池袋の劇場をメインに開催されている国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」(以下、F/T)。2009年の3月に初開催以来、これまでに2009年秋、2010年秋と3回を開催し、魅力的な舞台を発信してきました。はたして、F/Tは、東京の舞台芸術をどのように変えてきたのでしょうか? そして、これからどのように変えていくのでしょうか? プログラム・ディレクターである相馬千秋さんにうかがいました。
(インタビュー・テキスト:萩原雄太 撮影:寺島由里佳)
演劇の力とは何かを問う
―F/Tはこれまでに3回を開催しています。これまでの開催によってフェスティバル自体の変化は感じられていますか?
相馬:これまでの3回の開催によって、国際的な知名度も高まり「アーティストと共同で作品をつくっていくフェスティバル」というスタイルが確立されてきたのではないかと思います。また、3回目を行って、フェスティバルがお客さんのものになったという実感がありますね。制作側の手を離れて、参加者があれこれと考えながらフェスティバルを勝手に楽しみだしたような印象です。私としてはちょっと寂しい気もしますが(笑)。
相馬千秋(フェスティバル/トーキョー プログラム・ディレクター)
―そもそもF/Tのコンセプトとは、どのようなものでしょうか?
相馬:F/Tの基本的なコンセプトは「演劇とは何か」、「今日の社会の中で演劇の力とは何か」を敢えて問いかけようというものです。例えば現代美術では「アートとは何か」について考えることが前提になっている、つまり自分の表現メディア自体を問い直す姿勢が前提としてあるのに対し、日本の演劇界ではそれが十分に問われていないのではないか。そんな状況に対するアンチテーゼとして、この問いと真摯に向き合っていかなければならないと思っています。
『巨大なるブッツバッハ村―ある永続のコロニー』©石川純
―世界中で開催されている他の演劇祭とF/Tとの違いはありますか?
相馬:東京の都市空間に密接に結びついた作品を制作していることじゃないでしょうか。例えば観客が山手線の各駅に設置された「避難所」を訪れるPortBの『完全避難マニュアル 東京版』も、豊島区内の廃墟を巡る飴屋法水のツアーパフォーマンス『わたしのすがた』も、基本的に海外で再演することは難しい。手間ひまかけて制作したのに、海外で上演することを想定していないスタイルは、海外のフェスティバルディレクターにはとても驚かれています。でも、今後もその方向は押し進めていきたいですね。「東京」としての個別性をどう出していくか、そしてどのように進化させていくかに、F/Tとしての今後の方向性を見いだしたいと思います。
常に新しい価値を生み出そうとするF/T
―元々、相馬さんはどのように演劇と関わられてきたのでしょうか?
相馬:実は私にとって、演劇はいちばん馴染みのないジャンルだったんです。大学の頃は美術や映画、音楽といった他ジャンルのアートを楽しんでいました。演劇はなかなか入りづらいし、何を選べばいいのかがよくわからなかったんです。それが変わったのが大学院の頃ですね。文化政策を勉強するためフランスに留学していたのですが、そこで初めて演劇が自分にも届く距離感になりました。フランスでは劇場と市民との距離がとても近く、市民が気軽に演劇を観る環境があります。通っていた大学の隣がリヨン国立オペラ座だったのですが、世界的に著名な作品を学校帰りに10ユーロで楽しむことができました。
―いわゆる“演劇一筋”な経歴ではないんですね。
相馬:そのため、私自身には「演劇ってそんなに偉いの?」という素朴な感覚が常にあります。受け手の量で言えばテレビなどの他のメディアにはかなわないし、質としても他のメディアができないことを提示しているのかと言えば、それも自明ではない。演劇が社会のアクチュアリティと接続できているのか、演劇だからこそできることを提示し得ているのか、そんな部分に対して演劇界は全体的にやや無自覚かも知れません。
F/T09秋『Cargo Tokyo-Yokohama』
©石川純
―東京文化発信プロジェクトの一環としてF/Tを開催する意味を、ディレクターである相馬さんはどのようにお考えでしょうか?
相馬:F/Tでは、常に新しい価値を生み出そうとしています。けれども、新しい価値というものを事前に評価してもらうのはとても難しい。だからF/Tのようなコンセプトで活動を行うためには、東京文化発信プロジェクトのような公的な資金が必要だと考えています。もちろん村上隆さんのようにマーケットを利用しながら経済システムを含めてプロデュースしているアーティストもいますが、演劇は「もの」としてマーケットに流通させるのが難しいんです。そういった意味でも、公的な資金を受けていることにはとても感謝していますね。
その他、東京にはたくさんの文化プログラムがあります!
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