近年、活動のフィールドをじわじわと拡張してきたbutaji。STUTSがプロデュースし、「松たか子 with 3exes」が歌った“Presence”(関西テレビ放送『大豆田とわ子と三人の元夫』主題歌)の松たか子パートをSTUTSと共作したほか、昨年4月にリリースされた折坂悠太との共作曲“トーチ”も話題に。
STUTS、tofubeats、石橋英子らが参加した新作『RIGHT TIME』は、butajiに対する注目度がひときわ高まるなかでリリースされた。
出会った人のお守りになるようなもの――レーベルから送られてきたbutajiのニューアルバム『RIGHT TIME』の資料には、そんな言葉が綴られている。
聴き手の心に寄り添い、社会のなかで彷徨う者の足元を照らし出してくれる作品。あるいは「未来」が永遠に先延ばしにされているコロナ禍の「いま」と、そこに生きるものを力強く肯定するポップアルバム。『RIGHT TIME(好機)』と題された本作をそう表現することもできるかもしれない。
折坂悠太の新作『心理』とともに、2021年を象徴するシンガーソングライター作品ともいえる『RIGHT TIME』。その色鮮やかな世界を解き明かすため、butajiと交流のある5人から手紙を書いてもらい、その内容をもとにインタビューを行うことになった。後半ではサウンド面からも本作の魅力を探ってみたい。
butaji『RIGHT TIME』を聴く(Apple Musicはこちら)
社会生活のなかにある「ぐちゃぐちゃで面倒くさいもの」の向こう側を見据えたbutajiの歌
―今回は5人の方々に『RIGHT TIME』を聴いていただき、手紙を書いていただきました。1人目は映画監督の宮崎大祐さんです。
butaji:いやー、嬉しいですね。宮崎さんの作品はもちろん拝見してるんですけど、まだお会いしたことはなくて。
―「butajiさんの音楽は今その場所で鳴らされた音楽ではなく、ぐちゃぐちゃで面倒くさいものを乗り越えてようやく鳴らされた音楽のように思います」という一文がありますが、そういう感覚はあります?
butaji:どうなんでしょうね……自分に向き合ってきた結果だとは思うんですけど、たしかに「ぐちゃぐちゃで面倒くさいもの」と対峙しないと何の説得力もないとは思っていて。自分が出ている言葉か、そうじゃないか。そこが一番大事だと思っています。
―3年前の前作『告白』は混沌としていて、乗り越えるべきものと対峙した作品という印象がありました。
butaji:乗り越えるべきものを「まあまあ」といなすような音楽ではないと思います。いまこの瞬間だけ音楽で現実を忘れ、明日からのつらい日常をがんばろうというものではないというか。
―現実逃避のための音楽ではないということですよね。音楽が鳴っていないときにも作用するような作品をつくりたい?
butaji:そういう音楽をずっと目指してはいるんですよね。だからこそポップスというものに執着しているんです。聴き手の日常生活のなかにもずっと存在し続けるメロディーというか。ぼく自身がそういう音楽に助けられてきたということもあって。
―butajiさんはどういう音楽に助けられてきたんですか。
butaji:子どものころから『みんなのうた』で流れる童謡が寄り添ってくれていた気がするんですよ。当時は「楽しい歌」という感覚だけだったと思いますけど、自分が孤独なとき、その時間がすごく大事だった。
うちは家族の関係がよくなくて、ひとりの時間が多かったんですよ。だから、ポップソングとしてまず思い浮かぶのは童謡だし、自分の作品の根っこには「みんなのうた」があるんです。
―『告白』でも誰かに寄り添う音楽をつくろうと考えていたんですか。
butaji:自分のつらさをどうにか昇華しようとした作品ではありますよね。
あの作品をつくって多少はつらさが薄らいだところはあるけど(編註:詳細は前回のインタビューで語っている)、つくり終えたあとパニック障害になっちゃってるし、何かが解決したという感覚はないですね。『告白』みたいなアルバムをつくったからこそ、今回のアルバムは開けたものになったということはあると思うんですけど。
「ここを逃したらどうにもならないという瞬間が誰にもあって、それを先延ばしにしてはいけない」
―2人目はライター・翻訳家の野中モモさんです。
butaji:「覚えていらっしゃるかわからないけれど」とのことですが、もちろん覚えております。どのライブハウスだったかは忘れたけど(笑)。
―「夜の街で人が偶然出会って時間を共にすることが難しい状況が続いていますが、そうした生活の変化が作品にどう反映されているかお聞きしてみたいです」とのことですが、いかがでしょうか。
butaji:今回のアルバムに入っている“calling”はコロナ禍に入って半年ぐらい経ったころにつくった曲で、その空気が反映されていると思います。ただ、コロナ以降の難しい状況を「難しいよね」と歌うような曲は今回のアルバムにはないですね。
butaji“calling”を聴く(Apple Musicはこちら)
―そうなんですよね。コロナ禍の重苦しいムードを反映した作品を発表するアーティストは少なくないですが、今回の『RIGHT TIME』にはそうしたムードが一切なくて、先に向かっていくエネルギーに溢れている。
butaji:そうかもしれないですね。
