サブスク時代のいま、埋もれてはいけない名曲を歌い継ぐ
サブスクリプションサービスの登場と普及によって、いまや私たちは、もはや無限にも思えるような、じつに膨大な音楽ライブラリに、日々アクセスできるようになった。しかし、そんないまだからこそ、埋もれさせてはいけない名曲たちを、聴き継ぎ、語り継ぎ、歌い継いでいきたい。そういった思いのもと、レコードやカセット、CDで発売され、これまで多くの人に愛されてきた無数の名曲たちを、ある種の「新鮮さ」をもって、いまの時代によみがえらせようとするプロジェクト、それが『Old To The New』だ。
本プロジェクトはLINE RECORDSとCINRAによって立ち上げられ、2020年にはその第1弾として、女優・松本穂香が歌う、松任谷由実の“守ってあげたい”のカバー楽曲を制作、公開した(関連記事:松本穂香は言葉にならない感情に挑む。時代を超える作品のために)。その第2弾として、今回大抜擢されたのは、弱冠12歳の実力派女性シンガー・加藤礼愛だ。そして、彼女が新たな息吹とともに歌い上げるのは、ご存じDREAMS COME TRUEの1992年の大ヒット曲、“決戦は金曜日”である。
ところで、今回大抜擢された加藤礼愛とは、果たして何者なのだろうか。本稿では、彼女を起用するテレビ関係者や、番組で共演する芸人・とろサーモン久保田をはじめ、彼女を知る5人の関係者の証言のもと、加藤礼愛に迫りたいと思う。
『クセスゴ』テレビ関係者や、とろサーモン久保田からの証言
2009年生まれの12歳、この春から中学に進学する加藤礼愛が人前で歌うようになったのは、4歳の頃に参加した、とあるミュージカルのオーディションだった。
そこで、審査員からの絶賛を受けた彼女は、自身もかつて音楽活動をやっていたことがある母親の導きのもと、各地のカラオケ大会に出演。数々の賞に輝くなど、「歌うまキッズ」界隈では、すでにかなり知られた存在だ。
そんな彼女にとって、ひとつの転機となったのは、いまから約2年ほど前から出演するようになったテレビ番組『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)だった。テレビでお馴染みの芸人たちが、千鳥のふたりの前で「クセがスゴいネタ」を披露する人気番組。そこに、「歌うま小学生」として、参加することになったのだ。
それから約2年のあいだ、同番組のさまざまな歌ネタに参加してきた彼女。そのなかでも、芸人・とろサーモンの久保田かずのぶとコンビを組んだ歌ネタは、とりわけ視聴者からの人気が高く、2021年7月に彼女が久保田とのコンビで披露したAdoの“踊”は、見事グランプリ作品にも選ばれた。
人気芸人たちがしのぎを削るこの番組に、なぜ加藤は出演することになったのだろうか。そのきっかけと経緯について、番組初出演以降、加藤のことを近くで見てきた同番組の演出 / ディレクター・高瀬康宏は、つぎのように語ってくれた。
高瀬:芸人さんの「ふだんは見られないネタを見る」という番組コンセプトのなかで、歌ネタをやってみようということになったんです。そこで、ただ芸人さんがラップを披露するだけではなく、めちゃめちゃ歌の上手い人の横で、芸人さんがクセのあるラップをして、「邪魔だよ!」となるのが面白いんじゃないかと思い企画をしました。
ただ、プロの歌手の方にやっていただくと、普通のコラボに見えかねない。だったら、歌がめちゃくちゃ上手い子どもとやってみたら面白いんじゃないかと。そこからリサーチしたときに、最初に名前が出てきたのが礼愛ちゃんだったんです。
