「誰にでも、愛おしくて可愛い部分が絶対にある」と、蒼井優と菊池亜希子は話す。その愛おしさに気づくことができたら、自分自身の勇気になるかもしれない。
ハロー!プロジェクト所属のアイドルグループ・アンジュルムの大ファンを公言する、蒼井優と菊池亜希子。アンジュルムのアーティストブック『アンジュルムック』(2019年)のダブル編集長を務めたふたりが、11月15日に卒業する笠原桃奈の写真集『Dear sister』(同日発売予定)で再タッグを組んだ。
菊池は同作を、「乙女のバイブルになり得るような写真集にできたら」と語っている。たしかに、自然体のままに切り取られた笠原の姿を眺めていると、それを鏡にして、自分や周囲への「愛おしい気持ち」を思い出すようだ。
「とにかく笠原さんにストレスをかけないように」と写真集に向き合ったというふたりの姿勢の背景には、ともに10代の頃から芸能界で活躍していた自身の経験があった。
私たちの心のどこかに「おじさんっぽさ」があるように、誰しもに「乙女な心」がある(蒼井)
─前回の『アンジュルムック』に続き、今回もコンセプト決めから衣装選び、撮影のディレクションや構成まで、制作に関わるすべての工程におふたりが関わっていらっしゃいます。菊池さんが今回の写真集を「乙女のバイブル」と表現した言葉には、どのような意図が込められているのでしょうか?
菊池:誤解を招かないようにお伝えしておきたいのが、性別の「乙女」ということではないんです。
蒼井:性別の男女ではなくて、マインドのほうだよね。私たちの心のどこかに「おじさんっぽさ」もあるように、誰しもに「乙女な心」があると思うんです。
菊池:だから、女性がつくる女性のための写真集、というつもりだったわけではなくて。女性アイドルの写真集といえば購買層は男性が多いイメージがあるのかもしれませんが、私自身女性の写真集が好きでよく買うんですね。そういう人ってじつは結構いるんじゃないかなと思うんです。女性が持つ可愛さや美しさみたいなものを愛でたい気持ちが自分のなかにあって、見ているときにときめくこともたくさんあります。
今回の写真集も、自然体な笠原さんの美しいところ、愛おしいところ、可愛いところをつめ込んだ結果、乙女の背中を押すようなものになったらいいなと思っていました。
─おふたりのおっしゃる「乙女心」について、もう少しお聞きしたいです。
菊池:人の心を柔らかくほぐしてしまうものを見て、「可愛い!」とにんまりしてしまう気持ちと言いますか。「可愛い」がひとつのキーワードだと思います。人に対しても、モノに対しても、自分の心が「可愛い!」って反応すること。
蒼井:うちの夫が、大好きな宝塚を見て「グフグフ」言っているときなんかも、「乙女心が炸裂してるな」って思います(笑)。
外見ではなくマインドの可愛さもポイントだと思います。笠原さんが乙女心をくすぐるのって、ビジュアルの圧倒的な可愛さもあるんですけど、それを越える「マインドの可愛さ」があるからだと思っていて。ふとしたときに、想像を超えた魅力がどんどん溢れてくるので、今回の撮影でもそれを取りこぼさないように必死にキャッチしました。
菊池:意図的じゃなくて、うっかりこぼれ落ちるんだよね。写真集のなかだと、シュークリームを食べるカットとか。「なんでそんなに下手っぴなの?(笑)」と思うくらい、必死な食べ方だったんですけど、それがすごく可愛くて。
予想していない「余白」に可愛さってたくさんある。それは誰に対しても感じるものだと思います。だから「可愛い」の視点を大切にして周りを見渡すと、いろんなものが可愛く、愛おしく見えてくるんです。
目指す自己像に向かって努力している人は、誰しも魅力的(菊池)
─「誰しもに可愛い部分がある」という視点で、自分の「可愛さ」にも気づけたりしますか?
菊池:人のことだとよくわかるんですけど、自分のことだとわからないかも……。
蒼井:自分だと決めちゃうよね、合格ラインを。
菊池:そうなんだよね。それは自分で気づけるものじゃなくて、誰かに言われて気づくのかもしれないです。たしか、優ちゃんにも最近言われたな……。
蒼井:ポテトチップスのとき。
菊池:あ、そうそう! 写真集の制作が終わりに近づいていた頃、その日のロケが全部終わって、ポテトチップスを食べてたとき。
蒼井:半目になりながら、とりあえずカロリーを摂取しなきゃみたいな感じで、リスみたいにもぐもぐ食べていて。それが可愛かったんです。
菊池:あのときは、記憶が半分ないくらいすっごく眠かった。
蒼井:その無防備さが可愛くて、写真に収めたかったですね。やっぱり、その人の可愛い瞬間って本人は気づいていないことも多いし、どんどん過ぎ去っていってしまう。そういうとき私は写真に撮りたくなるし、すぐに伝えて相手の記憶に留めてほしいって思いますね。
菊池:私が最近可愛いって思ったのは、優ちゃんの家に遊びに行ったときの、旦那さんかな。ちょろちょろ顔を出して、「ゆっくりしていってくださいね」とか声をかけてくださるんですけど、なんだか「妻の友だちを出迎える素敵な夫」を演じているみたいで(笑)。一生懸命なのが可愛かったんです。
─笠原さんも撮影を通じて、自分では気づけていなかった魅力に巡り会えたのかなと想像するのですが、どう思われますか?
