ルッキズムとは、外見でその人の価値を推し量り差別をする主義のこと。「痩せている子のほうが可愛い」「色黒より色白のほうが素敵」など、「世間」「一般」的な「美の基準」によって、誹謗中傷されたり、差別されたりする風潮はいまでも根強く残っている。
周りが認める美の基準に寄せようと、なかには過度なダイエットを繰り返して健康を害する人も少なくない。美しくなりたい、と願うことは否定しないけれど、他人からの評価に左右されない「生き生きとした、自分らしい美しさ」という美の基準があってもよいのではないだろうか。
そこで今記事では、まさに学生時代に過度なダイエットを繰り返し、摂食障害になるなど、ルッキズムに悩まされてきたという性教育YouTuberのシオリーヌさんと、皮膚科医で、身体のなかから肌質改善をサポートする治療に漢方を用いている横井彩医師の対談を実施。ふたりに「美しさ」に付き合いながら、健やかに生きるための秘訣について意見を交わしてもらった。
中学生のとき、10キロ近く痩せたら同級生の対応が急に優しくなった
─シオリーヌさんは、体型コンプレックスから摂食障害に悩まされていたことをさまざまなメディアで話されています。あらためて当時の経験について教えていただけますか。
シオリーヌ:摂食障害になったのは大学生の頃でした。体型コンプレックスを助長したきっかけが、中学生のときの初ダイエット。(※1)
当時の私はぽっちゃり体系で性格も内気。いわゆるスクールカーストの下位にいました。だけど10キロ近く減量したら、いままで見向きもしてこなかったカースト上位のクラスメイトたちが「可愛くなったね」って声をかけてくれるようになったんです。
痩せると、周囲の対応がこんなに優しくなるんだと衝撃を受けて、体型至上主義が強固に。痩せている自分は「良い」けれど、太っている自分は「劣っている」みたいな価値観が植え付けられてしまいました。だけど、ぽっちゃり体型が私にとってはデフォルトなのか、減量してはリバウンドするんです。
横井:それで、ダイエットを繰り返したんですか?
シオリーヌ:はい。社会人になるまで、10キロ近く減量するダイエットを3回ほどしました。リバウンドするたびに「駄目な自分に戻ってしまった」と、自己肯定感は下がるばかり。さらに過度な食事制限と運動をしたことから、摂食障害になってしまったんです。
だけど、ここ数年は人生で初めて一定の体重を維持できています。本気で摂食障害を治そうと思って、体重計に乗るのをやめたので具体的な数字の変動はわからないのですが、体感として体型が変わらない。意識の変化もあると思いますけど、健康な生活をしていたら身体も上手に調整してくれるんだと知って感動しています。
─横井先生も、学生時代にニキビトラブルに悩まされた経験から皮膚科医を目指されたと伺いました。先生が外見について悩んだ経験もお話いただけますでしょうか。
横井:元々ニキビができやすい体質なんです。学生時代にニキビがたくさんあった時は、人と喋っているときも「私のニキビを見ているんじゃないだろうか……」と気になってしまい喋りにくくなることも。遊びに行きたくなくなったり、肌の状態で一喜一憂していました。
シオリーヌ:すごい、わかります……。
横井:だけど、皮膚科医になってわかったのは、ニキビは慢性の皮膚疾患という位置付けの皮膚疾患であること。疾患として向き合うことで、ゆっくり治していこうという心構えができて、心に余裕ができましたし、私もそういう手助けができる皮膚科医でありたいと思いました。
(※1)参考記事:摂食障害(拒食、過食) | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修 (w-health.jp)
「痩せた?」が、必ずしも褒め言葉であるとはかぎらない
─最近では「ルッキズム」という言葉も浸透し、人の見た目に対する気遣いのあり方も少しずつ変わってきています。それでも、たとえば久しぶりに会った家族に「少し太ったね」と言われて傷つくことも。何気ない声かけひとつから意識の変化が必要ではないかと感じます。おふたりは、どのような声かけを意識されていますか?