―コロナ禍では何をするにも「コロナが落ち着いたら〜」という枕詞がつきまといますよね。本来あるべき「いま」が常に先送りにされるなかでは、いまを生きているという実感を持ちにくいし、非常に抑圧されていると思うんです。そうしたなかで『RIGHT TIME』という前向きな力に溢れた作品をbutajiさんがつくった理由を聞いてみたかったんですよね。
butaji:端的にいってしまえば、コロナ禍だろうがなかろうが、やるべきことはあるんです。そういうものを日常的につくってきたし、コロナ前から考えてきたんだと思います。これが最後のアルバムになったとしても、やるべきことはあるという。
butaji:だからね、覚悟だと思う。“acception”もそういう曲だと思います。<あなたにキスをしたい / 鼓動の音に触れたい / いかなるリスクがあろうとも>という歌詞がありますけど、いまやるべきことをやろうという。
―いまを生きる覚悟、ということでしょうか?
butaji:そうですね。ここを逃したらどうにもならないという瞬間が誰にもあって、それを先延ばしにしてはいけないと思うんですよ。
―“acception”は本当に名曲だと思います。<あなたを愛することに / 私の人生をベットしよう>なんて歌詞、そうそう書けるものではないですよ。
butaji:ありがとうございます。“acception”はいくつか背景があるんです。ひとつは友人のお子さんが亡くなってしまって、その子の歌をつくろうと思ったこと。
現状に立ち向かっていくLGBTQの人々の生き方も織り込まれているかもしれないですね。書き進めていくうちにいろんな要素が入ってきた曲なんです。
ポップソングが「希望」になるとき、目の前の困難から目を逸らさないことに意味がある
―3人目はbutajiさんと交流の深いミュージシャンの君島大空さんです。
butaji“サンデーモーニング”を聴く(Apple Musicはこちら)
butaji:嬉しいし、照れくさいですね(笑)。君島くんは愛情深い人なんですよね、本当に。
―「そこにある希望は痛いくらいに確かで、例えそれが忙しなさの中で忘れてしまうくらい些細なものであっても、butajiさんはそれをひとつずつ抱きしめるように思い出させてくれる」という言葉があります。今回のアルバムで「希望」を描いているという感覚はあるんですか。
butaji:ぼく自身は「希望」を曲のテーマとして掲げているわけではなくて、歌おうとしているのは日々の困難から目を逸らさないということだと思っていて。でも、それはひょっとしたら希望ということなのかもしれないですし、希望がないと生きていけないですよね。
だから……ポップソングは希望なのかもしれない。ぼくも自分の音楽が長く聴かれてほしいと思っているし、その意味では常に未来のことを意識しているともいえると思います。
―ただ、そこでの「希望」とは「未来は明るいよ」と簡単に言い切るものではないですよね。あくまでも生きるうえでの困難を見つめたうえでの「希望」。butajiさんの歌詞は現実逃避的な言葉を避けているようにすら感じます。
butaji:そんな簡単にわかるわけないと思っていますからね。でも、みんなにわかってもらえるものがあるはずで……「わかる」というのがどういうことなのか、いまいち掴めていないんですけど。
生きるうえでの困難というものを曖昧なまま放置するのは、自分に対して無責任なんじゃないかなとも思う。ぼくは表現の仕事をしているので、その困難を作品に反映しようとしているんです。
butaji“中央線”を聴く(Apple Musicはこちら)
多面的な個人が健全に生きられる社会にまず必要なのは、想像力ではなく、知識
―4人目は新作にも参加している石橋英子さんです。
石橋英子からの手紙(関連記事を開く)
―石橋さんのお手紙もすごくいい文章で、なおかついまの話につながる内容じゃないかと。
butaji:いい文章ですよね。英子さん、ありがとうございます。
―「あなたを何て呼んだらいいのかまだ考えています」とありますが。
butaji:ご自由にお願いします(笑)。英子さんだったら何でもOKです。
―「うんざりして疲れているとき、分裂気味なbutajiさんの歌がよく効きます。分裂というのは、butajiさんの多面性がバラバラなまま独立して存在していること。それはある意味健全なことで、そこに無理矢理整合性を持たせようとすると、宇宙レベルで何かが決定的に死んでしまう気がしてなりません」と書かれていますが、いかがでしょうか。
butaji:まさにそのとおりだと思います。「分人」という考え方がありますよね。ひとりの人のなかにいろんな人との関係性のなかで見せる、いろんな自分の側面があって、それすべてが自分であるという。ぼくも人間ってそういうものだと思うんですね。
butaji“YOU NEVER KNOW (feat.STUTS)”を聴く(Apple Musicはこちら)
―「一つになろうとするから分断は起きる。butajiの分裂の有様から私たちが学ぶことはたくさんあるように思います」という言葉がまたいいですね。まさにbutajiの歌の世界の根本に関わる一節だと感じました。
butaji:自分と関係ないことは関係ないままでいいこともあると思うんですよ。でも、知識として備わっていなくてはいけないこともある。ぼくは「音楽を聴いて想像力を養う」という考え方には抵抗感があって。
―どういうことでしょうか?