菊池:そうかもしれないですね。彼女は18歳で、12歳からグループに加入して、たくさんのお姉さんメンバーに囲まれながら、どんどん大人の階段を登ってきたんですよ。メイクもファッションも大人っぽくなって。
でも、私たちにとっては、笠原さんが目指す大人の女性像に「なろうとしている」姿勢そのものが抱きしめたくなるほど愛おしくて。撮影中も、いろいろ表情をつくってくれたんですけど、その後、ふにゃーってなったり、悩んでいたり、うっかりこぼれた表情にときめいて、そういうカットをついついセレクトしてしまうことも多かったですね。
蒼井:笠原さんが持っている「希望」全部が可愛いくて愛おしいんだよね。でも、それは彼女だけが特別なわけではなくて、そういうふうに「なろうとする」「やろうとする」心を持っている人全員が、可愛くて愛おしいんだと思います。
菊池:目指す自己像に向かって頑張ってたり、素敵になりたいと努力してたり、そうやって一生懸命になっている人ってとっても素敵だよね。結果がどうなったとしても、その姿勢が魅力的だよね。
親が撮った子どものアルバムと同じくらいの愛を目指せなければ、写真集はつくっちゃいけないと思うんです(蒼井)
─蒼井さんは今回の写真集に寄せたコメントで、ご自身の10代20代のときの写真集が「つくってもらったときの経験を含め、お守りのような気がしている」とおっしゃっていました。参加したカメラマンの高橋ヨーコさんは、蒼井さんの写真集『トラベル・サンド』『ダンデライオン』を担当された方ですが、自身の写真集がヒントになったことはありますか?
蒼井:世の中にはたくさんの写真集がありますが、私は、親が撮影した子どものアルバムと同じくらい被写体に対して愛情がないといけないと思っていて。難しいことだけれど、でもそれくらいの気合いがないと、写真集はつくっちゃいけないと思っているんです。
そう思えたのは、10代20代のときの写真集に関わってくださった、ヨーコさんやスタイリストのタンナイミサさん、(版元である)ロッキング・オン編集の上田智子さんのおかげです。あのときに「こんなにあったかいまなざしで見てくれる人がいるんだ」「こんなに愛してもらえるんだ」って感じることができたのは、私にとって大きくて。
だから同じような経験を、笠原さんにしてもらいたかったんです。笠原さんは海外に留学されることが決まっているし、日本でこれだけ愛されていたという事実を、物体として残しておきたかった。写真集って物理的に抱きしめられるので、お守りになるんですよね。
自分が10代や20代の頃に違う大人と出会っていたら、笠原さんの写真集がこういうものにはなっていなかったのかもしれません。
─笠原さんが写真集の後書きで、「こんなにも自分は愛されていいのかと戸惑うほど」と書かれていました。ファンのひとりとしては「愛されて当たり前ですよ!」と驚いたのですが、当人は疑問を持つものなんだなと思いました。
菊池:アイドルのお仕事ってみんなから愛されて憧れられるのに、笠原さんはそこに立ちながらも普通の女の子の視線で、「愛されて当たり前じゃない」ということにいつも向き合っていて、そういう姿勢って魅力的だし、目が離せなくなります。
「ここに立っているのは自分ひとりの力じゃない」という言葉って、アイドルの卒業コンサートはもちろん、私たちの生活のなかでもよく耳にしたり口にしたりすると思うんですが、笠原さんは本当に「ここにいるべき人」になるための努力をいつもしているなって思います。思いっきり弾けている明るい部分と内省的な部分、そのアンバランスさが笠原さんの魅力のひとつだなと思います。
ただただ可愛いものとして愛される写真集が増えたら、写真集の可能性はもっと広がる(菊池)
─本に収められた写真からも、後書きからも、笠原さんがおふたりやスタッフからの愛情をまっすぐに受け取り、素敵な関係を築かれたのだなということが伝わってきます。おふたりが愛を示すうえで、気をつけたことはありますか?
蒼井:とにかく、笠原さん個人を大切に思っていることを伝えました。「アンジュルムの笠原さん」ももちろん好きだけど、見ているのは笠原さん個人のことなんだと。
彼女自身の幸せをみんなが願っているからこそ、写真集をつくるうえでも、笠原さんが絶対に傷つかないでほしい、ストレスを感じないでほしい、私たちが決めたレールに乗らないでほしいって思っていました。全体のディレクションを担当する立場として、地図は書くけれど、そこから道を選び取るのは笠原さん自身に委ねる。そこのバランスは気をつけました。
─笠原さんは人見知りでシャイな方なので、自分の意見を言えない可能性もあったと思うのですが、声かけなど意識されたことはありますか?
