女性の体の一部だけれど、オープンに語られてこなかった「腟まわり」のこと。最近では「デリケートゾーンケア」という言葉が、新たな健康習慣として話題になる機会も増えてきた。しかし、たとえ健康にまつわる情報だとしても、友人や家族との会話ではつい口をつぐんでしまう人もいるだろう。腟や子宮といった女性特有の性を気遣うことは、健康を保つために大切なこと。タブー視されたままではなく、正しい情報が世の中に浸透するためにも、話題にしやすい空気がつくられていってほしい。
今回は、SNSを通じて女性の体にまつわる情報を積極的に発信しているバービーさんと、婦人科医として女性が将来的な選択肢を増やすための健康管理方法を研究し、腟内細菌叢(さいきんそう)など腟ケアに着目している原田美由紀先生の対談を実施。「腟ケア」をテーマに、日常ケアや婦人科とのつき合い方、社会に対して変化を望むことなど意見を交わしてもらった。
自分の体のことなのに、自己決定していない大人が多い
―バービーさんはYouTubeなどSNSで、生理や子宮がん検診など、女性のヘルスケアについて積極的に発信されています。発信するようになったきっかけがあれば教えていただけますか。
バービー:最初は、子どもたちに生理の正しい情報が届いていないと感じたことがきっかけで、生理についてレクチャーする動画をつくりました。だけど、蓋を開けてみたら大人も生理について知識がほとんどないことがわかって。
生理がきたらナプキンをして、痛かったら痛み止めを飲むくらいで、そのほかの選択肢を全然知らない。生理が過ぎ去ることに耐えるばかりで、自己決定していない大人がものすごく多いことを知りました。
私は健康や美容について情報を取りにいくことが好きだし、いろいろ試して自己決定したいので、生理についても同じスタンスでした。ナプキンやナプキン以外の月経カップや吸水ショーツ、ピルや婦人科に関することなどいろんなことを試したんですね。こういう情報はほかの人も知りたいだろうなと思って、主に自分のYouTubeチャンネルで発信するようになりました。
―バービーさんに届いた声のなかで、嬉しかった反応は?
バービー:「初めての生理」は1年前に投稿した動画なんですが、コメント欄だけはいまだに動いているんです。誰かが悩みを書き込むと、生理を経験した大人たちがコメントを返していて、そのコメントにコメントが返されることも。「これから生理がくるかもしれなくて怖い」と書いた学生さんに「大丈夫だよ。こんなものを用意したらいいよ」と優しいコメントが書かれていたんですね。それを見た男性の視聴者さんが「彼女が生理で大変なときに、こんなふうに優しくしようと思った」と書いていたり。助け合いのコミュニティーができていることや、男女関係なく届いていることに嬉しくなります。
原田:それは素晴らしいですね。女性にまつわる健康問題だけど、男性も知ることで生きやすい社会がつくられる。まずは女性が率先して話しやすい環境をつくり、次は性別関係なくみんなで普通に話せる環境ができたら理想だなと思います。
―これまでは女性特有の性について語ることがタブー視されていましたが、近年「生理」についてはメディアや著名人が発信する機会がグンと増えましたよね。
バービー:私が発信し始めた2年前くらいは、まだこういう話題を大っぴらに話す人も少なかったので、質問がたくさん届きました。だけど、最近は芸能人でも生理やフェムテックのことを話すのは普通になってきていると感じますね。以前、私の動画を見てくれた方が初めて産婦人科を受診して、子宮系の病気が見つかったと報告してくれました。病気も関連してくることなので、産婦人科に行くことを伝えたりいろんなケアアイテムを試したり、自分の体に興味を持ってもらいたいと思って、発信しています。
―かかりつけ医を選ぶポイントはありますか?
バービー:そうですね……私の場合顔写真とキャッチコピーですかね(笑)。優しい先生がほとんどですが、高圧的な態度で「いいから黙ってこれをやりなさい」みたいな先生に会ったことは私もあります。女性の主体性を許していない感じは、顔写真やキャッチコピーから醸し出されると思うので、よく見てみてください。
健康に気遣うように、パートナーとも日常的に話している
―生理とは違って、子宮やデリケートゾーンなど腟まわりのことになると、まだまだ話題に上がっていないと感じます。バービーさんは腟をケアする方法について、専用ソープなど実体験からさまざまに発信されていますが、どのようなきっかけで興味を持たれたのでしょうか?
