文化芸術から見た衆院選。アーティストらが4政党の議員に質問する

いよいよ今週末、10月31日に迫った「第49回衆議院議員総選挙(以下、衆院選)」。コロナ禍の自民党政権に対する国民の審判の場となる、重要な選挙だ。

SNSなどを通じても「投票に行こう」という声が広がっており、菅田将暉や二階堂ふみ、Taka(ONE OK ROCK)、コムアイといった俳優やミュージシャンらが投票を呼びかける、自主制作プロジェクト「VOICE PROJECT」による動画も話題となった。

各争点に関して自分の考えに近いものを選んでいくと、最後に親和性の高い政党が弾き出される「マッチング」コンテンツも、さまざまな団体から発表されている。

そんななか、映画・音楽・演劇・美術に関わる5つの団体による共同キャンペーン「WeNeedCulture」は、文化芸術政策について与野党の主要4党に聞く動画を制作し、YouTubeで配信している。

動画は政党ごとに全4本が用意されているが、本記事ではそれをテーマごとに各党の見解がわかるかたちで再編集し、ダイジェストでお届けしたい。

日本をもっと文化的に豊かな国にするためには、いったい何が必要なのか? 文化立国に成功している諸外国では、実際にどういった政策がとられているのか? こうした観点からなされたWeNeedCultureからの提案に対し、各党代表者はどのような見解を述べているのだろうか。本記事が文化を通じて政治をとらえ、衆院選の投票について考えるひとつのきっかけとなれば幸いだ。

元編集者やバレリーナも。各党の議員が語る、コロナ禍の芸術文化支援への所感は?

「WeNeedCulture」による動画では、アーティストや文化関係者の進行役・聞き手が各党の代表者に対し、文化芸術への思い入れやコロナ禍での政府支援策の評価、収束後の支援の方向性などを幅広く聞いている。

各党のゲスト
自由民主党:党文化立国調査会長 山谷えり子(参院)
公明党:党文化芸術振興会議議長 浮島とも子(衆院)
立憲民主党:党副幹事長 杉尾秀哉(参院)
日本共産党:畑野君枝(衆院)

進行・聞き手
自民:西原孝至(映画監督)、スガナミユウ(ライブハウス店主)
公明:黒澤世莉(演出家)、馬奈木厳太郎(弁護士)
立憲・共産:Nozomi Nodody(シンガーソングライター)、馬奈木厳太郎

自由民主党の山谷さんは国会議員になる前は生活情報紙『サンケイリビング』の編集長。長く読者と一緒に映画や音楽、演劇やアートを楽しんできたと言う。

山谷(自民):これだけ長い期間にわたり公演の中止などが続くと、文化芸術に携わる人たちの生活はとても厳しい。アンケート調査をすると、「本当に飢え死にしそうだ」という声も聞きます。新たな感染者数は次第に収まりつつあるとはいえ、公演やイベントを以前のようにできるわけではない。発表の場所を失って、文化芸術を必要としている国民との交流、気持ちや感動のやり取りの場を奪われています。

公明党の衆議院議員、浮島さんは元バレリーナ。香港や米国のバレエ団で活躍した。阪神淡路大震災後に帰国し、ミュージカル劇団「夢」サーカスを主宰するなど、舞台芸術に精通している。

浮島(公明):私は一人の芸術家としてさまざまな舞台に立ち、作品をいろいろとつくっていました。文化芸術に携わる人たちはコロナ禍のなか、政府から人流を抑えるよう、不要不急な活動をしないよう求められましたが、文化芸術に「不要不急」は当てはまらないと思います。むしろコロナ禍のいまだからこそ、文化芸術の力が必要だと実感しています。

立憲民主党の杉尾さんはTBSの元報道局記者。国会議員に転身する前は社内で解説専門記者室長を務めた。記者時代を振り返り、文化芸術へのさまざまな思いを語る。

杉尾(立憲):優れたディレクターは休みのときに、小さな芝居小屋やアングラの舞台に通っていました。(業界に)新しい風を吹き込んでくれる有望な人材がどこかにいないものかと、つねに探していた。そうした「場」がなくなれば、新しい芽を見出すことができなくなります。それぞれの小さな場が、文化芸術発展の礎になっている。今回、そのことを政治の側が意識し、十分な気配りをすべきだと感じました。

