メイン画像:エマ・トンプソン
「女性をターゲットにしたエイジズムは、業界に染み付いた定番であり、時代遅れ」
イギリスの俳優や著名人らが、業界におけるエイジズム(※)を終わらせ、45歳以上の女性のスクリーン上のレプリゼンテーションを改善することを求め、オープンレター(*1)を公開した。
※年齢による偏見や差別
「今日の引く手数多な若手女性俳優は、明日の無職の中年女性俳優です」と綴られたオープンレターは、4年前に設立されたイニシアチブ「Acting Your Age Campaign(AYAC)」によって5月28日に発表され、100人を超えるイギリスの著名人が署名。女性俳優は男性俳優に比べて年齢を重ねると出演機会が激減する現状を訴え、イギリスの映像作品や番組における、45歳以上の男性と女性の平等なレプリゼンテーションの実現を呼びかけている。
「女性をターゲットにしたエイジズムは、時代遅れで有害な、業界に染み付いた定番であり、私たちの人生を物語る45歳以上の女性の姿を喜ぶ、何百万人もの観客をないがしろにしている」(オープンレターより)-
オープンレターの署名者は、エマ・トンプソン、ハリエット・ウォルター、レスリー・マンヴィル、キーリー・ホーズ、ジュリエット・スティーヴンソンら。リーアム・ニーソン、デイヴィッド・テナント、リチャード・E・グラントといった男性俳優の名前も確認できる。
『BAFTA』テレビ部門の主演女優賞と主演男優賞、候補者の平均年齢に大きな差
AYACが行なった『BAFTA(英国アカデミー賞)』テレビ部門に関する調査結果では、同部門主演女優カテゴリーの候補者の平均年齢が、過去21年間で52歳から32歳まで下がったという。主演男優カテゴリーの候補者も平均年れが下がっているものの、過去21年間で48歳から45歳と、低下の度合いは女性に比べて小さい。
また、作家の脚本やアイデアに対してプロデューサーや制作会社が主要キャラクターの年齢を引き下げる、とくにその傾向は恋愛関係になる女性の主役キャラクターに顕著であるという現状なども紹介。イギリスのスクリーンにおいて、「男性は一生を過ごし、女性は期限付き」である状況を訴えている。
レターには放送局や制作会社に向けた9つの要求が記されており、男性と女性の主役およびプレゼンターによる作品やエンタメ番組において、性別・年齢50:50の起用にすることなどが盛り込まれている。さらに政治討論のパネリストやスタジオゲストの人員構成についても、「中年男性と若い女性」という構図は「時代遅れ」だとして改革を呼びかけている。
「Acting Your Age Campaign(AYAC)」の設立者ニッキー・クラークのTwitterより
変化を求める声はハリウッドからも。女性俳優は「40歳くらいになったら終わり」
エンターテイメント業界の女性に対するエイジズムを批判する声は、イギリスだけでなくハリウッドからも上がっている。
サンディエゴ州立大学The Center for the Study of Women in Television and Filmが作成している年間レポート「It’s a Man’s (Celluloid) World」最新版(*2)によれば、2021年のアメリカ興行収入トップ100の映画作品において、女性キャラクターの年齢は総じて男性キャラクターよりも若い。セリフのある女性キャラクターのなかで30代の割合は34%であるのに対し40代は18%に下がるが、男性は30代が30%、40代は26%と、女性ほど大きな変化は見られない。60代になると、女性キャラクターの割合は男性キャラの割合のほぼ2分の1だった。
ハリウッドで実際に活躍する女性俳優たちも「40代を超えると仕事が減る」現状を訴える。現在54歳のニコール・キッドマンもその一人で、たびたびハリウッドのエイジズムについてインタビューで言及している。
2021年にはアメリカ『DuJour』誌のインタビュー(*3)で「この業界には女性俳優のあいだにコンセンサスがある。40歳くらいになったら終わり、ということ」と話した。
ニコール・キッドマンが表紙を飾った『DuJour』誌
ニコール・キッドマンが、メリル・ストリープら「先駆者」に感謝を述べた理由
また2018年には、ドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』の演技で選出された『SAGアワード』の受賞スピーチにおいて、ともにノミネートされたスーザン・サランドン、ジェシカ・ラング、リース・ウィザースプーン、ローラ・ダーン(全員が40歳以上)や、メリル・ストリープ、ジュディ・デンチ、イザベル・ユペールといった女性のベテラン俳優たちの名前を挙げ、次のように述べている。
「みなさんがキャリアを通して道を切り開いてくれたことに感謝します。40歳を超えてもキャリアが築けるということはどんなに素晴らしいことでしょうか」
2018年『SAGアワード』でのニコール・キッドマンのスピーチ
キッドマンは同スピーチで、先駆者たちのパフォーマンスによって、20年前と比べて「私たちの物語がようやく語られるようになった」こと、そしてその変化をつづけていくには脚本家や監督、スタジオ、出資者たちの支援が必要であることを訴えた。
年齢を重ねた女性俳優たちの起用が増えれば、その年代の女性たちの物語が増えることにつながる。観客は、若い女性だけでなく、幅広い年代の女性の物語を求めている。今回イギリスの俳優たちが署名したオープンレターも製作者に向けられたものだったが、女性のレプリゼンテーションの継続的な変化のためには、作り手側の意識改革が不可欠だ。
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