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※本記事には、映画『ノースハリウッド』の内容に関する言及があります。あらかじめご了承ください。
『mid90s』で90年代LAの青春を駆けたライダー・マクラフリンらがふたたび集結
舞台は、ロサンゼルス・ノースハリウッド。高校を卒業したばかりのマイケルは、進学する気にも就職する気にもなれない青年。幼なじみのジェイとアドルフとスケートボードの世界で生きていきたいという夢を抱いていた。
そんななか、地元のプロスケーター、アイゼアとノーランから声がかかるようになり、憧れの女の子レイチェルとつき合う幸運にも恵まれる。しかしその代償として、ジェイとアドルフとの友情にヒビが入り、安定した人生を歩んでほしいと願う父とのあいだでも軋轢が生まれてしまう……。
これは5月13日からU-NEXTで配信がスタートした映画『ノースハリウッド』(原題:North Hollywood)のプロットだ。これを読んだら、ジョナ・ヒルが監督をしたスケボー映画『mid90s ミッドナインティーズ』(原題:mid90s / 2019年)を思い出す人もいるかもしれない。しかし、それは決して偶然ではないだろう。
『ノースハリウッド』の監督兼脚本家のマイキー・アルフレッドは『mid90s』の共同プロデューサーであり、主演のライダー・マクラフリンは、同作で主人公の友人フォ―ス・グレードを演じていた。
アドルフ役のアラミス・ハドソンも『mid90s』出演組だ。さらに、同作の主演俳優サニー・スリッチが本作ではスケーターの1人としてゲスト出演している。これだけ共通点のある役者や製作陣が集まる作品というのもめずらしいだろう。つまり『ノースハリウッド』は、『mid90s』の姉妹作といってもいい映画なのだ。
Odd FutureやSupremeとつながる、スケーター集団「Illegal Civilization」とは?
そもそも、『mid90s』にあれだけストリートカルチャーの情報が盛り込まれているのは、本作を監督したマイキー・アルフレッドの功績が大きい。1994年生まれで、10歳からスケボーをはじめた彼が、スケートビデオやアパレルを手がける「Illegal Civilization」(以下、IC)を立ち上げたのはなんと12歳のとき。
YouTubeのサービス開始とともにネット上にスケートボードのビデオ作品をアップするようになった彼は、タイラー・ザ・クリエイター率いるOdd FutureやSupremeとつながり、現在進行形でロサンゼルスのストリートカルチャーの担い手として活躍している。
そんなアルフレッドに、ICのファンだった俳優のジョナ・ヒルからコンタクトがあった。ヒルは準備中だった初監督作『mid90s』の登場人物のひとり、ファックシット役にOdd Futureのアール・スウェットシャツを起用したいと考えており、アルフレッドに仲介を頼んだのだ。
その交渉自体はうまくいかなかったが、これをきっかけにアルフレッドは『mid90s』のクリエイティブ面に深く関わるようになり、盟友マクラフリンをはじめとする多くのスケーターを映画に出演させた。
アール・スウェットシャツ『SICK!』(2022年)を聴く(Apple Musicはこちら)
アルフレッドの野心がファレル・ウィリアムスらプロデューサー、キャストを動かす
ヒルの半自伝作である『mid90s』の撮影現場を間近で見ているうちに、アルフレッドは自分自身のストーリー(そしてもちろん彼だから撮れるスケートトリックの映像)を描いてみたいと考えたにちがいない。
脚本を書き上げると、彼は各方面にアプローチ。その完成度の高さに、「Skateboard P」の別名を持つスーパー・プロデューサーのファレル・ウィリアムス、Netflix『好きだった君へのラブレター』でブレイクした、俳優ノア・センティネオらがプロデューサーに名乗りをあげた。