日本共産党の畑野さんは高校時代に友人と漫画研究会を結成。大学時代は「漫画家を目指そうか、教師になろうか」と悩んだ末、中学校の国語教諭に。党職員を経て国会議員になった。

畑野(共産):日本中に衝撃が走ったのは2020年2月26日。当時の安倍首相による文化イベントやスポーツの自粛要請でした。翌日には全国一斉の学校休校要請。現場から悲鳴が上がり、私はその後の衆議院文部科学委員会で質問に立ち、さまざまな問題点を指摘しました。

あれから1年半。WeNeedCultureをはじめ文化芸術の皆さんが声を上げ続けたことで、現場の深刻な実態を政治に届けることができた。状況を一緒に前に進めることができたと思っています。

ライブハウス、クラブ、ミニシアター、小劇場などの存続に対する各党の見解は?

WeNeedCultureは、コロナ禍で大きな打撃を受けた小規模文化施設(ライブハウス、クラブ、ミニシアター、小劇場など)の存続に向け、2021年8月末、「政治」に向けて4つの具体的な施策からなる提言をまとめた。

その施策とは、第1に「『場』や『担い手』への直接支援の拡充」、第2に「官民一体となった文化芸術関係者の共済制度の創設」、第3に「使途を問わない給付型の補償制度の創設」、そして第4に「すべての若者が文化芸術に触れられる機会の創出」である。

本記事では、「この4つの施策に対して各党の代表者がどのような見解を示していたか」を軸に、動画の内容を再編集した。

まず、第1の「『場』や『担い手』への直接支援の拡充」。現在、文化芸術分野に対する主に文化庁の現行の支援は、制作やイベントへの助成など「活動」に対するものが中心だ。しかし新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、活動そのものが困難となり、公演などを計画しても中止せざるを得ない状況が続いた。それであれば「活動」と併せて、ミニシアターなどの「場」や、場を支える「担い手」に対し、支援拡充が必要ではないか。

山谷(自民):もっと柔軟に、それぞれの業界に合った支援のかたちにすべきだ、と文化庁に求めています。(従来からの)活動への支援については、動画配信など発表形態の広がりとともに拡大してきました。

浮島(公明):活動しなければ支援が受けられない、というのではなく、状況に応じた支援のあり方について、さまざまな議論をしています。私も舞台にかかわっていたのでよくわかるのですが、(公演を)やっている月があれば、やっていない月もある。(活動していないといっても)練習の月も必要です。(そうした実態をふまえた)さらなる支援拡充に向けて力を尽くしたいと考えています。

杉尾(立憲):「場」に併せて「担い手」にも支援をする、というのはWeNeedCultureの提言のなかでもとりわけ重要なポイントだと感じており、党の政策公約に取り込みました。例えば、小屋の維持費や固定費など「場」であるとか、実際に公演を担っている「人」に対する直接的な支援を(「活動」に対する支援に加えて)新たにつけ加えました。これは非常に大きな変化だと考えています。

畑野(共産):「活動したら支援するよ」と言われても、コロナ禍ではその活動ができないのですから、やっぱり矛盾しています。ミニシアターやライブハウス、クラブ、小劇団を含めた「場」を支えるのは当然のこと。一方で「場」を支える人たちがいないと「場」は回りません。しかし、いままではスタッフを含めた「担い手」への支援は考えられてこなかった。今回そのこと(の不備)が明らかになったと思っています。

「衆院選2021 文化芸術政策を聞く 自由民主党編」presented by WeNeedCulture

国費を投入した、文化芸術関係者への支援基金は実現する?

