パソコンにすべてを集約・勅使河原式仕事術
勅使河原さんは事務所を構えていません。「家で仕事をやってみたこともあるけれど、うまくいきませんでした。眠くなっちゃう(笑)」。それにもう一つ理由があります。プライベートの勅使河原さんは1児の父。7歳のお子さんを男手一つで育てています。「子供のお迎えは6時。自宅を事務所にしたとしても、その時間までしか仕事できないんですよね」。そこで電車の中や喫茶店、昔勤めていた渋谷の会社などで仕事をし、いづらくなったら移動する……を繰り返しています。「人間は動物だから移動中は脳を動かそうとする、電車の中や散歩中に考え事をしやすい理由はそれ、という脳科学の記事をこのまえ読んだんですけど、納得できますね。1日のうちに実際どれくらい仕事しているかと言ったら、たぶん短いじゃないですか。もしかしたら4、5時間かもしれない。でもその間集中できていれば問題ないと思っています」。仕事柄プログラムを書いている時間が長く、1人でやっていると悶々としがちだけれど、街中で移動しながらであれば、その心配もありません。それではさっそく、勅使河原さんのヒミツ道具を探っていきましょう。
MacBook Pro
移動しながらの仕事スタイルに欠かせない道具はノートパソコンです。使っているのは17インチのMacBook Pro。1カ月前に買ったばかりの新品です。以前は外ではMacBook、家では重たい作業をするときのために液晶の大きなiMacと使い分けていたけれど、今はこれ1台だとか。「僕、パソコンの中に仕事道具を集約しちゃってるんですよ。Photoshop、Flash、After Effectsなどの代表的なツールはもちろん、それ以外のお気に入りツールもたくさん入っています。『TextMate』っていう少しマニアックなプログラム書きのソフトとか。資料などのスクラップはサーバ側に全部溜め込んでるような感じです」。いわば勅使河原さんの仕事の中枢をなすこのノートパソコン、重量はなんと3kg弱! 「楽ですよ、みんな『重い』って言いますけど(笑)。時々カメラも持ち歩いたりするので、さすがにその時は一緒にキャリーバッグに入れて運ぶようにしています」。
Photoshop
「僕、Photoshopが大好きなんですよ。どんなに眠くても触っていられる(笑)」。主な用途は色調補正で、映像もPhotoshopに取り込んで処理しているくらいです。けれど特徴的なのは、むしろグラフィック制作にあたっての考え方。「僕、Photoshopでパーツを作る段階では、わざとグジャグジャにしたり、色をなくしたりするんですよ。それをプログラムで制御して最終的なグラフィックを作っているんです。たとえば『INDIA』という作品に登場する人物は、画像単体ではシャープをかけすぎたようなすごく汚い状態です。それをプログラムに組み込んで、シャープをボカしたり、はっきりさせたりして最終的なイメージにしています」。なるほど、グラフィック制作とプログラミングを1人でやる必要があるわけです。
Intuos4
「最近ペンタブレットを酷使したのはこのサイトかな」と言うのは、クリエイティブエージェンシー『猿人』のコーポレートサイト。背景に敷かれた月面のようなグラフィックは、Photoshopでレイヤーを作っておき、ブラシでマスク側を引っ掻くようにしてテクスチャーを作り上げていったもの。「透明度やブラシの状態を調整すると、地面を掘ったり、隆起させたりできるようにしました。弱く描くと溝ができ、強く描くとでっかい影ができるんです」。作業の様子を再現してもらうと、まるで砂遊びをしているかのよう。これは勅使河原さんオリジナルの使い方で、確かにペンタブレットでないとできません。聞けばこのグラフィック、かなりの時間をかけて作成したそう。辛くなかったですか?「仕組み作りがすごく面白くて、楽しくやってましたね(笑)」。当時使っていたペンタブレットはIntuos3。最近Intuos4に変えたそうです。「前はじゃっかん間接的な感覚があったけれど、それが減って心地いい感じになりました。基本的に描くって楽しいじゃないですか。その楽しさが引き出されるような書き心地ですね」。
MacJournal
プライベートでも仕事でも欠かせない道具が「MacJournal」。テキストエディタでありながら、フルスクリーン表示も可能という一風変わったソフトです。「考え事をするとき、思っていることを書いていきます。ああどうしよっかな〜、と思ったら、『ああどうしよっかな〜』ってそのまんま(笑)。仕事のアイディアを出すときも、そういう感じでずーっと書き続ける。すると自然にその日のTODOができあがっていきます」。なるほど、実にシンプルな思考整理法。昔はTODOソフトをたくさん使ってたけれど、それが一切必要でなくなったというのも肯けます。「ハインラインという有名なSF作家が『不思議なことに物事の大半は書くことで解決する』と言っているんだけど、本当にその通りだな、と。書くと物事が進んでいきますね」。
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「この作品は、生まれて死ぬまでというテーマはありつつも、言語化することを極力避けて直接的に作ってみたものです。ある種の生理的な感覚が在りたい、またそこへの執着や心地良さを感じてもらいたいという想いがあります。深夜なのか早朝なのかわからない微睡みの時間のお供に、是非」。
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