加藤の魅力は、その圧倒的な歌声と、事前にしっかりと準備して、自らの歌を完成させてくる、そのストイックさにもあるようだ。けれども、彼女がまわりの大人たちから愛される理由はそこだけではない。そう語るのは、同番組のプロデューサー・中垣佐知子だ。
中垣:普段は、ごく普通の12歳の可愛らしい女の子で、恥ずかしがり屋さんで、話す声もすごく小さいんですよね。だけど、いざ本番となったときのスイッチの切り替え方が本当にすごくて。本番で歌うときの堂々とした感じと、恥ずかしそうにしている普段の感じのギャップが、たまらないんです。
いつもモジモジしていて、めっちゃ可愛いんですよ。なのに、ステージに上がったら、その立ち姿からもうカッコいい。そのギャップに、私も含めて、みんなやられちゃうんですよね。
さらに、同番組で何度も加藤とタッグを組み、いまや加藤のことを「相方」と呼ぶとろサーモン・久保田はつぎのように語ってくれた。
久保田:初めて礼愛ちゃんの歌を聴いたとき、持って生まれた音感とか感覚、バランスが秀でてると思いました。それに加えて、いつも完璧に準備をして、自分の歌を仕上げてくる。小学生で言うと、夏休みに入って1日目で宿題全部終わらせるエリートのようなイメージですかね。なので、こっちもやりやすいですし、ぼくのなかでは「子どもだから」っていう感覚は一切ないですね。プロとプロの仕事みたいな感じで、いつもやらせてもらっています。
普段は大人しくて優しい子です。学校の話を聞いたりもしています。このまえ『クセスゴ』の収録日がぼくの誕生日だったんですけど、収録終わりに走ってきてくれて、プレゼントです、って礼愛ちゃんのブロマイド写真をくれました。いま部屋に飾ってありますよ。
社会に出たら、決戦は金曜日だけじゃなく毎日なので、困ったことがあったらいつでも相談してほしいなと思いますね。
話を聞けば聞くほど、加藤は、その小学生らしからぬ「圧倒的な歌唱力」と「シンガーとしての図抜けた表現力」はもとより、ステージ外での純朴でシャイなキャラクターが、多くの大人たちから愛されているようだ。彼女について話す大人たちの様子は、どこか「親」や「親戚」のようですらある。
制作背景から見えた、シンガーとしての加藤礼愛。プロデューサーらからの証言
そんなふうに、まわりの大人たちから、その成長をあたたかく見守られている彼女が今回挑戦したのは、1992年にリリースされ、シングルとしては、DREAMS COME TRUEにとって、初のミリオンセラーを記録した大ヒット曲“決戦は金曜日”だ。当時を知る人にとっては、きっとそれぞれに思い入れの深い一曲だろう。
しかしながら、当然加藤は、当時を知るどころか、生まれてもいない。彼女は今回、この“決戦は金曜日”という曲に、どんなふうに向き合ったのだろうか。
加藤:“決戦は金曜日”については、お母さんに当時のことを聞いたり、歌詩の解釈を相談して、一緒に考えたりしました。自分でも、インターネットでいろいろ調べたりもしました。大人の人の恋の歌なので、自分が体験したことのない歌ですが、曲の主人公になりきって歌おうと思いました。
歌詩は、<ふくれた地下鉄が>という言葉からはじまる1番のBメロと、<あなたといる時の 自分が一番好き>というフレーズから始まる2番のBメロが、とくに印象に残っています。とても難しい曲でしたけど、いろんな部分にこだわってつくったし、気持ちを込めて歌ったので、聴いてほしいです!