つづいては、第2のテーマ「官民一体となった文化芸術関係者の共済制度の創設」へ。コロナ禍で危機的な状況に陥った文化芸術団体などを支援するための基金としては、2020年5月に「文化芸術復興創造基金」が創設された。しかしこれまでの寄付は民間からの約5,300万円(9月末現在)にとどまっており、当初の目的を達成していない。

そこでWeNeedCultureが提案しているのは、業界全体を支える共済的な仕組みを構築し、国費を投入した官民一体型の基金を目指すこと。これに対して、各党代表者の発言を見てみよう。

山谷(自民):基金への国費の投入については、自民党内でも「検討すべきだ」という声があり、関係者と詰めていきたいと考えています。ヨーロッパでは文化芸術家が仕事をすることができなくなったとき、失業保険的な共済制度がいろいろある。諸外国の先進的な事例を検討し、結果を出したいです。(党内では文化芸術団体に対する)優遇税制についても議論しています。

杉尾(立憲):政策公約に「基金への公的資金の増額および民間からの資金増加を図る仕組みを検討する」と書いており、これに沿って尽力したいと考えています。

畑野(共産):昨年9月、党は文化庁に「基金については数千億円規模にする必要がある」と要請しました。いまある基金に国費数千億円を加えたものになるよう抜本的に変えていくべきだと考えています。

「衆院選2021 文化芸術政策を聞く 公明党編」presented by WeNeedCulture

諸外国と比較して、そもそも文化にかける予算が少ないのでは?

また、WeNeedCultureは「文化芸術復興創造基金」の改革と同時に、文化庁予算の大幅な拡大と、その先の「文化芸術省」の創設も求めている。文化庁の年間予算は約1,000億円で、この20年ほど横ばい状態が続く。令和2年度の補正予算で、文化芸術分野へは別途1,000億円が計上されたものの、日本の文化をもっと豊かなものにするためには、さらなる予算拡大が必要ではないだろうか。

山谷(自民):フランスのマルロー元文化相は「国家予算の1%を文化政策へ」という目標を掲げていました(※1990年代に達成)。それは、日本のいまの予算規模だと1兆円くらいに相当します。日本は「文化の底力」がある。でも相応の予算をつけないと、それを生かすことはできません。党の政策公約では「文化芸術立国の創出に向けて必要な文化予算を確保する」と掲げており、私としては文化庁の予算は現在の10倍が妥当だと考えています。

コロナが収束してインバウンドが戻ってくれば、出国税なども入る。これらを文化芸術に回すべきだと、私は以前から主張してきました。外国人客も日本のエンタメにすごく興味を持っているので、クールジャパン戦略とも絡めてインバウンド需要を取り込み、世界に冠たる文化芸術立国を目指したい。

浮島(公明):文化庁の年間予算1,000億円というのは、絶対的に少ないです。当初予算のスタートは1,500億円(※文化庁による令和4年度の概算要求は1,311億円)が妥当。年末に向けた予算編成で文化庁や財務省と話をして、力を尽くしたいと考えています。

杉尾(立憲):日本で文化芸術支援は本当に遅れています。フランスや韓国などと比較して、金額的にも少ないし、支援の中身も薄い。文化に対して、政治側の理解度がまだまだ足りていないということの表れだと思います。「文化芸術省」の実現はともかく、文化庁には大きな予算規模が必要です。

畑野(共産):日本の文化芸術関係の予算規模は、フランスと比較して9分の1程度にとどまっています。これを抜本的に増やすことが重要だと考えます。

「衆院選2021 文化芸術政策を聞く 立憲民主党編」presented by WeNeedCulture

エンタメ産業の損失はマイナス77%。使いみちを問わない給付金が必要では?

ぴあ総研によると、2020年3月〜2021年2月の1年間にエンタメ産業が被った経済的な打撃はじつに前年比マイナス77%。音楽・ステージ・映画の3分野での損出額は約6,600億円と推計されている。断続的な緊急事態宣言の発令に伴って休業要請や客席減、時短営業が繰り返されるなか、WeNeedCultureは第3の施策として「使途を問わない給付型の新たな支援制度の創設」を求めている。

「衆院選2021 文化芸術政策を聞く 日本共産党編」presented by WeNeedCulture

山谷(自民):文化芸術は他の産業と違うところがあり、とくにフリーランスは「契約」関係がしっかりしていないことが多く、減収証明も難しい。特別な慣行の見直しを含め、契約システム改善に向けてバックアップすべきと思っています。また(給付金申請などでも)書類がややこしいなど、課題がある。いろんな悩みを聞いて、一つひとつ文化庁に提言し、自民党の部会でも検討を重ねていきたいと考えています。

浮島(公明):支援制度については、さまざまな側面からの課題があります。例えば文化芸術は、産業分類が曖昧になっていることもあり、政府の雇用調整助成金などの支援を当初は得られないことがありました。

