さて、仕事は辞めることができた。しかし、彼女たちには何のアテもなかった。絵は、好きだから描きたい。けれども、どうやって絵で生活をしていったらいいのかは、さっぱりわからない。誰でも、何かを捨てて再び出発したときは本当に不安なものだが、彼女たちもまたそうで、暗闇のなかを「絵」というライトで足下を照らしながら、一歩一歩進んでいくしかなかった。
そんな日々を過ごすふたりに、ふと光明が差し込む出来事が起きる。「ひとりずつ描かずに、ふたりで描けばいい」と合作を彼女たちに薦めた、neutronの石橋圭吾氏との出会いだ。コツコツ描いていた彼女たちのポテンシャルを見抜いた彼の存在は、ふたりが遭遇した初めての「他者」だったのかもしれない。自分たちのキモチに忠実に描いてきたものの、作品をどう発表していいものかわからなかったふたりは、neutronへ所属することで客観的な視座を得ることになり、ようやく社会へと繋がる回路を作ることができた。
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あすか 私たちの作品は、内面を表現したものが多いため、言葉で説明しないと分かってもらえないことも多いんです。でもそういう作業が苦手なので、コミュニケーションが思いどおりに行かず苦しかったこともあります。でも、neutronに入ってどんどん制作をしていくうちに変わっていったのは、これまではただ「好きだから」描いてきた部分が大半だった、っていうことです。
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あづち 最近は、好きだから描くっていうのは自己満足でしかないのかな、と感じるようになりました。どうすればさらに多くの人に、自分たちの絵の意図を伝えることができるのか。それを考えていくのが今後の課題です。
ただ絵を描いている、という状態から、言葉で客観的に自分たちの作品をとらえ、考え始めるようになったふたり。そうした分析を経ることで、はじめてその分析では捉えられない「黒い獣」のような過剰なモチーフがあらわれてくるのだ。
neutronというギャラリーに所属したのち、グループ展やふたり展を多数開催することで、作家的な成長を遂げてきたふたり。では、これからのふたりは、どのように変化していくのだろうか。
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あづち いろんな経験から、自分自身が作られたり変化していくと思っています。疲れたり、キモチが沈んだりすることもあるんですが、そういう経験をそのまま見過ごさないで、そこから「新しい絵」が生まれてくるっていうことの可能性を逃さないようにしたいです。
ふたりはどこにでもいる、ちょっと引っ込み思案な女の子だ。思ったことがうまく言えずに、ストレスがたまって双子どうしで感情をぶつけ合ってしまうこともしばしば。しかし、彼女たちは父親に言われたという、「今しかできないことをしなさい」という言葉を意識の外へおいやることはできなかった。大きな決心をして仕事を辞め、自分自身と向き合って制作を進める過程で、心のなかにはいつしか孤独が入り込み、黒い獣の形となって彼女たちをおびやかすまでになった。それでも彼女たちは、生きていく一瞬一瞬で得た感動を新鮮なままで表現するために、自分自身と向き合い続けることをやめない。
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あづち たとえ「あの頃に戻りたい」と強く願っても、年齢や経験を重ねると、違った感覚でしかかつての自分や感情に出会うことはできません。時が経てば、作品はどんどん洗練されてくるものだと思うんですけど、たとえ未熟でもいいから、今の自分にしか描けないモノを日々描いていきたいと思っているんです。
あすかとあづちは、自分たちの足でこれまでの人生から外に飛び出し、見慣れた景色を見続けることをやめた。そして、再び絵の道へと帰ってきた。現在の彼女たちを突き動かすのは、ただワクワクするような感情だけである。そして彼女の創作は、これからふたりをどんな場所へ連れていくのか。孤独と向き合うことを自分に課すことを決めてしまった彼女たちの筆からは、「黒い獣」よりもさらに過剰な何ものかが、きっと生まれてくるだろう。しかし、ふたりはそのことに驚きこそすれど、絶望はしないのだ。
地図にない道を行く彼女たちの旅は、さらに加速していく。
「第5回 青参道アートフェア」参加
2011年10月29日(土)〜11月3日(木・祝)
時間:11:00〜20:00 ※会場店舗により異なります。
会場:IOSSELLIANI T-02-IOS(イベントは青参道・表参道・原宿のファッション系のショップを中心とした25店舗で開催)
料金:入場無料
青山通りと表参道を結ぶ通りに並ぶショップが会場となる「第5回 青参道アートフェア」。昨年に続いて、今年も「あすあづ」がイタリアン・デザインジュエリーショップとコラボレーション! 普段の作品とは一味違う、大人っぽさとラグジュアリー感溢れる新作に乞うご期待。
第5回 青参道アートフェア / 青参道・表参道・原宿
詳細はこちら
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