作品にシビアゆえ生まれた、クロスオーバー的制作手法
「ヒミツ道具」のコーナーでも触れましたが、デジタルとアナログの間を行き来し、最終的にキャンバスに表現するのがJNTHEDさん流。どのように双方をリミックスしていくのか、具体的な作業工程を見ていきましょう。
ラフ書き
まずはアナログのラフ描きから。人物はシャーペンで表情を細かく描き、背景は自分でロケハンした素材からインスピレーションを受けて描くことが多いと言います。ただそれだと限界もあるので、友人に頼んで自分では行ったことのない住宅街をデジタルカメラで撮影してもらい、素材として活用することもあるのだとか。
JNTHED:風景を描く際に構図でこだわっているのは、家の屋根やブロック塀など、シンクロできそうな直線があったら角度をそろえていくということです。実際は平行投影でなければあり得ないんですけど、無理に合わせて異常なパースを作り、それでも鑑賞者の身体感覚に違和感がないようにつじつまを合わせていく。それが僕の作風だと言えます。手書きのラフの作業段階で、ある程度、当たりをつけてしまうケースが多いです。
Photoshop上での下絵作業
続いてはPhotoshop上での下絵作成。デジタル上での作業です。手描きの下描きをスキャナーやデジタルカメラで撮影してPCに取り込むこともあれば、ペンタブレットの横において確認しながら下絵を作ることもあるそう。
JNTHED:あとからの作業で判別しやすいように、1色ごとに別レイヤーで色付けをしていきます。Photoshop上では絵の具は無限ですから試行錯誤が容易なうえに、手作業だけでやっていると思いつかないようなダイナミックな変更や演出を加えられることができるのも利点です。
ドローイング&コラージュ
Photoshopで下絵を描いた後、さらにドローイング(線画)やコラージュで、構図や色合いを練っていきます。「この作業は、ペインティングへの模索のために行っている」と話すとおり、デジタルとアナログを交互に行き来し、手間がかかる作業を行っているようにも見えますが、作品のクオリティーを高めるためには、必要な作業工程だと言えるでしょう。またこの段階で作品として発表される場合もあるそうです。
JNTHED:色を入れたり、人物だけを切り抜いて、風景の中にレイアウトしたりするなどするうちに、ラフやPhotoshop上での作業では発生しなかった要素が生まれることもあります。変更すると決めたら、Photoshop上でシミュレーションした後、ペインティングに反映させます。また、思いついた修正点のアイデアには法則性があるので、なるべくテキスト化して保存しておきます。そうやって料理のレシピのように、ノウハウをためていくんです。
キャンバスへのペインティング
最終作業であるキャンバスへのペインティングは、Photoshopで作った下絵をプロジェクターでキャンバスに投影ながら描いていきます。また「ヒミツ道具」コーナーでも説明しましたが、キャンバスに投影すると画面上の色と変わってきてしまうので、実際にはタブレット端末で転送した作品の「色見本」を利用して、色を入れていくとのことです。
JNTHED:絵の具の特性を把握すると、CG上で行っていたあれこれが直感的に再現できるようになって(歴史的に考えると逆なのですが)、画材にあった表現というものがあるのだなあと、常々考えさせられます。
ゲームから始まったデジタルでの作品作りと、新しい試みをし続けるアナログでのペインティング双方の感覚を信じて、気付いた点を常に作品作りにフィードバックしていくJNTHEDさん。独自で複雑なデジタルとアナログをクロスオーバーさせる手法は、一見非効率的に映るかもしれません。しかしそれは作品のクオリティーに対しての姿勢が、半端なものではなくシビアゆえ。そしてその結果生まれた作品作りは、ゲーミフィケーションにも通ずる、とても革新的なものでした。よく「日本の製品やアート作品は、ガラパゴス化している」と言われますが、CGからペインティングに移った異色の経歴が持つ「特殊性」があるからこそ、JNTHEDさんは、アートの未来に風穴をあけることができる可能性を秘めているのかもしれません。
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