シオリーヌ:相手の見た目を評価するような言葉は、わざわざ口にしないように気を付けています。自分にとっての褒め言葉が相手にとっても褒め言葉とは限りませんしね。
横井:たとえば「痩せた?」って褒め言葉として認識している人が多いけれど、そうとも限らないですよね。
シオリーヌ:そうなんですよ。同級生のスレンダーな体型の友だちに対する声かけで、大失敗したことがあって。ダイエットの真っ最中で、羨ましさもあって「また痩せた?」と聞いてしまったんです。彼女はその体型に誇りを持っていると思ってましたし、褒め言葉のつもりで。
だけど彼女は「食べても食べても太らないのがコンプレックスで、痩せたと聞かれるのがすごく嫌なんだ」と教えてくれました。体型を揶揄されることが嫌な気持ちは十分理解しているつもりだったのに、同じ思いをさせてしまったんだとすごく反省しました。
横井:私も人の見た目についてできるだけ口にしないようにしています。患者さんから聞くのは、「ニキビができてるけど、大丈夫?」って言われても嬉しくない、という話。
これは私自身の実体験からも共感します。一見心配してるようだけれど、実は言われた方はそんなに嬉しくないんです。「ああ、目立つんだな」と自覚するだけで、誰も得しない。悪気がないのはわかるのですが。何気ない一言でも相手が傷つく可能性があることを想像する習慣を持ちたいですね。
私自身多いのは、「今日疲れてる?」と聞かれるけど、しっかり寝たし全然元気ということ。常に疲れた顔なのかな、とガッカリします(笑)。
シオリーヌ:私も動画のコメント欄に「痩せましたか?」「太りましたか?」って投稿されるたびに、言わなくていいよーって思います。体型コンプレックスはなくなっていないので、言われると気にしちゃって。
横井:言われたところで何かが改善するわけでもないし、反応にも困りますしね。
シオリーヌ:そうなんですよ。それが世間話だと思っている人も多いのかもしれないですね。たとえば久しぶりに会った親戚の「会わない間に女の子らしくなったね」という発言も、人によっては不快に思うことも。見た目のことは、世間話で話してもいい話題ではないと思います。
─相手の見た目がとても素敵で、どうしても褒めたくなった場合はどうすればいいですか?
シオリーヌ:私は相手が自分の意思で選んでいるものを褒めるように心がけています。髪型、洋服、メイクとか。だけど、生まれ持った体質や肌は自分の意思でどうにもならないので、素敵だと思ってもわざわざ言わないようにしています。
芸能人やモデルの見た目が「美の基準」であるという強い刷り込み
─見た目に対する差別や、誹謗中傷などは、どうして起こってしまうと感じますか。
シオリーヌ:「美の基準」が無意識に刷り込まれてしまっているからじゃないでしょうか。テレビや雑誌で取り上げられる芸能人やモデルの人の見た目が「美の基準」として評価されて、そうじゃない人は劣っていたり、見下されても仕方がないと思ってしまうのかも。
横井:社会に蔓延している美の基準を、自分の評価軸にしてしまっている可能性はありますよね。本当は世間の基準じゃなくて、自分自身の基準を大切にしてほしいのですが。
シオリーヌ:最近、妊娠のためにピルをやめたら、肌荒れがひどくなったんです。それを人から指摘されたくないから、「肌荒れがひどくなっちゃって大変なんですよ〜(笑)」って、あえて自虐ネタとして話して自衛する自分に気づいてしまって。いまだに無意識レベルで、社会が考える美の基準が刷り込まれているんだなと実感しました。
─「なりたい自分になろう」と努力しようとしても、社会や周囲の人たちが無意識に自分の価値観を押し付けてくることもあり、なかなか自分なりの美の基準を見つけられないことも悩ましいです。
シオリーヌ:自他の境界線が曖昧な方は、多い気がします。親戚が身体の成長をあれこれ言ってくるように、自分の価値観と相手の価値観を一緒にしてしまう。だけど、自分と相手の考えや好みは違うはずで、決めつけてしまうのは危険だと認識を変えられるといいですよね。
─そんな状況のなかでも「美しくなりたい」と思う人は多くいると思います。おふたりが考える「美しい人」はどんな人でしょうか。
横井:私は、健やかである=美しい、だと思っています。内臓と違って「見た目」の観点に目がいきがちですが、皮膚も人間の臓器の一つ。ニキビは皮膚という臓器の健康がやや低下した状態。その人の肌が持つ本来の健康な状態に近づけることが美しい肌を取り戻すことだと考えています。(※2)
色白になりたい、シミやシワが一つもない肌にしたい、というのは主観的な好みの問題で、客観的な美しさの尺度ではないと思うんです。
シオリーヌ:身体のつくりに個体差があるのに、美の基準がひとつしかないのはおかしいですよね。もし、その基準に比べて自分の体質が大きく異なる場合、基準に近づけるための努力をするのは辛い。私は「シンデレラ体重」になろうとしていたとき、一人前の定食さえも食べられませんでした。
傷跡も、その人の捉え方ひとつで美しさになる
─シオリーヌさんは「美しい人」をどう考えますか?
