ふたりで描く、ひとつの絵〜三尾あすか・あづち姉妹がひとりの「アーティスト」になるとき〜
第1話:「ふたりだから、進み続けられる」
ふたりでひとつの絵を描く画家がいる。三尾あすか・あづちという双子の姉妹だ。 幼い頃から絵を描いて育ちながらも、「自分がアーティストになれるはずはない」と思い、一般企業に就職もした経験もあるふたり。今、この双子が関西だけでなく日本各地で話題を呼んでいる。
彼女たちの絵には、様々なモチーフがキャンバスを埋め尽くすように描き込まれている。ガイコツ・恐竜・クラゲ・アイスクリーム・シリアスな表情でこちらを見つめる女性。色使いはカラフルでポップだ。間近で見ると、何層にも絵が重ねられていることも分かる。画材もアクリルやスプレー、ボールペンなどさまざま。すごく自由で、ユニークで賑やか。じっと見ていると、楽しげなイメージや幻想的な想像が浮かんだり、心のどこかにある焦燥感がかき立てられたりする。
なぜこれらの絵を、ふたりで描いているのか? アーティストにとって作品は自身の分身であり、他人に触れてほしくない聖域とも言える。特に、自分の中に湧いてくる感情や、疑問や迷い、もしくは頭に浮かぶ未知の景色を強くキャンバスにぶつける画家には、そうした傾向が強い。双子とはいえ、合作した作品が多くの人に届くような強度を持つことなどあるのか? その疑問から、取材を始めることにした。初めてふたりに会ったのは5月中旬、制作の拠点を置いている京都だった。
1985年、ふたりは岐阜で生まれた。小さい頃から美術が好きで、絵を描くことが日常だった。
姉のあすかは大阪芸術大学短期大学部のデザイン美術学科・絵画コースに入学し、その後京都造形芸術大学美術工芸学科洋画コースに編入した。妹のあづちは、京都嵯峨芸術短期大学イラストレーション科を卒業している。
当時は別々に制作していた作品について、ふたりはこう話す。
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あづち 日々の気持ちをキャラクター化して、何度も描き重ねていました。『今日はなにを描こう』とは考えずに、心から出てくるもの、言葉にできないものを素直に描く感じです。
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あすか 私の気持ちをあらわす『形』があるので、それを描いています。星がちょっと崩れた感じの…って口で言ってもよく分からないですよね(笑)。自分の気持ちを伝えたいというより、描いていて心地がいいという感覚ですね。
ふたりは「いつか画家になれたら」という想いを幼い頃から抱いていたものの、どうすればいいのか分からず、自分がアーティストになれるとも思っていなかった。そのため大学卒業後、あすかはアパレル関係に、あづちは料理関係に就職する。「会社に通いながらでも、絵を描き続けることはできる」。しかし日々の業務に忙殺され描く時間はどんどん減り、フラストレーションが溜まる日々を送る。
変化のきっかけは、あづちが京都を拠点にするギャラリー「neutron」に自らのポートレートを置かせてもらったことだった。それから徐々に展示の機会に恵まれるようになり、双子での展覧会を開くまでに至る。その2度目の開催が決まった時、neutron代表の石橋圭吾氏に「合作してみたら?」とアドバイスされたことが、ふたりで一枚の絵を描く最初の発端になった。今から2年ほど前のことだった。
「今振り返ると、当時の作品はまだ不安定でした」。ふたりは当時のことをそう語る。まだ合作の進め方が把握できず、とにかく自由に、それぞれが好き勝手に描くだけだった。今でもその方法論が大きく変わることはない。描き始める前に簡単なイメージだけを話し合い、あとは互いに気兼ねなく、あくまでも自由に。
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あづち 2枚の絵を同時に描くことが多いです。今日あすかが描いたものは明日は私が続きを描くというように、1日ずつ交代して進めるんです。一応相談してから始めますが、完成すると最初のイメージとは全然違う絵になっていますね。
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あすか お互いに直したい部分や意見があれば言おうっていうことになってるんですけど、実際に言うとちょっと不機嫌になったり…(笑)。ふたりで描くのって難しいですけど、ようやく最近余裕が出てきた気がします。
インタビュー中、率先して喋るのは妹のあづちだった。ゆっくりとマイペースに、考えを淡々と言葉にする。それを聞き終えてから、姉のあすかが補足する。昔からその関係性はあまり変わっていないらしいが、高校入試の際には、こんなこともあったそうだ。
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あづち 私は緊張したり感動すると、すぐ涙が出ちゃうんです。それで、入試のグループ面接で緊張して泣いちゃって。私が泣いたらあすかも困るかなって思ったんですけど、全然表情を変えずにしっかり喋っていたので驚きました。
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あすか あづちがそうなったら、私がちゃんとしないとっていう意識はやっぱりあって。逆に私が泣いたら、あづちがしっかりすると思うし。
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あづち やっぱり「ふたりでひとつ」みたいな感覚があるのかなって思います。
どちらかに欠点があれば、もうひとりが補う。その結びつきは普通の兄弟・姉妹よりもはるかに強く、ふたりにしか分からない感覚がお互いの中にあるようだ。
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