butaji:想像力というのは自分勝手につくり出すものだし、他者や異文化を理解するときに必要なのは想像力ではなく、知識なんですよ。知識がないと想像もできない。知識を持った状態で、お互いにあるがままでいる。そういうことが必要だと思っています。
前作の『告白』に入っていた“秘匿”という曲のなかで「認められたら」という言葉を繰り返したんですけど、それはある意味間違っていた。マイノリティーがマジョリティーに認められる必要ってないんですよ。「認めてください」という関係でもない。あるがままに、そこにある。それだけだと思う。
―butajiさんって「あなた」と「わたし」のことをずっと歌ってきたともいえますよね。「あなた」と「わたし」の関係性とその分断を歌ってきたんじゃないかと。
butaji:そうなんですよ。“RIGHT TIME”の歌詞のなかに<正しさや理想を思い描き生きるのは / わたしにはあなたがもう見えていないから>という一節があるんですね。
「◯◯◯はこうあるべき」というような理想や正しさは、あくまでも「社会的」な理想でしかないと思う。個人を取りこぼしているというか。社会から切り離されたところにあるのが、ぼくの歌の特徴だと思う。
―だからbutajiさんは社会的理想からこぼれ落ちた「あなた」と「わたし」のことを歌う。
butaji:必ずしも正しい関係ではないかもしれないですけどね。七尾旅人さんがTwitterで書いてくれましたけど、世間が浮かれているときにぼくは『告白』という陰鬱なアルバムを出して、世間が荒んだ雰囲気のときに『RIGHT TIME』という希望的なポップスアルバムを出した。
―2021年の状況からすると、オリンピックを2年後に控えた2018年の日本社会は浮き足立ったムードだったようにも思えます。
butaji:そこにはバランスをとっているような感覚があるんですよ。「こういう見方もあるよ」というアングルを提示しているというか。
butaji“RIGHT TIME”を聴く(Apple Musicはこちら)
個々人の「生」は、社会的な理想・正しさに集約できないからこそ、自分を知り、他者を識る必要がある
―最後となる5人目はSF作家の樋口恭介さんです。かなりの長文でいただいています。
樋口恭介からの手紙(関連記事を開く)
butaji:とてもありがたいです。お忙しいなかこんなに熱い文章をいただいて、とても嬉しいです。
―読んでみて、いかがですか。
butaji:そうですね……みんな理想的な姿になろうとしているのかなということを考えました。その理想とは自分が求めているものではなく、強いられたものなのかもしれない。だから「本当の自分って何なんだろう?」という方向に向かってほしいんですよ。
「正しくない」とされている人が「正しい」ことってあると思いますし、「正しさ」って疑わしいんですよね。現実には白黒つけられないグレーの領域ばかりで、そういう世界を生き抜いていかなければいけない。
ぼく自身、何の罪にも加担していないと言い切れないですし、外から誰かの「生」を見るのではなく、自分がどう生きるか。結局はそういうことだと思っているんです。
―樋口さんは“calling”と“acception”の語り手のあいだには明らかに距離があり、「おそらく前者は後者の心を、後者は前者の心を、それぞれの心のままに理解することはできないでしょう」とも書いています。butajiさんは正しいひとつの「生」を書いているのではなく、いくつもの「生」を描いていて、しかもそこに振り幅がありますよね。
butaji:そうなのかもしれないですね。その振り幅からもこぼれ落ちてしまう自分の一部というものもある。
たとえば同性愛者を嫌悪している本人が同性愛者だったということはよくあるんですよ。そうしたグラデーションを、自分のためにどう認めていくかということだと思いますね。
―樋口さんは「『みんな』からこぼれ落ちる固有の誰か、固有の感情、固有の思考に光を当てて、その瞬間の生命に輝きを与えられるのは、おそらくひと握りの芸術家だけなのだとわたしは思います」とも書いていて、『RIGHT TIME』のことを「こぼれ落ちてゆく瞬間に命を与え、消えてしまうはずだった一つ一つの瞬間の、固有の生を肯定する」作品であるとしています。