バービー:昔から生理痛が重く、婦人科系の疾患もあったので腟まわりのことは興味があるほうだったと思います。「自分の体のことだから、興味を持たないはずがない!」と思って、当たり前のように友だちと話したり調べたりしていました。デリケートゾーン専用ソープを使ったり保湿をしたり、腟ケアに興味を持つようになったのは最近ですね。
きっかけは、お股がとにかくかゆかったんですよ。それを産婦人科医の友人に相談したら保湿剤をくれて、かゆみが治ってきたんです。それだけで症状が改善したわけではないと思うんですけど、ほかにもどんなものがあるのか気になって、いろんな製品を試すようになりました。
―バービーさんのチャンネルで、ケアする方法にもさまざまな製品や手法があるんだなと思いました。
バービー:思い返せば、昔からいろんなアイテムを試していますね。初めての腟ケアアイテムは、ジャムウの石鹸かもしれないです。インドネシアの伝統医薬品で、自然素材からつくられているもの。もう10年前とかですね。仕事が忙しくて、お股のニオイが気になったので試してみました。
あと、棒状でそのまま腟のなかに入れられる石鹸とかもありました。いまは、そんな方法は絶対NGですけど(笑)。結局、どんな方法を試してもよくならなくて、婦人科に行きました。
そこで腟炎(*1)であることがわかって、お薬を出してもらって症状は和らぎました。そういう体の違和感を感じたことがきっかけで、腟まわりにも興味を持つようになったんだと思います。
―女性の体、とくに性器にまつわることは話題にしづらい空気がありますが、それについてはどのように感じますか?
バービー:私は話題にしていたタイプなんですけど、キャラクター的に言いやすいのかもしれないです。VIOを脱毛しました、というのもエピソードトークの1つとしてテレビで普通に喋っていて。「野良犬の抜け毛の時期みたいになるんですよ」って話すと、スタジオがドカッと(笑)。
いろんな言い回しで日常的に話題に上げていますし、お家のなかではパートナーともよく話します。
―それは素敵ですね。どういう反応ですか?
バービー:私から積極的にお股の話をしているわけじゃなく、お互いに、日常会話の一つとして自然に話題に上がっています。健康や体の話をするのと変わらないテンションで、話していますね。
繊細な腟内フローラを助ける、乳酸菌という存在
―腟ケアとはどのようなものか、原田先生におうかがいできますか?
原田:婦人科に来院される方で、デリケートゾーンのニオイやかゆみといったお悩みでいらっしゃる方は、とても多いです。腟は腸のように、多数の菌が住んでいるところ。細菌集団はフローラと呼ばれ、腸や皮膚、腟にもあると言われています。
この「腟内フローラ」のバランスが崩れるとかゆみやニオイ、おりものの変化といった不快な症状が現れやすくなるのですが、生活環境やホルモンバランスに影響されやすい繊細な集団なので、不快な症状が生じることは「よくあること」だと捉えていただいて構わないと思います。
―腸内フローラという言葉は聞いたことがありましたが、腟内にも似たものが存在するんですね。
原田:腸と腟の仕組みは似ていると言われています。「腸内細菌叢(さいきんそう)」という言葉をよく聞くようになってきましたが、同じように腟内にも「腟内細菌叢」があります。腸と同じく乳酸菌をはじめとする善玉菌や大腸菌やカンジダ菌といった悪玉菌など多くの菌が住んでいて、善玉菌が優勢な状態をキープして、菌のいいバランスを保つことが健康につながります。
また、腟は自浄作用を持っているので、機能するためにも善玉菌が必要です。善玉菌には種類がいくつかあって、そのうちの一つが乳酸菌。最近では腟内に定着しやすい乳酸菌も研究で発見されており、粘膜を修復する作用があると言われています。
これらの善玉菌が減少すると悪玉菌が繁殖しやすい状況になり、バランスが乱れ、不快な症状が現れやすくなります。腟の過剰な洗浄や抗生物質の服用(*2)などが乱れる原因に挙げられますが、私生活でのストレスやホルモンバランスも影響します。
なので、日常的に腟ケアを取り入れることで腟内フローラのバランスを保ち、不快に思うことがあれば気軽に病院に来てもらうなど、腟に関心を持って向き合ってほしいですね。
―婦人科を受診すると、具体的にどのような治療が行われるのでしょうか?
