ランダムなようでランダムじゃない?
独自の「色面分割」技法のヒミツを大公開
HR-FMさんの制作は、その9割がデジタル作業です。あの独特の作風、特に複雑な色面分割を使った独自の手法は、どのように実現されているのでしょうか? 気になるポイントをHR-FMさんが最近手がけたという壁画作品を例に、紹介していただきました。
ラフスケッチ
HR-FMさんの作業のファーストステップは構図作りです。ヒミツ道具のコーナーで紹介した漫画用万年筆を使い、アイデアの赴くままに勢いよく筆を走らせていきます。
HR-FM:鉛筆ではなく漫画用万年筆を使うのは、あえてやり直しをきかせないためです。構図やモチーフの決定には、それこそGoProやiPhoneで撮影した写真などを参考にしますが、いきなりデジタル上でそれらを配置して構図を決めても、自分の発想のコントロール下に置かれてしまう。「人がコントロールできない感じ」を狙うためにも、勢いを大事にしてあえて万年筆で描きっぱなしにしています。なので、描く紙もそのへんに転がっているコピー用紙で充分。ラフに描くからこそ、予想外のいいモノが生まれてくるんですよね。
ラフスケッチをPCに取り込み線画化
ラフはPCに送られ、それを液晶ペンタブレット上でなぞりながら線画の下絵を作り込んでいきます。ソフトウェアとしてよく使うのは、漫画制作ソフトであるComicStudioやPhotoshop。特にモノトーンの表現に特化したComicStudioでは、スクリーントーン機能を駆使して効果を付けたり、「ストロークのある曲線をよく使うのも、漫画の集中線が基礎になっているのかも?」と、漫画技法の影響の大きさも感じられます。そして、ここで大事な作業となるのが、例の「複雑な色面分割」のもとになる線画の制作です。
HR-FM:イメージとしては、切り絵でできたパーツをレイヤーで重ねていく感覚です。たとえば、「腕の形」をした、ベースになるパーツがあったとして、そのパーツの上にペンツールで色んな角度のストローク線をランダムに描き加えたものをどんどん作っていきます。それらをレイヤーで重ね合わせると、思いもかけない線の集合体で構成された「腕の形」ができあがるんです。この作業を全てのパーツごとに何度も繰り返して、1つのオブジェクトを完成させていく……って分かりますかね? 言葉で説明するのは、すごく難しいですね(苦笑)。
着色
複雑な分割線を持つ下絵が出来上がると着色に移ります。着色は一番気を使うところだと言うHR-FMさん。一見カラフルで複雑に見えるHR-FMさんの作品。じつは繊細に色調をコントロールすることで、カオスと秩序が同居した絶妙な感覚を実現しています。
HR-FM:僕の作品は、ランダムな分割線で細かく分けられた面をグラデーション的に着色することで全体的な立体感を出しているので、色の構成が非常に大事になります。線画が複雑なので、彩色まで複雑にやりすぎるとまとまりのない絵になってしまう。なので、下絵になった写真資料などを参考に、24色くらいの色数を明度順に並べたカラーパレットを作り、その色数内で全体の絵を構成しているんです。とはいえ、同方向の色ばかりを選んでしまうと、絵としての面白み、意外性に欠けてしまう。色に関しても自分のコントロールが効かない部分があって欲しいので、たとえばカラーパレットにベースカラーの補色を追加して差し色的に使ってみるとか、面白さは追求しますね。
ベクター化
HR-FMさんの作品は、アートプリントにしても壁画などにしても、細部の描き込みが潰れない大型判型での作品化を想定・希望して作られています。そこで、いくら大きいサイズに拡大プリントしても表現を損なわないように、PhotoshopやComicStudioで扱う、ラスター形式のデータから、Illustratorなどで扱われるベクター形式のデータへと変換(アウトライン化)します。
HR-FM:完成したラスターデータを一気にベクター化して、元の絵が完全に再現できるソフトがあればいいんですが、どうやらそういうのは今のところ見つからなくて。なので、今はシルクスクリーンの色版を重ねるように、色ごとに絵の部分を取り出して、一つひとつ「Cocoapotrace」という変換ツールを使ってベクター化し、Illustrator上で1枚の絵に戻すという作業をしています。とても手間は掛かりますが、このやり方がいちばんキレイに完成させられるんですよ。もっと高性能な変換ソフトがあれば、ぜひ移行したいんですけどね(苦笑)。
これまでの半生をうかがったとき、「僕が絵を描き始めた頃は、特別にテクニックがあったわけでもないし、特殊な作風も持っていませんでした。取り立てて個性のない絵描きだったんです」とおっしゃっていたHR-FMさん。ですが、この作業工程1つを見ても、とても独創的で高度な技術に支えられた創作活動をしていることが分かります。7年以上続けた漫画家アシスタント時代のテクニックを味方につけ、さらに斬新なアイデアをプラスした、一目でHR-FMさんが描いたと分かる個性の塊。この作業工程を知ってから、あらためてHR-FMさんの作品に触れると新たな発見がいくつも出てきそう。次回作も楽しみです!
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