また、契約の問題では、例えば舞台照明の人が要員不足を理由に急に駆り出されても、雇用の多くは口約束。契約を証明する方法がありません。今回に限り財務省との折衝で申請が認められましたが、こうした商習慣も改善する必要があるでしょう。

杉尾(立憲):文化芸術の「担い手」の皆さんの間で大幅な減収が目立ち、7割以上減少した人が半分ほどを占めるという統計があると聞きます。また、支援策があってもきちんと届いていない場合がある。減収分については単純な補填はしない、というのが国の基本スタンスですが、これでは文化芸術の先行きにも深刻な影響があると危惧しています。

畑野(共産):私は国会の委員会で次々に問題点を取り上げて、例えば(文化芸術関係の)フリーランスに対する緊急の給付制度をつくるべきだとも訴えました。

フランスには芸術家のための制度として「アンテルミタン」(※10か月間に最低507時間の仕事をすると、翌年は契約が途切れた期間に失業手当を得られ、毎月最低限の収入が保証されるシステム)があります。また(俳優などが舞台や撮影中に怪我をした場合に労災保険の適用が難しいケースが多いという現状を踏まえて)実演家にも労災保険の適用を、などといろいろ言い続けてきました。

コロナ禍のSNS上では、ヨーロッパ在住のアーティストたちが給付金の迅速な振込についてしばしば実情を投稿して話題になっていた

もっと、若者が文化芸術に触れる機会をつくるには?

最後に、第4の施策として挙げられていたのは「すべての若者が文化芸術に触れられる機会の創出」。

文化庁の世論調査などによると、コンサートや美術展、アートや音楽のフェスティバル、歴史的な文化財の観賞、映画その他の文化芸術イベントの観賞について、18歳以上の国民の約7割が「半年に1回か年に1回程度の機会しかない」との結果が出ている。

WeNeedCultureは、こうした機会の極端な少なさの背景について、多くの人が文化芸術から離れ、あるいは触れられない生活になっているからだと分析している。

WeNeedCultureは「文化は人々の精神の礎であり、文化的な生活は憲法で保障されている。共同体が機能するには、文化芸術は必須の要素であり、苦境に立たされた人を救う役割もある」との認識を示し、収入が不十分な20代半ばまでの若者世代が文化芸術に簡単にアクセスできる機会の創出を求めている。

例えば、フランスで最近「カルチャーパス」という制度がスタートした。これは、18歳になると2年間で300ユーロ(約4万円)分のパスがもらえ、アートイベントや映画のチケット、書籍や画材、楽器といった物品、ダンスレッスンなどの受講料に充てることができるという仕組みだ。WeNeedCultureは、日本でも「すべての若者に文化芸術を」の姿勢でこうした制度を創設することで、文化芸術全体の底上げができると期待している。

こうした、若者が文化芸術に触れる「機会」について動画内で触れていた党代表者は少なかったが、自民の山谷さんと立憲の杉尾さんのコメントを挙げておく。

山谷(自民):日本は文化芸術立国であり、文化芸術などのソフトパワー産業は、国の成長戦略の要。こうした考え方を基本に、体験や観賞の機会をたくさんつくっていきたい。

杉尾(立憲):WeNeedCultureからの提言で、初めてフランスの「カルチャーパス」について知りました。なるほどフランスは文化芸術関係の予算が日本の数倍もあって、こういうことをするんだと感心しました。コロナのあるなしにかかわらず、とても興味深く、トライしてみるべき政策の一つだと思います。

SNS上では、「カルチャーパス」を使用して漫画や書籍、チケットなどを購入したという旨の投稿が見られる

各番組を見る限り、出演してもらった各党代表者への遠慮もあってか、やや突っ込み不足の感はぬぐえない。一方で、ただ一つ明確に言えることは、コロナ禍のなか、文化芸術関係者やWeNeedCultureなど団体などによる政治や行政への積極的かつ継続的な働きかけにより、基金の新設や持続化給付金の支給など具体的な「成果」を勝ち得た、ということだ。ある意味で世論が、政治や行政をいかに大きく動かし得るか、変え得るかということを実証したかたちだ。ぜひ、投票には行き、一人の市民としての意思を選挙の結果に反映させてほしい。



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