原田:まずはおりものの様子や菌の状態を検査して、腟剤や塗り薬などお薬を処方することがほとんどです。バービーさんは、一回ですっきり治りましたか?
バービー:いや、私は一回では治りませんでした。何度も症状が再発しましたし、通い続けることが難しくなってしまって、途中で通院を諦めました。
原田:そうですよね。結局薬で完治することはなく、人によっては繰り返してしまうもの。お肌のケアもそうですけど、日常的に腟に気を配ってケアをしないと、本質的なケアにはならないと思います。
これまで、腟のバランスを保つことにフォーカスした医療はあまりなかったんですね。悪い菌を殺すための抗生剤が処方されると、同時に善玉菌を殺してしまい、バランスを崩してしまう可能性がありました。最近になって、腟内細菌叢という考えが浸透してきて、善玉菌と悪玉菌をいいバランスに保つための治療方法や生活習慣の提案ができるようになってきたと感じます。
―バービーさんは、どうして腟炎がわかったんですか?
バービー:私は、よく行く婦人科がいくつかあるんです。あと、婦人科の検診(*3)もこまめに行っているほうですし。腟炎のときも「なんかくさいな」くらいの悩みで。
原田:それくらいの気軽な感覚で来てもらいたいです。婦人科に行くハードルが高い方が多いですが、できたらかかりつけ医を持ってほしいです。些細な不調でも一人で悶々とせず、相談してみたら婦人科系の疾患が見つかることもありますので。
(*2)抗生物質は主治医の指示に従って服用してください。
(*3)参考記事:検診の意義と活用 | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修 (w-health.jp)
自分の「いい菌」を大事にしてあげる意識で、腟ケアを実践する
―実践されている腟ケアを教えていただきたいです。
バービー:いまは違和感を感じていないので、日常的なケアのみです。デリケートゾーン用のソープと保湿用のオイルを使っています。ほかにも日常生活で気にかけていることがいくつかあるんですけど、たとえば自分のなかにある良い菌を殺さないように、抗生物質は飲まないようにしています(*4)。
30歳を過ぎてから、腸内環境を整える意識が芽生えて、自分が持っている良い菌を大事にしようと思うようになりました。その前は腸内洗浄をしたり、下剤を飲んだり、腸内の細菌を無理やり壊してしまうようなことをしていたんです。だけど、学術的なブームで腸内環境が注目されましたよね。そこで、自分の菌を大事にする意識に変わって、腟も同じ考え方で大事にするようになりました。
原田:大まかに腟ケアの方法は2通りあって、一つが外側からケアする方法。専用ソープや保湿剤といったアイテムを習慣的に使うことで、清潔で弾力のある良い状態をキープします。もう一つが、内側からケアする方法。腸内環境を整えるイメージで、腟内環境も整えていただければいいと思います。
バービーさんがおっしゃったように「いい菌を大事にしてあげる意識」はとても大事で、善玉菌を殺さないために抗生物質を取らない、乳酸菌など腟内に定着しやすい善玉菌を摂取するような生活を意識するなど、ご自身に合ったアプローチを試していただけたらと思います。
(*4)抗生物質は主治医の指示に従って服用してください。
顔、胸、脚などと同じ身体の一部として、腟についても考える
―以前、バービーさんが別のインタビューで「腟まわりのことは主体性を持って話せる日本の女性が少ないのではないか」と意見されていたのが印象的です。社会的にもオープンに話せるようになることが、女性の健康を考えるうえで重要だと思いますが、躊躇している方々や話題にしづらい男性にメッセージをいただけますか。
バービー:生理、妊娠、性交渉といった女性特有の性に関して「女性は主体的であってはいけない」という無意識の刷り込みは女性にも男性にもあるような気がします。腟も含めて、自分の体の状態を知らないままで生きているのは、正直不安ですよね。積極的に自分の体をチェックして、ケアしたほうがいいと私は思います(*5)。
腟まわりのことを話題にするのが恥ずかしい人は無理にオープンにしなくていいけれど、はばかられるような状況ではなくなってきているのかなと思います。私は、デリケートゾーンのことなら友だちやパートナーと笑いながら喋れる。
それは、腕や足やおっぱいと同じ自分の体の一部として、腟についても考えているからだと思います。周りにそういう相手がいない人は、SNSで話すのはどうでしょう。近しい興味関心を持ったコミュニティーは結構ありますし、私のYouTubeのコメント欄もコミュニティーの一つになっているのかなと思います。
原田:帝人さんが腟まわりに関するアンケート(*6)をとられたところ、デリケートゾーンの悩みを抱える女性は9割以上という結果になったそうです。つまり、ほとんどの女性が悩んでいることを女性たちにも知ってもらえると、自分の気持ちがラクになるのかなと思います。
