横浜都心臨海部における、横浜市のクリエイター支援活動について紹介した前回に続き、今回は「アートによるまちづくり」を掲げる初黄・日ノ出町地区の取り組みについて紹介します。
『黄金町バザール』などで知られる同地区は、官民一体となった浄化作戦で違法風俗街から脱却し、現在はアートの街として再生の真っ只中。しかし、さまざまな副作用を伴いながらも、風俗の街として続いてきた街を生まれ変わらせるということは、決して簡単なことではありません。アートを中心に据えて街づくりを続けてきたここ数年の成果、そして現在の問題点や今後のビジョンについて、街づくりを主導する「黄金町エリアマネジメントセンター」と、実際に黄金町で活動するアーティストたちに聞いてきました。
取材・テキスト:タナカヒロシ 撮影:田中慎一郎
横浜に長く住む者にとって、かつて「黄金町」や「日ノ出町」といった街の名前は、いかがわしいイメージがつきまとうものでした。いまでこそ浄化作戦が功を奏し、その歴史を知らない若い世代も増えましたが、数年前まで初音町・黄金町・日ノ出町といったエリア(=初黄・日ノ出町地区)には約250店舗にも達する違法風俗店が軒を連ね、ピンク色に染まった街の景観と治安の悪さは、行政や周辺住民にとって大きな悩みの種となっていたのです。
2003年11月、地域住民を中心とした「初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会」(愛称=Kogane-X[コガネックス])が発足。その翌々年となる2005年1月には、神奈川県警による「バイバイ作戦」が行われ、違法店舗は一掃されました。以降、徐々に浄化への道を歩みだした初黄・日ノ出町地区は、「アートによるまちづくり」を掲げて街の再生に乗り出します。2008年秋にアートフェスティバル『黄金町バザール』を開催。この取り組みが大きな注目を集め、閉幕後も事業の継続性が求められたことで、翌2009年にはNPO組織「黄金町エリアマネジメントセンター」が発足します。空き店舗となった物件を市が借り上げる形で管理し、同地区で制作活動を行うアーティストを公募。格安で物件を貸し出すことで多くのアーティストを呼びこむと、この街に滞在しながら制作活動を行ったアーティストが一斉に作品を展示したり、ワークショップを行うなど、街がアート一色に染まると観光客も集まるようになり、街に対するイメージは劇的に改善を遂げました。
現在も『黄金町バザール』をはじめとするイベント事業に加え、新たなアーティストの呼び込みや、地域・行政・企業などとの橋渡し役となり、「アートによるまちづくり」を主導する組織として日夜奔走を続けています。
こうして浄化作戦以来、急速に変貌を遂げてきた初黄・日ノ出町地区。もう少し具体的に言えば、京浜急行「日ノ出町駅」から隣駅の「黄金町駅」までの高架下を中心とした線路沿いのエリアでは現在、約50組にも及ぶアーティストたちが、この街を拠点としながら日夜活動を行なっています。至るところで客引きするアジア人女性が顔を出していた街は、道を歩けばアーティストに出くわす街に。「トキワ荘」さながらに、多くのアーティスト・建築家・ショップなどが日々切磋琢磨しながら、この街で新しい作品を生み出しています。
そして昨年8月には、この街の象徴的な施設となる「高架下新スタジオ」が新たに完成しました。両駅のちょうど真ん中あたりにある同スタジオは、高架下の縦長のスペースを活用し、ギャラリー、カフェ、工房、集会場などが入った長さ約100mに及ぶ複合施設。その名の通り大きな階段がシンボリックな「かいだん広場」では、地域の商店によるマーケットや各種イベントが行われるなど、周辺住民の憩いの場として定着しつつあります。
今年も『黄金町バザール』は10月19日から12月16日まで開催中で、国内外33組のアーティストが作品を展示。目印の旗が立てられた建物だけでなく、路地の壁や空き地など街の至るところに作品が展示され、週末ともなれば多くの人が訪れるスポットとして賑わいを見せています。その展示の多くは無料で観覧でき、一部有料の展示も500円のパスポートを購入すれば期間中何度でも見放題のほか、イベントにも参加できるとあって、繰り返し訪れる人も少なくありません。
しかし、一見順調なように思える「アートによるまちづくり」ですが、まだまだその取り組みは再生の真っ只中。現在も市の援助なくしては成立しないことも事実です。初黄・日ノ出町地区は今後どのような発展を目指しているのでしょうか。次ページでは、「黄金町エリアマネジメントセンター」の事務局長を務める山野真悟氏に、今後のビジョンについて伺いました。
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