シオリーヌ:摂食障害治療の励みになったのが、「#ボディポジティブ」というタグでSNSに投稿された写真でした。いろんな体型、肌、顔の構造の人たちがとびきりの笑顔で写っていて、とっても綺麗なんですよ。内側から湧き出る自信や笑顔って、その人の美しさになるんだなと思いました。
そのためには、心身が健やかであることがベースにあって、そのうえで自分の好きなものを見つけていくこと。それを積み重ねていくうちに、「私なりの美しさ」がかたちづくられるんじゃないかと思えるようになりました。好きなものに囲まれて、堂々としている人って綺麗ですよね。
横井:自分の個性も、捉え方ひとつで自信に変わりますよね。私自身も価値観が変わった出来事があって。皮膚科医として妊娠線についてコラムを書いてほしいという依頼があったんです。それまで妊娠線は傷跡であるという事実のみの認識だったので、「治す」視点から記事を書こうとしていて。
だけど調べていくうちに、海外のモデルさんが「母の勲章」として妊娠線をあえて見せるファッションをされていたのがとっても素敵で。気になってしまっている方が治療という前向きな選択をするのは素敵なことですが、捉え方ひとつでそのままでも自信にもつながるんだと思いました。
シオリーヌ:美や価値観について「本当にそうだっけ?」と考える時間を持つことは大事ですよね。向き合い直すことで、いろんな方向から捉えられるようになる。そうすると、今までネガティブに思っていたことも意外に大きな問題ではないと気づくかもしれないし、「自分の好き」が見つけやすくなると思います。
美しさのベースは健康でいること。漢方などで体質改善の選択肢もある
─ストレスや体質などで肌荒れが出やすい方は、自然体の自分を受け止めることに難しさを感じる人もいると思います。皮膚科の患者で、見た目にコンプレックスを抱えて受診される方は多いのでしょうか。
横井:美容メインのクリニックではないので、極端に多くはありません。ただ、慢性疾患であるニキビやアトピー性皮膚炎の患者さんはもちろん、毛穴が目立つのが気になるなどでも、本人はすごく気にしているという方はいらっしゃいます。特に若い方だと、いまはSNSの画像加工に慣れすぎてしまっているので、ほんの少しのことも気になってしまうんでしょうね。
シオリーヌ:そうですよね。
横井:だから、SNSの加工写真に近づけていくのではなくて、皮膚として本来の健康な状態に近づけることを目標に、治療します。よく伝えるのは「人間なので毛穴は無くならないんですよ」ということ。
またニキビは、体質によっては何十年も闘う病気。厳しい食事制限をすると楽しくありません。生活指導は適度に、スキンケア指導と外用薬や漢方薬を用いた続けやすい治療を提案するよう心がけています。
皮膚表面を健康な滑らかな状態にするのは薬やスキンケアの役割で、炎症が起きやすい状態を身体の内側から鎮静化する目的で漢方薬をよく処方します。痕になりそうなニキビを未然に防ぐことが目的で、身体を本来の健康な状態に戻すようにサポートするようなイメージですね。
シオリーヌ:私も、不妊治療をしていたときに通っていたクリニックの先生に勧められて、漢方を服用していた時期があります。
横井:漢方は、植物の葉、茎、根などの中で薬効があるとされる部分を加工した生薬(しょうやく)からできています。漢方薬には、冷え症などの西洋薬では治療法がない症状やなんとなくの体調不良を未然に防ぐ、中庸(※3)に戻すようにする特徴があります。秋田大学に勤めていた際に積極的に漢方を処方される先生がいらして、私も試しに飲んでみたら体調が改善されて、すごく奥深い世界だと感じました。身体に合うものを取り入れることで、塗り薬とは違ったアプローチができます。(※4)
先ほど、美しさのベースには健やかであること、というお話をしましたけれど、健やかさを保つための方法は人それぞれ色々あると思います。
西洋医学だけで良い状態の人もいれば、漢方薬に代表される東洋医学が良い味方になってくれる場合もあります。何が自分に必要なのか見極めることは難しいので、病院などで症状に合わせたものを処方してもらうのがおすすめです。またその薬が合っているかどうかは飲んでみないとわからないので、飲んだ後どうだったかもきちんと伝えて、薬の継続や変更を相談できるといいですね。
(※3)多過ぎたり少な過ぎたり偏っているところを中央に戻すこと。偏りのない真ん中の状態。
人の見た目をとやかく言う社会から変わらなければならない
─最後に「自分らしい美しさの見つけ方」について、おふたりはどう考えますか?