あとは、腟に対して前向きな関心を寄せること。我慢することはないし、状態をこまめにチェックして信頼できる情報を自ら取りにいってほしいと思います。また、繰り返しになりますが、かかりつけ医を持ってほしいです。ドクターも人間なので、合う / 合わないは行ってみないとわからないですが、敷居を低く自身の体について相談できる人は必要だと思います。
―おふたりとも、女性特有の性に関して性別問わず話せる環境になることを話されていたのが印象的です。最後に、社会に対して望む変化をうかがえますか。
バービー:恥ずかしい人は話さなくても良いと思うんです。だけど、興味は持ってほしい。決して「ああしろ、こうしろ」と選択肢を押しつける気はまったくなくて、誰かの耳に入って、一人でも多くの命が助かってほしいという気持ちで、これからも女性の体について発信を続けたいです。
原田:男性も女性もオープンに語れるようになることを望みます。そうすると、正しい情報にアクセスしやすくなり、周囲の理解も深まるはず。
話はそれますが、今年の4月から不妊治療の保険適用が拡大されます。これによって当事者だけではなく、たとえば職場の男性が不妊治療について知っているだけで同僚をフォローしやすくなると思います。女性の生殖にまつわることが理解されて、オープンに語れるようになると、男性も含めてお互いに手を取り合える、生きやすい社会になるんじゃないかと思います。
また、不快なことを我慢して生きる必要性はないと思うので、ストレスが一つ減るだけで随分と心持ちが軽くなりますよね。月経に関するケアの方法が語られるようになってきたのは、快適に過ごしたいという多くの人の願いもあったのだと思います。今回のテーマでは腟ケアと乳酸菌をはじめとした腟内の細菌についてお話しましたが、それも含めて、自分の体のことを知り、気持ちよく過ごしてもらうことが健やかな将来につながるのではないでしょうか。
(*5)参考記事:これって病気かな?女性の病気セルフチェック | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修 (w-health.jp)
(*6)調査名:女性特有の悩みに関する調査(帝人(株))
※調査期間:2021年5月14日~2021年5月17日
※対象者:20~50代の全国の女性1,000名
- サービス情報
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帝人は「クォリティ・オブ・ライフの向上」という理念のもと、科学的に確かな機能を有する食品素材事業も推進しています。
- ウェブサイト情報
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【心とからだの話をはじめるメディア】わたしたちのヘルシ―
Women's Health Action×CINRAがお届けする、女性の心とからだの健康を考えるウェルネス&カルチャープラットフォームです。月経・妊活など女性特有のお悩みやヘルスケアに役立つ記事、専門家からのメッセージ、イベント情報などをお知らせします。
- プロフィール
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- バービー(フォーリンラブ)
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お笑い芸人。北海道出身。2007年、相方のハジメとお笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。TBS「ひるおび!」のコメンテーターや、TBSラジオ「週末ノオト」のパーソナリティを務めるほか、生まれ故郷の町おこしにも尽力。YouTube「バービーちゃんねる」では、最新美容や性についてのトピックが話題となり、現在の登録者数は25万人を超える。またFRaU WEBにて連載中のエッセイをまとめた著書「本音の置き場所」(講談社)を出版。また、自らプロデュースしたピーチ・ジョンとのコラボ下着の発売や、双方向コミュニケーション型ECサイト「◯バ(仮)」にてシルエットをキレイに見せる太ベルトの発売を開始するなど、多岐にわたり活動の幅を広げている。
- 原田美由紀 (はらだ みゆき)
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東京大学 医学部 産婦人科学教室 准教授。医学博士。「女性のカラダに着目したプレコンセプションケア」をライフワークとして研究を行なう。既存のホルモン療法によらないアプローチのひとつとして腸内細菌叢(そう)に着目している。
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