butaji:嬉しいですね。
―自分への問いかけともいえる『告白』という作品をつくったからこそ、今回のアルバムで「固有の生」を描くことができたんじゃないかとも思うんです。
butaji:うん、そうですね。前作をつくった段階で同じものはつくれないと思ったし、その段階で次のアルバムはどうするか考えていたんですよ。
「闇と光」「酸素と二酸化炭素」みたいに対比的なイメージというか。それも単に対照的なものということではなく、通底する何かがあるものだと思っています。
butaji:それにしてもすごいですね、樋口さんの文章は。この熱量を受け止め切れないですもん(笑)。いや、嬉しいんですけどね、もちろん。
宅録でつくりきった前作に対し、コロナ禍でバンド録音した『RIGHT TIME』
―サウンド面でいくつか伺いたいんですが、楽曲によってさまざまなバリエーションがありつつ、今回はバンド録音がひとつのテーマとしてあったわけですよね。
butaji:前作は宅録で全部やったんですけど、宅録って自分で想定している以上のものができないんですよ。人の力を借りた作品づくりというのはずっとやりたかったことで、今回はボーカルもエンジニアさんに録ってもらいました。
butaji“春雷”を聴く(Apple Musicはこちら)
―さっきの七尾旅人さんの話じゃないけど、コロナ禍に入ってみんな宅録やリモートで作品をつくるようになっているのに、butajiさんはコロナ以降でむしろバンド録音に向かっているのがおもしろいですね。
butaji:たしかに(笑)。だから、バランスをとっているんでしょうね。視点がシニカルではあると思いますし。
バンド録音、すごく楽しかったんですよ。“友人へ”のアレンジも最初はシンプルな8ビートだったんですけど、ああいうバンドの音になりました。
―“友人へ”はギター中心のストレートなバンドサウンドで、butajiさんがこんなアレンジの曲をやるとは思わなくて、びっくりしました。
butaji:去年の3月、(韓国のシンガーソングライターの)イ・ランちゃんと折坂悠太さんと3人でライブ配信をやったんですけど、この曲はそのときテーマソング的につくったものなんです。
ぼく個人としてはその場かぎりの曲のつもりだったんですけど、お客さんの反応がすごくよかったので、今回録音することにしました。
butaji“友人へ”を聴く(Apple Musicはこちら)
―では、ここで歌われている「友人」とはイ・ランのこと?
butaji:そうそう、イ・ランちゃんのことです。
―先ほどコメントを紹介した石橋英子さんが2曲のアレンジをやっていて、そのうちの1曲が折坂さんとの共作曲“トーチ”です。石橋さんにアレンジを依頼したのはどういう理由からだったのでしょうか。
butaji:まずは英子さんのバンドと一緒に録音したいと思ったんですよね。なおかつ英子さんにプロデューサーとして関わってもらえないかと。
“トーチ”に関しては打ち込みのデモが最初にあったので、それをお渡しして、スタジオのなかでバンドメンバーから出てくるアイデアを採用しながら組み立てていきました。
butaji“トーチ”を聴く(Apple Musicはこちら)
butaji:あと、英子さんから参考音源を送ってもらったんですよ。(1970年代から活動を続けるボストン出身のシンガーソングライターである)アンディ・プラットの『Andy Pratt』(1973年)というアルバム。
他者と協業する可能性を語ることで垣間見えた、butajiのプロデューサーとしての視点
―“トーチ”は折坂さんとふたりでの弾き語りバージョンも以前発表されましたが、今回はバンドで音を鳴らす楽しさが溢れていますよね。
butaji:そうですね。レコーディング中のやりとりもスリリングですごく楽しかった。バンドって楽しいねえと思いました(笑)。
―いまのbutajiさんは他者とともに音をつくりあげていくことに可能性を感じている?