シオリーヌ:社会の尺度ではなく、自分の尺度で美や好きなものを選ぶことが尊重されるようになってきました。ルッキズムに苦しむ個人が変わるのではなく、見た目に関してプレッシャーを与えない社会にしていきたいですよね。
横井:私も、自分のなりたい「キレイ」を目指せればそれでいいと思いますし、社会の変化は必要だと感じます。
シオリーヌ:モデルやアイドルのような、人前に出ることが仕事の方の身体と比べなくていいと思います。私の体型コンプレックスが楽になったひとつのきっかけが、産婦人科で働き始めたこと。一般の方の体型を見る機会が増えて、自分くらいの体型の人はたくさんいるしそれぞれに美しいことを知って、自分を責めなくなりました。
横井:先日、大人の方で推しの芸能人と同じ位置にピアスを開けたいと受診された方がいました。アクセサリーなどで憧れの人に寄せていくって、とてもハッピーなことだと思いました。
シオリーヌ:いいですね!
横井:見た目のなかでどこかお気に入りのパーツがあったら、それを堂々とアピールすることで、どんどん自分らしい美しさが見えてくると思うんです。そして自分自身の魅力をアピールしているのを、他人が勝手に「魅力的かそうでないか」と評価するのはおかしい。「好きか嫌いか」の好みを感じるのはその人の自由だけれど、堂々と評価する権利はないんです。
シオリーヌ:一般的な美の基準から外れると、いろいろ言われてしまう社会が存在していることは事実ですし、個人の努力だけではどうにもならないことも多いです。
だからこそ、顔や体型といった自分ではどうしようもない個性や、自分ならではの美しさの追求を他人がとやかく言うのはやめる社会に変わらなきゃいけないと思います。私も容姿をいじるような発言に対して反射的に笑わない練習をして過ごしています。
横井:他人の見た目を評価する行為はすごく恥ずかしいことだ、という意識に社会が変わってほしいですよね。
- プロフィール
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- シオリーヌ
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助産師、性教育YouTuber。総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベントの講師を務めるほか、性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。オンラインサロン「Yottoko Lab.」運営。著書「CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識」(イースト・プレス)、「こどもジェンダー」(ワニブックス)など。
- 横井彩 (よこい あや)
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医師。日本橋いろどり皮ふ科クリニック院長。ニキビやアトピー性皮膚炎など慢性皮膚疾患を専門領域とし、再発予防のためのスキンケア指導や漢方を取り入れた治療を丁寧に行っている。
- 協賛企業
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株式会社ツムラ
カラダやココロのバランスを保つための漢方情報、養生などの大切さをお伝えします。ライフスタイルに“漢方の知恵”を取り入れてHAPPYな毎日を過ごしましょう。
ツムラは、「自然と健康を科学する」という経営理念のもと、漢方薬を通じて人々の健康に寄与し、豊かな生活環境づくりの実現とともに、女性のライフステージのサポートを目指しております。
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