本企画の第1弾となった“守ってあげたい”に引き続き、今回の“決戦は金曜日”の楽曲プロデュースを担当したのは、音楽プロデューサー・高野勲だ。レコーディングに参加したメンバーは、こちらも前回同様、ウエノコウジ(Ba)、あらきゆうこ(Dr)、藤井謙二(Gt)、平岡恵子(Cho)という、じつに豪華な4人となっている。
初めて加藤に会ったとき「『初めて聴く曲だけど、歌ってみたい!』という強い気持ちを感じた」と言う高野は、今回の楽曲を、どんなことを意識しながらアレンジしていったのだろうか。
高野:メロディの持つ魅力はそのままに、この曲を知らない若い人の耳にも残るようなものとして、メンバーの顔が見えるような、生々しいサウンドを意識しました。この曲を知っている世代の人にも、「これは、初めて聴いたな」って思えるようなカバーにしたいと思って。
懐かしさだけではない、サウンドそのものの面白さ――何しろ、すごいメンバーがそろっているので、いわゆる決まり切った演奏ではなく、各楽器がぶつかり合って、混じり合いながら、ひとつにまとまっていくような、とても面白いサウンドになっていると思います。そこに、加藤さんの圧倒的な歌声が入って、さらに耳を引くような一曲になったのではないでしょうか。
そんな名うてのプロデューサー&プレイヤーたちを前に、決して物怖じすることなく、その迫力ある歌声を存分に響かせる加藤。その際に意識したのは、「リズム、感情を込める、グルーヴ感」の3つだったと言う。その歌声は、本作のいちばんの聴きどころと言えるだろう。
さらに、オリジナルのミュージックビデオも制作された。もともとの楽曲が持つイメージよりも、彼女自身の等身大な雰囲気が伝わるよう、学校の校舎で撮影されたという今回のMV。それを担当したのは、こちらも前回と同じく、猿人 ENJIN TOKYOの野村志郎だ。
野村:今回は、作品としても残るMVの撮影ということで、ヘアメイクなども礼愛さんにも意見を聞きながらつくり上げていきました。映像的には、あえて余計な演出を入れ過ぎず、とにかく歌い手の魅力にフォーカスをして、美しく切り取ることに徹しています。“決戦は金曜日”という名曲が、加藤礼愛さんという新しい才能によって巻き起こる化学反応を楽しんでもらえると幸いです!
古きをたずね新しきを知る「温故知新」のニュアンスはもちろん、「継往開来」――先人の偉業を受け継ぎ、発展させながら未来を切り開こうとする意図も含んだ本プロジェクト『Old To The New』。それについて野村は、あらためて次のように説明する。
野村:音楽は、時代の空気によって、姿かたちを変え、トレンドは移り変わっていきます。ただ、クラシックと言われるような名曲は、その時代性を超えて人の心を揺さぶる魅力が、備わっていると思います。『Old To The New』という企画では、そのようなタイムレスな名曲を、これからの時代をつくっていく若いアーティストが歌うことで、時代や世代をつなぐ架け橋となればと思っています。
音楽は時代を超えて響くのみならず、時代や世代を超えて人を繋いでいく。違う世代の人々が、同じ曲について、さまざまな感想を語り合ってもいいだろう。そんなひとつのきっかけとなるような音楽を。音楽とはある意味、人と人を繋ぐ、コミュニケーションでもあるのだから。
かくして『Old To The New』企画は続いていく。そこで生み出される楽曲はもちろん、次は誰がどの曲を歌うのか。あるいは、次は誰にどんな曲を歌ってもらいたいだろうか? その今後の展開に、引き続き注目していきたい。
- リリース情報
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Old To The New
レコードやカセット、CDで発表された無数の名曲たちを新鮮さをもって蘇らせるプロジェクト『Old To The New』。音楽サブスクリプションサービスの登場で、無限に広がる音楽ライブラリにアクセスできるようになった今だからこそ、名曲たちを聴き継ぎ、語り継ぎ、歌い継いでいきたい。そして、何よりも大切にしたいのは、どんな時代にあっても変わりなく、人の心を震わせ続ける、「歌」の力です。この企画では、毎回特別な歌い手をお招きし、感動や驚きをお届けします。加藤礼愛
『決戦は金曜日 – OTTN Cover Version –』
2022年1月28日(金)配信
- プロフィール
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- 加藤礼愛 (かとう れいあ)
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2009年生まれ、横浜市出身。独学で磨きあげてきた歌唱力で数々の受賞歴を持つ小学生ボーカリスト。4歳の頃から3年間出演した地域のミュージカルがきっかけとなり歌手活動を開始する。2019年からテレビ東京『THEカラオケ★バトル』に出演、同番組からつくられた古坂大魔王プロデュースのユニット「ピーポーパーポー」で配信デビューを果たす。現在はフジテレビ『千鳥のクセがスゴいネタGP』にも出演しており、その歌とパフォーマンスに魅せられファンが急増中。
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