そして『ザ・スイッチ』(2020年)など多くのヒット作に主演したヴィンス・ヴォーンがマイケルの父親オリバー役、ティーン向けのシチュエーション・コメディードラマ『iCarly』で知られるミランダ・コスグローブがレイチェル役を引き受けることに。さらにドラマ『コミ・カレ!!』でおなじみ、ギリアン・ジェイコブスの特別出演というサプライズが加えられ、『ノースハリウッド』が完成したというわけだ。
ラリー・クラークとハーモニー・コリン。『KIDS』を手がけた巨匠たちとの重なり
『mid90s』と『ノースハリウッド』のこうした関係性は、ラリー・クラークの『KIDS』(1995年)と同作の脚本家だったハーモニー・コリンの監督デビュー作『ガンモ』(1997年)のそれを思い起こさせる。
それまで単なるストリート・キッズと思われていたコリンは、じつはゴダールやイーストウッドを敬愛する古典的シネフィルであり、『ガンモ』を皮切りに周囲の誰もが想像しえなかったキャリアを築いたわけだが、アルフレッドにも同じような資質を感じる。
要するに、『mid90s』よりも『ノースハリウッド』の方がむしろ青春映画として伝統的な仕上がりなのだ。
なぜヒップホップが流れない? 新しい情報をあえて避け、青春映画を忠実に再現
『ノースハリウッド』に伝統的な青春映画の特徴が見てとれるのは、それもそのはず、アルフレッドの母親は『ゴッドファーザー』(1972年)や『チャイナタウン』(1974年)を手がけた、ハリウッドの伝説的プロデューサーである、ロバート・エヴァンスのアシスタントを長年務めていた人物なのだ。
そのため、アルフレッドはハリウッドの古典に精通しており、『ノースハリウッド』の脚本を執筆する際にはエリア・カザンの『理由なき反抗』(1955年。スケートボードと並ぶロサンゼルスのユース・カルチャー「ドラッグレース」を題材にしているのが興味深い)を参考にしたという。
ちなみに、現役の監督でリスペクトしているのは、ライアン・クーグラーとグレタ・ガーウィグだとか。
そんな資質からなのか、現代を舞台にしながらも、後世観ても古臭く見えない映画に仕上げたいとのアルフレッドの意思が随所に感じられる。意図的に最先端の描写を避けているのだ。
劇中にスマホはほとんど登場せず、コンバースのキャンバス・オールスターをはじめとするマイケルのファッションもレトロなスタイル。そしてなにより音楽。スケートボードといえば、ヒップホップやハードコアパンクという観客の思い込みを鮮やかに裏切るかのように、映画内ではビル・ヘイリーやジューン・クリスティ、シフォンズといったオールディーズがフィーチャーされている。
Bill Haley & His Comets『Rockin' the Joint』(1959年)を聴く(Apple Musicはこちら)
ヴィンス・ヴォーンが父を演じた必然性と、監督が育ったノースハリウッドへの愛
こうしたオールディーズ中心の選曲から、主人公の父親役がヴィンス・ヴォーンでなければならなかった理由がわかる。なぜなら、ヴォーンの出世作『スウィンガーズ』(1996年)は90年代のロサンゼルスを舞台にしながらも、挿入曲に50年代のレトロなスウィングやビッグバンド・ジャズを用いたことによって、いまなお青春映画の古典として愛され続けているからだ。
最後に、タイトルになっているノースハリウッドについて言及しておきたい。「ハリウッドの北」との名から、ロサンゼルスの中心部のように思うかもしれないけど、実際はハリウッドの丘の裏側、盆地サンフェルナンド・ヴァレーの一角にある住宅地である。
つまり、かなり「名前負け」しているエリアである。だがアルフレッドはそんな郊外の街を、あえて映画のタイトルに掲げることで、自分の地元とそこで育まれたストリートカルチャーに愛を捧げているのだ。
- 作品情報
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『ノースハリウッド』
2022年5月13日(金)配信
脚本・製作・監督:マイキー・アルフレッド
出演:
ライダー・マクラフリン
ミランダ・コスグローヴ
ニコ・ヒラガ
アラミス・ハドソン
ヴィンス・ヴォーン
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