ができるほどの人気で一瞬「え〜〜」って思ったんですけど(苦笑)、アニメーションの一言でくくれないほど個性的な映像を一度に観られてとても刺激的でした。美術館の公共スペースでは、不思議な雰囲気の女性ダンサーにも遭遇しました。それが康本雅子さんと音楽家のオオルタイチさんの『☆我苦我苦悶々☆』というパフォーマンスで、こんな個性的なダンスもあるんだっていう新発見でした。

見慣れた街がアートのテーマパークになった夜。東京都墨田区在住 会社員

―康本さんはいつも、踊りもタイトルも不思議度満載ですよね(笑)。あとこの年には、森美術館でもShing02たちのパフォーマンスなどがありました。

Shing02さんのMCと鈴木ヒラクさんのライヴ・ペインティングの競演はすごく格好良かったです。夜の美術館にたくさんの人がいるのも、そこで音と絵とが衝動的に影響し合いながら生まれていくのも、ワクワクする体験でした。

―夜の街を歩いてまわるフェスティバルという点では、どんな体験でした?

六本木には買い物や食事でよく行きますが、アートナイトではいつもと違う街の表情に出会えた気がします。椿昇さんの巨大なオブジェ(『マザーナイト』)が浮かび上がる光景や、マシュマロマンのような大きな人形が歩き出す、カンパニー・デ・キダムのパフォーマンス(『ハーバートの夢』)は、街が巨大なアートのテーマパークになったようでした。夜も開いているお店が多いから、一休みするのに便利なのも六本木ならではですね。4〜5時間は街にいたと思うけど、あっという間の一夜でした。

六本木アートナイト2010 《ハーバートの夢》カンパニー・デ・キダム ©Roppongi Art Night Committee
六本木アートナイト2010 《ハーバートの夢》カンパニー・デ・キダム
©Roppongi Art Night Committee

仕事や表現のヒントも街のあちこちに?

―ところで、ふだんはどんな毎日のすごし方をしていますか?

レコード会社の制作ディレクターとして働いています。アルバムの企画、レコーディングのディレクション、ジャケットデザインの調整とかPR対策まで、いわばCDができるまでの全体に関わっています。担当するジャンルもクラシック、ジャズ、クロスオーバーもの、映画のサウンドトラックまでさまざまで、去年からは洋楽担当の部署にいます。最近はファッションブランドなど、企業とコラボしてコンピ盤をつくる試みも増えてますね。あと、仕事以外ではときどき、イベントでDJもやっています。

―充実してますね! そういった暮らしの中で、アートの存在とはどんなものでしょう?

よく、生活のいろんなシーンが仕事に活かせるなと思うことはありますね。例えば街の看板やディスプレイ、レストランの料理…。自分の専門分野だけ見ていても、良い発想は生まれにくいと思うから。アートもある意味、そんな存在じゃないかなと思います。六本木アートナイトも、街なかにいくつもの発見がちりばめられているのがすごく面白くて、刺激的な一夜でした。

六本木アートナイト2010 《六本木あちこちプロジェクト》チェ・ジョンファ《ハッピー・ハッピー・プロジェクト》 ©Roppongi Art Night Committee
六本木アートナイト2010 《六本木あちこちプロジェクト》
チェ・ジョンファ《ハッピー・ハッピー・プロジェクト》
©Roppongi Art Night Committee

アーティストの人生にふれる瞬間、視野が広がる

―今年の、そして今後の「六本木アートナイト」で期待することは?

今年は草間彌生さんの大きな新作が登場すると聞いて、すごく楽しみにしています。作品はもちろん、ひとりの人間の生き方という点でも興味があるんです。アートにはどれも、作り手が人生を賭けて表現する世界観がありますよね。それにふれることで視野が広がる、そこが私は好きなのかもしれません。あと、また音楽の話になってしまうんですが(笑)、すみだ・ストリート・ジャズ・フェスティバルっていう地元ぐるみのフェスがあって、これは駅の改札を出たらもうすぐそこにミュージシャンがいたり、公園や街にあちこちから生の演奏が流れてきてすごく素敵なんです。1,000組ものアーティストがひとつの街に集結していました。アートと音楽という違いはあるけれど、住んでいる人も訪れる人も楽しめる街フェスってやっぱりいいですよね。ハレとケでいう「ハレ」の時間という感じもあって。

―ちなみに、このイベントを主催する「東京文化発信プロジェクト」のことは知っていますか?

実は知らなかったのですが、こうしたイベントが行政の側からも積極的に発信されるのは素敵ですね。意義のあることにはぜひぜひ予算を使ってほしいです(笑)。

―今年は行ってみようかな? という読者にメッセージがあればお願いします。

「アート」という言葉に、私たちはまだちょっと敷居が高い印象を抱いているかもしれません。かなり専門知識がないと楽しめないのかな、とか。でも私は、とにかく自由だなって思うんです。観る側も自由に観て、キレイだとか、逆に気持ち悪いとか(笑)、感じたままに想像して楽しめる。六本木アートナイトにはそういう、アートのエンターテインメント的な側面もあると思います。お祭り感覚、たとえば花火を観に行くような感覚で出かけてみるのもいいと思いますよ。


六本木アートナイト2011

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東京文化発信プロジェクト



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