蒼井:事前の打ち合わせの段階から、無理に笑わないでください、と言いました。カメラの前に立ったときの感情のままで大丈夫です、と。緊張しちゃう表情も、シャイになってしまう表情も、どれも魅力だと思うので。
菊池:なるべく自然体でいてほしかったので、なるべく急かさず、その場の空気にスタッフみんなが身を任せ、ロードムービーのようにドキュメンタリータッチで写真を撮っていきました。
同じ景色を見て、同じ時間を過ごして、目の前の一つひとつを丁寧に感じる。その時間は私たち自身にとってもすごく幸せなもので、それを笠原さんも感じてくれていたのかなと思います。そこから自然に出てくる表情を、カメラマンのヨーコさんが丁寧に収めてくれました。「いい写真が撮れたな」と満足げな顔で振り返るヨーコさんの表情も、愛に溢れていましたね。
菊池:その時々の笠原さんの気持ちを大事にしたかったので、いろんな選択肢を選べるように材料は用意しながらも、無理に押しつけることはないようにしました。
蒼井:私の写真集のときもそうだったんです。「絶対にこうしましょう」というのが決まってなくて、そのときにやりたくなったらやろうって。
菊池:それは理想的だと思うんですよ。本人の気持ちが何よりもいちばん大事。純粋にやりたいことをやっている瞬間ってきっといい表情になると思うし、嘘のない本当の気持ちが写し出された写真って、愛おしさが溢れて人の心に届きますよね。
そんな風に、ただただ純粋に可愛くて愛おしいと思える写真集が増えたら、写真集の可能性ってもっと広がるんじゃないかと思いますね。
「大人っぽくなることが寂しい」という感情を、10代のときはまだ言葉にできなかった(蒼井)
─本作は10代の終盤を迎える笠原さんを収めたもので、笠原さんが後書きで「一回目の(撮影の)時よりも随分大人っぽくなったと言われて、その時ほんの少し寂しくなりました」と書かれていました。こうした10代特有の感情を、写真集をつくる過程でおふたりも思い出す部分はありましたか?
蒼井:そうですね。いろんなことを考えながら撮影に立ち会いました。笠原さんの後書きを読んで私が思ったのは、大人っぽくなることが「寂しい」という感情に気づいたのは、私の場合もう30代になってからだったなということ。10代の頃の私はその感情を言葉にできなくて、本当は寂しいときも明るく振る舞っていたような気がします。自分の一瞬一瞬の感情を、自分の言葉で表現できる笠原さんは素晴らしいし、みんなに読んでほしい後書きだと思いました。
菊池:私は結構、笠原さんと同じことを思っていたタイプで、それは背が高くて大人っぽく見られがちだったからというのもあるかもしれません。私は16歳でモデルデビューしたんですが、どちらかといえば遅めで、「既に出遅れた」という感情があったのを覚えています。
いまでこそ「若いほうがいいっていう価値観なんて!」と笑い飛ばせるくらいの大人になったけれど、渦中では年下の子たちが羨ましくてしょうがなかった。笠原さんの後書きを読んで、当時の自分を思い出しましたね。
蒼井:笠原さんの言葉、すごい表現力だよね。
菊池:自分の心のなかの引っ掛かりから逃げない人ですよね。そんな笠原さんの姿と言葉が、いろんな乙女を勇気づけるような写真集になっていたらいいなと思います。
- 書籍情報
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笠原桃奈フォトブック『Dear sister』
2021年11月15日(月)発売
価格:2,546円(税別)
判型:B5変形112P
ISBN:978-4-908643-69-9
発行:オデッセー出版
- プロフィール
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- 蒼井優 (あおい ゆう)
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1985年8月17日生まれ、福岡県出身。2001年、『リリイ・シュシュのすべて』で映画初出演。2006年に出演した映画『フラガール』で「第30回日本アカデミー賞」最優秀助演女優賞・新人俳優賞、2017年にも映画『彼女がその名を知らない鳥たち』で「第41回日本アカデミー賞」最優秀主演女優賞、「第39回ヨコハマ映画祭」主演女優賞など数多くの賞を受賞。
- 菊池亜希子 (きくち あきこ)
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1982年8月26日生まれ、岐阜県出身。モデルとしてデビュー後、映画やドラマ、舞台など女優としても活躍の幅を広げる一方、著者としても活躍。主な出演作に映画『森崎書店の日々』『海のふた』など。著書は『好きよ、喫茶店』『へそまがり』など多数。編集長を務める『菊池亜希子ムック マッシュ』はシリーズ累計56万部を突破。公開中の映画『かそけきサンカヨウ』に出演。
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