butaji:そういうことだと思います。butasakuで一緒にやってる荒井(優作)さんからの影響もありましたし。
あと、自分がこれまで培ってきたものをようやくかたちにできる感覚もあって。ぼくはコード進行を軸に曲をつくってきたんけど、トラックメイカーの方と一緒にやるとそれまでのアイデアが新しく聴こえる瞬間があるんですよね。
butasaku“the city”を聴く(Apple Musicはこちら)
butaji:たとえば、ベースラインだけのワンループのビートに仮のコード進行を付け、そこでメロディーを考えていく。メロディーができたらコードを省いていくというようなつくり方もして。
完成したものはワンループのビートなんだけど、ちゃんとメロディーが動くし、展開するんです。荒井さんとやるときはそういうことをやっていました。
―今回の収録曲を書くときもそういうテクニカルな観点をもってつくっているんですか。
butaji:折坂さんに宛てて書いた“トーチ”はそういうところがあると思いますけど、他の曲は自分にとって収まりのいいメロディーをひたすら探っていった感じですね。
複数のコード進行のなかでどうメロディーが動いたらナチュラルに響くか。歌詞も含めて収まりがいいところがあるんですよ。そこが見つかるまで、頭のなかでひたすら試行錯誤していく感じですね。
折坂悠太&butaji“トーチ(二人きり)”を聴く(Apple Musicはこちら)
ポップミュージックが社会において持ちうる「機能」。butajiが考えてかたちにしたこと
―最後に一点、聞きたい質問があります。『ミュージックマガジン』2021年10月号に掲載された渡辺裕也さんによるインタビューのなかで、相田みつをのカレンダーの持つ「実用性」について話しています。彼の詩は日常空間に進出していて、表現の役目はそこにあるんじゃないかと。そのうえで「僕が今ポップスを作る理由はそこにあるんじゃないか」とも話しています。
butaji:音楽が音楽のためだけに存在してしまうと終着点が見えてしまうというか、日常空間に出ていかないといけないと思うんですよ。
相田みつをの詩も文脈が省かれているから「とるに足らないもの」と見なされがちなわけですけど、病院に飾ってあるカレンダーに書かれていたりすると、詩人の傲慢さやエゴから切り離されて、その詩が一定の機能を持つんですよね。それは本当に大事なことだと思うんです。
―butajiさんも自分の歌がそういうふうに誰かの日常空間のなかで機能するものであってほしい?
butaji:うん、そういうものをつくれたらいいですね。ポップミュージックの機能美を突き詰めたものというか。ぼくもそんなポップミュージックに支えられてきたし、そういうものしかつくれないんです。
CINRA編集部・山元:最初にbutajiさんは「ポップソングは希望なのかもしれない」とおっしゃっていましたけど、ポップソングが聴き手に希望として「機能」するのは、生きていくということ対して固定観念に縛られないアングル、可能性を提示することによって成されるんじゃないか、ということを感じました。
butaji“I’m here (feat. STUTS)”を聴く(Apple Musicはこちら)
CINRA編集部・山元:途中で「分人」のお話もありましたし、ひとつのキャラクターには集約されない作品のあり方だからこそ、『RIGHT TIME』ではbutajiさんの存在をより身近に感じることができるなと。コロナ禍によって心と心の交流が難しくなっている状況だからこそ、歌に織り込まれたbutajiさんの存在そのものが希望として響いてくる部分もあるというか。
butaji:前作のリリースタイミングでぼくはバイセクシャルだということをカミングアウトしましたけど、そういう人間がポップスをやるということは、挑戦的なことだと思うんですよ。異性愛を前提としたポップスのなかに幅広い愛のかたちを提示しようとも考えているわけで。
異性愛視点のみだと居場所がないように感じちゃうんですよね。でも、ぼくみたいな視点から書けるポップスがあるんじゃないかとも思っています。
- リリース情報
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butaji
『RIGHT TIME』
2021年10月6日(水)発売
価格:3,080円(税込)
PECF-1186
1. calling
2. free me
3. acception
4. YOU NEVER KNOW(feat. STUTS)
5. I'm here(feat. STUTS)
6. 友人へ
7. トーチ
8. RIGHT TIME
9. 中央線
10. 春雷
- イベント情報
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butaji
『RIGHT TIME / RIGHT PLACE』
2021年11月22日(月)
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:
butaji
STUTS
料金:前売3,500円
- プロフィール
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- butaji (ぶたじ)
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東京に住むシンガーソングライター。幼少期からクラシック音楽に影響を受けて作曲をはじめる。コンセプチュアルな楽曲制作が特徴で、生音を使ったフォーキーなものから、ソフトシンセによるエレクトロなトラックまで幅広い楽曲制作を得意とする。2021年10月6日、新作『RIGHT TIME』を発表。
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